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第4章 いろいろ巻き込まれていく流れ
84話 教会からの依頼 ー 小心者の後悔 ー
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優に20名以上は座れるであろう、白く清潔な布が被せられた大きなテーブル。
その巨大テーブルの半分は埋まっており、お誕生日席と呼ばれる場所にはシジル様が満面の笑みを浮かべながら座している。
(安請け合いなんてするもんじゃないな……)
思わず溜め息をついてしまいそうになったけど、何とか我慢する。
ふと隣のガードスさんと警備隊隊員(シュビルツさんというらしい)を見ると、彼らは頬をピクピク引き攣らせながら笑いを堪えているようだった。
いま俺達がいるのは、なんと教会の食堂だ!
「ジョージ様に警備隊のお二方、本日はわたくし達のワガママのせいでご迷惑とお手数をおかけして大変申し訳ございません」
ホントですよ!と叫びたい気持ちをグッと堪え、代表して「いえいえ、滅相もございません」と笑顔で応じると、シジル様の後ろに控えているイルーノ様が、本当に申し訳なさそうにこちらに会釈してきた。
時刻は21時。フェーレースの営業終了後、カヌウ丼の具が入った鍋とご飯が入った鍋を警備隊から借りた台車に積み込み、ガードスさんに護衛してもらいながら教会までやってきた。シュビルツさんも護衛なんだけど、どっちかというと荷物運びに力を貸してもらっている。
夜道の1人歩きが怖かったから俺が勝手に護衛をお願いしたんだけど、イルーノ様が「必要経費として請求して構わない」と言ってくれたので、素直にお言葉に甘えることにしよう。
しかしこうも大事になってしまったのは、偏に俺の同情心のせいだ。
お昼に「カヌウ丼の販売、6月末で終わっちゃったんです」と告げた際のイルーノ様の絶望した顔が見てられなくて、深く考えずに「あの……料金をお支払いいただけるのなら、今回だけ特別に作りましょうか?」と言ってしまったんだ。
中には「それぐらい気持ちよく作ってやればいいじゃん!」と思う人もいるだろうけど、1回特例を出してしまうと後々めんどくさいことになるんだよ、これが。これまでの経験で嫌というほど思い知らされてきたからね!
最初こそ感謝されるけど、それ以後も「前はやってくれたじゃん!」「何で今回はできないの?」「あの人はやってもらってたのに……」って言い出す人が多いんだよ。いくらこっちが「あの時だけ特別にって約束だったでしょ?」と言っても、「前できたなら次もできるはず!」って屁理屈こねられるしさ。
イルーノ様に「シジル様にも今回だけの特別対応だとお伝えくださいね?」と念押ししたから大丈夫だとは思うけど。
ここまではいい。
問題は俺が「イルーノ様もご一緒にいかがですか?」と軽率に尋ねてしまったことだ。
牛丼ならぬカヌウ丼みたいな煮込みものは、1食分作ったところで美味しくは仕上がらない。
カレーなんかもそうだけど、一度に大量に仕込めば仕込むほど食材から旨味が出るし、火の通りも均一になるから美味しくなるんだとか。うろ覚えの知識だけどね。
そんなことを考えていたから、何の気なしに尋ねてしまったんだ。
するとイルーノ様は「私の分はいいので、夜勤の者の分を作っていただくことは可能か?」という上司の鏡みたいなお言葉を返してきた。断る術を知らない小心者の俺は、「夜勤の人って何人ぐらいですか?」と、夜勤の人の分も作る流れにしかならない話の進め方をしてしまった。
料金はしっかり払ってもらえるし、手間がかかりすぎるってほどの料理じゃないから了承したんだけど、結局全部で20名分ぐらいを準備することになり今に至る。
「皆様お忙しいと思いますので、早速始めさせていただきたいと思います」
「よろしくお願いします」
シジル様を始めとした教会関係者に注目されながら、カヌウ丼を完成させる。
といっても丼にご飯をよそい具をかけるだけなんだけど、尋常じゃないぐらいに手が震える小心者の俺であった。
その巨大テーブルの半分は埋まっており、お誕生日席と呼ばれる場所にはシジル様が満面の笑みを浮かべながら座している。
(安請け合いなんてするもんじゃないな……)
思わず溜め息をついてしまいそうになったけど、何とか我慢する。
ふと隣のガードスさんと警備隊隊員(シュビルツさんというらしい)を見ると、彼らは頬をピクピク引き攣らせながら笑いを堪えているようだった。
いま俺達がいるのは、なんと教会の食堂だ!
「ジョージ様に警備隊のお二方、本日はわたくし達のワガママのせいでご迷惑とお手数をおかけして大変申し訳ございません」
ホントですよ!と叫びたい気持ちをグッと堪え、代表して「いえいえ、滅相もございません」と笑顔で応じると、シジル様の後ろに控えているイルーノ様が、本当に申し訳なさそうにこちらに会釈してきた。
時刻は21時。フェーレースの営業終了後、カヌウ丼の具が入った鍋とご飯が入った鍋を警備隊から借りた台車に積み込み、ガードスさんに護衛してもらいながら教会までやってきた。シュビルツさんも護衛なんだけど、どっちかというと荷物運びに力を貸してもらっている。
夜道の1人歩きが怖かったから俺が勝手に護衛をお願いしたんだけど、イルーノ様が「必要経費として請求して構わない」と言ってくれたので、素直にお言葉に甘えることにしよう。
しかしこうも大事になってしまったのは、偏に俺の同情心のせいだ。
お昼に「カヌウ丼の販売、6月末で終わっちゃったんです」と告げた際のイルーノ様の絶望した顔が見てられなくて、深く考えずに「あの……料金をお支払いいただけるのなら、今回だけ特別に作りましょうか?」と言ってしまったんだ。
中には「それぐらい気持ちよく作ってやればいいじゃん!」と思う人もいるだろうけど、1回特例を出してしまうと後々めんどくさいことになるんだよ、これが。これまでの経験で嫌というほど思い知らされてきたからね!
最初こそ感謝されるけど、それ以後も「前はやってくれたじゃん!」「何で今回はできないの?」「あの人はやってもらってたのに……」って言い出す人が多いんだよ。いくらこっちが「あの時だけ特別にって約束だったでしょ?」と言っても、「前できたなら次もできるはず!」って屁理屈こねられるしさ。
イルーノ様に「シジル様にも今回だけの特別対応だとお伝えくださいね?」と念押ししたから大丈夫だとは思うけど。
ここまではいい。
問題は俺が「イルーノ様もご一緒にいかがですか?」と軽率に尋ねてしまったことだ。
牛丼ならぬカヌウ丼みたいな煮込みものは、1食分作ったところで美味しくは仕上がらない。
カレーなんかもそうだけど、一度に大量に仕込めば仕込むほど食材から旨味が出るし、火の通りも均一になるから美味しくなるんだとか。うろ覚えの知識だけどね。
そんなことを考えていたから、何の気なしに尋ねてしまったんだ。
するとイルーノ様は「私の分はいいので、夜勤の者の分を作っていただくことは可能か?」という上司の鏡みたいなお言葉を返してきた。断る術を知らない小心者の俺は、「夜勤の人って何人ぐらいですか?」と、夜勤の人の分も作る流れにしかならない話の進め方をしてしまった。
料金はしっかり払ってもらえるし、手間がかかりすぎるってほどの料理じゃないから了承したんだけど、結局全部で20名分ぐらいを準備することになり今に至る。
「皆様お忙しいと思いますので、早速始めさせていただきたいと思います」
「よろしくお願いします」
シジル様を始めとした教会関係者に注目されながら、カヌウ丼を完成させる。
といっても丼にご飯をよそい具をかけるだけなんだけど、尋常じゃないぐらいに手が震える小心者の俺であった。
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