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そして全能神は愉快犯となった

【150話】

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 まぁクオンの吐血があったりなかったり。
 マロンは宮廷中を走り回り。
 トワはドラジュのお付きで街へ出かけたり。
 セツナは『せんせー』のしごきが無くて一時的な平和を過ごしたり、ととにかく天界は平和だった。
 王宮中はひっくり返るような騒ぎだが。

 何せ王子のためのパーティーなのである。

 あの、男も女も赤子も老人も誑かす全能神の息子ドラジュのためのパーティーなのだ。
 気が抜ける筈が無い。
 全能神の誑し属性を受け継ぎながらも意中の女性を落とせないドラジュ。
 これは全能神に仕えている者として何とかしたい案件だった。
 我らの全能神様のご子息が堕とせない?
 そんな事はあってはならない。

 ドラジュの願いは使用人の悲願。

 使用人たちもまたサイヒに誑かされており、絶対的な神聖視をしていた。
 そしてその息子ドラジュにもまた。

 絶対に負けられない戦いがここにはあるのだ。

 マロンは料理長とメニューを考え。
 クオンは招待客のリストを片手に業務をこなし。
 トワはドラジュと共にユラへのプレゼントを探しに。
 セツナは無邪気にユラに『せんせー』の素敵なところをプレゼンした。

 そしてパーティーの日がやって来た。

 美し着飾った全能神に皆が見惚れた。
 メイクを担当した者も、髪をセットした者も、ドレスを着せた者も皆サイヒに見惚れている。
 今日の主役はドラジュのはずなのに完全に存在を食ってしまっている。
 サイヒの女装はソレだけの迫力がある。
 人間美しすぎる者には同時に恐怖すら抱く。
 サイヒはそんな美しさを兼ね備えていた。

「サイヒが着飾るのを見るのは嬉しいが、ドラジュが霞みはしないか?」

 着替えが終わり部屋で寛いでいると愛猫がすり寄ってくる。
 コテリ、と銀色の毛並みにエメラルドの瞳のサイヒの愛猫が小首を傾げて尋ねた。
 愛らしい。
 大型犬も可愛いが、やはりサイヒは猫派である。
 まぁこの場合猫は比喩で銀色の髪とエメラルドの瞳を持つ美青年はサイヒの伴侶にして魔王、ルークなのであるが。

「私が男装すると”リリー・オブ・ザ・ヴァリー”に似てしまうからな。無駄な騒ぎは起こしたくない」

 そうリリー・オブ・ザ・ヴァリーの姿でないとサイヒは暴〇ん坊〇軍ごっこが出来なくなるので、リリー・オブ・ザ・ヴァリー=全能神の思考の可能性を出来るだけ削りたいのだ。
 我が子の為ではなく己の為と言うのがサイヒらしい。
 毒親ではない。
 子供たちも見事にサイヒの誑かしの能力と愉快犯の気質を受け継いでいる。
 子は親を見て育つものなのだ。
 ルーク成分は何処に行った、おい。
 大丈夫、色彩にルーク成分がある、問題ない。

「ドラジュはちゃんとプレゼントを見つけられたのだろうか?」

「私たちの子が出来ない分けないだろうルーク?」

 クッ、と赤い唇を三日月の様に笑んだ。
 それにルークはくらり、と色香に充てられ首まで真っ赤に染まる。
 もう新婚さんではない。
 子供も成人している。
 姿こそ出会った頃とそんなに変わってない(サイヒは胸が成長したが)のだが、ルークの心は相変わらずあの頃のまま純白の綺麗な心らしい。
 これくらい無垢でないとサイヒの夫は務まらない。
 ただ側近が代わりに胃を痛めて吐血を繰り返すが、それで世界が平穏なら良いであろう。

「ルーク様、客人たちは会場に揃いました」

 扉の向こうでクオンが声をかける。
 すぐに扉を開けないのは流石である。
 何処でも発情する全能神は何時何処でルークに何を致すか分からない。
 そんなとこに関わりたくないのでクオンは自己防衛能力が数段に上がった。
 ついでに胃もちょっぴ強くなった。
 今日こそはクオンが吐血をしないように祈ろうではないか。

「そうか、では行こうとするかルーク」

「サイヒ♡」

 ドレス姿でメイクもばっちりなのに挙動の1つ1つが男前なサイヒである。
 自然にルークをエスコートする。
 そんなサイヒにルークの瞳はもうハートだ。

「さて、楽しいパーティーになる事を祈ろうではないか」

 ニヤリとサイヒが微笑んだ。
 その横でルークがあわあわしているのは何時もの事なので気にしないで欲しい。

 こうして《ドラジュ様の恋を応援しようパーティー》が始まったのであった。

 今日も天界は平和である。
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