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《98話》

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「んん~むぅ~~~~…」

 体が重い。
 何かに拘束されているようだ。
 
「なん、です…か……?」

 寝ているベッドのスプリングがサラの部屋の物より数倍良い。
 ふかふかだ。
 上にかけられているのもふわふわの布団。
 ただ少し暑い。
 自分はそんなに厚着していないはずだが…?

 そう言えば服を来ているまま寝たのだろうか?
 レオンハルトがくれた一張羅のワンピースだ。
 着たまま寝たら皺になる。

「れも、まだ、眠い、で、す…」

 布団の中でもぞもぞと動く。
 ワンピースを脱ごうと思ったのだ。
 それ寝ている時までブラをつけていると苦しい。
 コレも脱ごう。
 そうサラは思った。

「ん?ん?」

 いろんな布地が体に巻き付いてワンピースが脱げない。

 と言うか着ていない。

 なのに体中に布が巻き付いている。
 体の表面に巻き付くその布は、質感からいってタオル地のようだ。
 何枚も巻き付いている。
 
 動きにくい。

 1枚1枚それを剥いで、布団から外へぽいっと出す。

 1枚
 2枚
 3枚
 4枚
 5枚

 おかしい。
 自分の家にそんなにバスタオルがあったのだろうか?

 もぞもぞ

 ついでにブラも取る。
 これも布団からポイ、だ。

「ふぅ…」

 締め付けが無くなって苦しさが無くなった。
 これで寝やすい。
 もうひと眠りしよう。

 いや、ちょっと待て。
 
 だからここは何処なのか…?

 このベッドは絶対に自分の物ではない。

 頭もガンガンするが、昨日の記憶を辿る。

 バレエを見に行った。
 待ち合わせで会ったセブンがいつもと違って正装で格好良くて少し見惚れた。
 博識でバレエを見ながら説明もしてくれた。
 やっぱりセブンは博識だ。
 サラが知らないことをいっぱい知っている。
 横顔が意外と綺麗だと思った。

 次にレストラン。
 綺麗な格好をして良かった。
 高級レストランだったからだ。
 周りの人も綺麗な格好をしていた。
 少し浮いているんじゃないかと思ったけど、セブンが背筋をピンと伸ばして堂々としているから心配は何処かに消えた。
 セブンが本当に頼りになると思った。
 何故かサラが誇らしくなった。

 凛々しいセブンと若いサラはどんな関係に見えていただろう?

 兄妹?
 親戚?
 友達?
 それとも…恋人、だとか………?

(ひゃぁぁあぁあ私何考えてるですか!)

 窓際の良い席で料理を食べた。
 綺麗な料理。
 ちゃんとしたフルコースを食べるのはサイヒの結婚式以来だ。
 味は美味しかったが、流石に天界のフルコースには及ばない。
 それでもこんなキチンとした料理を食べるのは緊張した。
 サイヒに昔マナーを躾て貰っていて良かったと心から思った。
 そしてセブンは食べ方が綺麗だった。
 1口1口、食べる姿が様になる。
 ナイフとフォークの使い方が様になっている。
 セブンの大きな綺麗な手は、メス以外を握っていても様になるのだと思った。

 緊張してしきりに葡萄ジュースを飲んだのを覚えている。
 不思議な味だが美味しいジュースだった。
 何故かこのジュースを飲んでいると緊張が緩和する。
 普段揶揄われるかおちょくられるか怒られるかしかないセブンと会話が弾んだ。
 凄く、楽しかった。
 優しい目で笑うセブンの微笑が目に焼き付いて離れない。

 あぁこの顔は好きだな、と思った。
 何時もこの優しい目をしていたら嬉しいのに思った。
 でも他の人には見せたくない気がした。
 その目を自分以外に向けないで欲しい。
 自分だけの特別な目にしたいと思った。

 そして。
 そして…?

 記憶が無い。
 頭がガンガンする。
 先ほどから試しているのだが治癒の法術で治らない。
 病気だろうか?

 何かに揺られてふわふわと足元に足が付いていないのに風が頬を撫でるのが気持ちよかった。
 抱き着いた温かい体温が心地良かった。
 アレは何だっただろう?

 そして今だ。

 謎のベッドに居る。
 まずはこのベッドから出ない事には何も始まらない。

「えい!」

 サラは身を起こした。
 布団がさらりと体から落ちる。
 上半身を起こす。
 そして目があった。

 風呂上がりで濡れた髪のセブンと。
 バスローブが様になっている。
 隙間から見える胸元に目がいって、何処を見ているのだと自分を𠮟咤したサラは視線を上にあげた。
 セブンが大きく目を見開いて、口をあんぐりと開けている。
 珍しい表情だ。 
 ちょっと可愛いなんて思ってしまった。

 だが次第にその顔が赤くなっていく。

「お、おい…アラ、せめて、胸元は隠した方が良いんじゃないか………?」

 言いながらもセブンの視線はサラの胸元から外れない。
 胸元から?

 サラはそう言えば先ほどブラを取ってベッドから放り出した記憶がある。
 つまり今の自分は。

「ひゃぁぁぁぁあっぁあっぁああぁあああああ!!!」

 上半身裸の胸を見られて、サラは腹の底から悲鳴を上げたのだった。
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