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そして全能神は愉快犯となった

【96話】

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 2月14日。
 この日は特別な日である。
 国によってまちまちだが、基本この日は気になる異性(まぁ同性の場合もあるだろうが)に告白しても良い日になっている。
 何気に神話時代から続いている記念日だ。

 そしてソレは天界でも変わらないらしい。

「ほう、中々の数を貰ったなクオン」

 執務室のクオンの机にはどっさりチョコレートが山積みになっていた。

「地上に居た頃より増えてるのは何故だ…?」

 それはクオンが優秀だからである。
 何せ愉快犯な全能神は仕事は出来るが無駄に厄介事を招いてくれる。
 王宮を抜け出すなんてしょっちゅうだ。
 その全能神の首根っこを掴んで王宮に連れ戻しす事が出来る唯一がクオンである。
 
 仕事が出来て顔が良くて頼りになる。

 何と言う優良物件か。

 マロンと言う将来を誓い合った少女が存在しても、お姉さま方はチャンスをものにしようと、こういう時にアピールをかかさない。
 マロンがまだ幼い事も理由の1つだろう。
 成人するまでは清いお付き合い宣言も本人たちがしているので、後2年半。
 チャンスはまだまだあると立候補する女性は少なくない。

 勿論クオンはマロン一筋であるので靡いたりしないが。

 しかしマロンにとっては何とも言えない歯痒さがある。
 早く大人になりたい。
 偶にサイヒにポツリと愚痴をこぼす程度にはこの事態を面白くないと思っているようだ。

 だが嫉妬しているのはマロンだけでない。
 クオンだって王宮の男性に支持の熱いマロンにヤキモキしている。
 頼むからあまり身内以外の胃袋を捕まえないでくれ、と言うやつだ。

 実際マロンは執務室で武官たちにお茶(ちょっとした茶菓子セットだ)を入れたりいしているので、皆すっかり骨抜きだ。
 ついてくる茶菓子は全部マロンの手作り。
 サイヒに作るついでの余りだが、コレが旨い。
 全能神に献上されている茶菓子だ。
 不味いはずがない。

 実際マロンにモーションをかけようとする輩は居るが、秘密裏にサイヒによってのされている。
 全能神様は心友に対しては物凄い過保護なのである。
 まぁクオンのあずかり知らぬところではあるが。

「で、食べるのか?」

「返事はするが食べはしない。心を捧げた人がいるのに思わせぶりな態度をとるのは逆に失礼だろう」

 何とも模範解答である。
 サイヒに臆さずこれほど堂々とした態度も持てる魅力の一因である。
 ちなみに男にもモテる。
 ゲイ的なものでは無い。
 男が男の男気に惚れると言うヤツだ。

 クオンの言葉に何故か執務室の文官たちがうんうん、と頷いている。
 女性にモテるが男にも嫌われない男。
 それがこのクオンと言う男なのである。

 だがチョコレートで困っているのはクオンだけではない。
 
 何とも命知らずが居るものだが、全能神の伴侶であり魔王であるルークはこの何倍も貰っている。
 部屋までチョコレートで埋まっている。
 断りはするがチョコレートを粗末にも出来ない。
 サイヒ命だがチョコレートをくれた相手の勇気に非道な真似はしたくない。
 バレンタインは1年で1度、女の子が勇気を振り絞って好意を伝える事の出来る日なのだ。
 その勇気をポイ、と捨てれる程ルークは非道ではない。

 むしろ女の子に共感を抱く姿勢だ。
 ちょっと頭の中が乙女すぎる魔王である。

 まぁ優秀な側近であるクオンが何とかするだろう。

 サイヒからの信頼は抜群である。
 何せ心友なものでして。

 それ以上に困った事が1つ。

「で、王宮の倉庫を2つ占領しているチョコレート諸々のプレゼントはどうするつもりだサイヒ?」

「うん、何の事だ?」

「空色の髪に翡翠の目のリリー・オブ・ザ・ヴァリー様宛のプレゼントが倉庫を2つ占領している。で、どうするつもりだサイヒ?」

 クオンから冷たい冷気が発せられているようである。
 それ程目つきが冷たい。
 クオンは魔術適正がないので冷気を発するなど出来るはずが無いのに。
 その冷気を執務室の者も感じた。
 まじめな男は怒らすと怖いものなのである。

「ふむ、何だろうなソレは?」

「し・ら・じ・ら・し・い」

「ちょ、痛いぞクオン!」

 グリグリとサイヒのこめかみに拳を押し付けるクオン。
 絶対無敵の全能神様にこんな事が出来るのは彼だけである。

「ま、まぁ私は妊娠してるから甘いものは避けねばならんしな。何処かに寄付でもしていてくれ。宛先だけ確認してくれたら後に礼には行く」

「女心を弄ぶなよ?」

「弄んだ記憶は無いんだが?」

「妊娠した女が女からチョコレートを貰う時点で確実に誑かしているだろう!」

「いや、普通だ。何時も通り普通にしてたぞ?」

「ソレを誑かしていると言うのだ!」

「イタイタイタ、妊婦に暴力は良くないぞ!」

「これ位でお前の腹にダメージが行く訳がないだろうが!!」

 そうして戯れるサイヒとクオンを見ながらはぁ、と小さく溜息をつく1人の姿があった。

 :::

「で、ルークどうした浮かない顔をして?早くベッドに入らないか、寒いだろう?」

 大きな天蓋付きベッドでふわふわの掛け布団を捲ってサイヒがルークを促す。
 とうのルークは寝着で手を後ろにしたままモジモジとしている。
 全く持って性別が逆に感じてしまうのは何故だろうか?

「いや、ちょっと部屋に忘れ物をしたか先に寝ていてくれ…」

「忘れ物とはその後ろに隠してるものを置いてくることか?」

「!?」

「甘い匂いがする。香しいな、私にくれるぬのかルーク」

 ルークの頬がバラ色に染まる。
 そして目がおどおどと視線を彷徨わせる。
 その挙動すらサイヒには愛おしい。

「チョコは私の大好物だ。イチゴの香りもする。私は同じくらいイチゴも好きだぞ。どんなチョコを作ってくれたんだ?ルークが私の為に考えて作ってくれたのだろう?お前の手で食べさせてくれ」

「でも、妊娠中は甘いものは良くないと!」

「全知全能の能力が使える私が糖分を体に吸収されないように分解するなぞ造作もないことだ。心配せずともルークのチョコは私にも子供たちにも害にはならなんよ」

「だって昼間クオンに…」

「あんなのは詭弁だ」

「では何故倉庫のチョコレートは食べないのだ?」

「そんなもの、最愛から貰うチョコだけで満足いくからに決まっているからだ」

 サイヒが目を細めて笑う。
 その青銀の瞳に獰猛な光が見えた気がして、ルークは体まで熱くなる。

「くれぬのなら力づくで貰おうか?体が動かなくなるまでお前を嬲りつくすとしようルーク。チョコレートの前のルークの甘い声の前菜と言うのも悪くない」

 クッ、とサイヒの唇が弧を描く。
 それは酷く蠱惑的でルークは今までの経験からこのサイヒから逃げられないことを知っている。
 だってもう足が動かないのだ。
 だがルークにだって矜持はある。

「私は、メインディッシュにはしてくれないのか?チョコレートの方が本命か?」

 潤んだエメラルドの瞳でルークがサイヒを見ながら問う。
 それは唯一サイヒに勝ち目の出ない出目だ。

「ふふ、そうだな。お前がメインディッシュだ。だから早く私にお前の作った甘い菓子を食べさせておくれ」

「味の保証は出来ないからな……」

 ベッドの上にルークが乗り上げラッピングされたチョコレートを出す。
 ただ単にイチゴをチョコでコーティングしたもの。
 パティシェやマロンが作る様な腕はルークには無い。
 だがサイヒが食べたいと思うのはルークの作ったチョコだけだ。

 1粒、ルークが指でつまんでサイヒの唇にチョコを運ぶ。
 それをルークの指ごとサイヒが口に含む。
 チョコレートを舌で溶かしながらルークの指も舌で弄ぶ。

「サイヒ……」

 何時まで経っても色事に慣れない伴侶に気分を良くしながら、サイヒは2粒目のチョコをルークに口に入れるよう視線だけで促した。
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