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【85話】
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最近のサイヒはぐったりしている。
妊娠の為だ。
腹の中の胎児も3ヵ月を迎え悪阻が始まったのだ。
全知全能の能力を持つのだから悪阻ぐらい本当は何とでもなるのだ。
だがサイヒは苦しい道を選んだ。
世の母親が経験する胎児を腹で育てる苦労から逃げたくなかったのだ。
サイヒは母親と言う生き物を尊敬している。
10ヵ月10日、別の生命を腹に宿し守り続ける。
愛情が無ければ出来ないだろう。
愛情があるから出来るのだ。
だから苦しくとも耐えられる。
その”母親”が通る苦しい道を外れたくなかった。
それでは”母親”の役目から逃げたとサイヒは思っているから。
「お兄様、冷たい果実水です。飲めますか?」
「何味だ?」
「オレンジです」
「頂く」
マロンに渡されたグラスをソファで横になった体勢で受け取る。
グラスはしっかり冷えている。
カラン、とグラスの中の氷が鳴る。
行儀は悪いがサイヒはストローを口に含み、ソファで横になった体勢のまま果実水を吸い上げた。
「プァッ、冷たくて心地良いな。酸っぱくて気分が悪いのが多少紛れる」
「良かったですわ。でも今日もお食事は無理そうですか?」
「本当なら皆と食事の席に着きたいのだがな。固形物はまだしんどい」
「夜はポタージュのスープを用意しますね。冷製の方が良いですか?」
「うむ、冷たいのが良いな」
「コーン(クオンではない)とジャガイモどちらが宜しいですか?」
「ジャガイモだな」
「では夜はビシソワーズをお出しします。部屋を出るのも辛そうですしお部屋にお持ちしますね」
「そうしてくれ。ルークが寂しがるだろうがな」
「ルーク様はお兄様の事が本当に大好きですから」
ニッコリと花を背景にちらせてマロンが笑う。
ちなみに花の種類は色取り取りのガーベラである。
背景に花が見える辺り、サイヒも大概マロンに対してシスコンである。
「でも本当にお辛そうで…変われるなら私がその辛さを引き受けたい位です……」
本当に残念そうにマロンが言う。
確かにサイヒならソレも出来ないことはないが、今はこの状況を楽しみたい。
”苦しい”などサイヒには無縁の長物だったから。
様々なスペックが高すぎるサイヒは”苦悩””苦痛”とは無縁で生きて来た。
なのでこの状況も物珍しくて新鮮な体験なのだ。
なのに、しんどいサイヒ本人より辛そうな面持ちでそんな事言うマロンに思わずクスクスと笑みが漏れる。
「私何か変な事言いましたか?」
「あぁ、マロンも後数年もすれば同じ立場になるだろうからな。急いでこのしんどさを引き受ける必要もないのに、と思ってな」
「な、あ……」
サイヒの言いたいことに気付いたマロンは顔を真っ赤に染めた。
今のサイヒと”同じ立場”とは”そう言う”ことである。
思わず色々な事を想像してしまい初心なマロンは真っ赤になるしかなかったのだ。
「その時は私が果実水とスープを用意しよう」
「~~~ヨロシクオネガイイタシマス」
固まったマロンの姿を見てサイヒはまたクスクスと笑みをこぼすのだった。
妊娠の為だ。
腹の中の胎児も3ヵ月を迎え悪阻が始まったのだ。
全知全能の能力を持つのだから悪阻ぐらい本当は何とでもなるのだ。
だがサイヒは苦しい道を選んだ。
世の母親が経験する胎児を腹で育てる苦労から逃げたくなかったのだ。
サイヒは母親と言う生き物を尊敬している。
10ヵ月10日、別の生命を腹に宿し守り続ける。
愛情が無ければ出来ないだろう。
愛情があるから出来るのだ。
だから苦しくとも耐えられる。
その”母親”が通る苦しい道を外れたくなかった。
それでは”母親”の役目から逃げたとサイヒは思っているから。
「お兄様、冷たい果実水です。飲めますか?」
「何味だ?」
「オレンジです」
「頂く」
マロンに渡されたグラスをソファで横になった体勢で受け取る。
グラスはしっかり冷えている。
カラン、とグラスの中の氷が鳴る。
行儀は悪いがサイヒはストローを口に含み、ソファで横になった体勢のまま果実水を吸い上げた。
「プァッ、冷たくて心地良いな。酸っぱくて気分が悪いのが多少紛れる」
「良かったですわ。でも今日もお食事は無理そうですか?」
「本当なら皆と食事の席に着きたいのだがな。固形物はまだしんどい」
「夜はポタージュのスープを用意しますね。冷製の方が良いですか?」
「うむ、冷たいのが良いな」
「コーン(クオンではない)とジャガイモどちらが宜しいですか?」
「ジャガイモだな」
「では夜はビシソワーズをお出しします。部屋を出るのも辛そうですしお部屋にお持ちしますね」
「そうしてくれ。ルークが寂しがるだろうがな」
「ルーク様はお兄様の事が本当に大好きですから」
ニッコリと花を背景にちらせてマロンが笑う。
ちなみに花の種類は色取り取りのガーベラである。
背景に花が見える辺り、サイヒも大概マロンに対してシスコンである。
「でも本当にお辛そうで…変われるなら私がその辛さを引き受けたい位です……」
本当に残念そうにマロンが言う。
確かにサイヒならソレも出来ないことはないが、今はこの状況を楽しみたい。
”苦しい”などサイヒには無縁の長物だったから。
様々なスペックが高すぎるサイヒは”苦悩””苦痛”とは無縁で生きて来た。
なのでこの状況も物珍しくて新鮮な体験なのだ。
なのに、しんどいサイヒ本人より辛そうな面持ちでそんな事言うマロンに思わずクスクスと笑みが漏れる。
「私何か変な事言いましたか?」
「あぁ、マロンも後数年もすれば同じ立場になるだろうからな。急いでこのしんどさを引き受ける必要もないのに、と思ってな」
「な、あ……」
サイヒの言いたいことに気付いたマロンは顔を真っ赤に染めた。
今のサイヒと”同じ立場”とは”そう言う”ことである。
思わず色々な事を想像してしまい初心なマロンは真っ赤になるしかなかったのだ。
「その時は私が果実水とスープを用意しよう」
「~~~ヨロシクオネガイイタシマス」
固まったマロンの姿を見てサイヒはまたクスクスと笑みをこぼすのだった。
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