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11 砂漠の街

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 サルマンドは砂漠の近くに構えられた街だ。
 昔、この辺り一帯は何もない砂漠だったが、水の精霊がオアシスに住み着いたことで緑が増え、古代の遺跡目当てに冒険者で賑わうようになった過去があるらしい。

 しかし、荒らされた遺跡の一つを盗賊団が根城にしていることは、まだ誰にも知られていないだろうな。
 ゲーム知識を引き継ぐ俺を除けば。

「こんな暑いところに盗賊団がいるのか? 王都から随分離れてるけど」
「盗賊団自体はあちこちで活動しているんだろう。ここに居るのはボスと幹部連中だ。数ある遺跡の一つを根城にしてるから、ここと分かってないとなかなか見つけられないだろうな。中には財宝を守る為のギミックもあるから、それなりに骨は折れるぞ」
「盗んだ財宝を隠す上でも都合がいいでしょうね。なかなか頭の切れる首領のようです」

 そういえば、何年か前に考古学の権威が遺跡で失踪して、財宝の呪いなどと言われていたな。アジトに近づいて消されたんだろうが。

 さて、気持ちを切り替えて狩りを始めようか。

「サルマンドの一帯には暑さに強いレッドジェルと亜人型モンスターのリザードマンが出る。俺達が狙うのは主にリザードマンだ」
「あたし達で戦えるのか?」

 リザードマンの戦力値は60。
 魔物のなかでは下の上と言ったところか。
 一般に亜人型モンスターは玄人向けの相手とされており、知恵と技量、そして人間を上回る身体能力など、倒すのが難しい相手とされている。

 だが、その分レベル上げにはもってこいの経験値を持っている。
 現状、俺達が狩れる敵として、最適なのがリザードマンだと言えよう。

 カナミとネリスにとっては逆立ちしたって勝てない相手であることは明白だが、俺の戦力値は100もある。
 二人をカバーしながらでも余裕で戦えるくらいの実力差だ。
 ちなみに、パーティに設定されたことで彼女達には自動で経験値が入るようになっている。当面は見取り稽古って形にしておくのがいいだろう。

 ひとまず、俺の後方にいてレベルを上げを見守ってもらい、パラメーターを十分に弄ったら戦闘にも参加してもらう形にする。

「敵は俺が倒すから心配するな。俺から必要以上に離れることがなければ、危険はない。それよりも、カナミとネリスは才能を覚醒させる上で何か希望はあるか? 前線には俺が立つから、魔法を覚えて後方支援をしてくれると助かるが」
「では、私は魔力があるみたいなので魔術師になりたいです」
「あたしも同じだな。腕力もないし身体も小さいけど、それならタクマの役に立てるだろ?」

 内心、ホッとする。
 魔物に近づくのは危険だから、後ろに居てくれると安心して俺も戦える。

「ありがとう。二人とも同じように力を伸ばすが、覚える魔法は任せたいと思う。ああ、相談には乗るけどな」
「分かりました。三人で頑張っていきましょう」
「何だかワクワクするな!」

 宿を取り、身支度を整えた俺達はさっそく活動を開始した。

 俺達は砂漠に出てリザードマンと対峙し、レベリングを行う。
 リザードマンは集落から離れた場所で一人で狩りを行うタイプだ。
 冒険者に遭遇しても勝てるという自負がそうさせているのだろうが、俺からすればチームを組んでいない分、非常に狩りやすい相手だと思う。

「ヒュ!」
「おっと、こういう戦いは初めてだな」

 槍を回避して剣を突き出す。加速した俺の剣はリザードマンの額を砕き、グロテスクな勝利を演出する。
 リザードマンは石と植物の蔦で作った粗末な槍を装備しており、跳躍力を生かして俺に挑んできた。

 俺の戦力値が村を出たばかりの頃、45のままだったら、訳も分からず一撃で頭を砕かれて死んでいたと思う。
 まさに、今のリザードマンのように。しかし、既に俺はレベリングを終えた後だ。

 戦力値100。
 それはこの世界の人間の限界が120にも満たないことを考えれば、驚くべき強さだと思う。

 強化された俺の動体視力は俊敏なリザードマンの動きを完全に見切った。
 俺は的確に攻撃を避け、その度に急所を狙って始末する。
 ゲームと違い、致命的な部位を攻撃すれば、リザードマンは一撃で始末できる。

 頭部破壊、四肢欠損、動脈切断。
 非情な剣により、遭遇したリザードマンは次々と狩られていく。

 そう時間を掛けずにカナミとネリスのレベルは19へ上昇し、戦力値も難なく76まで上昇した。俺のレベルも2つ上昇し、レベル29、戦力値は106まで伸びてくれた。しかし、ダイババの110までには4足りないな。確実に勝利を目指すなら、もう10くらいは伸ばしたいところだが。

「兄さん、大丈夫ですか? 私達と違って前で戦うので体力の消費も大きいんじゃないですか?」
「まだ動けるが、熱中症が怖いな。今日のところは一度宿へ帰ろう」

 さて、これからどうするか。
 ひとまずギルドでリザードマンを狩った報酬を受け取ろう。

 冒険者ギルドでリザードマンを狩った証拠である革袋を渡す。
 中身は連中の片耳だ。

 あまり気持ちのいい行為ではないが、多数の魔物を狩った場合、魔物の一部を証拠として持ち帰るのが慣例だ。
 冒険者側に騙す意図はなくても数え間違いなんかはあるからな。こればかりは仕方がない。

 ところで、リザードマン狩りの報酬は19,500ゴールドだった。
 一頭あたり1,500ゴールドで換算されてるらしい。
 今日は13匹狩ったからこの金額だった。

 命をかけた対価としては安すぎる気もしたが、冒険者の命の価値は低く見積もられている。

 まあ金のことばかり気にしても仕方がない。
 それに、今は金の心配より依頼のことを考えないといけないしな。

 稼いだ金で食事を済ませ、良い宿に泊まる。
 部屋は広々としていて、開けた空気があった。
 扉にはしっかりと鍵がついている。

 安い宿だと壊されていることが多いが、機能しているようで一安心だ。

「どうです? 盗賊王は狩れそうですか?」

 俺の戦力値が106。
 ダイババは110。

「まだ駄目だな。ほんの僅かだが、ダイババの方が強い」
「信じられないです。今の兄さんより強いなんて」
「神に愛された結果だろうな」

 ゲームでは4万ゴールドもあればそれなりにいい武器も買えたが、この世界にはプレイヤーが俺しかいない。つまり、ゲーム時と同じようにプレイヤーの開いた露店から高性能な武器を安く買ったりは出来ないというわけだ。

 レベリングも続けるが、ダイババを破れるだけの武器があれば更に心強い。
 ゲーム知識を思い出すことに集中する。
 そして、俺は一つの解決法を思い出していた。

 そういえば、水の精霊にまつわるクエストがあったな。

 クリアすれば強力な魔剣が手に入る。
 ゲーム内でもなかなか評判の魔剣だった。

「俺に考えがある。水の精霊の助力を得よう」
「水の精霊……ですか?」
「でも、人間が精霊に会うのって難しいんじゃないのか?」
「俺に考えがある。精霊には貢物を持って会いに行くものだ」

 俺はとっておきの作戦を二人に打ち明けた。
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