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第21話 『遠野美咲』
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1985年(昭和60年)7月10日(水)<風間悠真>
前世のオレにもう少しこれがあれば……と思わなくもないんだが、今日は美咲の誕生日だ。大丈夫、問題ない。ちゃあんとプレゼントも買ってある。この前テストで佐世保に行ったときに買った。
何を選んだか?
もちろん自分が選んだんじゃない。
デパートの化粧品売り場や、雑貨品、ファッションコーナーで20代の女性店員を見つけては、聞いたのだ。12歳の中学生男子がうろついたら、そりゃあ目立った。だって下手すりゃ母親が来るような店だからだ。
玉屋デパートと西沢本店は当然だが、アーケード内にある化粧品店やコスメを扱っていそうな雑貨屋は全部回った。四ヶ町の入り口から入って、左側の店をまっすぐ見ていって三ヶ町サンプラザの端までいく。
それから今度はUターンしてまた左側を見ながら四ヶ町の入り口までいくのだ。
トータル2~3時間はかかっただろうか? その中で1番いい感じかな? と思った物を買った。喜んでくれれば素直に嬉しい。
「彼女さんにプレゼント?」
「え、あ、まあ……」
ここでプレゼントですか? と聞かれないところがまだオレが子供だと思われている証拠だ(実際にそうなのだが)。
「同い年、厳密に言えば俺が12で彼女が13に今度なるんですけど……」
「そっかあ……じゃあ、これなんかどうかな?」
紹介されたのは「キスミーシャインリップ」というシリーズらしい。
「これは今中高生の間で人気で、分類で言えば口紅じゃなくてリップクリームになるから、校則違反にもならないからおススメよ」
「へえ……」
女のコスメなんてまったく関心がなかったオレだが、マジで真剣に選んでいる。うーん、青春っていいねえ……。
一か所だけじゃなく、複数のお店で同じシリーズを紹介されたので、最初に聞いたお店で買った。予算は1,500~2,000円なので色違いを3つ。シャインピンクとミスティピンク、それからシャインパステルパープル。
ちゃんと包装してくれるように頼んで、ほくほく顔で帰った。そう言えば去年の今ごろは、まだ今のような関係にはなっていない。
遠野美咲と太田純美、そして白石凪咲とは、小学校の頃から4人で一緒に帰っていたが、この頃になると月木を純美、火金を凪咲、そして水土を美咲という感じで曜日で区切って帰るようになっていた。
なぜか?
理由は不明。いつのころからか……先月か、先々月か? 3人からの申し出でそうなった。余り深く考えずにOKを出したのだが、オレとしては望ましい状況だ。
それは……まあ、もちろん決まっているでしょう?
そして今日は水曜日。美咲の誕生日で一緒に帰る。帰り道でプレゼントを渡せればいいのだ。
「お待たせ。じゃあ帰ろうか」
バレー部の部活が終わり、制服に着替えた美咲を見つけそう言って、祐介にも挨拶をする。
「じゃあな祐介! また明日!」
「お、おう……じゃあ、な」
完全に2人きりになったのを確認して、オレは美咲と手をつなぐ。もうこの頃になるとお互いに恥ずかしさはあるものの、抵抗感はない。美咲は少しうつむいて恥ずかしそうだが、そこがまたたまらなく可愛い。
ん? 気のせいか、小学校よりツンの時間が短く、というか消えてきているような気がするが、どうした?
今日学校であった事や、親のこと。昨日見たテレビや雑誌のこと……。毎日そういうとりとめもない話をするのがとてつもなく楽しかった。
そうやって今では帰り道の通過点になった小学校を過ぎて神社へ向かう。
神社を過ぎればあとは美咲の家に帰るだけなので、多分、別れたくなくて神社で時間を潰していたのかもしれない。
夕陽が差し込む神社の鳥居をくぐると、オレは目を細めた。美咲がベンチに腰を下ろし、小さく息をつく。いつもの帰り道だが、美咲の誕生日という特別な日に、悠真の心は少し浮ついていた。
「ねぇ、悠真。なんか今日は特別な日って感じしない?」
「特別? そうかもな……今日はお前の誕生日だしな」
オレは緊張しながら、隠し持っているプレゼントの袋を握りしめた。
「覚えててくれたんだね、ありがとう。なんか……いつも一緒にいるのに、そう言われるとちょっと嬉しいな」
美咲は微笑みながらオレを見つめた。美咲の無邪気な笑顔に心が温まるのを感じる。そう、この笑顔。この笑顔のために男は生きているのだよ。
「そ、そうだ、あのさ……実は、プレゼントがあって……」
と言いながら、小さな袋を差し出した。
美咲は驚いて目を丸くし、渡された箱の包装を慎重に解いた。中から出てきたのは、シャインピンク、ミスティピンク、シャインパステルパープルのリップクリームのセットだ。
「これ、最近流行ってるやつだよね! すごく嬉しい……どうしてこれにしたの?」
美咲は笑顔で尋ねた。
「実はさ、あちこちのお店で聞いて回ったんだよ。美咲が喜ぶものを選ぶために、少しは……努力したんだ」
オレは恥ずかしそうに答えた。
「悠真……こんなに考えてくれたの?」
美咲は突然、悠真に抱きついた。
「ありがとう。本当に嬉しい♡」
オレは動揺しながらも、優しく美咲の背中に手を回し、抱きしめた。美咲がつけているブラジャーのバックベルトの感触が妙にリアルに12脳に突き刺さる。
ちゅ♡
ちゅっちゅっ♡
リップを塗った美咲の唇が夕陽に照らされてほのかに光り、オレは思わず見惚れてしまう。
「どう? 似合ってる?」
美咲が少し照れくさそうに尋ねると、オレは力強くうなずいた。
「うん、すごく似合ってるよ」
オレ達の間にしばらく沈黙が訪れるが、心地いい。神社の静けさと夕陽のあたたかさがオレ達を包み込み、風が木々をそっと揺らす音が響いた。
しばらくして、美咲が再び口を開いた。
「ねぇ、悠真。今日こうやって一緒に帰って、なんか特別な気がするんだ。これからもずっと、こうして一緒に帰れたらいいな……」
その言葉に、オレの胸は高鳴った。美咲の言葉にはいつもとは違う、特別な響きがあった。
「俺もそう思うよ。これからも、ずっと(決められた日に)一緒に帰ろうな」
夕陽が落ちるにつれて、境内の風景が少しずつ暗くなっていく。
でもオレ達はその場を急ぐことなく、しばらくの間静かな時間を共有していた。やがて立ち上がり、並んで歩き出したが、その足取りは軽やかで、互いに別れを惜しむようにゆっくりと家路についた。
「明日から学校で使うね。悠真が選んでくれたリップ♪」
次回 第22話 (仮)『なに演奏すんの?』
前世のオレにもう少しこれがあれば……と思わなくもないんだが、今日は美咲の誕生日だ。大丈夫、問題ない。ちゃあんとプレゼントも買ってある。この前テストで佐世保に行ったときに買った。
何を選んだか?
もちろん自分が選んだんじゃない。
デパートの化粧品売り場や、雑貨品、ファッションコーナーで20代の女性店員を見つけては、聞いたのだ。12歳の中学生男子がうろついたら、そりゃあ目立った。だって下手すりゃ母親が来るような店だからだ。
玉屋デパートと西沢本店は当然だが、アーケード内にある化粧品店やコスメを扱っていそうな雑貨屋は全部回った。四ヶ町の入り口から入って、左側の店をまっすぐ見ていって三ヶ町サンプラザの端までいく。
それから今度はUターンしてまた左側を見ながら四ヶ町の入り口までいくのだ。
トータル2~3時間はかかっただろうか? その中で1番いい感じかな? と思った物を買った。喜んでくれれば素直に嬉しい。
「彼女さんにプレゼント?」
「え、あ、まあ……」
ここでプレゼントですか? と聞かれないところがまだオレが子供だと思われている証拠だ(実際にそうなのだが)。
「同い年、厳密に言えば俺が12で彼女が13に今度なるんですけど……」
「そっかあ……じゃあ、これなんかどうかな?」
紹介されたのは「キスミーシャインリップ」というシリーズらしい。
「これは今中高生の間で人気で、分類で言えば口紅じゃなくてリップクリームになるから、校則違反にもならないからおススメよ」
「へえ……」
女のコスメなんてまったく関心がなかったオレだが、マジで真剣に選んでいる。うーん、青春っていいねえ……。
一か所だけじゃなく、複数のお店で同じシリーズを紹介されたので、最初に聞いたお店で買った。予算は1,500~2,000円なので色違いを3つ。シャインピンクとミスティピンク、それからシャインパステルパープル。
ちゃんと包装してくれるように頼んで、ほくほく顔で帰った。そう言えば去年の今ごろは、まだ今のような関係にはなっていない。
遠野美咲と太田純美、そして白石凪咲とは、小学校の頃から4人で一緒に帰っていたが、この頃になると月木を純美、火金を凪咲、そして水土を美咲という感じで曜日で区切って帰るようになっていた。
なぜか?
理由は不明。いつのころからか……先月か、先々月か? 3人からの申し出でそうなった。余り深く考えずにOKを出したのだが、オレとしては望ましい状況だ。
それは……まあ、もちろん決まっているでしょう?
そして今日は水曜日。美咲の誕生日で一緒に帰る。帰り道でプレゼントを渡せればいいのだ。
「お待たせ。じゃあ帰ろうか」
バレー部の部活が終わり、制服に着替えた美咲を見つけそう言って、祐介にも挨拶をする。
「じゃあな祐介! また明日!」
「お、おう……じゃあ、な」
完全に2人きりになったのを確認して、オレは美咲と手をつなぐ。もうこの頃になるとお互いに恥ずかしさはあるものの、抵抗感はない。美咲は少しうつむいて恥ずかしそうだが、そこがまたたまらなく可愛い。
ん? 気のせいか、小学校よりツンの時間が短く、というか消えてきているような気がするが、どうした?
今日学校であった事や、親のこと。昨日見たテレビや雑誌のこと……。毎日そういうとりとめもない話をするのがとてつもなく楽しかった。
そうやって今では帰り道の通過点になった小学校を過ぎて神社へ向かう。
神社を過ぎればあとは美咲の家に帰るだけなので、多分、別れたくなくて神社で時間を潰していたのかもしれない。
夕陽が差し込む神社の鳥居をくぐると、オレは目を細めた。美咲がベンチに腰を下ろし、小さく息をつく。いつもの帰り道だが、美咲の誕生日という特別な日に、悠真の心は少し浮ついていた。
「ねぇ、悠真。なんか今日は特別な日って感じしない?」
「特別? そうかもな……今日はお前の誕生日だしな」
オレは緊張しながら、隠し持っているプレゼントの袋を握りしめた。
「覚えててくれたんだね、ありがとう。なんか……いつも一緒にいるのに、そう言われるとちょっと嬉しいな」
美咲は微笑みながらオレを見つめた。美咲の無邪気な笑顔に心が温まるのを感じる。そう、この笑顔。この笑顔のために男は生きているのだよ。
「そ、そうだ、あのさ……実は、プレゼントがあって……」
と言いながら、小さな袋を差し出した。
美咲は驚いて目を丸くし、渡された箱の包装を慎重に解いた。中から出てきたのは、シャインピンク、ミスティピンク、シャインパステルパープルのリップクリームのセットだ。
「これ、最近流行ってるやつだよね! すごく嬉しい……どうしてこれにしたの?」
美咲は笑顔で尋ねた。
「実はさ、あちこちのお店で聞いて回ったんだよ。美咲が喜ぶものを選ぶために、少しは……努力したんだ」
オレは恥ずかしそうに答えた。
「悠真……こんなに考えてくれたの?」
美咲は突然、悠真に抱きついた。
「ありがとう。本当に嬉しい♡」
オレは動揺しながらも、優しく美咲の背中に手を回し、抱きしめた。美咲がつけているブラジャーのバックベルトの感触が妙にリアルに12脳に突き刺さる。
ちゅ♡
ちゅっちゅっ♡
リップを塗った美咲の唇が夕陽に照らされてほのかに光り、オレは思わず見惚れてしまう。
「どう? 似合ってる?」
美咲が少し照れくさそうに尋ねると、オレは力強くうなずいた。
「うん、すごく似合ってるよ」
オレ達の間にしばらく沈黙が訪れるが、心地いい。神社の静けさと夕陽のあたたかさがオレ達を包み込み、風が木々をそっと揺らす音が響いた。
しばらくして、美咲が再び口を開いた。
「ねぇ、悠真。今日こうやって一緒に帰って、なんか特別な気がするんだ。これからもずっと、こうして一緒に帰れたらいいな……」
その言葉に、オレの胸は高鳴った。美咲の言葉にはいつもとは違う、特別な響きがあった。
「俺もそう思うよ。これからも、ずっと(決められた日に)一緒に帰ろうな」
夕陽が落ちるにつれて、境内の風景が少しずつ暗くなっていく。
でもオレ達はその場を急ぐことなく、しばらくの間静かな時間を共有していた。やがて立ち上がり、並んで歩き出したが、その足取りは軽やかで、互いに別れを惜しむようにゆっくりと家路についた。
「明日から学校で使うね。悠真が選んでくれたリップ♪」
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