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《166話》

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『サラを番わす気は無いのか?それも飼い主の責任であろう?』

 全能神の言葉がセブンの頭にグルグル回る。
 何なら視界もグルグル回る。
 完全な2日酔いである。
 頭がガンガンと痛い。

 2日酔い、そう2日酔いだ。

 と、自分に言い聞かすには全能神の言葉はセブンの心の中心を貫いていた。

 取り合えず2日酔いの煎じ薬を探す。
 作ってからかなり日はたったが効能は十分なはずだ。
 セブンは己の調合能力には自信がある。
 何気に全能神の傍仕えのスクワラル商会のレシピ考案者にライバル心を持っているのは秘密である。

 成分は、・猪苓(チョレイ)・茯苓(ブクリョウ)・蒼朮(ソウジュツ)・沢瀉(タクシャ)・桂皮(ケイヒ)
 この薬には、体内の水分代謝を改善するはたらきがあり、通常は、むくみ、喉の乾き、下痢、吐き気、頭痛などの症状を和らげるために用いられる。
 外に水分を出す作用があるため、二日酔いの原因となっている代謝物を排出する作用とともに、二日酔いの症状を改善する効果もある。
 それが、二日酔いには効果的であるとされている所以になる。
 漢方薬の場合、体力の有無などで、そのお薬が適しているかどうか判断する場合が多いが、この薬は体力に関係なく服用することができ、喉の渇きがある、尿量が少ない場合に各々の症状に対して用いられる。
 喉の渇きがあり、尿量が少ないという症状がある上で、二日酔い症状がある場合に、服用するのが大変効果的であるのだ。

 部屋の棚の奥に薬は仕舞ってあった。
 それを適量手に取る。
 そして 苦みがある薬を一気に口の中に流し込み水で喉の奥に流しきる。
 今は苦みが2日酔いで痛い頭に心地良くさえ感じる。
 水差しの水はそれで空になった。
 今日の分を入れたさないといけないだろう。

 それにしても意識が無いのにちゃんと自分の部屋に帰った自分を褒めてやりたい。
 お陰でテーブルで寝こけるような真似はせずにすんだので、体が痛くない。
 セブンの布団は無駄に柔らかいのだ。
 王族時代の名残かベッドが柔らかくないとあまり寝れない体質だ。
 その代わりどこでもショートスリープして体力を蓄える、と言う特技を得たが。
 それでもぐっすり寝れるのは己のベッドだけだ。

「いや、ここ最近に硬いベッドでも寝れた記憶があるような?ないような?あの時は風邪をひいていたから記憶が定かでは無いんだよな」

 相変わらず高熱を出してアーシュ化した記憶は忘れているようである。

「あ”~片付けんとな」

 全能神の言葉で意識がブラックアウトした後、食後の片づけを全然していない。
 せめて使った皿を水に浸しておきたかった。
 乾燥した皿の汚れの落ち易さは大変に厄介である。
 
 もうセブンの思考は主夫のソレに近い。
 医者として半端なく腕が良いのだが、ご近所さんでは『家庭の知恵袋のセブンさん』で通っているくらいには主夫としても優秀なのだ。

(ん?何か良い匂いがする?)

 トントンと一定のリズムで刻まれる音。
 疲れた体に染み入る様な香ばしい香り。

 厨房からだ。

「ア、ラ…………」

 ソコには最近伸びてきた髪をハーフアップにして朝食の用意をしているサラの姿が有った。
 シンクに汚れ物は溜まっていない。
 代わりに食器乾燥ラックに綺麗になった食器が立てかけられていた。

「あ、セブンさん、おはよう、です。ご飯、もうすぐ、出来ます、ね」

 振り向いてサラがふにゃりと笑う。
 部屋着にレモン色のエプロン。
 サラ専用のエプロンだ。
 セブンがサラがセブン宅で過ごす時間が長くなり出したころにプレゼントしたものだ。
 あの時も、こんな風にふにゃりと笑っていた。
 その時初めて心臓がドキリと跳ねると言う経験をしたのだ。

(心臓が五月蠅い!これじゃぁアラに聞こえるだろーがっ!!)

 顔が火照る。
 心臓が高鳴る。
 サラが笑っている。
 己のために朝食を用意している。
 
 コレを手放す?

 何処かの輩に渡す?

 有り得ない。
 そう有り得ない。
 コレはセブンのモノだ。
 セブンが見つけて磨き上げたのだ。
 所有権を誰が渡してやるものか。

『アラを番わせる気は無いのか?』

(今なら言えますよサイヒ様、コレは俺のもんだから、責任もって俺が一生面倒を見ます)

「セブンさん、椅子、座って下さ、い」

 食卓に並ぶのはご飯に味噌汁。玉子焼き・ホウレン草のお浸し・味付け海苔だ。
 手は込んでいないが十分に寝起きならご馳走である。

「どうぞ、召し上がって、下さい」

「あぁ、いただきます」

 綺麗な箸使いでセブンが食卓に並んだ食事を口に運んでいく。
 それをサラははらはらとした面持ちで見ている。

「そんなに見られると穴が開きそうだな。心配しなくてもちゃんと美味いぞ」

「おかわり、ある、です!」

 ドクターセブン改め本名アシュバット・ゼイブン・ディノート、33歳にして初めての初恋の始まりであった。
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