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《133話》

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 セブンが往診に来て国王と2人になる時はサラはナナと共に診療所に帰される。
 ナナと一緒、と言う所がみそだ。
 どうもあのアホ王子はサラを狙っているみたいなので?
 セブンなりの牽制なのである。

 診療所に戻ったらカルテやなんやらと診療以外の仕事もある。
 セブンが居ない時は患者は診ない。
 何か不手際があったら大変だからだ。
 従業員を護るセブンなりの心遣いである。

 そうしてセブンと別れて王宮を後にしようと、ふかふかの絨毯が敷かれた廊下を歩く。
 ふかふかだ。
 サラの自室のベッドよりふかふかかもしれない。
 セブンの所のベッドなら勝てるだろう。

 手に持つのは保冷バッグ。
 医療器具はセブンが自分の手で運ばないと気が済まないらしい。
 セブンにとって1番のパートナーは医療器具かも知れない。
 早く人間のパートナーを作って欲しいと国王も心から思っている事だろう。
 今のところその兆しは遥か遠い。

 保冷バッグの中身はセブンお手製のお菓子。
 国王が食べたものと同じだ。
 これを食べて事務仕事に励めという事だろう。

「今日のお菓子なんだった?」

「シフォン、ケーキ、で、す♡」

 ふかふかのシフォンケーキ。
 きっと王宮の絨毯よりふかふかだ。
 それにフォークを突き立てるのを想像するとサラの心は浮き立つ。
 横に添えるのは生クリームとアイスどちらにしようか?
 どちらも診療所の冷凍boxと冷蔵boxに入ってある。
 自由に食べてよいとのお達しも受けてある。
 生クリームとアイスクリームの食べ放題。
 セブンの目があるところではとてもじゃないが出来ない贅沢だ。
 良し、両方トッピングしちゃおう!
 さらにチョコソースもかけてみたり?
 カロリーの塊が出来上がりそうである。

 ウキウキと浮き立つサラの心を沈める声が背後からかけられた。

「おいサラ!今日こそ付き合って貰うぞ!」

 アコロ王子である。
 サラの機嫌ゲージが一気に下がった。

「何のよう、です、か?」

 サラには珍しい事だが、サラはアコロ王子が嫌いである。
 苦手な人間は多々いるが、嫌いなのはアコロ王子限定だ。
 数年に及ぶ見下し罵られた年月。
 平民と罵られ、さらにはジャガイモ天国の神殿での生活。
 サラの扱いが神殿で悪かったのはひとえにアコロ王子がサラを貶めていたからだ。
 人間長いモノには巻かれたい。
 神殿の人間も大人しいサラより、アコロ王子の不況を買う方が嫌だったのである。
 それでも立ち止まり話くらいは聞く。
 とても嫌そうな顔をしているが。

「サラちゃんに何か用かしら皮王子?」

 んふ♡と吐息を漏らしてナナが発言する。
 質問しているだけなのに、立っているだけなのに、やたらと蠱惑的なのは何故なのか?
 思わずアコロ王子の小ぶりの王子が起っきしてしまいそうになる。
 だがアコロ王子はナナが苦手である。
 見下して来る上、どう反論して良いか分からない。
 この辺りは格の違いだろう。
 なのでアコロ王子はナナを居ないものとした。
 平たく言えば無視である。

「私の部屋に行くぞ」

「嫌、です」

「私の部屋に招かれる栄誉が分からないみたいだな?」

「部屋で何、する、ですか?」

「体つきは女らしくなっても頭は子供のままか?まぁ仕込むのも悪くない、ククク」

 悪役のような笑い方はディノート王族の遺伝子に刻み込まれているのだろうか?

「来いっ!」

 アコロ王子がサラの手首を掴む。
 そして引きずって行こうと力を込めた瞬間。

 フワリ

「!?」

 アコロ王子の体が宙に浮いた。

「へ?」

 ドンッ!!!

「痛っ!!」

 ふかふかの絨毯でも重力と体重で思いきり地面に叩きつけられたアコロ王子の衝撃を吸収が出来なかった。
 痛みにアコロ王子が声を上げる。
 そしてサラの行動にナナも驚いて声が出た。
 先ほどの「へ?」はナナのものである。

 それにしても見事な投げ技であった。
 アコロ王子は一瞬重力が消えたかのように宙に舞った。
 サラが合気道の要領で投げたのである。
 勿論その技が合気道だとサラは知らない。
 失われた神話時代の体術だ。

 ギリギリギリ

「いったたたたたったたたたっ!!!」

 アコロ王子が悲鳴を上げる。
 サラが腕の関節を固めて居るのだ。

「国王様から、アコロ王子、が、手を出して来たら反撃、していい、許可貰って、ます」

「離せ!お前は聖女の癖に王族の人間に暴力をふるうのか!?」

「王族でも敵なら、力、ふるいます。私、ドラゴンは無理、でもオーク程度なら、素手で倒せるくらいの体術、出来るです」

「そうなのサラちゃん!?」

「サイヒ様から習っている、です」
 
 どうやらサラに体術を仕込んだのは全能神らしい。
 それに今のサラの言い方なら法術を合わせればドラゴンでも倒せるような言い方だ。
 実際そうなのだろう。
 全能神が中途半端な能力を仕込む筈が無い。

「帰って、良い、ですか?」

「帰れ!貴様の顔なぞ見たくない!!」

 その返答にサラはアコロ王子の腕の拘束を解いた。

「後悔させてやるからな!」

「私、は、貴方には、容赦しない、と決めてます」

 サラの眼差しは鋭い。
 一体いつの間にこの少女はここまでの箔をつけたのか。
 それは自分を認めてくれる存在が周りにいるからだろう。
 大好きな人のために自分を卑下しないとサラは決めているのだ。

 サラの冷たい視線に恐怖を感じたアコロ王子は罵詈雑言を叫びながら廊下を走って行った。
 あまりにも無様な姿である。

(サラちゃん、怒らせないようにしましょう………)

 心の中でナナは決心したのだった。
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