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入寮を済ませ、入学する日が来た。
ここには頼りになる姉も兄もいない。数少ない友人はいるが、必要以上な迷惑をかける訳にはいかない。
また、王子の婚約者として周りは見てくるだろうし、変な噂はあるしで、気を抜けない日々となるだろう。
テアニアは沈んでいきそうな気をため息と共に吐き出して、学園へ向かうために寮の部屋を出た。
学園の外観は、王宮とはまた違った美しさのある建物だった。
白亜の外壁に装飾は少ないが、そのシンプルさが映えるような佇まいをしている。
建物の中へ入るために近寄って外壁をよく見れば、見たことのある素材だった。
「これは、···ロンツァイトかしら」
ユッシの父であるヤンの元で、時間のあるときに色々と見せてもらった事があるひとつに似ている。
ロンツァイトは非常に硬く、耐久性に優れ、上手いこと魔法付与が出来れば堅牢な防具となると宝飾職人であるヤンに教えてもらった。
ヤンの家で宝石以外の鉱物にも非常に詳しくてコレクション部屋なる所を見せてもらったときはその種類に圧巻された覚えがあった。
その息子であるユッシもヤンに似て、鉱物が好きな2人して説明する口が止まらなかったのはいい思い出だ。
きっと、この建物を2人に見せたら喜んだだろう。
サンヨルフにいる大事な人を思うと、自然と笑みが零れる。
「テアニア様!」
後ろから声をかけられて少し驚いたが、それは出さずにテアニアは振り向いた。
「アデライード様!ご機嫌よう」
「ここにいらっしゃったんですね。お会いできて、よかったです」
「ええ、外壁の素材が気になりまして···」
「以前お話されてた幼馴染の方絡みですね」
僅かに揶揄いを含んだ言葉にテアニアは顔に熱が集まるのを感じた。
「・・・よく、鉱物の話を聞かされましたから、」
言い訳めいたようにテアニアが言う姿を見て、アデライードはニコニコと笑った。
「まぁ、外壁を見る時間はこれからいくらでもありますから!そろそろ講堂に行きませんか?」
「もうそんな時間なんですね。そうですね、行きましょう」
2人は連れ立って講堂へ向かった。
講堂に入れば席は自由なようで、空いている場所に座る。
特に何かをしているわけではないが、2人に周囲の視線がチラチラと注がれていた。
「あからさまでないにしろ、あまりよろしい気分ではないですね」
「・・・申し訳ありません、アデライード様。私の噂のせいでいらぬ注目を浴びてしまって」
「テアニア様のせいではありませんよ!明らかに意図的に流されたとわかる噂に翻弄されて陰でコソコソとしている方が悪いのです」
「そう、なのですよね。第一側妃様はどうしたいのかしら・・・?」
実際、噂を声高に撒いているのが第一王子の派閥の者が多いと母も姉も言っていた。
家門が中立であるとはいえ、仮にも第一王子の婚約者であるテアニアに対して攻撃的すぎるのだ。
そのテアニアを攻撃することにより、間接的に自らが支持する派閥も攻撃していることに気づかないものだろうか?
ハーゲン家としては成行きを静観するとともに、第一王子の婚約者ではあるものの中立の立場は変えることはないと宣言している。
そのために、中立派閥はもとより、両王子の派閥とも必要に応じて交流をしている。
第一側妃としてはそれが非常に気にくわないようではあるが、元々はその惻妃に懐疑心があるために第一側妃の派閥に完全に与することを良しとしていなかった。
特に、領内にはサンヨルフもあるために中立の姿勢を崩すことも憚られるということもあるが。
「いずれにせよ、学園内では気が抜けませんわね」
テアニアには、意図せずとも悪意に巻き込まれる予感がして、ため息を殺せずにはいられなかった。
ここには頼りになる姉も兄もいない。数少ない友人はいるが、必要以上な迷惑をかける訳にはいかない。
また、王子の婚約者として周りは見てくるだろうし、変な噂はあるしで、気を抜けない日々となるだろう。
テアニアは沈んでいきそうな気をため息と共に吐き出して、学園へ向かうために寮の部屋を出た。
学園の外観は、王宮とはまた違った美しさのある建物だった。
白亜の外壁に装飾は少ないが、そのシンプルさが映えるような佇まいをしている。
建物の中へ入るために近寄って外壁をよく見れば、見たことのある素材だった。
「これは、···ロンツァイトかしら」
ユッシの父であるヤンの元で、時間のあるときに色々と見せてもらった事があるひとつに似ている。
ロンツァイトは非常に硬く、耐久性に優れ、上手いこと魔法付与が出来れば堅牢な防具となると宝飾職人であるヤンに教えてもらった。
ヤンの家で宝石以外の鉱物にも非常に詳しくてコレクション部屋なる所を見せてもらったときはその種類に圧巻された覚えがあった。
その息子であるユッシもヤンに似て、鉱物が好きな2人して説明する口が止まらなかったのはいい思い出だ。
きっと、この建物を2人に見せたら喜んだだろう。
サンヨルフにいる大事な人を思うと、自然と笑みが零れる。
「テアニア様!」
後ろから声をかけられて少し驚いたが、それは出さずにテアニアは振り向いた。
「アデライード様!ご機嫌よう」
「ここにいらっしゃったんですね。お会いできて、よかったです」
「ええ、外壁の素材が気になりまして···」
「以前お話されてた幼馴染の方絡みですね」
僅かに揶揄いを含んだ言葉にテアニアは顔に熱が集まるのを感じた。
「・・・よく、鉱物の話を聞かされましたから、」
言い訳めいたようにテアニアが言う姿を見て、アデライードはニコニコと笑った。
「まぁ、外壁を見る時間はこれからいくらでもありますから!そろそろ講堂に行きませんか?」
「もうそんな時間なんですね。そうですね、行きましょう」
2人は連れ立って講堂へ向かった。
講堂に入れば席は自由なようで、空いている場所に座る。
特に何かをしているわけではないが、2人に周囲の視線がチラチラと注がれていた。
「あからさまでないにしろ、あまりよろしい気分ではないですね」
「・・・申し訳ありません、アデライード様。私の噂のせいでいらぬ注目を浴びてしまって」
「テアニア様のせいではありませんよ!明らかに意図的に流されたとわかる噂に翻弄されて陰でコソコソとしている方が悪いのです」
「そう、なのですよね。第一側妃様はどうしたいのかしら・・・?」
実際、噂を声高に撒いているのが第一王子の派閥の者が多いと母も姉も言っていた。
家門が中立であるとはいえ、仮にも第一王子の婚約者であるテアニアに対して攻撃的すぎるのだ。
そのテアニアを攻撃することにより、間接的に自らが支持する派閥も攻撃していることに気づかないものだろうか?
ハーゲン家としては成行きを静観するとともに、第一王子の婚約者ではあるものの中立の立場は変えることはないと宣言している。
そのために、中立派閥はもとより、両王子の派閥とも必要に応じて交流をしている。
第一側妃としてはそれが非常に気にくわないようではあるが、元々はその惻妃に懐疑心があるために第一側妃の派閥に完全に与することを良しとしていなかった。
特に、領内にはサンヨルフもあるために中立の姿勢を崩すことも憚られるということもあるが。
「いずれにせよ、学園内では気が抜けませんわね」
テアニアには、意図せずとも悪意に巻き込まれる予感がして、ため息を殺せずにはいられなかった。
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