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2章

【209話】

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 眼をウルウルとさせた大型犬がリリィを見ている。
 リリィはこの瞳に弱い。
 40歳を超えてこの可愛さは何なのだろう。
 真っ当に人間であるはずだが、その魅力はサキュバスやインキュバスより強い。
 気付かれる前に会議を終わらせるべきだとリリィは判断した。

 『雷帝』の威光は今回の戦において失われるべきでは無いのだ。

「では皆を帰そう。今後の支持はガフティラベル皇帝とカカン国王の元行って行ってくれ。必要な材料などは後で別の者に届けさせる」

 リリィが指をパチンと弾いた。
 その白の空間は霧散し、そこに居たものは自分たちの寝室へと帰されていた。

 これだけの人数を別の場所にそれぞれ【空間転移】を行う。
 それだけでリリィがどれ程の魔力を持っているか分かる。

 そしてリリィ、いや、サイヒはアンドュアイスとルーシュと一緒にガフティラベルへ転移していた。

「サイヒー!ルークがちゃんとサイヒの事好きだったよ!?まだちゃんと魔王じゃないの!?」

 うわーんと子供のように泣いて、アンドュアイスがサイヒに抱き着いた。
 その背をぽんぽんとサイヒは叩いてやる。
 サイヒはこの大型犬が可愛くて仕方ないのだ。

「あぁ、ルークはまだ人間を殺していない。魔界にいるが特に何もしていない。ルークの意思が『悪意の概念の』意思を拒んでいるようだ。お陰ではっきりとした意識はないし記憶も無いがな。
兎も角ルークは今は無事だ。安心するが良い」

「良かったよ~~~~~っ!!!」

 大粒の涙がサイヒの方にポロポロ落ちる。
 その温もりも不快ではない。
 無邪気なサイヒの愛犬-アンドュアイスは本当に人間なのかと思うほど純真無垢なのだ。

「じゃぁあの「魔王を消す」発言はなんだったんよ?」

「あぁ、「魔界から魔王を消す」だな、正確には」

 はぁ~~~~っ、とルーシュが大きな溜息を吐いた。
 どうやらこの心友はこんな状態になってもサイヒの事を心配していてくれたらしい。
 皇帝の王配としてまずは考えるべきは国民の事でなければならない。
 天界の御使いの心配をしている場合では無いのだ。
 何と言っても御使いであるリリィ・オブ・ザ・ヴァリーが誰よりも強いのだが。

 だがルーシュはサイヒが強いことなど気にしない。
 人間と全能神と言う位に差がある事も気にしない。 
 人間同士だった時と何も変わらない接し方をサイヒにするのだ。

 だからルーシュはサイヒの心友なのである。

 血の繋がりは無くとも、サイヒにとってアンドュアイスとルーシュは家族の様に大切な宝物だ。
 そしてアンドュアイスはルーク従兄弟であって、本当に血の繋がりまである。
 この宝物たちを護るためならサイヒは幾らでも力が漲る。

「ルークは私が天界へ連れて帰る。半身を何時までも別の存在に獲られて臍を噛むのはいい加減飽きた。ルークの全ては私のモノだ。誰にもやる気はない」

「そっか、頑張れよ心友」

「絶対ルークを連れて帰ってね!また優しいルークに戻してね!」

「当然だよアンドゥ、ルーシュ、地上の事は頼んだぞ」

「おう、任された」

 にっ、と少年の様にルーシュが笑う。
 泣いてたくしゃくしゃの顔でアンドュアイスが笑う。

(私もルークも愛されているな)

 大切な宝物たちのために、地上の安寧のために、何より自分のためにサイヒは必ずルークを取り戻すことを己に誓うのであった。
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