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そして全能神は愉快犯となった

【140話】

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 冷たい牢獄に男は居た。
 床と壁が冷たいのに男の体は熱かった。

「も…やめ………」

 涙を流しながら男は懇願した。
 だが誰もその言葉を聞いてやる気はない。

「こんな爺でもこれだけ善がれば挿れがいがあるな」

「それにしてもこんなに射精して体力持つのかよ?」

「まぁその爺が壊れたところで俺らに別に問題ないし?」

 男は爵位ある身であった。
 何人もの妻を娶った。
 法力の高い子を産ませれば、何もかも手に入るはずだった。

 だが、1人の男がそれを壊した。

 美しく強く能力がある男。
 誰もに愛されるであろう男。

 悔しかった。
 殺そうと思った。
 だが反対に力を見せつけられ、こうして呪われた術を掛けられ冷たい牢獄にいる。
 汚らしい男たちに体を蹂躙されている。

「誰か、助け……」

 コツコツ、と牢獄の廊下を歩く足音が響いた。
 音からして女の靴だろう。
 女に飢えている罪を犯した男を監禁している牢獄。
 その廊下を女が歩いているのに、下卑た男の声は上がらなかった。

「大変そうだな」

 落ち着いたアルトの声が意識も絶え絶えな男に声をかけた。
 その声が酷く甘く感じる。
 男ーダイカーン伯爵は顔を上げた。

「!?」

 そこに居たのは1度だけ遠目で見たことがある、美貌の女神。
 この天界統べる全能神。

 息が止まった。

 その美しさに。
 声など出すことも出来なかった。
 その圧倒的な存在感に。

「全能神、さま……」

 ダイカーン伯爵が救いを求めて全能神の方へ鉄格子の隙間から腕を伸ばす。
 そしてその法衣に隠されたつま先に触れた。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」

 背筋に悪寒が走る。
 体中が虫が這うような嫌悪感がダイカーン伯爵を襲った。

「あの時言ったのではないか。女に触れると気分が悪くなる、とな」

 全能神がクツクツと肉食獣のように喉を鳴らして笑った。
 酷く凶悪な笑みなのにその美貌は損なわれない。

「な、ぜ…その事、を……?」

「私の顔に見覚えはないか、ダイカーン伯爵?」

「貴女様のような、美貌の持ち主、な、ど………!?」

「気づいたか?」

「あ、あああああああああ!」

「気づいてくれたみたいで光栄だな。あの姿も良く似合っていただろう?」

「何故、貴女のような方が、あんな、あんな奴らのために!?」

「私が統べる民たちはみな私の子供に等しい。身近で見てみたくなるのも仕方ないであろう?まぁ私がたまに街の料理を食べたくなるのが1番の理由だがな」

「そんな…そんなそんなそんな………何故、下々のために、全能神様が…私は何の恩恵も受けていないのに………」

 ダイカーン伯爵の両目から滂沱の涙が溢れる。

「言っただろう?お前は留まるところを誤った、それが全てだ」

「ああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 喚くダイカーン伯爵の姿を冷たい視線で見下ろすと、全能神ーサイヒはもう興味はないとばかりに踵を返した。
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