あんたは俺のだから。

そらいろ

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 真っ黒な寒空の下、寒さから身を守るためにコートを羽織ってカメラを肩に下げて街を、行き交う人々を俺は店と店が立ち並ぶ境目に立ちただ見つめていた。

(さーみぃ……)

 手袋をしているも、数分外に立っているだけで指先は悴んで思うように動かなくなっていた。カメラマンとしては致命的だ。設定もシャッターも思うように操作できないんだから。

「ぁー。早く来ねぇかな」

 思わず声に出してしまったそれは、水蒸気の白煙になってあっという間に何処かへと消えていった。

 コートの右ポケットが震える。
 急いで取り出して画面を見る。

『もう少しで着くから!』

 短いこんな文でも相手の表情が直ぐに浮かんでくるのは、長く居すぎているから。

「はやく、こいよ、っと」

 年に数える程しか経験しないスマホ対応の手袋で画面を操作する事も、この冬でやっと慣れてきていた。そのまま、仕事のメールが無いか少しチェックをしていると突然頬に温もりが与えられた。

 驚いて顔を上げると、口元のマスクを下ろして何度も沢山の白い息を吐き「お待たせ」と途切れ途切れに言う樹矢が居た。黒いパーカーのフードを被り、周りには出来るだけ顔が見えないようにしている。

「これ、お詫び」

 きっと直ぐそこの自動販売機で買ったと思われる缶コーヒーを俺に差し出す。

(さっきの温もりの原因はこいつか)

 手袋を両手共脱いで、その小さな熱を受け取る。
 使い捨てカイロのように直ぐに熱は冷める事なんて知っている。けれど、そこに恋人からの愛情があると分かれば、冷めることない温もりに変わるんだから不思議だ。

「ありがと」

 冷たくなった頬を中心に暖が伝わっていくのが分かる。プシュッと音を鳴らして開いた缶の中身を体内に注ぎ込む。何時もなら熱すぎる程の液体は、とても心地良くてじんわりと心までも温めた。

「俺にもちょーだい」
「ん」

 一つの缶コーヒーを二人で分け合い、「じゃ、行くぞ」と俺は歩き出す。
 守られるものが無くなった両手は、温もりを求めてコートのポケットの中に辿り着く。周りにはこんなにも人が歩いている。俺達の関係は知られる事も知らす煽りもしてはいけない。それは自分達の関係を守る精一杯の努力だから。

 隣同士でも、一歩下がって樹矢は歩く。向かう先は同じで、近すぎるのはタブー。
 恋人達の当たり前は、当たり前には出来なかった。たとえ、同性同士でなくても職種上、これはタブー。
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