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そして全能神は愉快犯となった

【118話】

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「ユラさん、今から地上に行くのですがお付き合い頂けないでしょうか?」

 夜の闇を溶かし込んだような黒髪にエメラルドの瞳。
 中性的な優し気な美貌。
 身長が高く細身に見えるが逞しい筋肉がその服の下には隠れている。
 黒字に緑のラインの入ったシンプルだが上質な服装が良く似合う。
 声は耳障りの良いテノール。

 その優しげな声と柔らかな笑顔に、見ていた女性陣はみなほう、と溜息を吐いた。

 優しげなのは口調や声だけではない。
 この声の主は王宮の中でも特に誰に対しても慈悲深いのだ。

 声の主ードラジュを悪く言うものなどこの天界に存在しない。

 声をかけられた女性もドラジュが良い男なのを分かっている。
 だが女性ーユラはこの全スペックSSRの男が苦手である。
 いや、苦手とはちょっと違う。
 一緒にて気まずいと言うか恥ずかしいと言うか。

 簡単に言うとユラはドラジュを異性として意識しているのである。

 この何億歳も年下の青年に。
 ドラジュももう18歳だ。
 天界では18歳が成人だ。
 なのでドラジュは18の誕生日を迎えて目出度く成人の仲間入りをした。

 そこからはドラジュの行動は早かった。

 婚姻届けと指輪を用意し、ユラにプロポーズをぶちかましたのだ。
 すでに5,6歳を超えたあたりから、ドラジュはユラにプロポーズのような言葉を発していた。
 だが子供の戯言だとユラは思っていたのだ。
 小さな子供が面倒を見てくれる大人に「大きくなったら結婚してね!」と言いながら十数年後には別の相手と結婚していたなんて話はよくある事だ。

 ユラはドラジュもそうだと思っていた。

 何故ならその頃のドラジュはどう見ても女の子寄りで、更には中性体。
 いつか男に恋し、女性として性別を得るだろうと皆が思っていたからだ。

 だが2次成長が始まるとドラジュは男性体へと変化した。
 これには皆が驚いた。
 ドラジュが男性体になったのも驚いたが、女好きの双子の兄(?)であるカマラより先に性別が確定するとは誰も思っていなかったのだ。

 その兄のカマラだが、ドラジュが男になったのとほぼ同時に地上で「何時でも笑顔でいて欲しい女の子に出会った」と母親である全能神ーサイヒの許可を得て地上に降りている。
 カマラにとって従兄弟伯父に当たるガフティラベル帝国の皇帝ーアンドュアイスにその身を任されている。
 笑顔でいて欲しい女の子の傍に居るため、人間としてアンドュアイスの家臣となったのだ。
 本来の白銀の髪と青銀の瞳を黒に変え、名前を変え、神力を封じられた状態でもう5年も地上で暮らしいる。
 
 が、未だに性別変化は起こっていない。

 その兄の様子を見に行くのはドラジュの役割だ。
 サイヒは時折神眼で様子を把握(盗聴覗き駄目絶対!)しているようだが、何も話さないためカマラが今どういった状況か分かってはいない。
 なので様子を見に、定期的にドラジュが地上まで足を運んでいる。

 今回もそれでは地上に降りようと思ったところ、愛しのユラを見つけた次第だ。

 ユラがコチラに気付いて逃げようとした事はすぐに気付いたので、逃げ切られる前に声をかけた。
 先手必勝である。
 さすがはサイヒの息子。
 優しいのに嘘は無いが結構イイ性格をしている。
 その”イイ性格”を知っているのはサイヒとユラぐらいだろう。
 
 サイヒは誰に似たのかと嘆いている。
 「お前だお前」と思ったがユラは敢えて言わないでやった。
 数億年も生きていれば右から左に受け流すのも上手くなろうと良いものだ。

 そしてユラは”性格のいいドラジュ様”に声をかけられて一緒に地上に行く事となった。
 御断りは出来ない。
 ”性格のいいドラジュ様”のお誘いを蹴ったとあれば、どんな非難がどんな形で飛んでくるか分からないからだ。
 こうしてユラは”イイ性格のドラジュ様”と地上デートになった訳である。

 何時からデートになった?
 ドラジュの中ではユラと2人きりで出かけるなら、どんな場所でもそれはデートなのだ。
 
 皆が大好きドラジュ様に既成事実を作られないよう、ユラには頑張って欲しいものである。

 何せ喪女で乙女のユラにドラジュの存在は刺激が強すぎる。
 その事を知っていながら”性格のいいドラジュ様”は外堀から埋めていっているのだが、その事に気付かないユラは流石は彼氏いない歴=年齢なだけはある。

 色んな意味でユラがドラジュに食べられてしまう日は、そう遠くないのかもしれない。
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