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2章

【207話】

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 何故か寝付けない。
 希望通りの空色の髪と翡翠の瞳のあの少年と同じ色合いと顔立ちをしたものを侍らせているのに。
 あの御使いと出会った時のような心地よさを感じない。

 パァンッ!

 今日も誰かの頭が吹き飛ぶ音が魔王の寝室に木魂する。

 魔王城に住まうものは皆恐怖に身を縮こまらせていた。
 己の従う王の残虐さに。

 魔王は不眠症らしい。
 そして1人では寝れない性質らしい。
 そんな話が既に魔界中に流れている。

 我を褥係に、と王城に今日も美しさに自信のある悪魔が男も女も群れを成す。

 まだ子も成せないだろう子供まで売り渡す親が居るくらいだ。
 魔王の褥係にはそれだけの価値がある。

 それを他人事のように魔王は思う。
 いや、他人事だ。
 魔王は意思など持たないのだから。
 魔王の意思、ソレはすなわち『悪意の概念』の意思。

 上位の悪魔はソレを知っている。
 歴代の魔王は『悪意の概念』に忠実であり、そして血の雨を天と地に振らせてきた。

 だが今回の魔王は違う。

 戦う意思が無い。
 いや、意思そのものが無い。
 唯一執着するのは天界の御使いのみ。

 天界の御使いを生け捕りにするためにどれだけの悪魔の命が失われたか。

 それでも魔王は命ずるのだ。
 誰か私を眠らせることが出来るものを連れて来い、と。

 いっそ本当に残虐なら良かった。
 ソレを外に向けてくれたなら、悪魔たちは言うことが無い。
 人や天人の肉を食み血をすする事が出来るから。
 魔王はソコにいるだけで悪魔の底力を上げる。
 要はブースター的な存在である。
 それでいて誰よりも強い魔力を持つ絶対君主。
 それが本来の魔王だ。

 だが今回の魔王は、違い過ぎた。

 前、魔王にも使えていた執事が今日も溜息を吐く。

 また魔王が王城を抜け出した。
 他の悪魔たちには寝室に居るので近寄らない様に言わなければならないだろう。

 行き場。
 考えなくても分かる。
 魔王が執着するのはあの御使いだけだ。

「今日は誰も死ななずにすみそうですね」

 御使いに会いに行った後の魔王は数日間眠る。
 その間は魔王城は平和である。

 それにしても御使い側も何を考えているのか?
 魔王と会話はするが傷つけ合いはしない。
 御使いの1番の目的は魔王の殺害であろうはずなのに。
 殺し合いの気配など一切ない。

 それでいて、御使いは魔界から出てきた悪魔は平気で殺す。

 御使いの方の考えも分からない。

「いっそ、他の方が魔王になられた話は楽なんですがねぇ………」

 呟きは誰にも聞かれていない。
 魔王の寝室を盗聴出来るものなの居ないのだから。

 執事は今日は報われるであろうシーツを綺麗にベッドメイキングして行った。
 コレで数日間は血塗れのシーツを洗う手間は省けそうだと溜息を吐きながら。
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