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2話 行き先不明のタクシー
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『怖い話あるけど聞きたい?』
社会人となった今でも、そんな子どもっぽい電話が不定期にかかってくる。
もちろんと言っては何だが電話の主は坂本で、霊感が強すぎるが故に頻繁に体験してしまう彼は、オカルト好きな私に自身の体験談を生々しく聞かせてくれる。
『仕事が終わった後に飲みに出た時の話なんだけど――』
そんなありふれた日常のワンシーンから非日常が始まるのであった。
◆
「明日休みだし、街の方に飲みに行かね?」
金曜日の終業後、仲良くしている先輩からの飲みの誘いだった。
外での飲みはご無沙汰だったので二つ返事で了承し、2人で街へと繰り出ししばらく楽しく飲んで店の前で解散した。
街の方まで出ていたのでタクシーで帰ることにしたが、道を流しているタクシーが見当たらない。
しょうがなく少し歩いたところにあるタクシー乗り場へと向かった。
しばらく歩くと少し遠くの方にタクシー乗り場が見えてきた。
5台ぐらいのタクシーが待機しており、乗車希望客の列もない。待たされずに済むとホッとしながら、速足で乗り場へと向かった。
一刻も早く帰宅したかった坂本だが、先頭に待機しているタクシーがはっきり見えるほど近づいた時、足を止めた。いや、足を止めざるを得なかった。
基本的に待機中のタクシーは並んでいる順に乗らないといけないので、とりあえず時間を潰す。
(しょうがない……)
たっぷり10分ぐらい待ってみたが、人通りが少なくタクシーを利用する人が現れない。
これ以上は時間だけがムダに流れていくだけだと、先頭のタクシーを避けることを諦めた。
「……どちらまで?」
「××町までお願いします」
運転手は振り返ることもせず陰気な声で尋ねた。
深く考えることはせず車で20分程の自宅の住所を告げると、返事もせずに車が発進された。
走り出した車の中に会話などなく、すぐに異変が起こった。
「あの、××町なんですけど?」
再度目的地を伝える坂本。
それもそのはず、タクシーは自宅とは真逆の方向に走り進んでいたのだ。
しかし運転手は何の反応もみせず、車を走らせ続ける。
「止まってください! 絶対道違いますよね!?」
声を大にして何度も言うが、それでも運転手は無反応だったという。
何の反応も示さない運転手から少し視線をずらすと、運賃メーターすら動かしていない。
そんな明らかに様子がおかしい運転手に、坂本は後悔していた。
(やっぱり乗るんじゃなかった……)
幸か不幸か運賃メーターは動いていないし、明らかに運転手の不手際なのでどうとでも逃げ切れるのは間違いなかったため彼は諦めた。
車内は無言のまま車は走り続け、しばらくして街から離れた田舎道で停車した。
(ここって……)
車窓の向こうの景色を眺めていると、これまで無反応だった運転手がいきなり後部座席を振り返ってきた。
「ここ、、、どこですか!!?」
意味不明な叫びだった。
「は?」
「えっ? 誰ですか!? どこですか!? 何ですか!?」
急にパニックになる運転手。
急変した運転手を宥めすかしながらこれまでのことを一通り説明すると、運転手の顔は真っ青になっていた。
「まったく記憶がない……」
まぁそうだろうな、と坂本は予想していた。
「長時間タクシー乗り場で待機してた記憶は少しあるけど、あなたを乗せた記憶もないし、ここまでの記憶が一切……」
運転手は怯えていたが、その人間味のある顔を見て坂本は逆に安心していた。
タクシー乗り場で待機してた時に視えた、運転手に絡みついてた黒い影が消えていたからだ。
あの時すでに「運転手に何か憑いているな」と確信していた。
そう思ったからこそ先頭にいたこのタクシーをやり過ごしたかったのだ。
そして怯えている運転手に追い打ちをかける。
「運転手さん。最近この辺でネコかイヌ、イタチとかかもしれないけど、動物を轢き殺したりしませんでした?」
その一言に運転手は青い顔をさらに青くする。
「どうしてそのことを……?」
(やっぱりな)
車が止まった時にすぐに気づいた。
車が停車した場所は動物にまつわる事故が多い場所だった。
山から下りてきた動物が車に轢かれて死んでいることが多く、年に数回はイノシシやシカなどの大型動物との接触事故も発生する。
『コックリさんみたいな簡易的な降霊術が実はそうなんだけど、動物の霊は憑きやすいんだよ』
あくまで俺の経験上だけどな、と坂本は笑いながら語った。
運転手に憑いていた動物の霊が山に帰りたがっていたかどうかは定かではないが
「悪い霊じゃなくてよかったよ。もしそうだったら運転手ごと心中させられてたかもしれないし」
と、こんな笑えないジョークまで飛び出す始末。
『お詫びとしてタダで家まで送ってもらったよ』
先程のジョークに続き、とても笑えやしない締めくくりだった。
何にせよ私からしたら本当にあった怖い話であるし、もしも自分が同じ体験をしたらそんなに明るく話せる自信はない。
鳥肌をさすりながら電話を終えようとすると、運転手に引き続き私にも恐怖の追い打ちをかけてきた。
『タクシーってさ、助手席の前に運転手の顔写真と名前の紹介とかのプレートがあるじゃん?』
「あぁ、あるな」
『待機中に憑かれてた運転手の顔と顔写真の顔、ほとんど別人だったんだよ』
社会人となった今でも、そんな子どもっぽい電話が不定期にかかってくる。
もちろんと言っては何だが電話の主は坂本で、霊感が強すぎるが故に頻繁に体験してしまう彼は、オカルト好きな私に自身の体験談を生々しく聞かせてくれる。
『仕事が終わった後に飲みに出た時の話なんだけど――』
そんなありふれた日常のワンシーンから非日常が始まるのであった。
◆
「明日休みだし、街の方に飲みに行かね?」
金曜日の終業後、仲良くしている先輩からの飲みの誘いだった。
外での飲みはご無沙汰だったので二つ返事で了承し、2人で街へと繰り出ししばらく楽しく飲んで店の前で解散した。
街の方まで出ていたのでタクシーで帰ることにしたが、道を流しているタクシーが見当たらない。
しょうがなく少し歩いたところにあるタクシー乗り場へと向かった。
しばらく歩くと少し遠くの方にタクシー乗り場が見えてきた。
5台ぐらいのタクシーが待機しており、乗車希望客の列もない。待たされずに済むとホッとしながら、速足で乗り場へと向かった。
一刻も早く帰宅したかった坂本だが、先頭に待機しているタクシーがはっきり見えるほど近づいた時、足を止めた。いや、足を止めざるを得なかった。
基本的に待機中のタクシーは並んでいる順に乗らないといけないので、とりあえず時間を潰す。
(しょうがない……)
たっぷり10分ぐらい待ってみたが、人通りが少なくタクシーを利用する人が現れない。
これ以上は時間だけがムダに流れていくだけだと、先頭のタクシーを避けることを諦めた。
「……どちらまで?」
「××町までお願いします」
運転手は振り返ることもせず陰気な声で尋ねた。
深く考えることはせず車で20分程の自宅の住所を告げると、返事もせずに車が発進された。
走り出した車の中に会話などなく、すぐに異変が起こった。
「あの、××町なんですけど?」
再度目的地を伝える坂本。
それもそのはず、タクシーは自宅とは真逆の方向に走り進んでいたのだ。
しかし運転手は何の反応もみせず、車を走らせ続ける。
「止まってください! 絶対道違いますよね!?」
声を大にして何度も言うが、それでも運転手は無反応だったという。
何の反応も示さない運転手から少し視線をずらすと、運賃メーターすら動かしていない。
そんな明らかに様子がおかしい運転手に、坂本は後悔していた。
(やっぱり乗るんじゃなかった……)
幸か不幸か運賃メーターは動いていないし、明らかに運転手の不手際なのでどうとでも逃げ切れるのは間違いなかったため彼は諦めた。
車内は無言のまま車は走り続け、しばらくして街から離れた田舎道で停車した。
(ここって……)
車窓の向こうの景色を眺めていると、これまで無反応だった運転手がいきなり後部座席を振り返ってきた。
「ここ、、、どこですか!!?」
意味不明な叫びだった。
「は?」
「えっ? 誰ですか!? どこですか!? 何ですか!?」
急にパニックになる運転手。
急変した運転手を宥めすかしながらこれまでのことを一通り説明すると、運転手の顔は真っ青になっていた。
「まったく記憶がない……」
まぁそうだろうな、と坂本は予想していた。
「長時間タクシー乗り場で待機してた記憶は少しあるけど、あなたを乗せた記憶もないし、ここまでの記憶が一切……」
運転手は怯えていたが、その人間味のある顔を見て坂本は逆に安心していた。
タクシー乗り場で待機してた時に視えた、運転手に絡みついてた黒い影が消えていたからだ。
あの時すでに「運転手に何か憑いているな」と確信していた。
そう思ったからこそ先頭にいたこのタクシーをやり過ごしたかったのだ。
そして怯えている運転手に追い打ちをかける。
「運転手さん。最近この辺でネコかイヌ、イタチとかかもしれないけど、動物を轢き殺したりしませんでした?」
その一言に運転手は青い顔をさらに青くする。
「どうしてそのことを……?」
(やっぱりな)
車が止まった時にすぐに気づいた。
車が停車した場所は動物にまつわる事故が多い場所だった。
山から下りてきた動物が車に轢かれて死んでいることが多く、年に数回はイノシシやシカなどの大型動物との接触事故も発生する。
『コックリさんみたいな簡易的な降霊術が実はそうなんだけど、動物の霊は憑きやすいんだよ』
あくまで俺の経験上だけどな、と坂本は笑いながら語った。
運転手に憑いていた動物の霊が山に帰りたがっていたかどうかは定かではないが
「悪い霊じゃなくてよかったよ。もしそうだったら運転手ごと心中させられてたかもしれないし」
と、こんな笑えないジョークまで飛び出す始末。
『お詫びとしてタダで家まで送ってもらったよ』
先程のジョークに続き、とても笑えやしない締めくくりだった。
何にせよ私からしたら本当にあった怖い話であるし、もしも自分が同じ体験をしたらそんなに明るく話せる自信はない。
鳥肌をさすりながら電話を終えようとすると、運転手に引き続き私にも恐怖の追い打ちをかけてきた。
『タクシーってさ、助手席の前に運転手の顔写真と名前の紹介とかのプレートがあるじゃん?』
「あぁ、あるな」
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