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ダメ出しを受ける
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「――だめだ。ぜんっぜんだめ!」
「そんなぁ…」
顰めっ面で紙束に目を通していた少年は、ため息と共に紙束を机上に放り投げた。
紙はステープラーで左上を留めてあるためバラバラにならず、机上を滑って持ち主の元に戻った。
持ち主――紙束の作成者であるザカライアは、しょんぼりとした顔でそれを手に取った。
「…自信作だったんだけどなぁ…」
「はぁ?これが?」
テーブルを挟んでザカライアの向かいに座る少年――マックスは、冗談だろう?と返した。
「本気でこれがエロいと思ってんのかよ?」
「うっ…そりゃぁ、まあ…」
「はぁ…」
マックスは深いため息を吐いた。
『童貞丸出しじゃねぇか』という品がない感想は、すんでの所で飲み込んだ。
ザカライアが持つ紙束は、彼が一ヶ月かけて作成した小説だ。
その内容は男女の睦言――官能小説である。
作者本人が自信作だと言うだけあって、ストーリーの展開は悪くない。
――悪くはないのだが、官能小説において最も大事なシーンが酷すぎた。
「…あのなぁ、官能小説を書くなら濡れ場の描写をもっとどうにかしろよ。女はずーっと『あんあん』しか言ってないし、せめて『アッ』とか『イヤッ』とか入れて、もっと台詞のバリエーションを広げろっての。
男は男でただ腰振って終わるってなんだよ、猿じゃないんだから」
「――そんなこと言われても…僕、経験無いし…」
「まあアンタの場合、経験あったらあったで問題なんだろうけどさあ…」
もうちょっとなんとかなんない?
呆れ顔のマックスに言われ、ザカライアは落ち込んだ。
祖父の遺品整理中に出会った宝物は、ザカライアの人生に大きな影響を与えていた。
もちろん彼は、手に入れた官能小説が祖父の自作であることを知らない。
それでも血は争えないとでもいうのだろうか。14歳を過ぎると彼は自分で小説を書きはじめたのだ。
ある日唐突に『僕もこんな小説が書きたい!』と思い、彼は筆を執った。
翌年、国中の貴族が通う王立学園に入学した彼は、ひょんなことから出版社社長の息子であるマックスと知り合い、自作した小説を読んで貰うことになったのだった。
ザカライアにとっては、作品を誰かに評価して貰うことができる。
マックスにとっては王族との縁が出来ることと、もし良作だったら独占契約を結んで出版し、大きな収益が得られることを期待した。
win-winの関係になる――はずだったのだが、今のところマックスの期待外れに終わっている。
ザカライアは小説を作り上げるとマックスに連絡を取り、放課後、図書準備室に集まった。
図書室とは違い、図書準備室には人が来ない。
司書が準備室で作業をするのはザカライア達が授業を受けている間だけで、昼休みや放課後は基本的に図書室の受付にいる。
父親の出版社で昔から雑用を行っていたマックスは、配達先の一つであるこの図書室の司書とは顔見知りであった。
さらに入学してからは時々昼休みや放課後に、準備室に積まれた本の山の整理を手伝っていたので、司書とさらに仲良くなっていた。
マックスが悪い子では無いことと、共にいる相手が王子であるため、司書は快く場所を提供してくれたのだった。
今日も今日とて図書準備室で作品のお披露目を行ったのだが――結果は散々であった。
マックスはどんなに酷い内容でも、必ず最後まで読んでくれる。
その上で評価をしてくれるので、例えボロクソに言われても怒りは沸いてこない。
落ち込むことはあるが…。
マックスとて、最初からボロクソに言ってやろうと思っていたわけではない。
初めて小説を読むことになった時、一応この国の第二王子であるザカライア相手に、『この小説くっそつまんねーなぁ』と正直に言うことはできなかった。
遠回しに伝えようとしたところ、ザカライア本人から『不敬には問わないから遠慮無く率直な意見を言ってくれ』と言われ、じゃあ、と本心を口にするようになった。
それ以降マックスは駄作ばかり読む羽目になり、ザカライアを敬う気持ちが徐々に少なくなっていき、最近では気安い友人と会ったときのようにため口で接している。
そのことをザカライアが怒ることは無い。
突き返された小説を鞄にしまい込むと、ザカライアは鞄から別の紙束を取り出した。
「――実はもう一つあるんだけど…」
「お、見て良いのか?」
「うん。時間は大丈夫かな?」
「んー。その枚数なら10分あればいけるだろう」
マックスは受け取った小説に目を落とした。
『"おいなりさん"を知っているかい?東の国ではね、男性の――――』
パンッ!
マックスは紙束をテーブルに叩きつけた。
「ド下ネタじゃねぇか!!」
思わず大きな声が出てしまったが、マックスは悪くないだろう。
ドン引きした表情で作者を見てしまうのも仕方のないことだ。
「ちょっ、やめて!そんな蔑んだ目で見ないで!感想言って!」
「…これは酷い…」
「そんなにっ!?そんなにしみじみ言うほど酷いの!?」
「…これは酷い…」
「2回言うほどっ!?」
今日も惨敗だった。
「そんなぁ…」
顰めっ面で紙束に目を通していた少年は、ため息と共に紙束を机上に放り投げた。
紙はステープラーで左上を留めてあるためバラバラにならず、机上を滑って持ち主の元に戻った。
持ち主――紙束の作成者であるザカライアは、しょんぼりとした顔でそれを手に取った。
「…自信作だったんだけどなぁ…」
「はぁ?これが?」
テーブルを挟んでザカライアの向かいに座る少年――マックスは、冗談だろう?と返した。
「本気でこれがエロいと思ってんのかよ?」
「うっ…そりゃぁ、まあ…」
「はぁ…」
マックスは深いため息を吐いた。
『童貞丸出しじゃねぇか』という品がない感想は、すんでの所で飲み込んだ。
ザカライアが持つ紙束は、彼が一ヶ月かけて作成した小説だ。
その内容は男女の睦言――官能小説である。
作者本人が自信作だと言うだけあって、ストーリーの展開は悪くない。
――悪くはないのだが、官能小説において最も大事なシーンが酷すぎた。
「…あのなぁ、官能小説を書くなら濡れ場の描写をもっとどうにかしろよ。女はずーっと『あんあん』しか言ってないし、せめて『アッ』とか『イヤッ』とか入れて、もっと台詞のバリエーションを広げろっての。
男は男でただ腰振って終わるってなんだよ、猿じゃないんだから」
「――そんなこと言われても…僕、経験無いし…」
「まあアンタの場合、経験あったらあったで問題なんだろうけどさあ…」
もうちょっとなんとかなんない?
呆れ顔のマックスに言われ、ザカライアは落ち込んだ。
祖父の遺品整理中に出会った宝物は、ザカライアの人生に大きな影響を与えていた。
もちろん彼は、手に入れた官能小説が祖父の自作であることを知らない。
それでも血は争えないとでもいうのだろうか。14歳を過ぎると彼は自分で小説を書きはじめたのだ。
ある日唐突に『僕もこんな小説が書きたい!』と思い、彼は筆を執った。
翌年、国中の貴族が通う王立学園に入学した彼は、ひょんなことから出版社社長の息子であるマックスと知り合い、自作した小説を読んで貰うことになったのだった。
ザカライアにとっては、作品を誰かに評価して貰うことができる。
マックスにとっては王族との縁が出来ることと、もし良作だったら独占契約を結んで出版し、大きな収益が得られることを期待した。
win-winの関係になる――はずだったのだが、今のところマックスの期待外れに終わっている。
ザカライアは小説を作り上げるとマックスに連絡を取り、放課後、図書準備室に集まった。
図書室とは違い、図書準備室には人が来ない。
司書が準備室で作業をするのはザカライア達が授業を受けている間だけで、昼休みや放課後は基本的に図書室の受付にいる。
父親の出版社で昔から雑用を行っていたマックスは、配達先の一つであるこの図書室の司書とは顔見知りであった。
さらに入学してからは時々昼休みや放課後に、準備室に積まれた本の山の整理を手伝っていたので、司書とさらに仲良くなっていた。
マックスが悪い子では無いことと、共にいる相手が王子であるため、司書は快く場所を提供してくれたのだった。
今日も今日とて図書準備室で作品のお披露目を行ったのだが――結果は散々であった。
マックスはどんなに酷い内容でも、必ず最後まで読んでくれる。
その上で評価をしてくれるので、例えボロクソに言われても怒りは沸いてこない。
落ち込むことはあるが…。
マックスとて、最初からボロクソに言ってやろうと思っていたわけではない。
初めて小説を読むことになった時、一応この国の第二王子であるザカライア相手に、『この小説くっそつまんねーなぁ』と正直に言うことはできなかった。
遠回しに伝えようとしたところ、ザカライア本人から『不敬には問わないから遠慮無く率直な意見を言ってくれ』と言われ、じゃあ、と本心を口にするようになった。
それ以降マックスは駄作ばかり読む羽目になり、ザカライアを敬う気持ちが徐々に少なくなっていき、最近では気安い友人と会ったときのようにため口で接している。
そのことをザカライアが怒ることは無い。
突き返された小説を鞄にしまい込むと、ザカライアは鞄から別の紙束を取り出した。
「――実はもう一つあるんだけど…」
「お、見て良いのか?」
「うん。時間は大丈夫かな?」
「んー。その枚数なら10分あればいけるだろう」
マックスは受け取った小説に目を落とした。
『"おいなりさん"を知っているかい?東の国ではね、男性の――――』
パンッ!
マックスは紙束をテーブルに叩きつけた。
「ド下ネタじゃねぇか!!」
思わず大きな声が出てしまったが、マックスは悪くないだろう。
ドン引きした表情で作者を見てしまうのも仕方のないことだ。
「ちょっ、やめて!そんな蔑んだ目で見ないで!感想言って!」
「…これは酷い…」
「そんなにっ!?そんなにしみじみ言うほど酷いの!?」
「…これは酷い…」
「2回言うほどっ!?」
今日も惨敗だった。
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