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30 村への裁き(上)

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 戻った孫娘を見て、村長は涙ながらに彼女を抱擁した。
 俺達を村人が総出で出迎えている。
 感動の場面だな。

「おおお、よくぞ戻った! アリシアよ、父はどこにいるのだ!」

 感動の場面だが、水を差さなければならないことが心苦しい。
 アリシアに語らせるのは酷だから、俺が前に出た。
 が、村長は邪魔者を見るように俺を睨んだ。

「なんだお前は……。まだおったのか。村を出るならさっさと支度をするがいい。冒険者として生きていくのだろう?」

 好き放題に言ってくれるな。
 誰が孫娘を連れ帰ったと思ってるんだ。
 さすがに驚いたが、説明しないわけにもいかないだろう。

「アリシアの父のことで話があるんだ」
「ならばアリシアから聞くからお前はもう下がるがいい。ご苦労だったな」

 重ね重ねの物言いに苛立ちが募る。しかし、アリシアの手前、怒りは自制しよう。
 そう思っていたんだが、アリシアは実の祖父に対し冷たく「触れないでください」と吐き捨てた。

 ん……アリシア?

「黙って聞いて下さい。タクマが意見した通りにギルドの護衛をつけなかった結果、私は奴隷にされて父は死にました。もしタクマがいなかったら、私は生きてこの村に帰ることすらできませんでした。お爺様、タクマへの非礼を詫びてください」
「そんな……息子が殺されただと? 嘘だ! わしの息子がやられるわけない! 村で一番熊狩りが上手い男だった! 村の英雄なんだぞ……!」
「英雄は父ではなくタクマです。盗賊王ダイババを捕らえ、私の為に金貨150枚を払ってくれました。私はタクマと結婚します。今日はその報告に来ました」

 村長がキッと俺を睨む。
 孫娘を連れ帰った礼くらいは言うと思ったが、まさか睨まれるとはな。

「アリシアとの結婚は許さん。貴様が孫娘を救っただと? どんな汚い手でアリシアを騙した! 言ってみろ!」

 こいつ……。大人しく話を聞いてれば付け上がりやがって。

「アリシアを連れ戻すまでにどれだけの苦労があったと思ってる。お前に批難される謂れはないぞ」
「黙れ! アリシアとカナミ以外にもこんなに浅ましい女共を連れ帰りおって! アリシアよ、お前も騙されているのだ。こんな詐欺師と結婚しては不幸になるぞ。お前の父もきっとどこかで生きているに違いない。わしが王都に行って本当のことを調べてきてやる。こんな男に頼ったのが間違いだった!」

 あまりの暴言に女達が殺気立っている。
 一触即発の空気の中で、動いたのはミイナだった。

「私は王都の教会に属する聖女、ミイナと申します。私が浅ましいと仰られるその根拠を教えていただけますか?」
「聖女様!?」

 信心深い村長が恐れおののき尻もちをついた。
 間抜けなパフォーマンスに見えたが本気らしい。
 すぐに村長は土下座した。

「申し訳ありません! このタクマという者は村でも有名な出来損ないでして! ま、まさか聖女を連れ帰るなどとは思いもせず……!」

 祖父の暴言にアリシアが激怒した。

「ミイナ様、この男は私の祖父ですが、あまりに失礼です。破門してください!」
「アリシア、私に敬称はいりませんよ。私達はお友達ではありませんか」
「友達……」

 ミイナが微笑みを深くする。
 一方、村長は凍りついていた。

「無礼なあなたを破門してさしあげましょうか。私に対する暴言、そして勇者タクマへの無礼の数々、教会としても見逃せるものではありませんね」
「勇者ですと!? こ、この男が……!?」

 村長はようやく俺が腰に提げた得物に気づいたらしい。
 意匠の凝った白い鞘から覗く柄は神々しさすら滲ませている。
 村長は目を見張り、穴が空く程、聖剣を見つめる。
 だがそれでも思考が現実に追いつかないようだった。

 今まで外様に扱い畑を取り上げるなど執拗な嫌がらせをしてきた男が、勇者にまで成り上がってしまったのだ。

 どう反応したらいいのか分からないのだろう。
 しかし、そんな事情を知らないミイナの怒りは強まるばかりだった。

「私の言葉が信用できないようですね。ですが、あなたが今しがたまで侮辱していた彼は、紛れもなく勇者です。聖女と大司教が認めた、神の剣です」

 村長は打ちのめされて何も言えずにいる。
 ゼエゼエと荒い呼吸をして、目を見開くばかりだ。

「聖女様、どうかお慈悲を賜れないでしょうか」

 村長一人に任せては不味いと思ったのだろう。
 アリシアの元婚約者にして村の名士、ロシノが進み出てきた。
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