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無二-only-1
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「信じられなかった。信じたくなかった。警察の言葉が嘘だと思った。朝も元気だったし、いってらっしゃいって大学へ向かう巡を玄関で見送った。それが、最期なんて……嘘だろ」
車がある高層マンションの地下に入る。所々照らすライトが暗い駐車場へと導いていた。
「さ。着いたよ」
朱斗が見慣れないのは当然なのだが、辺りをキョロキョロと見渡してしまう。歩く結埜についていくしか今は出来ない。
結埜の恋人が突然亡くなったと告げられたのを知り、もし……もし樹矢が事故でいなくなったら、と嫌な想像が少し過ぎった。
「ここだよ」
エレベーターで上にあがり、着いた先の扉の鍵を結埜は開ける。どうぞと朱斗を先に部屋へと入れてくれた。
中に入りどこに腰を掛けたらいいか分からず、リビングでそわそわする。
「呑む?ビールでいい?」
「いや、帰るからお酒は……」
「そっか」と、少し笑って冷蔵庫から冷えた缶ビールを一つとペットボトルに入ったミネラルウォーターを一本取り出して、小さなローテーブルに置き、結埜は座る。
(流石に男の家で二人きりで呑むのはまずいよな……)
そんなことを考えながら、朱斗も結埜とテーブルを囲むように座った。
「じゃ、改めて乾杯」
「乾杯」
互いに違う素材がぶつかり、聞き慣れない音が鳴った。
「今も夢みたいなんだ。こうして、君と会っていると巡が生きてるんじゃって思う」
朱斗の顔を優しく見つめる。
今日、幾度も見ているその優しい視線は朱斗自身に向けられていないとこの時分かった。
「巡にそっくりなんだ。朱斗くん」
(やっぱり……)
うっすらと感じていた予感が確信へと変化した。
彼が求めているのは朱斗でなく、恋人である巡。
あまりに二人を重ねている結埜の言動に始めは戸惑っていたが、今ではとても納得がいく。
「巡……やっと、会えたね……」
言葉を詰まらせながらも、朱斗である巡に優しく切なく声を掛ける。
「もう、10年経つんだよ……。まだ昨日のことみたいに、俺は信じられてないんだ……巡。巡が居ないって、まだっ……まだ……」
触れられる。
朱斗はその手を避けようとしなかった。頭に触れた優しくて温かい手は震えていて、伝わる愛情が樹矢と重なっていた。
(この愛情を巡さんは注がれていたんだ。幸せだったんだろうな……)
もう応えてくれない巡を思って、朱斗は結埜を受け入れる。
「後を追おうとも思った。どこを探しても巡が居ないなら、生きてる意味が見出だせなかった。けど、最期に俺は巡から希望をもらえたんだ」
頭から頬へと手が移動する。朱斗の顔は結埜に両手で包まれた。
「あの日の最終オーディション。合格したんだよ。巡」
そのオーディションとは結埜にとって初主演作で、今でも彼の代名詞になっているほどとても有名な映画だった。亡くなった恋人を追って旅へと出た、一人の男の人生を描いた作品だ。
「あの合格は巡がくれたものだと思ってる。あの映画から俺の俳優人生は始まった。……きっと、この世に独り残した俺の未来を心配してプレゼントをしてくれたのかな」
涙が止まらない結埜に触れようとしたが止めた。
「巡。巡はどうだった?俺といて、幸せだった?」
(何も応えられない。巡さんにはどうしたってなれないんだから)
車がある高層マンションの地下に入る。所々照らすライトが暗い駐車場へと導いていた。
「さ。着いたよ」
朱斗が見慣れないのは当然なのだが、辺りをキョロキョロと見渡してしまう。歩く結埜についていくしか今は出来ない。
結埜の恋人が突然亡くなったと告げられたのを知り、もし……もし樹矢が事故でいなくなったら、と嫌な想像が少し過ぎった。
「ここだよ」
エレベーターで上にあがり、着いた先の扉の鍵を結埜は開ける。どうぞと朱斗を先に部屋へと入れてくれた。
中に入りどこに腰を掛けたらいいか分からず、リビングでそわそわする。
「呑む?ビールでいい?」
「いや、帰るからお酒は……」
「そっか」と、少し笑って冷蔵庫から冷えた缶ビールを一つとペットボトルに入ったミネラルウォーターを一本取り出して、小さなローテーブルに置き、結埜は座る。
(流石に男の家で二人きりで呑むのはまずいよな……)
そんなことを考えながら、朱斗も結埜とテーブルを囲むように座った。
「じゃ、改めて乾杯」
「乾杯」
互いに違う素材がぶつかり、聞き慣れない音が鳴った。
「今も夢みたいなんだ。こうして、君と会っていると巡が生きてるんじゃって思う」
朱斗の顔を優しく見つめる。
今日、幾度も見ているその優しい視線は朱斗自身に向けられていないとこの時分かった。
「巡にそっくりなんだ。朱斗くん」
(やっぱり……)
うっすらと感じていた予感が確信へと変化した。
彼が求めているのは朱斗でなく、恋人である巡。
あまりに二人を重ねている結埜の言動に始めは戸惑っていたが、今ではとても納得がいく。
「巡……やっと、会えたね……」
言葉を詰まらせながらも、朱斗である巡に優しく切なく声を掛ける。
「もう、10年経つんだよ……。まだ昨日のことみたいに、俺は信じられてないんだ……巡。巡が居ないって、まだっ……まだ……」
触れられる。
朱斗はその手を避けようとしなかった。頭に触れた優しくて温かい手は震えていて、伝わる愛情が樹矢と重なっていた。
(この愛情を巡さんは注がれていたんだ。幸せだったんだろうな……)
もう応えてくれない巡を思って、朱斗は結埜を受け入れる。
「後を追おうとも思った。どこを探しても巡が居ないなら、生きてる意味が見出だせなかった。けど、最期に俺は巡から希望をもらえたんだ」
頭から頬へと手が移動する。朱斗の顔は結埜に両手で包まれた。
「あの日の最終オーディション。合格したんだよ。巡」
そのオーディションとは結埜にとって初主演作で、今でも彼の代名詞になっているほどとても有名な映画だった。亡くなった恋人を追って旅へと出た、一人の男の人生を描いた作品だ。
「あの合格は巡がくれたものだと思ってる。あの映画から俺の俳優人生は始まった。……きっと、この世に独り残した俺の未来を心配してプレゼントをしてくれたのかな」
涙が止まらない結埜に触れようとしたが止めた。
「巡。巡はどうだった?俺といて、幸せだった?」
(何も応えられない。巡さんにはどうしたってなれないんだから)
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