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先輩が冷たくなった日

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カズヨが配属されて1か月。

その日モチコは追い詰められていた。
緊急で対応しないといけない仕事が入ったのだ。
カズヨの質問にじっくり付き合う暇は無い。


手を止めたら死ぬ。


それほど急ぎで量の多い仕事だった。




そんな中、カズヨはいつも通り質問してきた。


「モチコさん、あのこれなんですけど」
「はいー」


モチコはカズヨに耳を傾けつつ、己のパソコンの画面を見て、手を動かしながら応えた。


「えーっと…」
「…」


カズヨの質問が止まる。
内容がまとまっていないため、しばし無言の時間があるのはいつものことだ。

その間、モチコはパソコンを操作する。

先週までならモチコはキーボードを叩く手を止めてカズヨに向き合ったのだろう。

だが、今は手を止められない。
質問が出てきたら手を止めるつもりだ。



「うーんと…」
「…」


カタカタカタ。
モチコがキーボードを叩く音が響く。

カズヨは己のパソコンの画面をマウスで操作するも、聞きたい部分が画面に表示されていないようだ。
カチカチとマウス操作している。




「…質問の内容がまとまってないなら、ちょっとまとまってからにしてもらえます?
 あとちょっと今手が離せないので、メッセージツールに過剰書きでも良いのでまとめて書いておいてもらえますか」
「あ、はい…」


カズヨが本題になかなか入らないので、モチコはいったん打ち切ることにした。

しばらくすると、カズヨからのメッセージが入った。
手を離せないモチコは、一段落してから読むことにした。





数十分後、一段落したモチコは溜っていたメールやカズヨ以外からも来ているメッセージに目を通し始めた。

カズヨのメッセージを見ると、この一文。


『Aの資料を作成したんですけど、これで合っているかわからないです』


モチコは思った。
だからなんだ、と。

合っているかわからないのなら「作成した資料をチェックして貰えますか」とお願いしたら良いのではないだろうか。


モチコは追い込まれていた。
普段は温厚なモチコだが、精神的に追い込まれている今の彼女の優しさゲージは大幅減少している状態だ。


『じゃあ共有フォルダに置いてくれたら見ますよ』と精神的に余裕のあるモチコなら言うだろう。


だが今のモチコは違う。


『それだけ言われても困ります。資料を共有フォルダに配置するなりしてから、レビューの依頼をしてください』




モチコは突き放した。
付き合ってられなくなったのだ。


モチコはカズヨの家庭教師でも個別指導の塾講師でもないのだ。
カズヨのために割ける時間はそう多くない。

カズヨに時間をかけると、その分己の作業が遅れるのだ。




さらにいうなら、カズヨは新入社員では無い。
二十代とはいえもうアラサーなのだ。


モチコが手厚くケアする必要などない。
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