1 / 17
リンリーはお金が欲しい
しおりを挟む
リンリーは服屋を営む両親のもと、三姉弟の長子として生まれた。
服屋はそれなりに繁盛しており一家5人が生活するのに十分な収入があったのだが、彼女が13歳になる頃、町に安くて質の良い服屋が出来たことで客を取られてしまった。
両親は奮闘したのだが、結局2年後に廃業に追い込まれてしまった。
店をたたむと両親はすぐさま次の仕事を見つけて働き出した。だが、給料の大半を借金の返済に回さないといけないため、一家5人は食べていくことさえ厳しい状態になった。
弟妹が2人とも8歳を超えて留守番が出来るようになったため、15歳のリンリーは家計を助けるために働きに出ることにした。
町役場の掲示板で比較的給金の良い男爵家の使用人の求人を見つけると、親に相談すること無くすぐさま応募した。
両親が共働きであるため8歳から家事を引き受けていたリンリーは、掃除洗濯に料理を問題なくこなせるため、使用人としてのスキルに何ら問題は無かった。
リンリーは一生懸命に働いた。
彼女の給料のおかげで、余裕はあまりないものの、飢えることなく生活できるようになった。
3年も経つ頃には、借金は残り半分となった。
彼女の事情を知る男爵は、もっと高い給金を出せる伯爵家で使用人を募集している話を聞きつけ、紹介状を書いてくれた。
男爵家には自宅から通っていたが、伯爵家は少し遠いため住み込みでの仕事となる。それでもリンリーは迷わず転職を希望した。
「真面目に働く君なら伯爵家でもやっていけるだろう。伯爵家で結果を残せば、いずれもっと爵位の高い家で働くことができる上級使用人にもなれるからね。頑張りなさい」
「はい。ありがとうございます、旦那様」
「もし伯爵家で嫌な思いをしたら、いつでも帰ってきて良いのよ」
「ありがとうございます、奥様。お二人のお顔に泥を塗らぬよう、精進して参りますわ」
穏やかな男爵夫妻に見送られ、リンリーは伯爵家へと向かった。
家族との別れの挨拶は今朝方済ませている。
男爵家は良い職場だった。
だが給料の面では少々不安が残る。
リンリーとしては、弟妹達が15歳になって働きに出る前に借金を完済したい。
そうでなければ弟妹達は、仕事の向き不向きを考慮せずに『給料が良いだけの仕事』を選んでしまいそうだから。
できれば好きな仕事に就いて欲しいものだ。
具体的な金額は聞いていないが、伯爵家での給料は男爵家より多いとのことだ。
借金返済に回せる額が増えるし、食費に充てる額も増える。
特に育ち盛りで常に空腹を抱えて我慢している弟に、腹一杯食べさせてやりたかった。
貴族は爵位が高いほど人間性が酷いと聞いたことがある。
これから行く伯爵家の人間がどれほどクソ人間だとしても、リンリーは給料を貰うために我慢するつもりだ。
――いや、必ず耐えてみせる。
服屋はそれなりに繁盛しており一家5人が生活するのに十分な収入があったのだが、彼女が13歳になる頃、町に安くて質の良い服屋が出来たことで客を取られてしまった。
両親は奮闘したのだが、結局2年後に廃業に追い込まれてしまった。
店をたたむと両親はすぐさま次の仕事を見つけて働き出した。だが、給料の大半を借金の返済に回さないといけないため、一家5人は食べていくことさえ厳しい状態になった。
弟妹が2人とも8歳を超えて留守番が出来るようになったため、15歳のリンリーは家計を助けるために働きに出ることにした。
町役場の掲示板で比較的給金の良い男爵家の使用人の求人を見つけると、親に相談すること無くすぐさま応募した。
両親が共働きであるため8歳から家事を引き受けていたリンリーは、掃除洗濯に料理を問題なくこなせるため、使用人としてのスキルに何ら問題は無かった。
リンリーは一生懸命に働いた。
彼女の給料のおかげで、余裕はあまりないものの、飢えることなく生活できるようになった。
3年も経つ頃には、借金は残り半分となった。
彼女の事情を知る男爵は、もっと高い給金を出せる伯爵家で使用人を募集している話を聞きつけ、紹介状を書いてくれた。
男爵家には自宅から通っていたが、伯爵家は少し遠いため住み込みでの仕事となる。それでもリンリーは迷わず転職を希望した。
「真面目に働く君なら伯爵家でもやっていけるだろう。伯爵家で結果を残せば、いずれもっと爵位の高い家で働くことができる上級使用人にもなれるからね。頑張りなさい」
「はい。ありがとうございます、旦那様」
「もし伯爵家で嫌な思いをしたら、いつでも帰ってきて良いのよ」
「ありがとうございます、奥様。お二人のお顔に泥を塗らぬよう、精進して参りますわ」
穏やかな男爵夫妻に見送られ、リンリーは伯爵家へと向かった。
家族との別れの挨拶は今朝方済ませている。
男爵家は良い職場だった。
だが給料の面では少々不安が残る。
リンリーとしては、弟妹達が15歳になって働きに出る前に借金を完済したい。
そうでなければ弟妹達は、仕事の向き不向きを考慮せずに『給料が良いだけの仕事』を選んでしまいそうだから。
できれば好きな仕事に就いて欲しいものだ。
具体的な金額は聞いていないが、伯爵家での給料は男爵家より多いとのことだ。
借金返済に回せる額が増えるし、食費に充てる額も増える。
特に育ち盛りで常に空腹を抱えて我慢している弟に、腹一杯食べさせてやりたかった。
貴族は爵位が高いほど人間性が酷いと聞いたことがある。
これから行く伯爵家の人間がどれほどクソ人間だとしても、リンリーは給料を貰うために我慢するつもりだ。
――いや、必ず耐えてみせる。
52
お気に入りに追加
733
あなたにおすすめの小説
転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。
そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。
しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。
世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。
そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。
そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。
「イシュド、学園に通ってくれねぇか」
「へ?」
そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。
※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。
主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約していないのに婚約破棄された私のその後
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「アドリエンヌ・カントルーブ伯爵令嬢! 突然ですまないが、婚約を解消していただきたい! 何故なら俺は……男が好きなんだぁああああああ‼」
ルヴェシウス侯爵家のパーティーで、アドリーヌ・カンブリーヴ伯爵令嬢は、突然別人の名前で婚約破棄を宣言され、とんでもないカミングアウトをされた。
勘違いで婚約破棄を宣言してきたのは、ルヴェシウス侯爵家の嫡男フェヴァン。
そのあと、フェヴァンとルヴェシウス侯爵夫妻から丁重に詫びを受けてその日は家に帰ったものの、どうやら、パーティーでの婚約破棄騒動は瞬く間に社交界の噂になってしまったらしい。
一夜明けて、アドリーヌには「男に負けた伯爵令嬢」というとんでもない異名がくっついていた。
頭を抱えるものの、平平凡凡な伯爵家の次女に良縁が来るはずもなく……。
このままだったら嫁かず後家か修道女か、はたまた年の離れた男寡の後妻に収まるのが関の山だろうと諦めていたので、噂が鎮まるまで領地でのんびりと暮らそうかと荷物をまとめていたら、数日後、婚約破棄宣言をしてくれた元凶フェヴァンがやった来た。
そして「結婚してください」とプロポーズ。どうやら彼は、アドリーヌにおかしな噂が経ってしまったことへの責任を感じており、本当の婚約者との婚約破棄がまとまった直後にアドリーヌの元にやって来たらしい。
「わたし、責任と結婚はしません」
アドリーヌはきっぱりと断るも、フェヴァンは諦めてくれなくて……。
私の婚約者には、それはそれは大切な幼馴染がいる
下菊みこと
恋愛
絶対に浮気と言えるかは微妙だけど、他者から見てもこれはないわと断言できる婚約者の態度にいい加減決断をしたお話。もちろんざまぁ有り。
ロザリアの婚約者には大切な大切な幼馴染がいる。その幼馴染ばかりを優先する婚約者に、ロザリアはある決心をして証拠を固めていた。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
【完結】夜は大人の時間~呪われた王女は真の愛を掴めるか?~
胡蝶花れん
ファンタジー
突然、幼女化してしまったシエラ王女。
隣国の王子とは婚約解消となり、このままでは普通にお嫁にいけない!
と、思ったのも束の間、新たに婚約者になったのは、ガチムチの元冒険者という侯爵家の嫡男のアルバードだった。
-幼女化は呪いです。解呪するには、真の愛が必要です。-
幼女に真の愛って・・・ロリ〇ンじゃない!!
かくして、王女は真の愛は掴めるのか?!
※視点が男主人公と女主人公で切り替わります。
お話しは完結していますので、毎日投稿します。
婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる