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【オマケによる兵士の調教】

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 ジャガイモの刻み昆布煮をラキザはえらく気に入ったらしい。
 レシピを渡すと今日の夜にでも作るから味見に来てくれと頼まれる。
 深海としても同じメニューでも自分で作るより、人に作って貰った方が美味しいと感じるものだ。
 すぐに了解した。

 そして約束の時間が時間が近づいたので鳴海にブーストの魔術をかけて貰って、窓から外へ飛び下りる。
 未だに扉は鍵がかけられており見張りが居るためだ。
 クロナも鳴海を逃すまいと必死らしい。

 :::

 (野生動物……いや人か)

 厨房には先客が居た。
 ラキザではない。
 蝋燭の明かりがチラチラと大きな影を厨房の壁に映し出していた。
 どうやら食料を漁っているらしい。
 それはそうだ。
 厨房に来て金品を盗もうと考える者はいないだろう。

 深海の目には侵入者の姿がはっきり見えていた。
 鳴海のブーストで夜目も強化されているのだ。

「おい、そこの侵入者」

 深海に声をかけられ侵入者がびくりと体を震わせた後そろりと振り返る。
 そして蝋燭の火に照らされた深海の姿を見て侵入者は眉をひそめた。

「なんだオマケ様かよ」

「何だよそのオマケ様ってのは?」

「知らねーの?お前貴族とかからオマケ様って呼ばれてるんだぜ。聖女様と一緒に召喚されたくせに何の能力も持たない顔だけで愚王に取り入ったオマケ様ってな」

 侵入者はせせら笑った。
 発言からしてクロナ側の人間なのだろう。

 年齢は深海やクロナと同世代だろう。
 恐らく10代半ばから後半だ。
 身長はチノシスと同程度。
 恐らくは190センチ程。
 だがチノシスに比べてかなり筋肉質であった。
 恐らく兵士だろう。
 闘う事を生業としている体つきだ。

 顔付はワイルド系イケメン。
 深い赤の髪と同色の鋭い瞳。
 少し粗野そうだがそこが良いと言う女性も多そうだ。

「まぁ確かに綺麗な顔はしてるよな。んでその顔と体で愚王に取り入ったんだろ?愚王も外交と称して他国の王族や貴族に顔と体で取り入ってるしお似合いだな」

 兵士が笑った。
 カグウに対する侮蔑にあからさまな嘲りの嘲笑。
 それに深海は頭の中でブツリと何かが切れる音を聞いた。

「てめぇは……9割殺す!!」

 兵士の目に見えない速度で深海はその懐に潜り込んだ。
 拳を鳩尾に叩き込む。
 その一撃で鍛え上げられた肉体を持つ兵士が崩れ落ちた。

 本来ならこれほど戦闘能力に差は無かっただろう。
 しかし今の深海は鳴海によるブーストがかけられている。
 更に深海は10年にわたる空手を中心とした様々な格闘技の経験者だ。

 帯こそ取っていない者の有段者とも互角以上に渡り合う戦闘センスがあった。
 ちなみに深海が帯を取らないのは格闘家(有段者)が他者に対して暴力をふるった場合、拳は凶器として法的に扱われるからだ。
 暴行で済めば良く、下手すると傷害容疑として扱われる可能性もある。
 それ故に深海は帯を取っていない。

 そして空手は実際に喧嘩となった場合、数ある格闘技の中でその強さは上位に入る。
 総合格闘技では様々な格闘家が対戦しているがあくまでルールがあってのことだ。
 喧嘩にはルールはない。

 その上で最強を決めるとすれば空手は上位に来ると言われている。
 それは相手との距離を保ちながら攻撃が可能だからだ。
 また、空手家は避けることよりも受けることを前提として身体を鍛えるので防御力もあると見られる。
 そして格闘技の中で唯一、1対複数を想定して鍛錬を積むからだ。
 深海はそれを踏まえた上で空手を習っている。

 習い始めた理由はあまりにも鳴海が危ないオジサンなどに狙われやすかったので、自分が守らなければならないと言う使命感だったのだから深海は相当な鳴海厨である。

 さて崩れ落ちた兵士は腹を抑えて胃液を吐き出していた。
 胃の中には何も食物は入っていなかったようだ。
 それはそうだろう。
 満腹の人間が厨房荒らしをするとは考え難い。

 兵士は視線で人が殺せそうなほどの眼差しで深海を睨みつけていたが、深海はソレに何を感じるでもなく兵士の手の上に足を乗せた。

「?」

 兵士が不思議そうな顔をする。

「さて、回復魔術でも直せないくらいこのまま拳を潰してしまおうか」

 ニヤリ、と深海は口元だけを歪ませて笑んで見せた。
 その表情を見た兵士は顔を蒼褪めさせる。
 なまじ深海の顔が整っているだけに歪な笑顔は恐ろしさがあった。

「ま、まってくれ!俺が、悪かった!!拳を潰すのは止めてくれ!!」

「へぇ、拳を潰されるのが嫌なのか。だったら逆に潰してやらないとなぁ。お前は俺を怒らせた。怒りをぶつけるならお前が嫌がることをする方が意義があるだろ?」

「あ、あ、あ、あ、あ……」

 兵士の目に涙が溜まり始め体がブルブルと震え出した。
 相当拳を潰されることに恐怖を感じているらしい。

「拳だけは、止めてくれ!拳を潰されたら剣が握れなくなる、クロナのために剣を振るえなくなる!!」

「お前、クロナ姫のなんだ?」

 兵士はクロナを姫ではなく呼び捨てにした。
 かなりクロナと関係が近い人物なのが分かる。
 それに気づいた深海はこの兵士には利用価値があるとふんだ。

「おれ、はクロナの近衛兵だ。クロナとは乳母が同じだったから兄妹みたいに育った。その関係性が今でも続いている」

 ビンゴだ。
 利用価値は十分。
 クロナの派閥を内側から崩す駒として深海はこの兵士を利用することを決めた。

「お前、名前は?」

「……ミラー」

「んじゃミラー、お前は腹を空かせて王族用の厨房に来たわけだよな?」

「クロナが、良いって言ってくれてるから」

「じゃぁ俺が飯を用意してやるよ」

「はぁ?何でそうなるんだよ!?」

「お前に拒否権はねーよ」

 深海はミラーの手を踏みつけていた足に少しばかりの体重をかける。

「うわぁっ!分かった!お前の作る飯食うから、手は止めろ!!」

(こいつチョロいな)

 手から足をどけて深海は今度は優しく微笑んだ。
 膝を曲げミラーの髪を掴み無理やり上げさせた顔を覗き込んで。

「飯?食う?止めろ?」

「貴方の作る食事を頂かしてください。手は止めて下さい……」

「食堂のテーブルに着いてろ。すぐに持って行く」

 再び涙目になるミラーに深海は機嫌をよくし、厨房の方へと向かった。
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