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天下一統して大日本国となる。-大日本国から世界へ-
第743話 『アラスカ並びに北米西岸の探険・入植と太平洋横断計画』
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天正十七年四月十二日(1588/5/7)
天正十三年の六月から十一個艦隊体制と、八月から海軍艦艇の蒸気機関推進化をすすめていた肥前国海軍であったが、ようやくその体を成すようになってきた。
160隻ほどあった既存艦艇は予備艦艇として、特にルソン鎮守府と新幾内亜鎮守府隷下の艦艇として配備されるよう指示された。
現状は下記の通り。
・第一艦隊(佐世保鎮守府)
・第二艦隊(呉鎮守府)
・第三艦隊(越中・岩瀬鎮守府)
・第四艦隊(吉原鎮守府)
・第五艦隊(小樽鎮守府)
・南遣第一艦隊(マニラ鎮守府)
・南遣第二艦隊(マニラ鎮守府)
・南遣第三艦隊(台湾・基隆鎮守府)
・南遣第四艦隊(新幾内亜・籠手田湊鎮守府)
・印阿第一艦隊(カリカット鎮守府)
・印阿第二艦隊(ケープタウン鎮守府)
各艦隊戦艦四、重巡三、軽巡五、駆逐艦八、合計二十隻の陣容である。前述の帆船部隊は含まれない。
純正の指示通り、基隆の南遣第三艦隊と隷下の帆船部隊の3分の1(50隻)を明に対して配備している。残りの3分の2(110隻)は籠手田湊鎮守府隷下とした。マニラの2個艦隊も同様である。
籠手田湊鎮守府隷下の艦隊は合計170隻となった。
■ヌエバ・エスパーニャ メキシコシティ副王府 王宮
「それで、現状はどうだ? 肥前国の海軍の兵力はどのくらいだ?」
副王のアルバロ・マンリケ・デ・スニガは海軍総司令に問うと、総司令は緊張した面持ちで答えた。
「閣下、我々の探索船からの報告によると、肥前国の海軍力は驚異的なものです。特にフィリピーナ諸島周辺とモルッカ諸島の東のニューギニア島に戦力を分布させています」
「具体的には?」
アルバロは身を乗り出した。
「はい。まず、フィリピーナ諸島には2つの大きな艦隊が確認されています。各艦隊は20隻ほどの船で構成されているようです。その中には、我々のガレオン船よりもはるかに大きな船や、奇妙な形状の小型の船も含まれているとのことです」
アルバロは眉間にしわを寄せる。
「我らのガレオン船より大きな船だと? それはどのようなものだ?」
「詳細は不明ですが、我々の船よりも速く、多くの大砲を搭載しているようです。さらに、煙を吐きながら風がなくても動く不思議な船もあるとの報告もあります」
「ははははは! 馬鹿を申すでない。そんなことがあるものか」
「は、私もはじめは噂ばかりかと思っていましたが、何度も、何人もが目撃しているのです。加えてそのような艦隊がニューギニアにもあります。そして密かに、ニューギニアへ艦隊を集めているようです。しかし、その他の船も多く、弱点と呼べるような拠点がありません」
アルバロは深く息を吸った。
「我々の艦隊と比較してどうだ?」
「閣下、率直に申し上げますと、数の上でも、恐らく性能の面でも、我々は大きく劣っています。特にその不思議な技術は、我々の理解を超えています」
アルバロは立ち上がり、窓際に歩み寄った。しばらくの沈黙の後、彼は静かに語り始めた。
「……もし、それほどまでに戦力の差があり、未知の兵器があるのならば、直接対決は避けねばならない。しかし、完全に引き下がるわけにもいかん。ここは本国の陛下の指示を仰ぐほかはない」
「はは」
「我らはこれまで、本国のために大量の税金を支払い、そしてその残りでやっと、海軍を再建できたのだ。それでも70隻にも満たぬ。これでは侵攻どころか、攻められれば防衛するのが精一杯ではないか」
アルバロは現状の報告と対小佐々戦略の根本的な見直しと願うべく、本国へ使者を送ったのであった。しかし、スペイン本国には、近くイギリスと雌雄を決する海戦が、待ち構えていたのだ。
■諫早
「小樽の第五艦隊を用いて、勘察加から島々を渡り、発見された新大陸の北端に良港があるので、夏の間に足溜り(拠点)をつくるのだ。陸軍を派遣させ、駐屯させる。越冬が可能となるように、食料や装備をわすれるな」
黒田官兵衛と宇喜多春家は、純正と直茂が不在の間の政務を取り仕切っていた。海軍総司令の深沢勝行と作戦会議中だ。
「作戦通り、第五艦隊の準備は整っておる」
勝行は頷いて答えた。官兵衛は地図を指さしながら、声を低めて言う。
「この遠征の真の目的は、殿下の言うヌエバ・エスパーニャを北から圧するためにございます。そのために夏の間に足溜り(拠点)をつくり、冬を越して春からさらに拠点をつくりつつ南へ向かい、国境へ迫るのです」
春家が同意して付け加える。
「その通りです。イスパニアの勢の北進を阻止し、彼奴らの後背を脅かす。これが殿下の策にございます」
「海軍に関しては子細無い。あとは陸軍との連携だ」
勝行の返事に官兵衛は続ける。
「さすがです。加えて現地の民との関わり合いも重きをなしてきましょう。彼の者等を味方につければ、必ずや役に立つ事でしょう」
「殿下によればヌエバ・エスパーニャは現地の民を迫害し、奴隷と同じように扱っているそうな。われらは彼奴らとは違うという事をみせ、実懇になれば、戦の際も味方してくれよう」
「然に候」
春家の言葉に勝行が答えた。
ヌエバ・エスパーニャを包囲するための戦略が動きつつあった。数年前に籠手田安経が、スペインに対して討って出る事の愚を主張していたが、もちろん正しい。
しかし、敵は向かってくるのだ。
いいかげん、もとを断たなければならない時期に来ていると、純正も考えたようである。
次回 第744話 (仮)『カリカット総督府と印度洋』
天正十三年の六月から十一個艦隊体制と、八月から海軍艦艇の蒸気機関推進化をすすめていた肥前国海軍であったが、ようやくその体を成すようになってきた。
160隻ほどあった既存艦艇は予備艦艇として、特にルソン鎮守府と新幾内亜鎮守府隷下の艦艇として配備されるよう指示された。
現状は下記の通り。
・第一艦隊(佐世保鎮守府)
・第二艦隊(呉鎮守府)
・第三艦隊(越中・岩瀬鎮守府)
・第四艦隊(吉原鎮守府)
・第五艦隊(小樽鎮守府)
・南遣第一艦隊(マニラ鎮守府)
・南遣第二艦隊(マニラ鎮守府)
・南遣第三艦隊(台湾・基隆鎮守府)
・南遣第四艦隊(新幾内亜・籠手田湊鎮守府)
・印阿第一艦隊(カリカット鎮守府)
・印阿第二艦隊(ケープタウン鎮守府)
各艦隊戦艦四、重巡三、軽巡五、駆逐艦八、合計二十隻の陣容である。前述の帆船部隊は含まれない。
純正の指示通り、基隆の南遣第三艦隊と隷下の帆船部隊の3分の1(50隻)を明に対して配備している。残りの3分の2(110隻)は籠手田湊鎮守府隷下とした。マニラの2個艦隊も同様である。
籠手田湊鎮守府隷下の艦隊は合計170隻となった。
■ヌエバ・エスパーニャ メキシコシティ副王府 王宮
「それで、現状はどうだ? 肥前国の海軍の兵力はどのくらいだ?」
副王のアルバロ・マンリケ・デ・スニガは海軍総司令に問うと、総司令は緊張した面持ちで答えた。
「閣下、我々の探索船からの報告によると、肥前国の海軍力は驚異的なものです。特にフィリピーナ諸島周辺とモルッカ諸島の東のニューギニア島に戦力を分布させています」
「具体的には?」
アルバロは身を乗り出した。
「はい。まず、フィリピーナ諸島には2つの大きな艦隊が確認されています。各艦隊は20隻ほどの船で構成されているようです。その中には、我々のガレオン船よりもはるかに大きな船や、奇妙な形状の小型の船も含まれているとのことです」
アルバロは眉間にしわを寄せる。
「我らのガレオン船より大きな船だと? それはどのようなものだ?」
「詳細は不明ですが、我々の船よりも速く、多くの大砲を搭載しているようです。さらに、煙を吐きながら風がなくても動く不思議な船もあるとの報告もあります」
「ははははは! 馬鹿を申すでない。そんなことがあるものか」
「は、私もはじめは噂ばかりかと思っていましたが、何度も、何人もが目撃しているのです。加えてそのような艦隊がニューギニアにもあります。そして密かに、ニューギニアへ艦隊を集めているようです。しかし、その他の船も多く、弱点と呼べるような拠点がありません」
アルバロは深く息を吸った。
「我々の艦隊と比較してどうだ?」
「閣下、率直に申し上げますと、数の上でも、恐らく性能の面でも、我々は大きく劣っています。特にその不思議な技術は、我々の理解を超えています」
アルバロは立ち上がり、窓際に歩み寄った。しばらくの沈黙の後、彼は静かに語り始めた。
「……もし、それほどまでに戦力の差があり、未知の兵器があるのならば、直接対決は避けねばならない。しかし、完全に引き下がるわけにもいかん。ここは本国の陛下の指示を仰ぐほかはない」
「はは」
「我らはこれまで、本国のために大量の税金を支払い、そしてその残りでやっと、海軍を再建できたのだ。それでも70隻にも満たぬ。これでは侵攻どころか、攻められれば防衛するのが精一杯ではないか」
アルバロは現状の報告と対小佐々戦略の根本的な見直しと願うべく、本国へ使者を送ったのであった。しかし、スペイン本国には、近くイギリスと雌雄を決する海戦が、待ち構えていたのだ。
■諫早
「小樽の第五艦隊を用いて、勘察加から島々を渡り、発見された新大陸の北端に良港があるので、夏の間に足溜り(拠点)をつくるのだ。陸軍を派遣させ、駐屯させる。越冬が可能となるように、食料や装備をわすれるな」
黒田官兵衛と宇喜多春家は、純正と直茂が不在の間の政務を取り仕切っていた。海軍総司令の深沢勝行と作戦会議中だ。
「作戦通り、第五艦隊の準備は整っておる」
勝行は頷いて答えた。官兵衛は地図を指さしながら、声を低めて言う。
「この遠征の真の目的は、殿下の言うヌエバ・エスパーニャを北から圧するためにございます。そのために夏の間に足溜り(拠点)をつくり、冬を越して春からさらに拠点をつくりつつ南へ向かい、国境へ迫るのです」
春家が同意して付け加える。
「その通りです。イスパニアの勢の北進を阻止し、彼奴らの後背を脅かす。これが殿下の策にございます」
「海軍に関しては子細無い。あとは陸軍との連携だ」
勝行の返事に官兵衛は続ける。
「さすがです。加えて現地の民との関わり合いも重きをなしてきましょう。彼の者等を味方につければ、必ずや役に立つ事でしょう」
「殿下によればヌエバ・エスパーニャは現地の民を迫害し、奴隷と同じように扱っているそうな。われらは彼奴らとは違うという事をみせ、実懇になれば、戦の際も味方してくれよう」
「然に候」
春家の言葉に勝行が答えた。
ヌエバ・エスパーニャを包囲するための戦略が動きつつあった。数年前に籠手田安経が、スペインに対して討って出る事の愚を主張していたが、もちろん正しい。
しかし、敵は向かってくるのだ。
いいかげん、もとを断たなければならない時期に来ていると、純正も考えたようである。
次回 第744話 (仮)『カリカット総督府と印度洋』
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