あんたは俺のだから。

そらいろ

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淘汰-touta-3

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――

 事前に教えてもらっていた病院へ俺と朱ちゃんは向かった。お互いに仕事を終えた後で同じ現場では無かった為、俺はマネージャーに送ってもらい一度帰宅をし、自家用車に乗り朱ちゃんと待ち合わせをしている駅の周辺で人目が無いことを確認してピックアップした。

「おつかれ。樹矢」
「朱ちゃんも、お疲れ様」

 アクセルを踏んで指揮を出し、動き出した。助手席には座らず、後部座席に座るのは俺達のお決まりのルールだった。世間に知られている為、芸能記者や一般人に何時撮られても可笑しくない俺は外で朱ちゃんと会う時は常に警戒している。

「病院、遠いの?」
「んーん、都内から近いよ」
「そっか」

 無言の時間が続く。
 苦にも感じず、ただ俺は目的地を目指した。車内では曲を掛けたりもせず、朱ちゃんは流れるように次々と走る車をただ見つめているのがバックミラー越しに見えた。
 まだ、俺は平然としている。



「着いた。ここだ」

 大きな白い箱が建つ周辺の駐車場に車を止め、エンジンを切る。流石にここまでメディアは追ってこない。俺は運転席からすぐに降りて、後ろの扉を開けた。朱ちゃんは小さく「さんきゅ」と言い降りる。

「なーんかドキドキしてきたぁ」

 いいって言ったのに菓子折りの入った紙袋をを片手にエントランスを抜ける。

「なんで朱ちゃんがドキドキするの」と笑って言う。
 待ち合いの椅子が綺麗に整列されて並ぶ横を過ぎようとした時に、「樹矢」と手を上げて視界に表れたのは楓だった。

「やっと来たか」
「さっきまで仕事だったから。お待たせ」

 「なら仕方ないな」と言いながら、俺の隣に立つ朱ちゃんに目線が移る。

「えーっと……?」
「初めまして。須藤朱斗と言います」
「須藤朱斗って……カメラマンの?」
「はい」

 朱ちゃんは微笑んで、楓に営業スマイルを見せた。

「尾野楓です。」

 さっと、名刺を差し出して俺には決して見せない大人な紳士さを醸し出していた。朱ちゃんは受け取った名刺をポケットに入れて「ありがとうございます」とだけ返事した。

「可愛いね。朱斗くん。裏にいるのが勿体無いよ」
「そんな事無いです。尾野さんの方が、モデル辞めたの勿体無いほど良い被写体ですよ」

 お互いにこやかだけれども、何か見えない火花があるのか、攻めて守って押してと攻防している様だった。

「楓。案内してくれるか?」

 二人が目を合わせて睨み合っている間を割って、楓に声掛ける。今日の目的はここじゃない。

「あぁ。あっちにエレベーターがあるから行こう」

 外観も中身も白いこの空間に、3つの足音が先の続く廊下にやたらと響いた。少し震え始めた手を朱ちゃんは自分自身の手で救い出し握った。周りは関係無く、俺だけを最優先に考えぐらぐらと落ちないように支えてくれる。

「ここだよ」

 一枚の扉。その横に刻まれた号室の下には見知った名前が黒いサインペンで書かれていた。『瀬羅朋世』は確かにこの先に居るんだと示している。
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