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2章

【213話】

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「皇帝陛下!カカンでの結界の試作が成功しそうです!!」

 玉座の間に飛び込んできたのは神殿の使いだ。
 今回の《聖破邪大結界》は国のトップの者と神殿の神官たちが中心になって行っている。
 何せ天界式の結界だ。
 並の術師では意味の理解すら出来ないだろう。 
 それ程の複雑な結界なのである。
 よくぞカカン1000年前の大聖女は純粋な人間でありながらこんな結界を作り上げたものである。

「そうか、では我が国もカカンの試作結界のレシピを受け取り本格的に《聖破邪大結界》の制作に取り掛かる!」

「御意!」

 神官は頭を垂れて神殿へと帰還していった。
 皇帝アンドュアイスの言葉を司教に伝えるのだろう。

 それにしても遂に結界の制作が動き始めた。
 国全体を覆うものを作ろうと思えば数カ月はかかるだろう。
 同盟を組んでいる大国の中でも、大陸の中心に位置し、同盟国の要であるガフティラベル帝国は他の国の数倍の大きさがある。
 他の国の倍以上の時間をかけなければ結界は完成しないだろう。
 だからこそリリィ・オブ・ザ・ヴァリーはガフティラベルに身を置いている。
 結界の制作にどれ程の時間がかかるか想像できるからだ。
 
 だがリリィ・オブ・ザ・ヴァリーはあくまで手伝いである。
 天界の御使いが地上の人間に手を貸し過ぎるのは天命にはんするのだ。
 そうで無ければすべての国にリリィ・オブ・ザ・ヴァリーが結界を張ってしまえば済む話だった。
 それなら数日で全ての国に《聖破邪大結界》が張られていたことだろう。

「今回の結界の制作、魔術しか使えない私は手伝えなくて申し訳ないです………」

 王配のルーシュが暗い顔をしていた。
 大切な人が困っているのに手助けが出来ない。
 大事な伴侶が大陸の運命をかけて戦うだろうに、自分は力になれない悔しさ。

「皇后には暴走した魔物の相手をして貰おうと考えている。戦う事は得意だろう?」

 何時までも聞いていたいような甘美なアルトの声がルーシュにかけられる。

「サイ…御使い様」

「お前にまでそう呼ばれるのは寂しいが、今は仕方がないな」

「そうですね、私もしっくりこないです」

「仕事が終わったらヤケ酒にでも付き合って貰おうか?」

「全てが終わって平和になったら全能神様の伴侶様とのいちゃつきも突っ込まないで見て差し上げますよ」

「では全能神様の愛犬とその伴侶のいちゃつきを突っ込まずに見てくれるよう全能神様に伝えておこう」

「よろしくお願いしたします御使い様」

 2人、視線を渡して微かに微笑む。
 普段は本来口が悪いやり取りをする2人だが、お互いが大切な心友なのだ。
 全てが終わったらストレス解消は伴侶でない、同性の心友としたいと思っても問題ないだろう。
 そして伴侶の愚痴…はないので惚気を放しながら酒を酌み交わすのだ。
 その日が早く来ることを、ルーシュとリリィ・オブ・ザ・ヴァリーは互いに願うのであった。

 リリィ・オブ・ザ・ヴァリーが魔界に渡る、数か月前の話であった。
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