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008 テンパった死神さん
しおりを挟む「では次ね。日向くんは私についてきて」
理香さんはテーブルを立ち上がると、トイレがあるほうへと進んで歩いて行った。到着をしたのは男女別で分かれる手前の、共用で使う洗面台の前だった。
その鏡の前に理香さんの姿は映っておらず、俺の姿だけが投影されていた。どうやらやはり理香さんは普通の人に見える存在ではないことが分かる。
「ここでわたしにさわってみて」
「え?」
唐突に真顔で理香さんは自分の体を触れといってきた。
でも触れと言われてどこをどう触ったらいいのだろうか?
同年代の、それも女の子の体なんて、これまでに触ったことが無いぞ。
俺がもどかしそうにしていると、理香さんはイライラと焦ってきたようだ。
「早くしないといくらヒマになる時間でも別の人がやってきちゃうわ。さあどこでもいいから早く!」
どこでも触っていいというのなら、年頃の男の子としては触りたい部分がもちろんある。
思わず俺は、理香さんのふくよかになる胸に両腕を伸ばしてみるが、彼女の視線がそれを捕らえると、それは行き場のないままとなってしまい、やがては虚空を彷徨うようばかりとなってしまっていた。
その視線で察したのか、理香さんは顔を真っ赤にして胸元を手で隠した。
「もう、バカ、、、い、いいから早くしなさいよ、、、」
俺はやむなく理香さんの肩に、ドキドキとしながら手を置くことにした。
ところが俺の手は、理香さんの肩があるあたりを突き抜けて体をよろけさせた。
ああ、やはり理香さんは、、、
バタンッ!
その時に運が悪く、トイレを使って出てきた男性が勢いよく現れた。
その手に持った扉は俺が立っていた場所(洗面台の近くには理香さんの体があったので俺の体は通路側)をぶつけて、俺のよろけた体をさらに前へと押し出していた。
「あぶな!!!」
俺が体勢を大きく崩すと理香さんの顔が間近になって、それは偶然にも唇同士が触れ合う姿勢になってしまっていた。
バチンッ
この時に静電気が働くような大きな音がした。
理香さんは事の成り行きを平然と眺めていたが、唇と唇が触れる距離となってしまうと、驚きのあまりに硬直することとなった。
「すみませんでした」
「いえ、こちらこそ」
ぶつけた男性はそう言って謝ってはいたが、そんなところに立っていたお前の方もどうかしているぞ、といった感情がありありと読み取れる表情だった。
男性が立ち去っていくと、俺は理香さんのどことないしおらしさと、ドキドキとしているその表情をみて、彼女がとても愛おしくて可愛らしい存在だと思ってしまった。
「理香さん、、、」
「しゃ、い」
彼女はテンパって声は裏返っていた。
先ほどは偶然での出来事だったが、見ていると彼女は嫌がっているそぶりもないように思えた。
俺は唾をグビビと流し込み、もう一度彼女の顔の前に唇同士をそっとふれようと顔を近づけていた。
スカッ
、、、
「、、、コ、コホン。予定とちょっと狂ったけれど、これでよくわかった? わたしは死神なのよ。私を見た者は死のカウントがもうすでに始まっているの。いますぐに病院で検査を受けてきてね、、、それと私と会えなくなっても心配しないで。見えないことが自然なのよ。さようなら、、、」
理香さんはそれだけ言ってしまうとテーブル席に戻って、いつの間にか注文でケーキを追加していた愛理さんとひと悶着を起こして、それからすぐに出ていってしまった。
☆
☆
☆
俺は理香さんに言われたとおりにして、半信半疑でしかたがなく、その足で病院へと向かった。運動部部の連中には、夕方でも親切に診療をしてくれると定評をいただいている病院だ。
「日向さん。お待たせしました」
看護師さんが名前を呼んで俺は診察室に入っていった。先生は座りながら挨拶をした。
「どうも。日向さんですか?」
「はい、よろしくお願いします」
先生は、これまでたらい回しをさせられた、レントゲン室や採血室などの書類を出して、机の上に置かれた大きな茶封筒に入っていた写真を取り出して、それをすぐそばにあった照明台の上に当ててよく見ていた。
「レントゲン撮影でのCT検査の結果が出ました。ここに影が見えているのがわかりますか。ほらここです」
先生が指差すところに、黒いものに白くなったものが見えている。
「動脈が切れそうなので危険な状態です。直ちに出血することはないと思いますが、安静のために入院をしてください。発見が早期なので良かったですよ」
こうして俺はその日に入院をしたのだった。
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