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ご無沙汰しております。
スランプからいまだ抜け出せてはおりませんが、チマチマと更新していきます。
─────────────────────
久しぶりに、父と顔を合わせることになった。
「テアニア、元気にしていたかい?」
父は少し痩せたように見える。表情に覇気も少ない気がする。
「はい、お父様達のおかげで元気に過ごしています。···お父様はお疲れですか?」
「ああ、いや···。そうだね、ここまでは長旅だったからかな」
「···お身体には気をつけてくださいね。お父様が倒れてしまったら、私たち家族は悲しみますから」
テアニアが心配そうに声をかければ、父は感極まったように瞳を潤ませたかと思えば、テアニアを優しく抱きしめた。
その時に、何か聞こえた気がしたがテアニアには聞き取れなかった。
「テアニア、お母様は?」
父は拘束を解いて、部屋を見渡したが母はいなかった。
「今は裏庭に出ておいでです」
「そうか···まあ、また後にしよう」
父が旅装から着替える為に部屋を出て少しして、母がやってきた。どうやら入れ違いになったようだ。
「テアニア、お父様は?」
テアニアは夫婦揃って同じセリフを言うものだから、つい笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ、お父様もお母様も全く同じセリフをおっしゃるので。お父様は着替えに行かれました」
「そう、お戻りになるまで待ちましょう」
母がソファに座ると、程なくして母付きの侍女がティーセットを持って部屋に入ってきた。
侍女は手際よくお茶の準備をしていく。ちょうど準備が終わる頃に父が戻ってくる。
「ああ、オーレリア。来ていたんだね」
「ええ、旦那様。長旅、ご苦労様でございました」
基本的にサンヨルフにある家では貴族らしくしている必要もそんなにないため、出迎え等は特にしない。もちろん王都の家ではするが。
「旦那様、疲れによく効くハーブティーです」
母が裏庭にいたのはこのハーブを採るためだったのだろう。家のあちこちにいろんなハーブが植えられていて、ここでは紅茶よりもよく飲む。
「ありがとう。・・・・・・さて、何から話そうかね」
父が出されたハーブティーを一口含んでからため息を吐く。
あまり良い話ではないのだろうか。
「うん、結論から言ってしまえば・・・テアニアとバードランド殿下の婚約は継続されることになった」
父の言葉に部屋の空気が固まる。
「旦那様、今、聞き間違いでなければ婚約は継続、とおっしゃいました?」
「ああ、継続だ」
「・・・私は、バードランド殿下と婚約していたのですか?」
2年前のお茶会は、確か婚約するか否かは別で、いわゆるお試しの顔合わせ程度のものだったとテアニアは認識していた。それを父に確認してみれば
「そうだ、陛下とはテアニアの気持ち次第で決めても良いと話をしていた。もちろん、第一惻妃様にもお伝えされているはずだ。そもそも、テアニアが帰って気持ちを効く前にあんなことになってしまって・・・そもそも、それから婚約の話自体は陛下とはしていなかった」
「そもそも、ここに来る前に婚約が決定だと言ってましたけど、承諾しませんでしたわよね?」
「そうだな、そのはずだったが・・・どうやら知らぬ間に第一惻妃様が貴族院にごり押ししていたらしくてなぁ・・・」
「ですが、陛下の承認もありますわよね?」
そこで、父は黙ってしまった。敏い母は何かに気づいたようだった。
「もしかして、陛下は第一惻妃に言いくるめられたのですか?」
「・・・・・・ああ、そのようだ。第一惻妃様の言では、承諾も得ており、婚約者となった旨を伝える使者の手配も済んでいると」
「あまりにもおざなりですわね、陛下は。こちらが散々婚約を渋っていたというのに」
「・・・・・・今回は庇いきれないな、さすがに」
怒れる母に対し、父は苦笑する。
「すまない、テアニア。結局はお前に苦労をかけることになる」
「・・・決まってしまったことですから、侯爵家に恥じぬよう勤めは果たしますわ。お父様は何も悪くありませんし」
すっかり室内は重苦しい雰囲気都なってしまった。そこに追い打ちをかけるように母は言った。
「加えて、よくない噂も流れていそうですわね・・・」
「よくない、噂ですか?」
テアニアは社交界のことは、まだよく知らないが、母には思うところがあるのだろう。
「ええ、社交界は相手を蹴落としてこそと言う側面があります。第一王子の婚約者となったテアニアが表立って動けば、それをよく思わない輩がありもしない話を想像で広げたりするものです」
ましてや2年たったとはいえ、箝口令が敷かれていたはずのテアニアが誘拐されたなどと噂(事実ではある)が通常よりも早く広まったのだ。しかも、第一王子派の伯爵家令嬢がお茶会でそれを口に出した。
第一側妃に何かあるのは確かだろう。
「旦那様、私は今後社交界へは一切出ません。もちろん、サンヨルフから出すものも全て流通を止めてください」
「ああ、オーレリアがそう言うと思ってすでに撤退の準備が始まっている。早ければ一月以内には全て戻ってくるだろう」
「テアニア」
「はい」
母が侯爵夫人としてテアニアに呼びかける。テアニアは自然と背筋を改めて伸ばした。
「ここを出るまでに社交界について叩き込みます。辛い思いをさせますが、あなたのためです」
これは戦いなのだと、母の目は訴えていた。
「肝に銘じ、精進いたします。お母様、よろしくお願いいたします」
甘える時間はここまでだと、テアニアは自身を叱咤した。
スランプからいまだ抜け出せてはおりませんが、チマチマと更新していきます。
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久しぶりに、父と顔を合わせることになった。
「テアニア、元気にしていたかい?」
父は少し痩せたように見える。表情に覇気も少ない気がする。
「はい、お父様達のおかげで元気に過ごしています。···お父様はお疲れですか?」
「ああ、いや···。そうだね、ここまでは長旅だったからかな」
「···お身体には気をつけてくださいね。お父様が倒れてしまったら、私たち家族は悲しみますから」
テアニアが心配そうに声をかければ、父は感極まったように瞳を潤ませたかと思えば、テアニアを優しく抱きしめた。
その時に、何か聞こえた気がしたがテアニアには聞き取れなかった。
「テアニア、お母様は?」
父は拘束を解いて、部屋を見渡したが母はいなかった。
「今は裏庭に出ておいでです」
「そうか···まあ、また後にしよう」
父が旅装から着替える為に部屋を出て少しして、母がやってきた。どうやら入れ違いになったようだ。
「テアニア、お父様は?」
テアニアは夫婦揃って同じセリフを言うものだから、つい笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ、お父様もお母様も全く同じセリフをおっしゃるので。お父様は着替えに行かれました」
「そう、お戻りになるまで待ちましょう」
母がソファに座ると、程なくして母付きの侍女がティーセットを持って部屋に入ってきた。
侍女は手際よくお茶の準備をしていく。ちょうど準備が終わる頃に父が戻ってくる。
「ああ、オーレリア。来ていたんだね」
「ええ、旦那様。長旅、ご苦労様でございました」
基本的にサンヨルフにある家では貴族らしくしている必要もそんなにないため、出迎え等は特にしない。もちろん王都の家ではするが。
「旦那様、疲れによく効くハーブティーです」
母が裏庭にいたのはこのハーブを採るためだったのだろう。家のあちこちにいろんなハーブが植えられていて、ここでは紅茶よりもよく飲む。
「ありがとう。・・・・・・さて、何から話そうかね」
父が出されたハーブティーを一口含んでからため息を吐く。
あまり良い話ではないのだろうか。
「うん、結論から言ってしまえば・・・テアニアとバードランド殿下の婚約は継続されることになった」
父の言葉に部屋の空気が固まる。
「旦那様、今、聞き間違いでなければ婚約は継続、とおっしゃいました?」
「ああ、継続だ」
「・・・私は、バードランド殿下と婚約していたのですか?」
2年前のお茶会は、確か婚約するか否かは別で、いわゆるお試しの顔合わせ程度のものだったとテアニアは認識していた。それを父に確認してみれば
「そうだ、陛下とはテアニアの気持ち次第で決めても良いと話をしていた。もちろん、第一惻妃様にもお伝えされているはずだ。そもそも、テアニアが帰って気持ちを効く前にあんなことになってしまって・・・そもそも、それから婚約の話自体は陛下とはしていなかった」
「そもそも、ここに来る前に婚約が決定だと言ってましたけど、承諾しませんでしたわよね?」
「そうだな、そのはずだったが・・・どうやら知らぬ間に第一惻妃様が貴族院にごり押ししていたらしくてなぁ・・・」
「ですが、陛下の承認もありますわよね?」
そこで、父は黙ってしまった。敏い母は何かに気づいたようだった。
「もしかして、陛下は第一惻妃に言いくるめられたのですか?」
「・・・・・・ああ、そのようだ。第一惻妃様の言では、承諾も得ており、婚約者となった旨を伝える使者の手配も済んでいると」
「あまりにもおざなりですわね、陛下は。こちらが散々婚約を渋っていたというのに」
「・・・・・・今回は庇いきれないな、さすがに」
怒れる母に対し、父は苦笑する。
「すまない、テアニア。結局はお前に苦労をかけることになる」
「・・・決まってしまったことですから、侯爵家に恥じぬよう勤めは果たしますわ。お父様は何も悪くありませんし」
すっかり室内は重苦しい雰囲気都なってしまった。そこに追い打ちをかけるように母は言った。
「加えて、よくない噂も流れていそうですわね・・・」
「よくない、噂ですか?」
テアニアは社交界のことは、まだよく知らないが、母には思うところがあるのだろう。
「ええ、社交界は相手を蹴落としてこそと言う側面があります。第一王子の婚約者となったテアニアが表立って動けば、それをよく思わない輩がありもしない話を想像で広げたりするものです」
ましてや2年たったとはいえ、箝口令が敷かれていたはずのテアニアが誘拐されたなどと噂(事実ではある)が通常よりも早く広まったのだ。しかも、第一王子派の伯爵家令嬢がお茶会でそれを口に出した。
第一側妃に何かあるのは確かだろう。
「旦那様、私は今後社交界へは一切出ません。もちろん、サンヨルフから出すものも全て流通を止めてください」
「ああ、オーレリアがそう言うと思ってすでに撤退の準備が始まっている。早ければ一月以内には全て戻ってくるだろう」
「テアニア」
「はい」
母が侯爵夫人としてテアニアに呼びかける。テアニアは自然と背筋を改めて伸ばした。
「ここを出るまでに社交界について叩き込みます。辛い思いをさせますが、あなたのためです」
これは戦いなのだと、母の目は訴えていた。
「肝に銘じ、精進いたします。お母様、よろしくお願いいたします」
甘える時間はここまでだと、テアニアは自身を叱咤した。
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