冴えない召喚者は元異世界の魔王でしたー人間に転生していた魔王は平和を楽しんでいたので召喚されて怒ってますー

取り合えず見た目を整えてみた

「さて、この世界でこの服装は違和感があるな…」

　そう言って眼鏡を取る。
　その瓶底の下から出てきたのは切れ長のアーモンドアイ。
　睫毛は多く長いが細くて中性的な眼だ。
　元々整っていた鼻筋や綺麗な薄い唇は俯くのを止めただけでその存在感が露わになる。
　髪はす、と手で梳くとサラサラと夜の帳に溶け込みそうな絹糸の様な黒髪が靡く。

　丸めていた背中を伸ばすと、女子にしては長身な体の特徴が露わになる。
　
　薔薇姫の身長は１７３cm。
　普通の女の子にしては高く、高身長女子を名乗るには中途半端な高さである。
　だがその胸元は大きく隆起している。
　腰は細く、その位置が高い。
　体の半分が脚だ。
　スカートの丈が長いため脚のラインは今一分からないが、その布地の下には程好く筋肉のついたアスリートの様な健康的な脚線美が隠れている。綺麗な脚だが、モデルのように細いだけではない実用的な脚だ。その脚に踏まれたいと思うものは少なくないだろう。それ程に魅惑的なラインの脚なのだ。
　まぁ薔薇姫は出す気は無いが。

　薔薇姫は服を右手で掴んだ。

　【改良】

　魔力が制服の布地に走り、その形を変えた。
　この世界では一般的な男の旅着にその姿を変える。
　胸元には革の胸当てがされており、その内側のボリュームのある肉塊を押しつぶしている。

「うむ、こんなものか」

　薔薇姫は満足そうに頷くと、最後に髪を首元で適当に縛った。

　そうすると薔薇姫はもう美少年にしか見えない。
　それも絶世、”傾国”が付きそうな美少年である。
　１７歳と言う年齢が、少女の魅力と、まだ大人になりきれない中性的な少年のような魅力が相まって、誰もが魅了されるような美少年が誕生してしまった。
　勿論、薔薇姫は自分の魅力に自覚がある。
　男装も、それはそれで危ない輩を惹きつけそうだが、それでも女の身でいるよりは危険度は少ないであろうとの判断ゆえである。

　学校指定の鞄も【改良】して旅用のリュックにする。
　薔薇姫は教科書を持ち歩かない主義である。
　そもそも人間が学ぶ学問など、『ロゼッタ』の時代から理解している知識ばかりである。
　『魔王ロゼッタ』の能力の１つであった【アーカイブ】は分からぬものは殆どない。
　余計な荷物が少ない。
　鞄の中はお茶の入ったボトルとチョコしか入っていない。
　買い物をしてもゆうに中に入る事だろう。
　【空間膨張】の魔術を使ってマジックバックにする事も可能だが、無駄に価値のある物を作るつもりはない。
　昔から金の臭いに敏感なものと言うのは存在するもので、薔薇姫の存在だけで十分すぎるほどの価値があるのに、これ以上価値がある者を身に付けてしまっては「お宝は此処に在ります」と吹聴してるも同然だ。

「次は後は最小限の金銭の調達だな」

　金銭の調達にはアテがある。
　そして薔薇姫はその形の良い唇から力ある言葉を紡いだのだった。