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そして全能神は愉快犯となった

【137話】

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 神父が宣言した。
 神の皆の元この2人を夫婦と認めると。
 クムリーは絶望に涙を流した。
 ソレを見てダイカーン伯爵は残忍な笑みを浮かべた。
 
 ダイカーン伯爵はサドなのだ。

 いたいけな少女が絶望する様がたまらなく好きだった。
 クムリーはその条件に見事にピッタリとはまっていたのだ。
 目を付けられたのが哀れとしか言いようがない。

 ダイカーン伯爵が屈んだクムリーのベールを纏う。
 絶望から涙を流している年若い花嫁は儚さを醸し出していて、何とも言えない色香があった。

 ダイカーン伯爵の唇がクムリーの唇に重なろうとしたその時。

「その結婚待たれよっ!!」

 聞き心地の良いアルトの声が開かれたチャペルの扉のほうから木霊した。

 皆がそちらを見る。
 そこに居るのは空色の髪と翡翠色の瞳の美少年だった。

「リリー君!?」

 クムリーが叫んだ。
 自分が働いているシャコレーゼで甘味を爆買いしていく冒険者の美少年だ。
 店の店員にも人気が高い。
 何せとんでもない美形なのだ。

 リリー・オブ・ザ・ヴァリーは王都の初恋泥棒として有名なのだ。
 貴族とは関わらない用にしているから上からの覚えはないが。

「クムリー!貴様男がいたのか!?」

「ち、違いますっ!私は誰とも恋仲になった事は…」

「そう、クムリーちゃんの言う通りだダイカーン伯爵。私はリリー、今日はナイト役を務めさせて貰うぞ」

 ニヤリ、とリリーが笑みを浮かべる。
 それだけでその場に居た男も女も頬を赤くした。
 妙な色気があるのだ、リリーと言う少年は。

 言うが否や、リリーの姿が消えた。

「「「「「!?」」」」」

 瞬間、クムリーを横抱きにしたリリーがチャペルの最前列のベンチの上に居た。

「え、何?」

「すぐ終わらせるから、少し座ていてくれお姫様?」

 クムリーを席に座らせると、リリーはその手を取って左手薬指に唇を寄せた。

「「「「「!?」」」」」

 すると束縛を意味する指輪はボロボロと風化して崩れていった。

「なっ、契約の指輪が!?」

「相手の行動を制限する術がかかった指輪は結婚指輪には向いてないだろう?」

 クツクツとリリーが喉で笑う。
 ダイカーン伯爵は怒りで顔を真っ赤にした。
 もうこの時点で2人の格の差は現れていた。

「さて、下町のお姫様を返して貰うぞダイカーン伯爵」

「この、小僧が!儂自ら切り刻んでくれるわ!!」

 ダイカーン伯爵が傍に居た兵士の剣を腰から抜き取りリリーに向けて構えた。

 こうして1人の少女を巡っての波乱劇が幕を開けた。
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