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オマケは御使い様になりました

【御使い様と馬車酔いとアップルパイ】

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 本日深海はカグウのお供としてスティルグマ王国に向かっていた。
 流石に乗る馬車は別である。
 カグウはコキョウと、深海はネオレと乗っている。

 ガラガラと馬車が山道を走る。
 王族の馬車なので座り心地は悪くないが、補装された道を普通に通行していた深海にはこの揺れはかなりダメージが重かった。
 簡単に言うなら馬車酔いだ。
 先ほどから深海の限界が近づくと隣に座っているネオレが回復魔術をかけるの繰り返しだ。

「申し訳ありませんネオレさん」

「気にしなくていいわ。美少年が項垂れてる姿を見るのも一興だし♡」

「俺のダメージを観賞用に楽しまないで下さいよ」

 クスッ、と小さく笑うネオレの顔は綺麗だ。
 本当に性別を間違って生まれて来たんだろうな、と深海は思う。
 せめてオネェでなければ。

 ネオレは顔は良いし頭は良いし性格は良いし、魔導士としても一流でお金も権力も持っている。
 きっとネオレを狙ってるご婦人は多数いるだろう。
 だが生憎ネオレはオネェなおだ。

 上品でそこいらの女より美人で料理の腕もプロ級だ。
 この前作って貰ったアップルパイは美味しかったなぁ、と深海は想いを馳せる。
 きっとネオレが女だったならばと血の涙を流した男も少なくないだろう。
 いや、それにしてもまさかあんなに美味しいアップルパイがこの世界で食べれると思わなかった。

 遂に先輩(ちなみに深海も鳴海もまだ会った事がない)が乳牛やヤギや羊や鶏を何処ぞで入手してきた(価格は相場の1/5らしい)ので遂にお菓子作りに手を出すことが出来た。

 それにしても先輩とは何者なのか…。
 あのカグウですら揶揄われていると言うのだから正しくチートキャラである。

 ミルク、バター、卵、水飴が手に入り、深海たちの時代のお菓子も作れるようになった。
 流石に深海も鳴海と一緒に遊び半分で作ったクッキーがあれほど称賛されるとは思わなかったのでかなり焦った。
 そこでカグウは菓子産業にも手を付けだした。
 最初は深海と鳴海とラキザが中心に進められていたのだが、やはり魔術師が居た方が何かと便利である。
 
 フィルドはあぁ見えて宮廷魔術師長なので、そこそこ忙しい身なのだ。
 そこに名乗り出て鳴海と共に先陣を切っているのが立候補したネオレである。
 嬉しいことにその日出て来たお菓子は深海の好物のアップルパイだった。
 鳴海が気を利かせてくれたのだろう。
 冷凍のパイ生地が無い世界では相当面倒臭いお菓子だったろうに。

 :::

 アップルパのレシピは以下のとおりである。

 ①パイシート作り
 ■ デトランプ生地  
 ・薄力粉
 ・強力粉 
 ・水飴
 ・塩
 ・冷水
 ・バター
 ■ バター生地
 ・バター
 ・強力粉 
 ●デトランプ生地を作る
 薄力粉と強力粉を合わせて作業台にふるい落とす
 ●ふるい落とした粉類の中央に、カードを使ってスペースを作る
 そのスペースに水飴、塩、冷水を入れる 
 ●指先で水飴、塩、冷水を混ぜ溶かします
 周りの粉の半量ほどを混ぜてどろどろにし、熱々の溶かしバターを入れ、手早く混ぜる 
 ●残った周りの粉も混ぜる
 カードで生地を切りながら混ぜ、ひとまとめに
 ここで発行の為に治癒魔法術
 バターをめん棒などでたたき、芯のない状態にする
 ●強力粉を少しずつふるいかけ、めん棒を使ってバターと粉を伸ばしていく
 バターに粉を吸わせ行くイメージで 
 ●すべての粉をバターに吸わせたら、めん棒とカードでデトランプ生地より二回り小さな四角形にまとめる(手は使わないように) 
 ●休ませておいたデトランプ生地に切り込みを入れ、切り込みから生地を開いてバター生地を包む 
 ●めん棒で押すようにしながら生地を伸ばし、三折りに
 (三折りにできる長さに伸ばせばOK ) 
 ●生地を90°回転させ、また生地を伸ばす
 四折りにして、更に生地を伸ばす 
 ●生地をさらに発酵のため治癒魔術
 その後は、三折り&四折り&休ませを三セット繰り返す 
●すべての工程が終了したら、三時間以上冷所で生地を休ませる代わりに治癒魔術と熱魔術
 ・パイ生地
 ・りんご
 ・バター
 ・砂糖
 ②パイシートを20センチ×15センチ程度の大きさに伸ばす。
 大きさは目安でお好きな大きさにする
 ③生地の厚さは5ミリ程度を目安に。
 分厚くしすぎると焼いている途中で膨らみすぎるので、気を付ける
 ④のばしたパイ生地は30分程度冷所で冷やす代わりに熱魔術で冷やす
 ⑤生地を休ませている間に、リンゴの準備を。
 リンゴは皮と芯をとって2~3ミリにスライスしておく
 ⑥パイシートにリンゴをに少しずつずらして並べ、リンゴとリンゴがないパイ生地部分に溶かしバターを塗る
 ⑦砂糖を全体にまんべんなくふりかけ、温めておいたオーブンに入れ、リンゴに焦げ目がつくまで30~40分程度焼く
 ☆完成☆

 :::

「お昼休憩にはアップルパイもあるからそこまで頑張ってね」

 優しい笑顔でネオレが笑う。

「ちょうど今アップルパイのこと考えていました。何であの日アップルパイだったんですか?もっと簡単なお菓子だってあったでしょう?」

「あら、好きな子の好物を極めるのが恋愛の1番の正攻法よ♡」

「それって!?」

 どういう意味ですか?と聞く勇気は深海には無かった。
 もしかしたら、と言うのはある。
 と言うのもネオレは深海にめっぽう甘いのである。
 アップルパイだけでなくあれから何度かいろんなお菓子をプレゼントして貰っている。
 正直餌付け状態だ。

(でもネオレさんオネェだし俺の事男と思ってるけど俺は本当は女だし…考えれば考えるほど意味が分からん!)

「ネオレさん、ちょっと休みたいので無礼を承知ながら肩貸して貰って良いですか?」

「良いわよ。休憩の時間来たら起こしてあげるからゆっくりお休みなさいな」

 言葉に甘え深海はネオレの方に頭を預けるとものの数秒で睡眠に入った。
 相当乗り物酔いのダメージが溜まっていたらしい。 
 乗り物酔いには睡眠が1番であると判断したようだ。
 クスッ、とネオレが笑う。

「女の子のおねだりを聞いてあげるのも男の醍醐味ってもんなのよフカミちゃん」

 綺麗な指が深海の髪を梳かし、深海には聞こえない小さな声でネオレは呟いた。


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 馬車酔いにアップルパイは止めを刺しそうだという感想は胸の中にそっ、と閉まって下さい。
 アップルパイが食べたかったんです(≧∇≦)
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