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【オマケと兵士の王都探索】

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 日付が変わり正午、庭の裏門前。
 深海の言いつけを守った平民の服を着たミラーが待って居た。
 傷はすっかり治っている。

「ちゃんと来たな」

 深海の登場にミラーの体がビクリと震えた。
 深海に対して恐怖心があるらしい。
 躾は最初にしては上々の出来のようだ。
 深海の服装は相変わらずの制服だ。
 ただ身元がばれないようにフード付きのマントを羽織っている。
 この世界に来てから深海は制服が3年通して着る為に丈夫に作られていたことに心底感謝をした。
 まぁ後1ヵ月もしたらクリーニングに出したい気持ちになるのだろうが其処は持ってきた除菌スプレーで乗り切るつもりだ。

「お前何してるんだ?」

 さて門を開けようかと思えばミラーが顔に布を巻いて鼻から口を隠していた。

「だって門の外に出たら消臭の魔法範囲から出るから臭いが酷いだろ?」

「あーお前らにとってはまだそう言う認識だった訳だ。本当何も見てないんだな」

「?」

「出れば分かる」

 深海はミラーの腕を掴むとぐいぐいとその巨体を引っ張って門の外に出た。
 ミラーが反抗した時のために鳴海に朝からブーストをかけて貰っているので力負けすることはない。

「な、なんだこれ!?」

 賑わう町の姿が目に入りミラーは驚愕の声を上げた。
 王宮には召集のほかに防音の魔法が張られていたため、王都が賑やかになっている音が中で過ごす人間には分からなかったのだ。

「カグウ様と親衛隊の人たちを中心とした王派閥の部下たちの努力の結果だよ」

「すげぇ…全然臭い臭いしないし、人が笑ってる……俺たちの凱旋の時でもこんなに賑やかにならないのに」

「当たり前だ。生きていくだけで必死の民になんのメリットもない凱旋にわざわざはしゃげるか馬鹿が」

「ば、馬鹿はないだろ!つーか何か良い匂いする。この前まで悪臭しかしなかったのに」

「フィルド様がスライム下水作ってから汚物は全部下水に行くシステムだからな。今はどの建物にも1つはトイレが設置されてるぞ。スラム街にも公衆トイレがあるしな」

 キョロキョロと街中を眺めながらお上りさんの様にミラーが町を興味津々の顔で観察していた。

「すげー活気ある」

「農業以外の仕事も増えてきたしな。そりゃ活気も付く」

「あ、あれ!あの屋台から良い匂いする!!」

 はしゃぐミラーは深海の話しもちゃんと聞けていないようだ。
 おそらく今は深海への恐怖心よりも町に対する好奇心の方が勝っている。

「食べるか?」

「良いのか!!」

 完全に目が輝いている。
 口の端から涎も垂れていて流石に深海も毒気を抜かれる。

「待ってろ」

 深海は屋台でコロッケを2つ購入する。
 ミラーの方を向けば尻尾があれば千切れるくらい振っているのが分かる位期待の眼差しで深海の方を見つめていた。

(取り合えず”待て”は出来るみたいだな)

「ほれ、コロッケだ」

「コロッケ」

 ミラーがごくりと唾を飲む。
 そして一気に齧ろうとしたので深海は下段蹴りでミラーの脛を蹴った。

「いてーっ!何するんだよ!落としそうになったじゃねーか!!」

「だよ?ねーか?」

「蹴られたので痛かったです。何で蹴ったんですか?落としそうになりました」

 ギクリと体を強張らせたミラーが敬語で言いなおした。

「食べる前に言うことあるだろう。それともクロナ姫はそんなことも教えてくれないのか」

「クロナは関係な―――いです。すみません」

 言い返そうとして深海の冷たい目つきに気付いて速攻で謝った。
 躾は上手く行われていっている。

「人と食べ物に対する感謝の気持ちを言葉で表せ。出来ないならそれを返せ」

「あっ!?ありがとうございます。いただきます」

「良いだろう。食べろ」

「はいっ!」

 ガブリ、とミラーがコロッケに齧り付いた。

「あふっあふっ!!」

「言い忘れてた。それ結構熱いからな」

「うぅ~言うのが遅いですぅ」

 涙目になって下を出して空気で冷やしている。

「で、味は?」

「滅茶苦茶美味いです!これ、いもゴロゴロ入ってて食べがいある!んでいもが甘い!味付けも出来てるしザクザクしてて食べ応えもいい!!」

 嬉しそうな顔で口の周りをべとべとにさせてミラーがコロッケを頬張る。
 また尻尾が見える気がする。

「お前が馬鹿にした家畜の餌がメインで出来てるんだぞ。ちなみに1つ銅貨1枚だ」

「こんなに美味いのに銅貨1枚!?ジャガイモがこんな上手くなるなんて…家畜の餌とか言ってすみません」

「何だ随分素直だな?」

「だって、だってすげー町が変わってる!皆が何か楽しそうだ!これ愚王…じゃなくてカグウ王がやったのか、ですか?」

「まぁ俺も異世界の意見をちょこちょこ出したけど、全ての計画を纏めたのはカグウ様だ。
薪では揚げ物を出来るだけの油の温度を出せないから炎魔石コンロを使っている。
ジャガイモを作っているのも城の料理人だ。
しばらくは城から出張と言う形でコロッケを作ることになるな。
油の温度を何とか出来る様になったら、この仕事も市民に卸す予定だ。
カカンは着実に復興してきているぞ?その間お前たちは何をしていた?」

「うぅ~~~~~」

 再びしょぼんと垂れ下がった犬の尻尾とぺたんと倒れた犬耳が見えた気がしたが、深海は何だかミラーに絆されそうな気がして出来るだけ高圧的に振舞って懐かれない様にする決意を固めた。
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