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その後

青天の霹靂が身に降った思いだと後に彼女は答えた7

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 ミヤハルは自分に瞳の奥に恋情の熱を浮かべて愛を紡いだエントビースドの言葉が信じられなかった。
 自分たちは主と奴隷。
 それが最初の関係だった。
 そして一緒に暮らして、成長を見続ける。
 母と子供、もしくは姉と弟のような存在であったはずだった。

 確かにミヤハルはエントビースドの事を恋情の想いで見続けていた。
 だがソレが自分に帰って来るものなのだとは思いもしなかったのだ。

 それはミヤハルだけが知らない事だった。

 邸にいる人間はミヤハルを抜いて、皆がエントビースドの気持ちを知っていた。
 1番に気付いたのはオウマだ。
 オークションで買われたその日、ミヤハルに愛情を注がれてエントビースドがミヤハルに恋心を抱いたのを確信した。

 3歳の子供の淡い恋に気付いたのだ。
 そしてその淡い恋が、成長と伴い熱を持った恋心へと成長してくのを見てきた。

 シックスリーは恋がどういうモノなのかまだ分かっていない。
 まだ9歳の子供なのだ、仕方がない。
 それでも兄が自分たちの保護者に対して特別の想いを抱いているのに気づいていた。

 使用人たちは言うに及ばず。

 ミヤハルだけがエントビースドの恋心を知らなかった。
 恋心を抱いてくれる可能性なんて存在しないと思っていた。
 だって自分はずっと保護者であったではないか。
 年だって数億歳も離れたいる。
 こんな幼い子供が自分のような干物女を好きになるはずなど無いと思い込んでいた。

 だが目の前で愛の告白をしたエントビースドの瞳には確かな劣情が宿っていて。
 ミヤハルは笑って誤魔化すなんて出来なかった。

 何より最初に恋心を抱いたのはミヤハルのほうだったのだから。

 まだ3歳の物心がつき始めたであろう幼児に恋をしたのだ。
 本能であの子供が欲しいと、生まれて初めて恋をしたのだ。

 ミヤハルだって数億年も生きている。
 愛の告白何て男女問わず幾らでもされてきた。
 それでも心を揺さぶられたのは初めてだった。
 自分は一生恋をしないのだろうと思っていた。
 それでも数億年の月日を超えて、運命と思える相手に出会った。
 見返りなんて求めていなかった。
 なのに、目の前の少年はミヤハルの事が好きだと言うのだ。
 その思いを恋なのだと言うのだ。

 でもミヤハルは知っている。
 この少年もいつかは自分よりずっと成長し、大人になるのだと言う事を。
 月の物も始まっていない年で成長が止まったミヤハルとは違う生き物だと言う事を。
 
 エントビースドが成長したら、それはそれは良い男になるだろう。
 その優秀な遺伝子に惚れ込む女は後を絶たないだろう。
 今の12歳と言う年齢でも時々大人の女からも粉をかけられているようなのだし。
 後10年もすれば女など選び放題。
 選り取り見取りだ。
 その時、ミヤハルは今と変わらない姿なのだ。

 自分が年齢の割に女性らしい体つきをしていることをミヤハルは自覚している。
 年頃の少年が情欲を抱く気持ちもわかる。
 だが、成長した大人の男が、月の物もない子供の体に興味を示すとも思わなかった。

 この時初めてミヤハルは自分の”古代種”と呼ばれる存在に進化した肉体を呪った。

 何時かエントビースドは大人になり、その隣に妙齢の女性を従わすことだろう。
 考えただけでも腸が煮えくり返そうだった。
 だからと言って、思春期の少年が覚悟を決めてした愛の告白をむげに断るのは違う気がした。
 何より自分の気持ちを伝えていないのはイーブンではない。
 心をくれた少年に真心を返す。
 それがミヤハルの選んだ決断だった。

「エント、ウチもエントが好きやで。でもな、ウチが成長せえへんのは知っとるやろ?エントが大人になってもウチは子供のままや。エントが子供が欲しいと願っても子供のウチには生んでやることも出来へん。
だから、気持ちは喜んで受け取らせてもらう。
でも返事はNOや。
エントはまだ子供や、そしてすぐに大人になる。1番近くに居た異性やからウチにそんな思い抱いたのかも知れへん。今のエントが本気でウチの事を好きだと言う言葉は信じられる。
せやけど大人になったエントがウチを選んでくれるとは思われへんのよ…世界にはいっぱいの魅力ある大人の女がおるんや。エントが大人になった時、劣情を抱くのはきっとそんな女やと思う。
だから、初恋は貰うけど、お付き合いはせえへん。
初恋を貰えただけで嬉しいよ。ホントやで?ウチかてエントの事を一等大事に想うとる。数億年生きて初めて恋心を抱いたんや。運命の相手やと思うとるよ。
でも数億年も生きてそれでも子供のウチと、これから逞しく成長して魅力的な大人になっていくエントは釣り合うとは思われへん。
それでも、それでもウチの事が好きやと言うなら、信じさせて。エントが大人になった時、それでもウチの事が一等好きだったなら…その時はウチもエントに全てをあげるから、そん時はウチにエントの全てを頂戴………」

 話した言葉はすべて真実。
 ミヤハルはエントの恋心を認めながらも、この先を考えるとその思いを長い人生の中で抱き続けるなんて無理だと思っていた。
 いくら年齢の割に女らしい体つきをしていても子供の体では、本物の女の体に敵うわけがない。
 エントビースドがロリコンならいざ知らず。
 いや、ロリコンならもっとツルペタを選ぶだろうから、ミヤハルの考えはこの時点で破綻しているのだが。

 何時かエントビーストが大人になり、伴侶を選ぶとき。
 隣に立つ女の姿など見たくもないのでミヤハルは、この告白を受けて”エントビースドが大人になったら魔国から姿を消そう”なんて思っていたことは誰も気づきはしなかったのだった。
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