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帝国編

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 ミューは考える、魔法陣の転移前トゥカーナの手に抱かれ話をしていたはず、しかし転移後ミューは1人ふわふわ浮いていた。転移は一瞬だった筈なのになぜトゥカーナがいないのだろう?なぜ1人で浮いているのか?そこまで考えキョロキョロと辺りを見渡す。

「えっ?えっ?どこなのよトゥカーナ!」

 しかし呼んでみたがトゥカーナは返事をしない、血の気が引くとはこの事だろう頭が真っ白になっていく、魔法陣の上に居ないのを改めて見て慌てふためく、魔法陣の上をあっちにオロオロ、こっちにオロオロと飛び回りククルを捕まえる、首元の服を引っ張られ捕まったククルは「ぐぇ!」と苦しげな声を出すが、ミューは慌ててパッと手を離すと、ククルはコロンと一回転して止まった。

「ククル、トゥカーナ知らないかしら?なんでいないの」

「ミューも見たでしょ?魔法陣はきちんと作動したよ」

「分かってるのよ!でも何でトゥカーナだけいないのよー」

 ククルは魔法陣から出ると、オロオロ頭を抱え魔法陣を右往左往しているミューを無視して探す。ここに居ないものは居ない、魔法陣の文字に不備はなかった。モヤを追う、あの文字はミクロン様に教えてもらい、そのまま書き写したもの、間違ってなんかないったらないのだ。

「トゥカーナちゃん出ておいでー」

 ミューは一通り魔法陣の上を探しククルの所に飛ぶ、ククルは地面に生える花の根元や葉っぱの裏等を探すがやはり居ない、ミューの頭はまだ混乱しているからか、ククルのその行動が可笑しいと感じていない様だ。

「ククル魔法陣の文字はあってたのよね?なぜトゥカーナだけがいないのかしら?」

「魔法陣の文字はあってる、だってフィレム様も見ていたんだもん。一緒に転移していないなら迷子なんじゃない?探す?それとも帰る?うん帰ろう!ミューは契約精霊なんでしょ?糸で探せないの?」

「そうか糸・・・探すに決まってるのよ!」

 ミューはなんとか気持ちを落ち着せると糸を探る、その糸は2本ある。1本はアウラのもの、もう1本のトゥカーナの糸を引っ張るとピンと糸が張る、ミューはドキドキしていた。なぜなら糸を引っ張る時毎回思い出す事がある、それはアルゲティが空に帰ってしまった時の事、契約者か精霊が空に帰ればピンと張らずそのまま消えてしまう、契約の糸がピンと張る度毎回ホッとしている自分がいる、
 トゥカーナの居場所に転移しようとするが、糸の先は何かに阻まれていると言った方がいい、なぜなら糸は薄い膜の先に向かっているらしい、薄い膜のその先に進む事を拒絶されている、

 ミューが糸で探っている間ククルは周りを探す事にした。なぜならお家に帰りたいから、魔法陣の行き先を書いたのは確かにククルだが、その魔法陣を見たフィレムは合格を出していたから間違いはない、

「おーいトゥカーナちゃん出ておいで、さっさと終わらせてお家帰ろうよー、私ご褒美貰ってゴロゴロしたいの、トゥカーナちゃんが作ったお菓子美味しいわよーって、ミクロン様とミラ様が言っていたからぜひククルにも作ってよー!」

 と草の根元や花の裏を探す。精霊の様に小さくないトゥカーナはそんな所にいない、とククルの頭をミューはポカリと叩くとククルは「痛い」と涙目で頭をさする、この事態を相談をする為1度転移して精霊王の所に帰る事にした。

「ククル帰るのよ」

「お家やったー!でもこの根元にいるかも」

「そんな所にいる訳ないのよ!トゥカーナは精霊では無いの、私達よりも大きい地の人族なのよ、ククルも分かってるはずなのよ!」

 まだ草木の根元を探すククルの首元を捕まえる「ぐぇ」と苦しそうな声がするが、今は急いで帰った方がいい、

 ミューは転移したらトゥカーナがいなくなった。その言葉をアウラにも正直言い辛い、キリキリとお腹の真ん中が痛くなる、昔アルゲティが緊張した時に言っていた事だった。ミューはそれが今わかった気がした。
 ミューは自分の髪の毛を触る事でアウラの魂を感じると、トゥカーナの魂を感じる事が出来る、願うような気持ちでもう一度試した。やはり行こうとしても何かに阻害され行けない、ミューは諦めきれないがここに居ても何も出来ない、
 まだ探そうと草の根元を探すククルが苦しそうな声をまだ出すが、それは気にせずアウラの糸を手繰り寄せると、そのままアウラの所に転移した。

「アウラただいまなの。」

 ミューはアウラの目の前に転移したと同時にククルをアウラの前に押し出す様にした。
 アウラはミューの姿を確認し一瞬驚いた顔をしたが、アウラの目はキョロキョロとトゥカーナを探す、不思議そうな顔でまたミューを見る。見られたミューは固まりアウラの顔をまともに見れず今もククルの後ろに隠れたままでいる、それでも気になり時折チラリと背中から顔を出す。

「おかえりミュー、もう終わったの速かったね。ところでカーナはどこかな?早くカーナのそばに居たいんだ。」

「魔法陣から突如消えた。任務完了だよね!お家帰っていいよね?やったー!ご褒美だー!」

「ク・・・ククル何言ってるの?ご・・・ご褒美はなしだよ。」

 ククルはやっと帰れると両手を上げバンザイをしていたが、ミクロンにご褒美は無しだと言われるとククルは涙目になった。
 ミューと同じ位の大きくなるとミクロンの首をガクガクと揺らす。ここにトゥカーナがいたらどこのロックバンドか?と思うほど揺らされている、そこに慌てて来た黒い小さな子達がククルの周りを飛び、後から来た小さな子達が何かを持っている、それをよく見ればクッキーらしい、ククルは勢いよく飛びつくが、ヒラリとクッキーは逃げる、それを数回してミクロンから距離を離す作戦の様だ、
 ミクロンは魔力は回復していらしく大きい姿のままだ。

「なんで!ちゃんとフィレム様を連れて帰ってきた!えっと・・・ト・・・トゥカーナはそう!迷子!私のせいじゃない!」

「ミ・・・ミューククルが言う事は正解?」

「契約精霊でも追いかけられないの、私ではどうにもならないと帰ってきたの、でも原因は分からないの、転移する前胸に抱かれ一緒に話をしていたのよ、訳が分からないのよ、
 見える範囲だけれど一緒に探したのよ、でもトゥカーナは地の人族なのは知ってるはずなの、でもククルは葉の下や花の下を探していただけ、探してなんてないのよ、」

「そんな!迷子って言えばいいのに!」

 ミューは皆の気がククルに逸れている内にシャムの所に飛んで行こうとしたが、ルクバトの赤い魔法で捕らえられ、ジタバタと足をばたつかせ抵抗してみたが、怖い笑顔をしたアウラの顔の前に連れてこられてしまっては素直に話すしかない、アウラの冷たい色をしたアイスブルーの目と合わせる。

「た・・・ただいまなのよ。フィレム様の所までは一緒だったのよ。けど、魔法陣で転移した後その場所からいなかったの、契約の糸を手繰り寄せてみたけど、繋がらなかったのよ」

「ミューこっちに来て詳しく教えて、アウラもこっちに来て聞きたいでしょ?婚約者の事、そうねあなたもこっち来てくれる?」

 まだ足元が結晶で捕まっているシャムは上半身を後ろに捻りミューを手招きして呼ぶと、次はケーティを見て手招きをする、ケーティはシャムに呼ばれた事に驚きつつ、不安に感じてしまいスワロキンとレオニスを見ると、2人は頷き了承したのを見てケーティも頷く、ワルド達もその場所にいても情報が分からない、その為シャムの所まで歩く、
 ミューはアウラと顔を見合わせつつ、いつもクセでトゥカーナが抱っこする大きさになったがトゥカーナはいない、大人しくアウラに着いて行こうとしたが、アウラはお仕置だとミューを捕まえるとそのまま脇に抱えた。荷物みたいに持って欲しくない講義しようとしたが10歩も無いすぐにシャムの所に着く、シャムは足が動かない為スワロキンが土魔法で椅子の形に、腰掛け部分に水のクッションを被せピンク色の髪をクルクルと回しミューを見る、精霊王の合作した少し高め椅子に気だるげに座る、足元を見れば魔力の流出を防ぐ魔法陣が描かれておりその魔法陣を発動させ続ける為、ムムとルルとルクバトが魔力を送る、驚きつつ見ればルクバトは目が合いバツが悪そうにツンと顔を背ける、アウラに説明を聞きたいと見ると、フィレム様から言われ魔力供給をしているらしい、

「ミューこっちに来なさい。何があったのか見るから」

「はいなのよ・・・」

「シャム様はカーナに何があったのか確認が出来るのですか?」

「私に出来る事はミューが見たものだけ、でももしかしたら出来るかもね。でもあまり期待しないで、さぁ怖がらなくていいの、ミューあなたの魔力を見せて」

 ミューはシャムの前に行くと優しく差し出された手に乗った。シャムは慈愛に溢れた優しい微笑みを浮かべる、ミューはローズピンクの瞳と視線を合わせ魔力を放出する。綺麗な緑色と真っ白な魔力、精霊王達は目を見張りミューを見る、シャムは怪訝そうな顔をしてミューをマジマジと見て声を荒らげ、スワロキンを含めた他の精霊王達はミューとシャムを交互に見る。

「ちょっと待って、ミューあなた風の精霊よね?」

「私の前でも魔法使った事あるけどー。今までそんな事気にした事なかったわー。考えてみれば不思議な事もあるのねー。フィレムの子供達の色とも違うよねー?」

 ルルは光の球状になるとクルクルとその場を飛び回る。そばに居た小さな子達も真似をして飛び回る、暗い空間を黄色い光がチラチラ輝きとても幻想的に見えとても綺麗な光景になる。
 ミラはまだ魔力が戻らないミクロンと一緒にいる、ミューの事を不思議だと思ったことは無い、むしろミューと一緒に居ると楽しいから気にしたこともなかった。

「私の魔力はアルゲティがいた時に白く光るようになったのよ、確かこの湖をアルゲティから預かった頃だった筈なのよ、少し前に原因不明で倒れて、私をあの子が見つけてくれて、トゥカーナがライラを呼んでくれた。そこでライラにお願いをして看病して貰ったの、目が覚めた時に自分の中で1つ階段を登った感覚があった・・・でもなぜ倒れたのかわからないのよ、目覚めた時私の髪も短くなっていたの、もしかしたらそれが原因なの?」

 あの子と指をさした方にはケーティがいて、指されたケーティは驚いたがすぐに思い出し優しく微笑む、両手を胸に押えホッと息を吐いた。

「あの時は本当に驚きました。ですがトゥカーナ様を呼んだのは王太子様ですよ。私は何もしていません。お礼なら王太子様にお礼をお願いします。精霊様私の事はケーティで構いません」

「精霊様なんて小さな子と変わらないじゃないの、私の事はミューと呼べば良いのよ、私もケーティと呼ぶのよ、・・・ケーティ助けてくれてありがとうなの。」

「どういたしまして、ミュー様」

「フン・・・様なんていらないのよ」

 プイと横を向いているがその顔は赤い、アウラはミューの頬をツンツンと突っつき「嬉しいなら素直に喜べば良いのに」とからかう、ミューは鬱陶しいとその指を掴むがされるままだ。
 シャムはそのやり取りをチラリと見ただけ、そのままスワロキンと話を続ける。

「分からない、けど、長い時間を生きるあなた達なら分かるのかも少し頼ってもいいかしら?私はずっと屋敷に閉じこもっていて違う意見を聞きたいの、
 最近始まりの乙女の日記が出て来たわ、今迄屋敷中探しても見つからなかったのに、見つかったのは私がトゥカーナを連れて来た時に閉じ込めていた部屋よ、あの部屋も散々探していたのに、そう言えばあの子私が掛けた結界にも解除して入ってきた事があるのよね。」

 シャムは自分の魔力を1度出し色を確認する。もちろん濃い緑色、素早い動きで空間ポッケから厚い1冊の本を取り出した。風魔法で本を持ち上げペラペラとページを捲る、あるページを開きスワロキン達に見せた。ルクバト以外の精霊王達が難しい顔で本を見る、

 アウラはチラリと見た本の表紙は、花と星が描かれとても厚くずっしりとした感がある、アルゲティ様達がいた頃に残されたものでは無いと思うが何か引っかかっる、何か思い出せそうで思い出せない少し苛立ちを感じる、
 とてもシャムの細腕で軽々持ち運べる厚さではない、
 スワロキンは厚い本を受け取り、そのページを1度目を通し絶句しシャムを見て隣で興味津々のミラに手渡すと、ミラとミクロンは興奮した様に日記を見る、フィレムはシャムの横にいて抜け出そうとして自分の横に来るルクバトを監視している様だった。シャムは暗記してる為淡々と声に出して読み始める、

「今出会った頃を思い出すとその出会いは突発的だった。様々な困難が待ち構えていたが、私達はやっとの事で結ばれた。大精霊王ラグエル様の色はとても白く綺麗な色をしていると私が言うと、ラグエル様はその白い色は私の魂の色と同じ色と褒めてくださる、
 私達はもう2度と離れたくない、この先も永遠に一緒にと誓い合った。
 私達は婚姻し沢山の子供が産まれた。しかし私の寿命は限られている、私は寿命が無い精霊ではなく地上の人だから、ラグエル様は大丈夫だと言ってくれる。ラグエル様は輪廻の魔法を掛けた。その魔法は犠牲が伴う、私が何度も何度も生まれ変われば、直に私達の存在は忘れ去られるだろう、だがラグエル様は言う、君と共にいられるのならこれ位は容易いと、けして君の事を忘れない、他の誰かが忘れてもラグエル様はけして忘れないと、」

「白色・・・空の人族の始まり」

「私・・・大精霊王様と同じ・・・なの?どうして私なのよ・・・」

 皆が唖然としながらミューを見る中、当の本人はオドオドして落ち着かず両手で顔を隠す。違う事を考え気持ちを落ち着かせる事に、

 昔アルゲティと一緒に森の中を旅をしていた時だ、なぜ森の中なのか?それはアルゲティが迷子になったから、
 このまま大きな道を進めば目的地に着くのに、横道があるとこっちの方が近いと思ってしまうらしい、それもまぁいつもの事、
 ミューが目を離している隙にアルゲティは迷子になる、契約の糸を使いアルゲティの元に辿り着き、半泣きになったアルゲティがごめんね。と謝るまでがワンセット、『どこにいても見つけるのよ』の言葉と共に一緒に笑う、ミューはいつも笑って受け流す。今思い出すと昔は見つからないなんて事は無かった。

 思い出せばあの時は歩いて旅していた。大きな翼を出し「ギョェー!」飛ぶと魔物と間違えられる、とアルゲティが怖がったが、まずあの魔物に間違えられることは無い、その体は真っ黒で真っ白なドレスを着ているアルゲティとは見た目が全く違う、それに空の人族は無自覚で防御魔法をかけている、ライラやダブエルに聞くと自覚無しだったから、
 魔法を使えない様にしなければ傷をつける事さえ出来ない、翼を出して飛ぶなら気配を消せば?と言えば、

『昔みたいに地の人族と空の人族が仲良くなれるといいと私は思っているの、ミューも聞いた事があるでしょ?父様はあちこちと旅をしていたって、』

 後は空の人族の間で流行っていた、ソロキャンプをしてみたかったらしい、ミューもいるから友達とお泊まりだね。とはにかむ様に笑われれば、ミューも照れてしまう、食料や道具は空間ポッケに入っている、ミューは食料には興味はない、なぜならアルゲティがくれる魔力が食事だから、
 空の人族はめったに歩かない為、アルゲティは疲れてしまい3日と持たなかった。これはまぁいい思い出としてとっておく、

 迷子になった森の中を進んでいたら、薬草取りをしていた女の人がお腹を押え苦しんでいるのを見つけ介抱する、女の人に1人で森の中に居たの?と聞けば、少しでも生活の足しにしたかったと言う、アルゲティはアタフタしながら介抱しているので、ミューは空間ポッケから布を出し魔法で水を出し濡らす、アルゲティに手渡すと汗が吹き出す女の人の額に優しくポンポンと当てて拭く、

 魔物が来ない様に結界を張り違いを考える、空の人族は魔法で暮らしを豊かにし、至る所で魔法が生かされていた。
 空の人族の街はとても美しく整備されていて、少しでも歪めば直ぐに魔法で美しく固める、誰がではなく、気がついた人が直す。空を飛んでいる為に余り道を使わずめったに傷まない、たまに走っている人や散歩に使う人がいる程度、

 今いるこの場所を見ると、細い道は土を固めただけ、ここよりも大きな道だと石たたみで塗装されているが、修理が間に合わないのか外れてしまっている所がある、人を乗せた馬車が走る所はまだマシで、端の方なんて石たたみさえ無い場所がある、
 最初見た時はアルゲティが魔法で直そうとしミューは必死に止めた。1日2日で直せる量じゃないと、アルゲティはミューの説得に納得し、フラフラと危なげに道端を歩く、

 地の人族は魔法を魔術と言う、なぜなのか、魔法と言うには弱く、魔力を使った術だったからと聞いたことがある、ちなみに精霊から力を借りれば魔法になるらしい、

 最初こそ驚いていたアルゲティだったが、空間ポッケから大きなクッションを出しそこに女の人を座らせる、ホッとした表情をした女の人だったが、痛みが落ち着く時と苦しい時があるらしい、治癒魔法を使おうか?と聞いたが頑なに治癒魔法は使いたくないと話す。お腹の子供に影響が出ると、ミューには分からなかったがアルゲティは分かったらしい、
 アルゲティはオロオロしていたので女の人の介抱を任せ、ミューは近くの街に行く為の魔法陣を手早く書いた。もちろん私達が転移した後は消える様になっている。保存したいならそれなりの魔法が必要だ。

 助けた女の人は確か「・・・を落ち着かせる呼吸なの」と言うと、必死に呼吸をする、ヒィヒィフゥ。ヒィヒィフゥ。一時的だが女の人は落ち着いていた。ミューはきっと緊張を解す呼吸だろうとそれを真似する。
 ヒィヒィフゥー。ヒィヒィフゥ、何度も呼吸をして両手で目を隠したまま何度か繰り返した。まだドキドキする感じはするけど気持ちは落ちつかない、女の人と街に転移した後私達の周りに人が集まって来て大変だった。私達の姿を見て驚いた人達にお礼だと言われ、とても美味しいご飯をご馳走になった。もちろんミューは食べていないが、アルゲティは口いっぱいにして味わい、母様のご飯も美味しいけどこのご飯も最高ー!と喜んでいたから知っているだけ、
 そのまま人々が手配してくれた宿屋に泊まった。翌朝アルゲティが朝食を食べてる時に男の人が喜びながら飛び込んで来た。聞けば助けた女の人の旦那さんで、とても元気な女の子が産まれたと聞いて2人して手を取りあって喜んだ。名前を聞かれアルゲティが答えると、即座に思いついたのか何個か候補があったのか分からないが、女の子の名前はミルティーとなずけられた。

 その後街の探索をしようとアルゲティ1人で出掛けた。街なら迷子ににはならないだろうと見送った。そろそろ迷子も大丈夫なのではないかしら?と思ったミューだったが、結果は街の中で迷子になり街の子供と一緒に宿屋に帰ってきた。

『森に行きたかったけど、周りに楽しそうな物が多すぎて迷っちゃった。』

『アルゲティ・・・言い訳はいらないのよ』

『ごめんねミュー。』

『謝る必要はないのよ、だって私は契約精霊だもの、アルゲティの所に行こうとすればいつでも行けるのよ、本当に小さな頃から何も変わらないのよ、旅の途中ライラが心配して何度も手紙を・・・何でもないのよ』

『ふぇ?!母様に手紙?!』

『名前を間違えただけなのよ!手紙をくれるのは精霊王のミラなのよ、』

 ミューは定期的に手紙を送っていた。考えて欲しい家出娘を心配しない親等まずいない、空の人族のアルゲティは箱入り娘だ。両親に可愛がられていたが、幼少時は1人で外出も出来なかったらしい、理由はすぐ迷子になり検索魔法を解除されるらしい、転移魔法陣を使える様になっても過保護は相変わらずで、隙を見て外に行っていた、とアルゲティは話してくれた。
 もしずっとアルゲティが家に篭っていたらミューと会う事もなかった。長い人生何があるのかわからない、とタブエル(アルゲティの父親)が言っていた。

 色々思い出しふんわりと温かい気持ちになってきた。それまでドキドキしていた気持ちもなんとなく落ち着いてきた。
 ミューは顔に当てた両手を広げ隙間から他の人の様子を見る。
 精霊王様達はまだ自分をじっと見ているし、ミラとザウラクは目をランランとさせ、手をワキワキさせてミューをじっと見る、

 ミラの考えている事はどうせろくでもない事だと分かる、だがザウラクに捕まったらあちこち触られそうでなんだか怖い、捕まったら風魔法で何とかなりそうだが、いたずら好きなミラがザウラクの事を補助しそうで怖い、
 ミューは後ずさりしてキョロキョロと隠れる所を探した。ぬいぐるみサイズの大きさになりアウラの胸の中に飛び込んだ。アウラは飛び込んで来た私を受け止め、近づくミラとザウラクを牽制してくれたらしい、
 チラリと後ろを振り向けばミラとザウラクは悔しそうに立ち止まっている、ここならザウラクは手出しできないし、アウラが出すお菓子が目当てのミラもここなら来ない、アウラもそれが分かったのかミューの頬っぺをグリグリする、

 アウラは勢いよく飛び込んで来たミューを受け止めると、そっと不安だろうその頭を撫でる、そして視線を上げ毅然とした態度でシャムにカーナのことを聞く、ケーティは空の人族は元々私達と同じ存在?考えていた事を振り払う様に頭を振ると同意し頷いた。
 シャムは唖然としていて分からなかったらしい、もう1度ミューに魔力を出してと言う、

「戸惑う気持ち分かる、だって私も何がなんだかわからず混乱してるもの、で、あなたの契約者でもあるトゥカーナは魔法陣から突然に消えてしまった。契約精霊のあなたが糸を辿っても分からないのでしょ?どこにいるのか気になる?ミュー魔力を出して」

 緑色と白色の魔力を恐る恐る出していく、契約の糸を見つけたシャムはミューに少し触れてもいいか確認する。契約の糸は精霊王でも勝手に触ることは出来ない、力加減を間違えれば切れてしまう、その糸が切れないように細心の注意を払いながら魔力を流し込み、じっと見てため息を着いた。

「あの子は今欠片集めと、黒いモヤの原因も一緒に探してるわ、その・・・いつ帰って来るか分からない・・・あの子馬鹿なのかしら?」

「そんな!カーナは」

「方法が無いわけじゃないわ、もしトゥカーナが帰って来てもビックリしないでね。」

「こちらに帰ってくる方法があるではないですか?おそらく私ですねシャム様、」

 ケーティが1歩前に出ると、シャムの前で綺麗なカーテシーをして、覚悟を決めた眼差しをシャムに送る。その眼差しを受けたシャムもその覚悟を受け取った。

「シャム様は初めから私をお使いになるつもりだったのですね?ですからトゥカーナ様の為に私の力をお使い下さい、先程の話を聞いて分かりました。私は・・・」

「その先は言わなくても分かるから言わなくてもいいわ、んーそうね。スワロキンは心配なのでしょ?付き添ってあげて、」

「シィ何をするつもりだ?」

 この日記に書かれている事をするだけよ、とシィは可愛らしくニッコリと笑うが、スワロキンはシィが何を考えているのか、さっぱり分からなかった。

 ◆

 空の人族が住む街を抜けた森の中、女の人とぶつかりそうになったトゥカーナは、自身の手を眺め驚愕としていた。街の外にある門を潜った所でいきなりペンダントが光った事だけは覚えている、背の高い門番に会った時は、巨人かな?としか思ってなかった。

「なんで私の手小さいのー!」

「あら?可愛いお嬢ちゃん大丈夫?心配しなくても、その内に体も心も大きくなるわ、」

 私は空の人族の女の人に抱き上げられていた。視線が高くなってビックリしてしまい、まじまじと女の人を見る、オーキッド色の大きな瞳と艶やかな瞳の同じ色した長い髪、頭の上でクルクルとお団子にして後ろにまとめている、なぜ分かったのか、私の後ろから幼い女の子がやってきて、私を抱き上げてる女の人を母様と呼んで、女の人は私を落とさないように抱きしめたから、女の人からふわりと優しい花の香りが私を包み込む、ライラ母様と同じ花の香り、女の人はどことなくライラに似てる、

「母様その子だれ?」

「ライラこっちにいらっしゃい、ライラのお友達じゃないの?」

「へ?!ライラ!」

 まさか子供時代のライラ母様の登場、何歳の頃なんだろう?幼稚園に上がるかどうかの年齢にも見える、声を上げ驚き止まる私を見て瞳を柔らかく細め私を見るライラの母親、
 両手をパチンとたたき破顔する、やっぱりお友達なのね。と私を地面に下ろした。少し待っててお菓子を持ってくるわ、とライラが否定する前に足早に立ち去った。
 ぽつんと残されてしまった私とライラ、大きな瞳をパチパチと瞬かせる、ミニチュアライラ可愛い、前世で遊んだお人形さんの様にも見えてしまう、

「待って母様ライラこの子知らない、あなたはだれ?どこから来たの?」

「私は・・・」

「どうしたの?ポンポンお腹痛い?待ってて治してあげる、母様から習ったばかりだから出来るよ、いたいのいたいのとんでいけー!」

 私がお腹を押え俯いてしまったからか、ライラは私に駆け寄り心配してくれる、小さな手を私のお腹に当て魔法をかけてくれた。お腹痛い訳じは無いけどその気持ちが嬉しい、私よりも頭を下げ見上げ私を見るライラは、その小さな手で優しく私の頭を撫でる、治癒魔法が効いたのか瞳は不安に揺れる、
 私はライラの空いてる方の小さな手を取るとニッコリと無邪気に笑えば、ライラは華が咲いたように笑う、

「ありがとう。いたいの飛んで行ったよ」

「よかった!ライラちゃんと魔法つかえた!」

 魔法を使えたと顔を破顔させ喜ぶライラ、
 どうしよう困った。自分の名前を正直に言おうかだ。
 将来ライラの娘アルゲティとして生まれる、それに現世の名前トゥカーナの名もライラは頻繁に使う、

 ライラは生まれ変わった私を沢山助けてくれる、私の事をアルゲティと1度も呼ばなかったし言わなかった。自分を強く持ちなさいと諭してくれた人、第2の母と言われても納得が出来るが、ダブエル父様はアルゲティへの執着が凄すぎて、トゥカーナの事を1度も見ていない、まだ足りないのか?等と言っていた。考えれば考える程イラッとしてきてしまい考えを逸らす為に、きちんとした名前を考える。

 トゥカーナとアルゲティ、

 ミクの名前も却下、ミクの名前はできるだけ使いたくない、自分が空に帰っ死んでた事を思い出してしまい悲しくなる、
 今上げた名前達は回避した方がいいと即座に判断し、思いつく、その名前を使う事にした。ピンク色の髪と瞳を持つあの名前、なぜ空の人族の長に忌避感を感じてしまっているのか私にはわからない、もしかしたら理由があって、それを聞けるかもしれないと淡い期待もある。

「私の名前はシャム、お友達になりましょう!よろしくねライラちゃん」

「よろしくねシャムちゃん」

「なんと?!シャム様ですと?!」

 ライラは破顔しながら片手を私に差し出す。私も小さな手で握手しニッコリと笑う後ろで、おじいさんが私に駆け飛んで来た。
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