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11話 教育実習での話
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学生時代、私は教育学部に所属していた。
教育学部では教育実習が必須科目だったため、約1ヶ月間教育実習生として小学校に実習に行かなければならない。
これはその時に体験した話である。
◆
「男子は俺1人か」
教育実習生は小学校の各クラスに振り分けられる。
人数が人数なので、1クラスに振り分けられる実習生はランダムに5~6人。
私が振り分けられたクラスは幸いにも普段から仲がいいメンバーばかりだったのだが、6人中5人が女子で男子は私1人だったことが唯一不満だった。
当時の教育学部は女子の方が多かったためそのような振り分けになるのも当然だったが、ただでさえ強い立場にある女性が5人。肩身が狭い思いをすること請け合いだった。
朝は子ども達より早く学校へ行き、登校してくる児童をお迎えすることから始まる。
現職の教員が授業する様子を観察したり、教材準備をして自分達も実際に授業を行ったり、子ども達と遊んだりと、実習生と言えど中々ハードなスケジュールだった。
夕方、子ども達が全員帰ってしまってからが私達実習生の本番が始まる。
1日の反省をし、次の日の模擬授業の準備をしたり模擬授業をして互いに指摘し合ったり、連日日付が変わるか変わらないかの時間帯まで小学校に残っていた。
夜になり、外が暗くなっても授業準備に勤しむ。
わいわいがやがやと、時には衝突したりしながら協力して実習の日々を乗り越えていた。
ある日のこと、トイレに行きたくなったので私は1人席を立つ。
ちなみに同じクラスに配当になった女子はトイレの際は5人一緒に行っていた。暗い校内で1人でトイレに行くのが怖いという微笑ましい理由だ。
しかし先に述べたように、男子の実習生は私1人しかいない。
1人でトイレに行くのが怖いなんてことはなかったが、女子5人が一緒に席を立つ姿を見ているので、ただ単に寂しかった。かといって他のクラスに行って、「おう、誰かトイレに行かないか?」なんて邪魔できるはずもなく、いつも1人寂しくトイレに向かっていた。
用を足し、手を洗ってトイレを出る。
トイレの向かいには木製の下駄箱が並んでおり、低学年の子専用の玄関となっていた。
非常口誘導灯の黄緑の光がぼんやりと辺りを照らしていた。
その時、いくつか並ぶ下駄箱の影にチラリとスカートが揺れたのを見た。
時刻は深夜0時、子どもがいるはずのない時間だった。
実習中に1度だけ忘れ物を取りに来た子がいたが、それも精々19時前後の時間だったし、母親と一緒に来たと言っていた。
(絶対におかしい……)
私は足早にその場を離れ、教室へと戻った。
「怖い話しないでよ!!」
「視世くんのバカ!!」
「何で私達が5人一緒にトイレに行ってるって思ってるの!?」
数分後、私は教室内で罵詈雑言を浴びせられていた。
教室に戻ってきた私の様子がおかしいということで、優しい優しい女子達が「何かあったの?」と声をかけてくれたので、ありのまま話した結果がこれだ。解せぬ。
そんなこんなで私が非難され続けているところに、クラスの担任の教員がやってきた。
「そろそろ鍵閉めるけど……って、何かあったの?」
私が女子5人に取り囲まれてなじられているので、さすがに心配になったのだろう。
「実はですね……」
怖い話を聞かされたから怒っていたと掻い摘んで説明する女子。
私としては「そんなことないよー」とか「気のせいじゃない?」と否定されることを期待してたのだが、話を聞いた教員は真顔で私に言った。
「視世くん、ちょっと教頭先生のところに一緒に行かないかい?」
あまりの真剣さに「はい」としか答えられず、職員室へと向かった。
「たまにね、君みたいに視ちゃう人がいるんだよ」
職員室の応対用の席で、私の話を聞いた教頭先生が言った。
「実習生だったり先生方だったり、たまにそういう話が出ちゃうんだよね」
過去にも私と同じ体験をした人がいるというわけだ。
時間帯はおそらく夜、絶対に子どもがいないであろう時間。
「視世くんの中に、引っかかってることがあるんじゃない?」
教頭先生からそう尋ねられ、私の胸は激しく脈打った。
「はい」
「でしょうねぇ……」
私の返事に満足げに頷いた教頭先生は、立ち上がって壁際の書類棚へと歩いていく。
そこで1つのファイルを引っ張り出し、また戻ってきた。
「これでしょう?」
パラパラとページをめくり、あるページの写真を指さす。
「はい」
その写真には元気な子ども達が写っていた。
見せてもらった古びたセピア色の写真は、決してここ最近の写真ではなかった。
「今まで視てしまった人からも話を聞かせてもらいましたが、全員口を揃えて言ったんですよ」
「今の制服じゃない……」
「そうなんです。この学校の制服も過去何度か変わっているのですが、ここ十数年は制服は変わってないんですよね」
「つまりこの写真にある、以前の制服を着た子がいるはずがない」
「そういうことです。年配の方で物持ちがいい方は大切に保管している可能性があるかもしれませんが、それはただの思い出で、その制服を子や孫に着せたりはしないでしょうし」
「じゃあ僕が視たのは………」
「……さあ、もう学校を閉める時間だ。帰りましょう」
教育実習はそれからもう少し続いたが、私は夜にそのトイレを使わなくなった。
教育学部では教育実習が必須科目だったため、約1ヶ月間教育実習生として小学校に実習に行かなければならない。
これはその時に体験した話である。
◆
「男子は俺1人か」
教育実習生は小学校の各クラスに振り分けられる。
人数が人数なので、1クラスに振り分けられる実習生はランダムに5~6人。
私が振り分けられたクラスは幸いにも普段から仲がいいメンバーばかりだったのだが、6人中5人が女子で男子は私1人だったことが唯一不満だった。
当時の教育学部は女子の方が多かったためそのような振り分けになるのも当然だったが、ただでさえ強い立場にある女性が5人。肩身が狭い思いをすること請け合いだった。
朝は子ども達より早く学校へ行き、登校してくる児童をお迎えすることから始まる。
現職の教員が授業する様子を観察したり、教材準備をして自分達も実際に授業を行ったり、子ども達と遊んだりと、実習生と言えど中々ハードなスケジュールだった。
夕方、子ども達が全員帰ってしまってからが私達実習生の本番が始まる。
1日の反省をし、次の日の模擬授業の準備をしたり模擬授業をして互いに指摘し合ったり、連日日付が変わるか変わらないかの時間帯まで小学校に残っていた。
夜になり、外が暗くなっても授業準備に勤しむ。
わいわいがやがやと、時には衝突したりしながら協力して実習の日々を乗り越えていた。
ある日のこと、トイレに行きたくなったので私は1人席を立つ。
ちなみに同じクラスに配当になった女子はトイレの際は5人一緒に行っていた。暗い校内で1人でトイレに行くのが怖いという微笑ましい理由だ。
しかし先に述べたように、男子の実習生は私1人しかいない。
1人でトイレに行くのが怖いなんてことはなかったが、女子5人が一緒に席を立つ姿を見ているので、ただ単に寂しかった。かといって他のクラスに行って、「おう、誰かトイレに行かないか?」なんて邪魔できるはずもなく、いつも1人寂しくトイレに向かっていた。
用を足し、手を洗ってトイレを出る。
トイレの向かいには木製の下駄箱が並んでおり、低学年の子専用の玄関となっていた。
非常口誘導灯の黄緑の光がぼんやりと辺りを照らしていた。
その時、いくつか並ぶ下駄箱の影にチラリとスカートが揺れたのを見た。
時刻は深夜0時、子どもがいるはずのない時間だった。
実習中に1度だけ忘れ物を取りに来た子がいたが、それも精々19時前後の時間だったし、母親と一緒に来たと言っていた。
(絶対におかしい……)
私は足早にその場を離れ、教室へと戻った。
「怖い話しないでよ!!」
「視世くんのバカ!!」
「何で私達が5人一緒にトイレに行ってるって思ってるの!?」
数分後、私は教室内で罵詈雑言を浴びせられていた。
教室に戻ってきた私の様子がおかしいということで、優しい優しい女子達が「何かあったの?」と声をかけてくれたので、ありのまま話した結果がこれだ。解せぬ。
そんなこんなで私が非難され続けているところに、クラスの担任の教員がやってきた。
「そろそろ鍵閉めるけど……って、何かあったの?」
私が女子5人に取り囲まれてなじられているので、さすがに心配になったのだろう。
「実はですね……」
怖い話を聞かされたから怒っていたと掻い摘んで説明する女子。
私としては「そんなことないよー」とか「気のせいじゃない?」と否定されることを期待してたのだが、話を聞いた教員は真顔で私に言った。
「視世くん、ちょっと教頭先生のところに一緒に行かないかい?」
あまりの真剣さに「はい」としか答えられず、職員室へと向かった。
「たまにね、君みたいに視ちゃう人がいるんだよ」
職員室の応対用の席で、私の話を聞いた教頭先生が言った。
「実習生だったり先生方だったり、たまにそういう話が出ちゃうんだよね」
過去にも私と同じ体験をした人がいるというわけだ。
時間帯はおそらく夜、絶対に子どもがいないであろう時間。
「視世くんの中に、引っかかってることがあるんじゃない?」
教頭先生からそう尋ねられ、私の胸は激しく脈打った。
「はい」
「でしょうねぇ……」
私の返事に満足げに頷いた教頭先生は、立ち上がって壁際の書類棚へと歩いていく。
そこで1つのファイルを引っ張り出し、また戻ってきた。
「これでしょう?」
パラパラとページをめくり、あるページの写真を指さす。
「はい」
その写真には元気な子ども達が写っていた。
見せてもらった古びたセピア色の写真は、決してここ最近の写真ではなかった。
「今まで視てしまった人からも話を聞かせてもらいましたが、全員口を揃えて言ったんですよ」
「今の制服じゃない……」
「そうなんです。この学校の制服も過去何度か変わっているのですが、ここ十数年は制服は変わってないんですよね」
「つまりこの写真にある、以前の制服を着た子がいるはずがない」
「そういうことです。年配の方で物持ちがいい方は大切に保管している可能性があるかもしれませんが、それはただの思い出で、その制服を子や孫に着せたりはしないでしょうし」
「じゃあ僕が視たのは………」
「……さあ、もう学校を閉める時間だ。帰りましょう」
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