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《95話》

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 雰囲気の良いレストランでフルコース。
 星5つは堅いだろう、王族も利用する店だ。
 当然客は貴族ばかり。
 セブンはこういった店で緊張することはないが、サラはどうだろう?
 もの知らずな元聖女。
 出来るだけフォローをしてやろうとセブンは考えていた。

 が、以外にもサラはマナーがきっちり仕込まれていた。

 正直周りの客より綺麗に食べる。
 何時もみたいに食事の美味しさのあまりに興奮しないし感涙しない。

 食器とフォークやナイフが音を立てる様子が見られない。
 
 何時ものふにゃっ、とした顔では無くて、どことなく品さえ感じられる。
 セブンは驚いた。
 神殿にほぼ監禁状態だったサラが何処でテーブルマナーを身に付けたのだろうかと。

「アラ、神殿でもこう言うメニューが出されることがあったのか?」

「いえ、神殿で、は、ジャガイモばかり、でした、よ?」

 コテン、と首を傾げる。
 妙に愛らしく見えるのは何故だろう?
 店の雰囲気にやられたのかもしれないとセブンは思った。
 今更この程度の店で緊張する出自では無いはずの己であるはずが、雰囲気に飲まれた?

 いや無い。
 それは絶対無い。

 では何だか胸がざわめくこの感じは何なのか?
 セブンは首を捻った。

「サイヒ様、が、格式の高い、ところに行っても恥をかかない、ように、と、教えて、くれました」

「へぇ~サイヒ様がね………」

 ムカッ!

「?」

 セブンの胸に謎のいら立ちが駆け抜けた。
 あのサイヒ様が教えてくれたと言うなら、サラのマナーがシッカリしているのも頷ける。
 だが何か悔しい気もする。
 それを教えるのは自分でありたかった、とセブンはその嫉妬の中身を認識できていない。

「セブンさんも、食べ方、凄く綺麗、です」

「あ、あぁまぁ慣れているからな」

「診療所、そんなに、儲かって、いる、ですか?」

「あ、あ~まぁそんな感じだ」

 確かにセブンの診療所は儲かっている。
 だが貯め込んだ貯蓄をこんな店にセブンは落とす気はない。
 自分が作った食事の方が美味しい自信があるからだ。
 態々普段よりレベルの劣る味の食事のためにお金を使う気にはなれないのだ。

「ナナさん、と、来ていた、ですか…?」

 不安げな瞳でサラがセブンの瞳を見つめた。
 セブンの切れ長の黒い瞳。
 眼鏡のせいで普段は気付かないが長い睫毛が相貌を縁取っている。
 その目を見るとサラは何故だか胸が熱くなる。
 凄く、その目に近いものを知っている気がするから。
 そのサラが見惚れる綺麗な瞳がジッと見つめ返していた。

「あの淫魔と来るわけが無いだろうが。あんなの連れて歩いたら俺が好色家だと偏見の目が向けられる」

「じゃぁ誰と、来る、ですか?」

「あ~薬の販売業者とか医療器具の販売業者何かに接待で連れてこられるんだよ」

「そう、ですか」

 ふにゃり、とサラの顔が蕩ける。
 問いによるセブンの答えはサラの中で不安を打ち消したらしい。

(不安?何でアラが不安がるんだ?)

「ちゃんとお店に入ったの、初めて、ですけど…セブンさん、のご飯の方が…美味しいですね」

 蕩けた顔でサラにそう言われ、セブンの鼓動が速くなった。
 ドクンドクンと心臓が大きく弾む。

(これ、何だ?俺はこんな感情知らないぞ?何でこんなに心臓が弾む?クロイツの人間ドックでは心疾患なんてなかったのに………)

 その後食事はほとんど味がしなかった。
 ただただ綺麗に食べる。
 目の前のサラが綺麗に食べるから、それ以上に綺麗に食べたいと思った。
 サラのいつもより少しだけ多いお喋りに耳を傾けていると、店に入った時から流れていたピアノの音がいつの間にか聞こえなくなった。
 耳がただただサラの声しか拾わない。
 そしてその声がとても甘く感じる。

 今までどんな女相手にもこんな事になったことはない。

 だがサラが蕩けるような笑顔を向けるものだから。
 甘い声でいつもより少しだけ多く話すから。
 幸せそうに食事をとりながらもセブンの作る食事の方が美味しいだなんて言うから。

 何故かセブンは今のサラを閉じ込めて、誰にも見えないところに連れて行ってしまいたくなったのだった。
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