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第4章 いろいろ巻き込まれていく流れ
83話 教会からの依頼 ー イルーノ様の苦悩 ー
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「久しぶりですな。急な申し出にも関わらず快諾していただき、誠に感謝している」
快諾なんてしてないけどね!
イルーノ様と話すことになるだなんて思ってなかったんだからね!
「そ、それで、わわ私なんかにどのようなご用件でひょうか?」
噛んだ。
「実はですな、ジョージ様に折り入ってご相談がありまして」
よかった、噛んだことはスルーしてくれた。
「相談?」
はい、と頷いたイルーノ様が今まで以上に真剣な顔になる。
「今から話すことは内密にしていただきたい」
イルーノ様がこんなに真剣に話そうとすることだ。絶対ヤバい内容に違いない。
言えと言われても言えるもんか。っていうかそもそも聞きたくないんだけど、そういうわけにもいかないだろうな。
「わかりました。絶対に他言しません」
「ありがたい。相談というのは、シジル様のことなのだ」
「シジル様に何かあったのですか?」
「礼拝の時間や高位の治療魔法が必要な時以外、自室にこもっておられるのだ」
自室にこもっている?
もしや、高位の治療魔法でも治せないような病気とかケガとか……?
「だ、大丈夫なのですか?」
「シジル様は私達にこう仰った」
ゴクリ……
「カヌウ丼が食べたい、と」
応接室に何とも言えない空気が流れた。
えっと、いや、まさか、そんな、ねぇ?
これこそ聞き間違いだよね?
「すみません、耳の調子が悪いようで……。カヌウ丼が食べたいとか聞こえちゃったんですよ」
「ふむ、耳の調子が悪いのか。ならば……ヒール!」
イルーノ様の指が一瞬だけ白く光って、何とも言えない温かい感覚が俺の耳を包んだ。
「これで耳に問題はないはずだ。もう一度言おう、シジル様が『カヌウ丼を食べたい!』と言い出したのだ」
「聞き間違いじゃねーのかよ! ……あっ、申し訳ございません! 失礼なことを!」
思わずツッコんでしまったけど、目の前にいるのが助祭様だということを思い出しすぐに謝罪する。
でも、おそらく回復魔法であろうヒールの無駄遣いするなよな!
「いや、よいのだ。誰もが耳を疑う発言であろうからな」
はい、疑いました。
「ど、どうしてシジル様がカヌウ丼のことを?」
当然だが、特別営業の日にシジル様やイルーノ様はお店に来ていない。
「ボランティアで教会の掃除に来てくれている信者がジョージ様の店に行ったらしくてな。彼らが話していたのを小耳にはさんで、食べたくなったのだと」
そこまで言ってイルーノ様は大きなため息をついた。
「普段は荘厳なシジル様なのだが、意外に好奇心旺盛な方でな。美味なる食事を好んでいることもあり、ジョージ様の店で出しているカヌウ丼の話を聞いて居ても立っても居られなくなったそうだ」
「へっ?」
「先に言ったが他言無用で頼むぞ? シジル様と教会のイメージが下がってしまうからな」
「もっ、もちろんです」
ぎろりと睨まれて委縮してしまうが、シジル様にそんな面があったとは驚きだ。
1回しか会ったことないけど、神々しいながらも人当たりの良い人だとしか思ってなかったからなぁ。
「シジル様は気軽に外出ができない身でありながら、話を聞くや否や教会を飛び出そうとしたのだ」
「え~……」
御年60だと聞いているが、年齢を感じさせないほどに美しい人だからそのギャップに少し引いてしまう。
「なんとかシスター達が阻止し私が諫めたのだが、すると次は不貞腐れてしまい、重要な職務の時以外は自室に引きこもってしまわれた」
「子どもかよ! あっ、すみません」
「いや、構わん。教会中の誰もが同じことを叫んだ」
でしょうね。
イルーノ様、なんていうか、その、お疲れ様です。
「そこでジョージ様に相談なのだが、迷惑であろうが人目がない時間にシジル様を店に招いてはくれないだろうか? もちろんお忍びで、少数精鋭の護衛をこちらから出すので」
スッと頭を下げるイルーノ様。
よほどシジル様のお世話に手を焼いているのだろう。
「イルーノ様、頭をお上げください」
「どうかシジル様を招いてほしいのだ」
「あの、大変申し上げにくいのですが……」
「……やはりダメなのか?」
「いえ、お忍びで来ていただけるなら構わないんですけど……」
「何だ? 何か問題があるのか?」
次の俺の言葉に、イルーノ様の顔が絶望に染まった。
「カヌウ丼の販売、6月末で終わっちゃったんです」
快諾なんてしてないけどね!
イルーノ様と話すことになるだなんて思ってなかったんだからね!
「そ、それで、わわ私なんかにどのようなご用件でひょうか?」
噛んだ。
「実はですな、ジョージ様に折り入ってご相談がありまして」
よかった、噛んだことはスルーしてくれた。
「相談?」
はい、と頷いたイルーノ様が今まで以上に真剣な顔になる。
「今から話すことは内密にしていただきたい」
イルーノ様がこんなに真剣に話そうとすることだ。絶対ヤバい内容に違いない。
言えと言われても言えるもんか。っていうかそもそも聞きたくないんだけど、そういうわけにもいかないだろうな。
「わかりました。絶対に他言しません」
「ありがたい。相談というのは、シジル様のことなのだ」
「シジル様に何かあったのですか?」
「礼拝の時間や高位の治療魔法が必要な時以外、自室にこもっておられるのだ」
自室にこもっている?
もしや、高位の治療魔法でも治せないような病気とかケガとか……?
「だ、大丈夫なのですか?」
「シジル様は私達にこう仰った」
ゴクリ……
「カヌウ丼が食べたい、と」
応接室に何とも言えない空気が流れた。
えっと、いや、まさか、そんな、ねぇ?
これこそ聞き間違いだよね?
「すみません、耳の調子が悪いようで……。カヌウ丼が食べたいとか聞こえちゃったんですよ」
「ふむ、耳の調子が悪いのか。ならば……ヒール!」
イルーノ様の指が一瞬だけ白く光って、何とも言えない温かい感覚が俺の耳を包んだ。
「これで耳に問題はないはずだ。もう一度言おう、シジル様が『カヌウ丼を食べたい!』と言い出したのだ」
「聞き間違いじゃねーのかよ! ……あっ、申し訳ございません! 失礼なことを!」
思わずツッコんでしまったけど、目の前にいるのが助祭様だということを思い出しすぐに謝罪する。
でも、おそらく回復魔法であろうヒールの無駄遣いするなよな!
「いや、よいのだ。誰もが耳を疑う発言であろうからな」
はい、疑いました。
「ど、どうしてシジル様がカヌウ丼のことを?」
当然だが、特別営業の日にシジル様やイルーノ様はお店に来ていない。
「ボランティアで教会の掃除に来てくれている信者がジョージ様の店に行ったらしくてな。彼らが話していたのを小耳にはさんで、食べたくなったのだと」
そこまで言ってイルーノ様は大きなため息をついた。
「普段は荘厳なシジル様なのだが、意外に好奇心旺盛な方でな。美味なる食事を好んでいることもあり、ジョージ様の店で出しているカヌウ丼の話を聞いて居ても立っても居られなくなったそうだ」
「へっ?」
「先に言ったが他言無用で頼むぞ? シジル様と教会のイメージが下がってしまうからな」
「もっ、もちろんです」
ぎろりと睨まれて委縮してしまうが、シジル様にそんな面があったとは驚きだ。
1回しか会ったことないけど、神々しいながらも人当たりの良い人だとしか思ってなかったからなぁ。
「シジル様は気軽に外出ができない身でありながら、話を聞くや否や教会を飛び出そうとしたのだ」
「え~……」
御年60だと聞いているが、年齢を感じさせないほどに美しい人だからそのギャップに少し引いてしまう。
「なんとかシスター達が阻止し私が諫めたのだが、すると次は不貞腐れてしまい、重要な職務の時以外は自室に引きこもってしまわれた」
「子どもかよ! あっ、すみません」
「いや、構わん。教会中の誰もが同じことを叫んだ」
でしょうね。
イルーノ様、なんていうか、その、お疲れ様です。
「そこでジョージ様に相談なのだが、迷惑であろうが人目がない時間にシジル様を店に招いてはくれないだろうか? もちろんお忍びで、少数精鋭の護衛をこちらから出すので」
スッと頭を下げるイルーノ様。
よほどシジル様のお世話に手を焼いているのだろう。
「イルーノ様、頭をお上げください」
「どうかシジル様を招いてほしいのだ」
「あの、大変申し上げにくいのですが……」
「……やはりダメなのか?」
「いえ、お忍びで来ていただけるなら構わないんですけど……」
「何だ? 何か問題があるのか?」
次の俺の言葉に、イルーノ様の顔が絶望に染まった。
「カヌウ丼の販売、6月末で終わっちゃったんです」
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