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帝国編

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 ◆

「シィ、ケーティになにをするつもりだ?」

「試したい事があるの、その子でね。ケーティあなた自分が何者か分かってるの?」

 シャムはケーティを見定める様にじっと見る。遠慮のないその視線にケーティは見透かされてると感じた。その視線にケーティは怖気付き後ろに1歩下がった。シャムに問われてもケーティには分からない、自分が何者か分かっているのか?その答えはわからない、としか答えようがないので小さくため息をつくと、空をボーッと見上げ考える。

 ケーティには誰にも話していない2つの隠し事がある。それを言おうかどうか迷い視線を彷徨わせる。
 その時ポンポンと肩を優しく叩かれた。考え事をしていた為少しだけ肩がはねる。誰かに自分の肩に優しく手を当てられ後ろに下げられ、

 ケーティはとても動揺していた。シャムに見透かされていると感じていたから、自分に影が掛かった事でハッとして顔を上げる、茶髪と茶と黒が複雑に混ざったロングコートが見えた。そこでケーティは土の精霊王スワロキンに庇われ背に隠された事が分かった。
 だが庇ってくれたスワロキンは眉を寄せ、とても険しい顔をシャムに向けている。

「何?スワロキン言いたい事があるならどーぞ。」

 気だるげに肘掛に腕を着け話すシャム、上半身だけを見るなら普通だが、下半身は膝までキラキラとした結晶に固められ、痛々しい姿をしているが立つか座るしか出来ない為に現在は座っている。プルプルな椅子に座る膝は曲げても痛くない高さと角度までミラ特製のクッションが積み重ねられている、

 時折足が痛むのだろう、気丈に振る舞っているそんな言葉しか出ない、そしてなにより一言も痛いとも言わず時折眉を寄せるだけしかしない、美しい姿見をしたシャムはスワロキンにツンと顔を横に向け、遠くを見ている様だ。

 その2人の姿をアワアワして見るのはケーティ、
 スワロキンは怖い顔をして睨むから、今にも喧嘩しそうなスワロキンの事を止められるだろうか?とハラハラと見ていた。シャムもシャムでツンと横を向いたまま、
 スワロキンはじっと睨むだけ、それ以上は何もおきなかった。ケーティはホッとして胸を撫で下ろした。

 そしてケーティは考える。精霊王様達に出会ってから短い時間だったが、精霊王様達の事は分かったつもりでいたが、そんな顔をした所を見たことなど1度も無かった。
 スワロキンはケーティをかばう様に一歩前に出る。
 そのお陰でケーティの視線の先にシャムは見えなくなったが、代わりに見えるのは高く大きい背中だけ、ケーティはシャムの見定める視線から外れホッと息を吐いた。

「土の精霊王様、いえスワロキン様ありがとうございます。」

「大丈夫か?無理はするな、シィやり過ぎだ、まずは理由を言え、やるのかやらないのか、話はそれからだろ?」

「わかったわよ!少し待ちなさい、アウラ、今トゥカーナが今なにをしてるか気になる?」

「シャム様とても気になります。カーナはどこにいるのですか?すぐに会って無事を確認したい、」

 ワルドはお前らイチャイチャし過ぎ、と呆れ顔をしながら言う、アウラは別に考え無しで話している訳ではない、空の人族と地の人族の問題を全てをカーナにまかせてしまった。アウラは何も出来ない自分が本当に嫌になった。シャムは苦悩しているアウラに小さくため息を吐く、ミューを通してだけど見た事をそのまま話す。

「トゥカーナはおよそ600年位前の空の人族の街にいる、行ってしまった理由は次々と精霊王を捕らえる黒いモヤと結晶を根本的に排除する為、私の事を助けると言っていたから、排除するなら祈りの乙女のチカラは必須、だけどそれだけだとまだ足りない、
 さっきミューの糸を通して見た時に幼少時のライラを見たわ、あの口うるさい人にも出会ったみたい、聞いたら何か分かるかもね、私も聞きたい事があるから後から呼び出してみる。はぁー。でも不思議なんであの子私の名前をつかったの?
 トゥカーナがそのおかげか私の記憶が少し違うの、もう少しだけ時間をちょうだい頭の中を整理するわ、」

「シィ、分かったその後に聞こう、ケーティそれでいいか?」

 ケーティはスワロキンを見て、はいと返事をかえす。
 それにケーティは先程トゥカーナを助けるために覚悟を決めたと宣言をしたばかり、人に庇って貰うばかりではトゥカーナを助けられないと、グッと手にチカラを入れ握りこぶしを作った。
 ケーティを庇い前に立つスワロキン、その優しい精霊王の腕をトントンと軽く叩き見上げ思い出す。

 スワロキン様は水の精霊王ミラ様の所で、何も知らない私に、小さな精霊様の事や転移に使う魔法陣の事など、沢山の知識を教えてくれた優しい精霊王様、

 ケーティにとってスワロキンは師匠と言った方が良いかもしれないが、それは失礼にならないか不安になる。
 ケーティの心配を知らないスワロキンは、ケーティが掴んだ手を優しく取ると、じっとケーティを見る。

「ケーティ、本当にいいのか?」

「はい。私のチカラでトゥカーナ様をこちらに戻したいのです。シャム様の先程の話ではトゥカーナ様の所には行けないけど、呼べると言う事だと思います。トゥカーナ様は空の乙女で私は呼べると、そうおしゃっていましたので、」

 怖くない訳では無い足がすくむ、何とか耐え一歩前に出ると伺う様にシャムの顔を真っ直ぐに見る、シャムはニッコリと笑うが、大きな瞳はまったく笑っていない、クルクルと髪を回しケーティから視線をそらす。

「庇って貰わなくてもいいの?ケーティ。私が今から言う事はあなたにとって、とても酷な事を言うかもしれないわよ、この場でプルプルと震え立つあなたに何ができるのかしら?素直に誰かに助けてもらえばいいじゃない、たとえばスワロキンやワルドとかに」

「いいえシャム様、私はあなたがそんな事をする人ではないと知っています。ルピー姫様とお友達になられたシャム様が残酷な事を言うなど思っておりません」

 シャムは不愉快になり眉を寄せてケーティを見る、シャムはケーティに私の何を知っているの?と、ジロジロと探りを入れる様に見て考える、
 ルピーは空に帰ってしまったあの子の生まれ変わり、でもその事を誰にも言わないが教えるつもりもない、
 空の人族は愛が溢れている、我が子がもし迷子になっても気配でわかる。例外があるとしたら祈りの乙女が希望した場合や特別な役割があって役割を果たせない時のみ、その代わり子供は親を感じる事はない、子供は大人が愛情を掛け育て、子供は大人から貰った愛情で大きく育つ為、もし親が空に帰っても親族が育てやすい様その様に配慮がされている。特別な存在でもある長は別になる。長の場合は親からすぐに離される、産まれたらすぐに長を育てる役割の者が、親元に訪れ乙女を連れていく、そして役割を持つ者が屋敷の管理や料理等をして長を育てる。全員追い出したが後悔はしていない、解放されたと喜んでいるに違いない、

 視線だけをスワロキンに向け睨む、何度も確認するがぼけている訳では無い、スワロキンに何を喋った?とキッと見るも、スワロキンはじっとシャムを見るだけ、この睨みも空の人族には通じても古い精霊王に通じない、今の自分の感情に疲れてしまい、ふぅーと長く息を吐きケーティをじっと見る。
 ケーティはたじろぐ事もなく真剣にシャムを見が、シャムはそれどころでは無い、自分と空の人族に関わる全てを記憶しているはずなのに自身に身に覚えがなく絶対に有り得ない記憶が蘇っている。ギュッと眉を寄せ地面をみる。

「おかしい・・・使用人を追い出してから屋敷に2人も入れたことないはずなのに、記憶が変わってきてる。」

 初めての来客は空から落ちてきた幼少時のアルゲティで、それ以降外からの来客等は無かった。
 先程から自分の記憶が少し変わってきている事に驚きつつ手紙を書く、精霊と空の人族の一部が使える手紙を送る、それをスワロキンに見られていたらしい、すかざず誰に送ったのか聞いてきた。

「シィ誰に手紙を送ったんだ?」

「ライラよ少し気になってね、ライラの役割ならなにか分かるはずなのよ、でも私はなんですぐライラに手紙を送ったの?わからない・・・でも時々届けられた包みの中のオムライスやたこさんウィンナーを食べた?」

「アルゲティ様のお母様ですね。」

 アウラはすぐに分かったらしい、シャムはアウラに頷きつつ手紙の返事を待つ、すると葉っぱがヒラヒラと落ちてきた。シャムはクスっと笑い葉っぱを受け取りすぐに手紙にして読む、返信には少しだけ待ってと書れ分かったと1人言葉に出す。違和感を感じたがまずライラがいなくても話せる事をこちらで進める、

 空の人族の秘密の1つと、始まりの乙女の日記内容を話す。本音を言えばいいたくない、魂と記憶を解除をされ翼が生えてしまったトゥカーナ、
 あの子の祈りの乙女のチカラそれがあるのなら、今は脆くなった街を隠す結界の強化、それと教会に祈りを捧げてもらわねばならない、ケーティにこれを言って納得して貰えれば良いが、今は結界がとても薄く脆い状態、普通なら叩けば結界が見える、今の結界はひび割の状態をしていていつ結界が無くなるか分からない状態になっている、それではとても街を隠せていると言えない、心配だが唯一安心できる事は空の人族の街は山の上にある、地の人族がけして登る事がない山の街、滅多なことではバレないと思うが、ちなみにシャムの屋敷は街の奥にある。

 本来の祈りの乙女は成人を迎えると教会のシスターになり、日々を大精霊様に祈りを捧げ生きる。祈りの乙女がもし成人してなくても、空の人族は信仰深く毎週教会に通うその為、微々たる量だが祈りを捧げられ結界を形成している、

 昔過去の日記にはこう綴られており、祈りの乙女でもあるシスターの結婚に反対した種族がいた。それは地の人族だ。その話はまだ地の人族と交流があった頃の話で、理由を聞けば神に仕える者はその神だけを愛する為とか、
『バカバカしい、恋愛も地の人族との交流も自由なのに、祈りの乙女だけ何も出来ないのは不憫だわ!』と、当時2代目でもあった始まりの乙女が言い、祈りの乙女は絶える事無く生まれ続けていた。この祈りの乙女も今代が空に帰ればすぐ次代が産まれていた。そして教会に代々仕える司祭が新しい祈りの乙女に祈りの方法などを教え育てる。
 そして先代が日々祈りを捧げていた為、次の代が育つ期間の結界は維持が出来ていた。それもアルゲティが空に帰るまで祈りの乙女は必ずどの時代にも居た。

 地の人族が神と崇めるのは正確に言えば、私達空の人族全体ではなく、地上に風の精霊を送る祈りの乙女だと、風の精霊は地上に種を運ぶ、時に種を育てる為の雲を呼び雨や風を吹かせる。

 今は結婚ができない訳では無い、なぜなら高確率で祈りの乙女が産まれる家系が存在している、その為に祈りの乙女の結婚を認めないと後世が生まれないかもしれない、今まではちゃんと産まれていただけ、アルゲティが空に帰ってから、産まれていないのが証拠だろう、
 それがライラが産まれた家系というだけ、後2つか3つ頼みたい事もある。
 後は魂と記憶の解除、その禁忌魔法の解除をする事に対してシャムが協力すると約束をしている。

「あなたのその身体にあるそのピンク色、空の人族で何を意味してるのか知ってる?家族もその色を持つ者なのかしら?」

「シャム様、私には全く空の人族の知識はありません。それに私は小さな精霊様達から話を聞き空の人族の存在を知りました。
 それにこの瞳の色は生まれ持ったものです。私の家系の先祖は分かりません、ですが、今分かっている家族にこの瞳の色を持つ者はいません。お父様の瞳の色は赤系でお母様は茶系です。ただ私は物心ついた頃から、他の人には出来ない特技として精霊様とお話が出来ました。私の瞳の色と何か関係はあるのでしょうか?」

 シャムはケーティに他の家族の髪色等の質問をしたが、両親ともに髪の色は薄いと言う、
 もう少し突っ込んで色々と聞きたい事もあるが、シャムも言っておかなければならない事がある。
 それはトゥカーナがアルゲティの生まれ変わりなら、空の人族の長しか持っていない色を持つケーティは何者なのだろうか、長だけが使える禁術を使って正体を暴けば早い、もしそれをしたらケーティを守るように立つスワロキンの反感を買うだろう。
 面倒臭いが説明して納得させからではないと、それに無理やりにしてしまえば自我がなくなる、1度大きく息吸い息を思いっきり吐くと、話を続けるわよとケーティを見る。

「その綺麗なピンク色を持つ者は空の人族の長の証でもあるのよ、ケーティの様に綺麗なピンク色の瞳は空の人族や地の人族にもいないはず・・なの、その色は昔から空の人族しか持っていない、
 空の人族には昔から厳しい掟があるの、そう呪われたとしか思えない掟がね、これは絶対に破る事は出来ない、この髪色と瞳は染まる事は無いわ、1番古い空の人族の長でもある最初始まりの乙女と大精霊様との間に、沢山産まれた子供の内、1人だけあなたと同じピンクの瞳の娘がいだけど、好きな男の元に嫁いだとらしいわ、これは偶然なのかしら?」

 ケーティは話を聞いて驚きに目を見開き、白く美しい手を口元に当てそのまま固まっている、まぁいきなりそんな話をされ驚くのは仕方が無いと、シャムはケーティの瞳をじっと見て話を続ける、

「その頃空の人族の恋愛はどの種族とも自由に出来た。けど、最初の空の人族の長、始まりの乙女が空に帰るとすぐ生まれたわ、2代目は生まれて間もなく大精霊様が直々に迎えに行ったそうよ、そして3代目もね。3代目の時は産んだ母親に大精霊様は祝福を送ったそうよ、子供を取られ泣き叫ぶ母親に産んだ娘を忘れる祝福を、そしてその母親を忘れる祝福を乙女に掛けたつもりだったんでしょうね。乙女に誤魔化しの魔法は効かない、なぜなら始まりの乙女の身の安全を危惧した大精霊王様が、自分と同等にしてしまった。それなのにその大精霊王様まで忘れているの、かけた張本人なのにおかしいでしょ?」

 シャムはムスッとした顔をしてそっぽを向くが、バツが悪いのか、不機嫌な顔をしたままポツポツとまた話し出す。

「そして教会に大精霊王様のある言葉が残されていて、今となってはシスターと司教しか知らないはずなのにとても有名なの、だけどその言葉があるからお腹を痛め産んだ自分の子供を皆差し出すの、それは

『ピンクの髪と瞳を持つ者、我ラグエルの大事な花である、誰の目にも入れず大事に育てよ。傷を着けた者には罰を与える。』

 乙女の証でもあるこのピンク色の髪と瞳を持つ子が産まれると、母親と街から隔離され私の世話をする役目を持った人々の手で育てられる。親から離される理由を2代目が書いていたわ、旦那様が嫉妬すると、2代目が旦那様というと大精霊ラグエル様ね。私は会った事がないけど、風の精霊王は私で7代目なの、全員顔や髪と瞳の色は同じでも、他属性の精霊王達から見れば私は別人だとわかるその程度よ、そうよねスワロキン」

 スワロキンはケーティの真横に並ぶように立ち、シャムを警戒してる様だ。
 だがシャムに問われたスワロキンは1度黙り込みシャムをじっと見る。これなら当たり障りのないと判断すると、現在の空の人族の長と1代前の空の人族の長と今の長シャムの違いを淡々と話す。

「あぁそうだ。先代は泣き虫だったが、今代は怒りっぽいというより強がっているだな、後はシィ達まぁ歴代の長のまとう雰囲気だ、顔も姿見もなんら変わらないが名前は全員違う、これくらいだ」

 シャムはスワロキンの話を聞きながら、自身の2つに分けられ縛られた髪を1つ摘み、指先でクルクルと回す。艶やかで美しく長い髪は癖が着く事は無い、顔や髪色や瞳の色と同じで、これも始まりの乙女の髪質なのだろう、編み込んでも癖がつかない、そのため代々の長は同じ髪型でいることが多い、
 この癖を直した方がいいと言ったのはあの司祭の男、思い出すだけで落ち着かない気持ちになる。あれは幼少時に教会へ祈りを捧げに行った時、シスターの横に立っていた司祭の男は終始当たり障りのない事を言っていたのに、、シスターは祈りの乙女だと紹介をされたが、シスターは何も喋らずにずっとシャムを見ていた。その時の私は訳が分からなかったので目礼をしただけ、もしかすると何か言いたかったのかもしれないが、今更聞ける訳でもない、ここで悶々と考えてもキリがない、そう考えたシャムはすぐに考えをやめる、

 この髪は1度染めようとしたが全く染まらなかった呪われた髪、それを背中に流す。
 シャムは顔を上げ前に集まった精霊王達や地の人族を見回し、ここまでは空の人族の基本情報よ、スワロキン余計な事を言わないでと苦言を言う、そして音を立てないようにし大きく息を吐く、ケーティをじっと見てまた話を続ける。

「私は産まれた頃からの記憶があってそれを覚え続けてるの、そして私を産んだ母親の声もね。成長して目が見える様になり1人で歩ける様になった頃よ、
 屋敷をウロウロしていたの毎日がとても暇だったのを覚えているわ、
 普通の空の人族は200年経つと成人するの、だけど私の見た目は幼い子供だった。長は成長速度も寿命もとても長いの、屋敷にいる人々は成長しない私を見る度に酷く怯えるのを見るようになった。最初は気にしないようにしていたの、でもね日に日にそれが酷くなっていったわ、考えてみればそうよね、私だけ成長速度が全く違うから、私は他の人から見れば違う生き物なの、世話をしていた周りの人はどんどん老いて引退をしていくから、世代交代も何度もしたわ、歩き出したらすぐに文字を覚えたわ、でも世話をしてくれる人に微笑むだけで悲鳴をあげられるの、空の人族は地の人族よりも長生きだけど、私はそれ以上に長生きするから異端なの、それでも慕ってくれる人達は居たわ、
 私の1番近くにいて育ててくれた人は口を開ける度に、始まりの乙女としての自覚を持って行動を願います。なんて言い出す始末。けど私が笑えば愛らしく可愛らしいと・・・。だけど限界だったの、恐怖でしか見れないなら私に仕えなければいい、だから屋敷で世話をしてくれた全員を追い出した。幼い私を育ててくれた人達まで追い出してしまった。あの時追い返した後とても悔はしたわ、でもね仕方が無いと思っているの、だって私は恐怖で人々を支配したくない、怖いと言われながら日々を過ごす事は嫌だった。人がいなくても過ごしていけると思っていた。自分のチカラで全てが出来る、そう考えていた時期があった。けど外に出てみて感じたわ、1人で何もかもしようと思っても限界がある。ケーティあなたのチカラが必要なの貸してほしい、その同じ瞳の子供が持っていたチカラをケーティは受け継いで持ってる。」

 お願いします。誰もが息を殺し辺りはシーンと静まっている。

「少し時間をください。沢山言われて頭が混乱してますし、1日は考える欲しいです。」

「分かった。」

 フィレムはそれに気が付くとスっと立ち上がった。自身の空間ポッケからオレンジ色のハンカチを取り出すと、優しくシャムの頬にあてる、
 ピンク色の瞳から流れ落ちる涙を、シャムは気が付かなかったらしい、フィレムからハンカチを受け取ると、ハンカチごとギュと目元を押さえ俯く、小さな肩がプルプルと震え身体をギュと小さくなる。見た目だけならトゥカーナやケーティと歳は変わらないように見えるが、先代の風の精霊王が空に帰ってから、かなりの時間が経っている為、きっととても長い時間を1人で過ごしたのだろうとフィレムは思い思考する。でも小さな子供達と話をしなかったのだろうか?小さな精霊達は自分の子供同然で、大きくなるとどこかに行ってしまう精霊も多いが、ルルやムムの様に残る子もいる、歴代の風の精霊王を思い浮かべれば、確かに周りに小さな精霊を侍らせてはいなかった。何かあるのだろうか?フィレムは考えてる事を顔に出さない様にして、ニッコリと微笑む、

 ケーティはシャムの過去が捏造されたとは思えない、
 ザワザワと声がするのでそちらを向く、1番驚いていたのは私達地の人族、皆口々に空の人族にそんな掟があったなんてと、一気にザワザワとしだす。
 自分は家族に愛され育った。家族と離され育てられそして人生は長くとても孤独だったのだろう、
 そう思い感じたケーティは、その大きな瞳からポロポロと涙がとめどなく流れ落ちていた。皆がザワザワと議論する中、スワロキンの背中の後ろで1人泣いていた。
 ルクバトは小さなすすり声に気が付き顔を上げる、シャムの側に来ていた為、スワロキンの背中で小さく泣く少女が1人、綺麗な涙を流すケーティにハンカチでも渡しに行こう、そう思って魔法陣から手を離そうとした瞬間だった。

 説明すると、フィレムと一緒にイチャイチャと帰ってきたルクバトにミラが余計な一言を言った。

「ルクバト良かったわねー。フィレムが助かってルクバトも安心よねでもー。あなたなんで地の人族を閉じ込めたの?不思議よねー。」

「分かったなんでも許す。勝手にしろ!」

 現在のルクバトはアウラ達を閉じ込め、事もあろうに地の人族を贄にして大精霊様を呼び出そうとした。未遂で終わったから良かったのだが、罰はルクバトからの提案されたもので、ルクバトは「何でもする」と言った為、魔法陣の魔力供給をしている。もちろんお目付け役のフィレムが隣りで監視付きである。
 消えた魔法陣の隣りに新たな魔法陣(魔力を地表に流さない為のもの)をスワロキンが作り、その魔法陣の隣りに優雅に座っていたフィレムは優雅に立ち上がり歩き出す。
 そして膝まづいて魔法陣維持の為に魔力を流すルクバトの側に立った。
 ルクバトは立ち上がろうとしたルクバトに気が付きシャムの様子を見ていたフィレムに「あら?おしおきがまだ足りないのかしら?」と言われルクバトはサッと魔法陣に手をつく、

「あら?ルクバトは何をしているのかしら?私が望む事は何でもしてくれるのよね?おかしいわね。あの言葉嘘だったのかしら?」

「い、いやなにもしてない、フィレムが望んだ事をしているだけだ。」

 ルクバトはフィレムの怖い笑顔を見て顔を青くするとさっと手を元に戻す。ルクバトの顔や背中には大量の汗が流れ落ちる。
 すぐそばに居た光の精霊ムムと火の精霊ルルはフィレムのとても怖い笑顔を見た。ムムは涙目になりルルは下を向いてフィレムをこれ以上見ないようにした。

「フィレム様こ、怖いんですも!フィレム様の素敵なお顔が台無しですも!ムム謝るんですも!」

「ルル?!そうなのか?フィレム様ごめんなさい。」

 ルルとムムは軽くパニックになった。そして何を思ったのか魔法陣の上に置かれた手の上右と左に分かれ座ってしまった。驚いたのはルクバトで2人に小声で「なんで上に乗ったんだ?降りろ!」と言っている。フィレムはルクバトの側に座る、そっと自身の手をルクバトの手と合わせ動かせなくなる魔法を掛けた。もちろんムムとルルは動ける様にしてある。

「あら?ムム、ルル新しい椅子?良かったわね。座り心地はいかが?ルクバトが動いてこの子達が落ちたらフフ。何してもらおうかしら?」

 フィレムはルクバトの目を見てニヤリと笑う、ムムはブラックフィレム様が降臨したと、苦笑いを零す。何も知らないのは生まれたばかりのルルだけ、ルルを見れば必死でフィレム様を落ち着かせ、ルクバト様の手を解放出来る様説得するつもりらしい、ムムは無駄だと知っているが、巻き込まれない様にし口には出さない、いわゆるお口チャックだ。

「フィレム様、ルクバト様が可哀想なんですも、フィレム様を助けに行ったのはルクバト様とトゥカーナとミューだけど、ルクバト様も頑張ったんですも、少しだけ罰を軽くして欲しいんですも、ムムも何か言うんですも!」

 ムムのお口チャックもここまでだったらしい、巻き込まれ上等!どうにでもなれ!と考えと同時に口を開く、それはやけくそである。

「フィレム様ムムからもお願いします。これはルクバト様の暴走を止められなかったムムのせいです。」

「優しいのねルル、ムムでもね甘やかしてはダメよ、それはそれこれはこれなの、それにこれはルクバトが言い出したのよ、それでも私が悪いのかしら?ムムとルルは私が悪いと攻めるのね。」

 フィレムは本気には思ってないようで、目に手を当て泣き真似をする。精霊2人に効果はばつぐんだった様だ、ムムは泣き真似と分かっていても慌てて慰める。なぜなら後が面倒臭いから、

「と・・・とんでもないんですも!ルクバト様頑張るんですも!フィレム様がそれで喜ぶんですも!」

 ちょうどその時、シャムの側にオーキッド色の魔法陣が出現する、それと同時にライラが転移して来た。フワリと揺れ落ちる髪色はオーキッド、同じ色の瞳は大きく見開かれシャムを見ている、
 突然魔法陣で転移して来た空の人族、アウラとケーティの2人は顔を見合わせライラの近くに行くが、ライラに少し待ってと2人にジェスチャーをすると、シャムの目の前で膝をつき頭を下げる。

「シャム様お呼びですか?その姿はどうされたのですか?すぐに司祭様をお呼びしましょう、あのシャム様トゥカーナはどちらに?」

「ライラそれは後よ、そんな顔をしたくてもきちんと呼ぶわ、あなたトゥカーナと幼少時に出会ってるの、あの子は今そこにいる。」

 アウラはとケーティはトゥカーナの話が聞けると知ると、話の続きを聞くため1歩後ろに下がった。
 ライラは空間ポッケから四角い包みを取り出した。包みにシワがないか確認し、スプーンと共に包みをシャムに手渡す。包装は赤い布地で所々花が散りばめられてあった。
 シャムはライラに差し出された包み、それを困惑しながら受け取りそっと包みを開ける、
 可愛らしい緑色の箱には、黄い玉子のオムライス、ふわふわ玉子の上にはトマトソースが掛かっている、玉子の横を見れば、たこさんウィンナーがある。

 シャムはたこさんウィンナーを見て思い出す。
 あれはトゥカーナを攫った時だ。アウストに姿を変え笑いながら共に作った料理、今でもすぐに思い出せるが、シャムはあれから何度か挑戦したがたこさんウィンナーだけは足が毎回取れてしまっていたが、あれはいい思い出だ。それが目の前にあったのだから、
 ムズムズと口端が緩んでくる、その顔を見られたくなくて口端をキュッと引き締めた。真面目な顔をして上げライラを見る。ライラはニッコリと笑うとオムライスを作った経緯を話す。

「昔偶然聞きいたのを思い出しました。呼ばれた時作らなくちゃと思い作りました。お口に合えば良いのですが、もしお嫌なら捨てて下さい。」

「捨てないわよ、後から頂くわありがとう。」

 シャムは照れてしまった。こんな事をされたのは初めてだから、ライラを見ないようにプイと横を向く、少し遅れる理由はこれを作るためだったらしい、じゃあ誰がオムライスをシャムの家へ届けたのか謎なままだが、そのきっかけはトゥカーナだと、なぜか確信はできる。

「シャム様が好きだと言っていたオムライスです。こちらにあるのはたこさんウィンナーで、たこさん1人では可哀想ですから、お友達のカニさんウィンナーを添えてみました。空の人族の象徴でもあるお花を型どり作ってみました。
 それにしても・・・フフ。シャム様はご冗談がお上手ですね、トゥカーナあの子がいる訳ないじゃないですか?今のあの子は空の人族ではありません。」

「じゃあ話を変えるわライラ、あなたが小さい頃シャムと名乗った子供と出会ってないかしら?そしてこの料理はその時に習ったものね。」

「まぁ!よくご存知ですね。シャム様はあの時に出会ったあの子と同じ名前だと思って覚えたのです。懐かしい、ですがなぜそれを聞くんのです?」

「詳しい話は後よ、ライラそのシャムと名乗った女の子いつまで居た?」

 ライラは斜め上を向きうーんと考える、
 確か出会った時はおじいちゃんと月に4回ある教会の集まりの帰りだった。
 そしてあの子が慌てて帰ったのは、4回目の教会の集まりの時、丁度月に1度の祈りの日だった。シスターが祈りの言葉を言うと翼が光り出し祈りの言葉を捧げる、祈りの乙女は翼が光る。空の人族は全員が知ってる話だが、まさかライラの隣りで一緒に祈りを捧げていたカーナの翼も光るとは、その時のライラは考えてもいなかった。それにあの子の他に祈りの乙女は別にいた。
 祈りが終わるとカーナは司祭様とシスター、次代の祈りの乙女に連れられ奥の部屋に行ってしまった。ライラがカーナの姿を見たのはそれが最後、それがお昼前の話で、祈りを始める前カーナと小声でお昼ご飯何食べようか?などと話していたから覚えている。

 カーナが食卓にいない寂しいお昼ご飯を家族で食べ終わり、母さんは教会に確認してくると出かけなかなか帰ってこなかった。夕方を過ぎてなかなか帰らないカーナを心配した時にきたのは別れの手紙だった。
 そうそう確か別れの手紙を貰ったけど、シャム様の話が書かれていているから、おかしいなと思ったの、とライラは空間ポッケから手紙を取り出すと同時にシャムに手渡す。空の人族は精霊達が使う手紙を改良してあり、手紙を読み終わっても消えない様にしてある。その事にミラとフィレムは驚いた顔をしている。

 シャムは手紙を受け取ると花が描かれた封筒から手紙を出して読み始めた。直筆を見てもトゥカーナのものか分からないが、手紙の前半はライラ達に向けたもので、
 お世話になりました。魔法陣の書き方や魔法の使い方とっても為になりました。等とつづられている、ライラにはお料理頑張ってお料理上手なお嫁さんになってね。ダブエルと喧嘩ばかりしない様にと書かれており、2人は幼なじみで結婚までしたらしい、

 手紙の後半はシャムに向けられたもので、シャムが読むのを前提に書いたようだ。内容は黒いモヤ探しをして帰るから待っていてね、モヤは1つ消して、フィレム様がくれた結晶は半分程が集まりました。でもまだ帰れないみたいです。ペンダントの光について行きます。それともう1枚手紙があるので、アウラ様に渡して下さい。
 確かに手紙はもう1枚ある。人の手紙を読む趣味はないしかも婚約者に宛てたんだから恋文だろう、そう考えシャムはそれだけを手元に残し残りは封筒に仕舞い、そのままライラの話を聞く、

「月に4回ある教会の集まりがあった日の家の庭に着いた時、知らない女の子が母さんに抱かれていたの、その時に私は尋ねたわ母さんは、忘れ物探しと精霊を追いかけて迷子になった。と言っていました。おじいちゃんからは、シャムカーナと長の名前が同じで分かりづらく話しづらいから、カーナと呼んで欲しいとその時に聞いたそうです。
 そのカーナちゃんは次の教会の集まりでいて、教会で祈りを捧げた時翼が光ってしまった。それを見ていた司祭様とシスターはカーナちゃんを連れ、奥の部屋に連れられて行ってしまってからは見てません、夜に帰りますと手紙を貰いました。」

「直筆の文字は分からないわ、アウラこれを見て、この文字はトゥカーナの?これあなた宛てみたいだけどねぇライラ、アウラ宛ての手紙だけ渡してもいいかしら?」

「はいシャム様どうぞ渡して下さい、私も人の恋文に興味はありませんから読んでもいません。でも私は今でも信じられません。あのトゥカーナは私の幼少時に会っているなんて、幼い私はあの子の事を姉と慕っていましたし、信じられませんが確かに思い出してみれば、色々と似ています。タブエルもまさか初恋の相手があの子と知ったら、どんな顔をするのかとても楽しみです。フフ・・・あの人会ったその日に結婚して欲しい、と言ったんですよ、もちろん断っていましたから、安心してねアウラ、ですがあの頃のトゥカーナは今の背丈と違って、小さな女の子の姿でした。」

 アウラは驚きを隠せなかった。なぜならライラが教えてくれた話の後半は予想外の事だったが、それはまたカーナが帰ってきてから話を聞こう、そう思って手の中にある手紙を広げ読む、カーナから手紙を貰うのは久しぶりで、初めて手紙を送った幼少時をなぜか思い出す。あの時は色々とツンツンしていたと考えた。

「この文字は確かにカーナの直筆です。学園の授業中よく見てましたから分かります。」

 何度も見た少し癖のある丸い文字、その文字さえ可愛らしい、手紙についたカーナの香りを堪能してから手紙を読む、後ろでワルドのため息と、ラケルタの呆れた為に出たため息が聞こえたが、アウラは気にしない

「アウラ様早く会いたい、私はそんな思いの日々を過ごしています。道行く老夫婦を見て将来私達もそうありたいと思います。

 ですが帰りはやはりもう少し遅れそうです。
 私の今の事情をお話したシスター様や司教様が言うには、あの欠片は空の人族の証で、誰かが故意に割り悪意を詰めたからではないか?と教えて頂きました。その欠片から残りは後2、3回ではないか?との事です。欠片が小さければ倍にはなると、そう司祭様が話をして下さいました。
 私が帰ったらこの黒いモヤを探す旅の事、沢山話がしたいです。ミューやククルとはぐれ困っていた所、違う精霊が私の案内してくれました。今はその精霊と一緒にいますから安心して下さい。
 ケーティやロッテには心配を掛けていると思いますし、帰れない時間が長ければ長いほど心配を掛けている自覚はあります。もちろんお父様やお母様やお兄様やお姉様にも、お父様にこの手紙を見せてください、家族に分かりやすい様に話をしてくれると思いますし、アウラ様が悪く言われる事もないでしょう。

 もし余りに帰るまでの時間が長いようでしたら、私の事は忘れて下さい、アウラ様には幸せになって欲しいのです。私の事は忘れて下さい。それが勝手に願いどこかに行ってしまった私の最後のわがままです。

 もしミューとククルがそちらにいたら、けして責めないで下さい、魔法陣の中で希望する事を祈ってしまった事が原因だとシスターから聞き驚きました。

 それと欠片探しの中アルゲティの過去が1つ分かりました。アルゲティが空に帰った時にいた王の末の子はアルゲティの息子です。アウラ様はアルゲティの子孫です。」

 アウラは時間が止まった。カーナを忘れろ?そんな事を書かれているから、僕がそんなことする訳が無い、

「カーナ!」

 そりゃそうだ父上や母上と知らない筈の話、声を上げてしまった。叔父上の意見も聞かねばその前に父上にも知らせねば、叔父上から貰った手紙にはカーナに頼んで空の人族を呼びたいと、そう書いてあったではないか、
 アウラが驚いた声を出したからか、隣りにいたワルドは手紙の内容が気になって覗き込み見ようとした。
 アウラはその手紙を胸に抱き守ると、ふわりと優しい花の香りがしてきた。久しぶりのカーナの香水の香りだ。思いっきり息を吸い込み香りを堪能していると、ワルドに惚気しか書いてない気がするが聞こう、と話を振られてしまう、

「手紙にはアウラ様が恋しいと、僕もだよカーナ」

 ワルドは空の人族(特にアルゲティ)を憎んでいる節がある。ルピー姫が空の人族の長と友達になった。昔と同じこの国の王は空の人族の力を恐れた。ルピー姫は城の奥から出され、ワルドから出る醜悪は少しだけ薄くなった気がする、たまにアルゲティの話を出してみて様子をみよう、
 だがこれは見せるべきでは無い、そう思い高速で手紙を閉じ上着に隠す。ワルドも人の上着に手を入れようと思わなかったらしい、

「お前学園で何してるんだ?まさかとは思うが、ずっと見てる訳ではないよな?違うと言ってくれ」

 ワルドに痛い者を見る目で指摘されるが、アウラは爽やかに笑う、ワルドはアウラのこの笑みに顔を引き攣らせ、その笑顔に俺は騙されない、だがあの笑顔を見るとなぜか断れん、等とブツブツと言っている、アウラは誰の事を言っている?と黒い笑顔を見せる。

「もちろんカーナを見る為だよ、カーナがどうしても学園入学を1年遅らせたいと言ったから、学園長に無理を言ったんだ。僕は愛するカーナを隣でずっと見ていたいからね。」

「爽やかに笑っても重いわ!この前の雑貨屋で分かったつもりでいたがお前の愛は重い、しかも重症レベルだ。」

「そこは重いではない、大好きだからだ!分かったワルド時間はたっぷりある。沢山おはなしをしましょう、」

 ワルドは頬を引き攣りながら首を横に振り笑う、重い愛を受け止めるトゥカーナを少し哀れに思い、お前の選んだ道だ頑張れ、とよく分からない激励を送った。
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