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第15話 『入部拒否とセッ○スの話と2人目のキス』

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 1985年(昭和60年)4月16日(火) 五峰町立南中学校 <風間悠真>

 馬乗りではないが、机と椅子に寄りかかっている修一に対して数発殴ったところで、強制的に終わらせられた。
  
 ……先生ではない。修一と同じ小学校の木下隆広に、力ずくで止められたのだ。

 体格は正人と同じかそれより大きく背も高い。

「止めろ! もう勝負はついてる」

 隆広はオレの右手を取って終わらせた。もの凄い力だ。周りの取り巻きが何もできなかったのに、こいつは顔色1つ変えずにいるのだ。やべえ。こんなヤツは敵に回したくはない。

 オレはすぐに修一から離れて自分の席に戻り、冷静に考えた。前世のオレが通った小学校も中学も、高校でさえこんなにケンカはなかったぞ。

 現世はバイオレンスだ。

 オレが離れると隆広は修一に対して言った。

「あれはお前が悪い。保健室行ってこいよ。冷やさないとれるぞ」

 オレは隆広にはイジメられた記憶はない。なんというか、ヤツは中立なのだ。弱い者はいじめないし、かと言ってケンカを求めて強いヤツに向かっていくタイプでもない。

 ただし、イジメられていたとき、助けられた記憶もない。

 あいつらの基準って一体何なんだ? 51脳が感情が高ぶっている12脳に冷静に語りかける。どうやら感情が高ぶると12脳が優勢になり、冷静なときは51脳がしっかり働くようだ。

 これではダメだ。もう少し51脳を拡張しなければ。




 オレの中学は文武両道で、勉強はもちろんだが、学生は必ずなんらかの運動部に所属して部活動をしなければならないしきたりがあった。
  
 しきたり、というのは文字通りしきたりであり、絶対の決まりではない。

 放課後、オレは部活に入っていないので音楽室を貸してもらってギターの練習をしていた。大体入学して1週間から10日くらいで部活動の見学が終わり、全員がどこかに入部して部活動を始める。

 オレは入る気もなかったから、ズルズルと先延ばしにしていたのだが、ついに担任の先生に捕まってしまった。

「風間君、少し残りなさい」

 担任の山口先生に呼び止められ、みんなが部活の準備をするために片付けをして教室を出て行くなか、オレだけが残された。ちなみに修一と隆広は同じ男子バレー部だ。

 仲がいいわけではないが、ほぼ同時に教室を出て行った。

 面倒くさい。どうやって切り抜けようかと思っていたら、やっぱりきたよ第一の難関。

「風間くん、まだ部活に入ってないそうね。そろそろ決めないと」

 先生の声には、わずかに焦りが混じっていた。オレ達が1年生だからなのか、いきなり担任を任せられるなんて、今なら信じられない。田舎の学校だからなのか? それとも昭和60年だから?

 多分オレがどこにも入部していないので、他の先生に指摘されたんだろう。

「はい……でも、僕は入らなくてもいいと思います」

 オレは口調は丁寧に、でもまっすぐ先生の顔を見て言った。

「どうして? みんな何かしらの部活に入ってるよ。悠真も入らないと」

 最近はあだ名呼びが禁止されたり、名前呼びや名字呼び、いろんな制約があるみたいだが、この時代にそんなものはない。確かにオレは、山口先生に名前呼びされていた。

 オレは一瞬ためらったが、論理的に攻める。

「でも先生、校則には強制って書いてないですよね?」

 先生は一瞬言葉に詰まった。確かに校則には『強制』とは書いていない。しかし、長年の慣習として全生徒が部活動に参加してきたのだ。

「そうね、確かに強制とは書いていないわね……悠真、何か特別な理由があるの?」
 
 オレは深呼吸をして、心の中で整理した言葉を口にした。
 
「はい。実は、音楽に打ち込みたいんです。毎日放課後、音楽室でギターの練習をしています。部活に入ると、その時間が取れなくなってしまいます」
 
 先生は少し驚いた表情を見せた。
 
「そう、音楽なのね。確かに、あなたの気持ちはわかるわ。でも、学校としては全生徒に部活動を勧めているのよ」

 先生は腕を組んで考え込んだ。
 
「わかります。でも、音楽だって立派な活動じゃないですか? 」

 山口先生の表情が固い。オレの気持ちはわかるが、説得するように教務主任か教頭から圧力がかかったに違いない。音楽を……とオレの言葉を聞いてからの先生の表情がゆがんでいる。

「先生、じゃあさ」

 とオレは冗談めかしてぴょんと跳びはね、先生の後ろに回る。そして肩をもむそぶりをしながら言った。

「先生、オレの願い事聞いてくれる?」

 耳元でそういって肩をもむ。疲れているのか気持ちよさそうだ。

「えーな~に~? ちょっと何か企んでるな?」

 表情が少し和らいで、笑いながら返してきた。


 

「セッ○スさせてくれたら部活に入ってもいいよ♪」

 肩をんでいた手をすっと下ろして胸に少し触れ、冗談っぽく、あくまで冗談っぽく、オレは言った。

「ひゃんっ!」

 先生はバッと胸を抱えて立ち上がり、顔を真っ赤にして言う。やり過ぎたか? とオレは思ったが、ギリギリ子供の冗談、イタズラで済まされる年齢だろう。

 だって先月まで小学生だったんだから……。

「じょ、冗談はやめなさい。ど、どこでそんな事覚えたの?」

 え、まじかよ生娘……まさか処女じゃないよな? ……あいたたた。やっちまったかな? 51脳が先走った?


 

「……」

「……」

「……ん、ごほん。んっんっごほん……。と、とにかく、部活の件はちゃんと考えなさい。もしそれでも、どうしても部活に入らずに音楽をやりたいなら、成績上位はあたりまえだけど、ちゃんと職員室で説明できるようにしなさいよ」

 山口先生はそう言って教室を出て行った。

 いろいろあったが、セーフ! のようだ。あとはどうやって他の先生を納得させるかだな……。理詰めでいくしかないか。




 うーん、数日して頭が冷えた頃に、ちゃんと謝ろうか。やりすぎでした、ゴメンって。




 いつも通りオレは音楽室で練習をして、美咲、凪咲なぎさ、純美と4人で帰ることになった。クラスは違うが、入学してからいつも4人で帰っている。

 オレはキリがいいところで練習を終えるので、オレが待つ時と3人が待つ時、その日によってまちまちだ。

 今日はオレは早めに切り上げて、校舎と体育館の間の渡り廊下で3人を待っていた。待つ場所は毎回気分によって違うが、すぐにわかる場所にしている。

 バレー部をはじめとした運動部が終わったみたいで、体育館はワイワイ騒がしい。ガラッと鉄の扉が開いてユニフォームや体操服姿のバレー部女子が出てきた。

「あ! 悠真~きゃあー可愛い♡」

 女子バレー部3年の山本先輩だ。この人もオッパイがでかい。
  
 ぷるんぷるん揺らして走って近づいてきて、オレの頭をなでて体を寄せてくる。なぜか、なぜかオレが可愛いってカテゴリーに入っているようだ。

「あ、先輩、ちょっと近いです……」

「あー照れてる照れてる! かーわいいっ♡」

 うーん、嬉しいんだが、ちょっと恥ずかしい。そしてオレは何やら矢のような突き刺さる視線を感じた。見ると仁王立ちになっている3人がいて、オレは苦笑いする。

「あいた! 痛い! 痛いって!」

 耳をつままれ、足を踏まれ、肩パンを食らったオレは叫ぶ。

「なになに? ごめんごめん! え? なんで?」

 なんだ? さっきの先生の件のバチがあたったのか? いやいや、知るわけない。

 耳を引っ張ったのは美咲だった。足を踏んでいるのは凪咲、そして肩パンを食らわせたのは純美だ。3人とも無言だが、その顔には明らかに怒りが見える。

「何でそんなに怒ってるのさ! ?」

「何でって、見ればわかるでしょ」

 と美咲が冷たく言い放つ。

「先輩と何してたの?」と凪咲も追い打ちをかけるように言った。

「いや、別に何もしてないよ! ただ先輩から、からかわれていただけだよ」

 オレの言い訳はすぐに凍りつく空気に消えた。純美が冷ややかに『ふーん、でも可愛がられすぎじゃない?』と呟く。

「まあ、許してあげるけどさ。次はちゃんと気をつけてよ」

「私たちを忘れちゃダメよ」

 美咲が腕を組んで言うと、凪咲も軽く警告した。

「うん、私たちだけで十分だからね」

 純美は小さく笑いながらと冗談っぽく言ったが、少し冷たい目をしている。

 オレは3人に何とか謝りつつ、内心で『さっきの先生の件よりこれの方がやばいかもな……』と思った。




 五峰南中学校は、オレ達が卒業した五峰西小と、五峰南小の間にある。

 だから小学校までは4人で一緒に帰る。その後今までは逆方向だった純美の家を通って凪咲の家に向かい、そして美咲の家を通ってオレの家に帰るという道順になる。

 いつも通り純美に挨拶をし、凪咲に挨拶をして美咲と2人きりになって神社に通りかかったとき、オレは言った。

「なあ、ちょっと話さない?」

「え? あ……うん。いいよ……」

 美咲は少し戸惑ったようだがオレの申し入れを聞いて、2人で境内のベンチに座って話し始めた。

「あ! そうだ悠真、聞いたよ~まだ部活決めてないんだって?」

「うん、決めてない。ていうか入らないつもり」

 オレがそう答えると、美咲は驚いたように目を大きく開けた。

「えっ、入らないつもりなの? あ、そっかあ。だから放課後音楽室で練習してたんだ……。おっかしいなあ~とは思ってたんだよね」

 オレは少し緊張した様子でうなずいた。

「そう、音楽に集中したいんだ。部活に入ると、どうしても時間が取れなくて……」

 美咲は理解を示すようにうなずいていたが、同時に心配そうな表情も浮かべた。

「でも、学校のルールでみんな入らなきゃいけないんじゃ……」

 わかってる、とオレは真剣な表情で答えた。

「だから今、どうやって先生たちを説得するか考えてるところなんだ。多分、多分だけど、運動より間違いなくオレの才能は音楽だと思う。そりゃあすげえ才能があるかって言われたらわかんないけど、少なくとも運動よりはね。ていうかオレが足が遅いのみんな知ってるだろ? ビリから数えた方が早い」

 はっはっは~とオレが笑うと美咲も少し吹き出した。

「確かに足は遅かったね……。あ! ごめん、変な意味じゃないよ。でも、ギター弾いてる姿は確かにカッコいいし、そっちに力を入れるのはいいんじゃないかな。問題は先生たちが納得するかどうか、だよね」

「美咲……」

 オレはそう言って美咲の肩に手を回した。

「あ……」

 美咲は少しビクッと体を固くしたが、徐々にその緊張はほどけていった。オレはそのまま美咲の顔を引き寄せて、キスをする。

「ん……あ……」

 びっくりしたのだろう。美咲の体は最初に肩を抱いた時のように固くなったが、自然と身を委ねるようになっていった。オレは1度唇をはなし、美咲がまだ目を閉じているのを確認して、2回目のキスをした。

 キスをしながら、オレは服の上から美咲の胸に触れた。ビクンっと美咲の体が震えたのがわかる。

「ダメ、まだ……今は、ダメ……」

 顔を真っ赤にしている美咲が12脳にとっては無性に可愛く感じられたが、でも無理強いはダメだ。51脳が上手く制御している。心臓はバクバクしてはいるが、理性は働いている。

「うん、ごめんね……」

「ううん……」

 そういってもう一度キスをした。




 次回 第16話 『バレー部の先輩と彼氏と彼女の定義』
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