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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第731話 『天正大地震』
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天正十四年十一月二十九日(1586/1/18)
「そうか、やはり起きたか。すぐに救援物資の輸送の手配にかかれ」
「はは」
純正は全国視察を考えていたが、史実通り、大地震が発生した。
震源地が複数あり、被害は若狭湾から三河湾までと広範囲に及ぶ大地震だ。地震が起きることを想定して災害対策を行ってきたのだが、戦国の世である。
できる事には限りがあった。
①城郭と建築物の補強
より頑丈な積み方や、より大きな石材を使用して地震に強い構造にしようと考えたが、そもそもどんな構造が地震に強いかなど、測りようがない。天守閣の軽量化も同様である。
木造建築物の強度向上については筋交いの追加や接合部の強化を試みたが、果たしてどれくらい効果があっただろうか。
②避難場所の確保
これについては速やかに策定した。村単位で最低一カ所設け、可能ならば複数設けた。周りに倒壊の危険のある建造物がなく、津波に備えて沿岸部は高台に設定した。
③食料と水、医薬品などの備蓄
これも出来うる最大の事だろう。
地震による倒壊や火災での死傷を防ぐ事は難しいが、その後の医療環境を整える事で死傷者が出ることを防ぐ。神社仏閣で米や乾物、塩と言った長期保存可能な食糧の備蓄を行い、井戸も各所に整備した。
④消火対策
火災防止の観点から夜間の火の使用を制限し、飲料水と同様に消火用の貯水槽を各所に設置して、城下町の水路網を拡充した。
こちらも倒壊による圧死は防ぐ事はできないが、火災による死傷者を減らすための処置である。
⑤情報伝達システムの構築
直接的な被害拡大防止にはならないが、狼煙や太鼓、手旗や飛脚など、地震発生や被害状況や救援要請を迅速に伝える体制を構築。これも戦国時代なのでどれくらい出来るかは不明。
⑥救助・医療体制の準備
病気予防のための診療所の設置は行っていたが、拡充した。漢方薬やその他の医療物資の備蓄と医療従事者の迅速な展開を計画。
⑦領民教育
なによりも大事なのは事前の教育であるが、定期的な避難訓練を実施して、避難の遅れによる被害をなくす。
畿内に肥前国陸海軍の基地や駐屯地はなく、軽微な被害を受けたのは越中岩瀬の基地のみである。周辺の陸海軍駐屯地や基地からの救援物資の輸送が迅速に行われた。
「やっぱり歴史通り天正地震が起きた。多少の被害は抑えられたかもしれないが、結局人間の力は大自然には敵わない。これで山内一豊の一人娘も死んだんだよな……あれ?」
純正はある事に気がついた。天正大地震は確かに起きた。そのための予防措置は講じたものの、被害を少なくできただけであるが、人的被害の内訳が違ったのだ。
北近江の長浜城は、ない。今浜城があり、そこは浅井領なのだ。
そのため山内一豊は幸か不幸か一城の主ではなく、娘も死んでいない。天災によって人は殺されたりもするが、歴史が変わり死ぬ人が生きた。
今まで散々歴史を改変してこの時代を変えて変えまくってきた純正であるが、妙なリアルさを感じたのだ。
純正のもとには次々に地震の報告が入ってくる。陸海軍と地域の警察機構を中心として救援活動が行われているが、文献で読んだ内容と聞く内容では大きな違いがある。
純正自身は京都にあって、近江や飛騨に比べれば大きな被害はなかったが、もし自身が大被害を経験していたのなら、その驚きは天と地ほども違ったかも知れない。
報告書を手に取った純正の指が微かに震える。文字の羅列から浮かび上がる光景は、予想を遥かに超えていた。
「これほどまでに……」
純正の言葉を途切れさせる。机上の地図に目を落とすと、被災地を示す印が点々と広がっている。その一つ一つに、数え切れない人々の運命が刻まれているのだ。
直茂が静かに問いかける。
「御屋形様、現地視察は如何なさいますか?」
「すぐに行く。準備を」
純正は目を閉じ、深く息を吐いた。
馬上の純正を、冷たい風が迎える。道中、倒壊した民家や割れた地面が目に飛び込んでくる。かつて文献で読んだ被害状況が、生々しい現実となって広がっているのだ。
大日本国庁舎は夜のため人がおらず、火も使っていなかったので火災はなかったが、倒壊していた。昼間に地震が起きていたならば、大勢が被害にあっただろう。
京都にある肥前国庁舎は、倒壊を免れた。地盤が固い土地であったのが幸いした。重傷者はでたものの、死者は辛うじて出ておらず、庁舎付きの医療部隊が対処している。
まず純正は南近江の新政府庁舎まわりを視察する事にした。
途中ある村に到着すると、老婆が純正に駆け寄ってくる。
「お侍さん! うちの孫が梁の下敷きに……」
純正は馬から飛び降り、即座に指示を出す。
「すぐに救助班を!」
自ら瓦礫を掻き分ける純正の姿に触発され、村人たちも救助活動に加わっていく。最初はためらいがちだった彼らの動きも、やがて勢いを増す。
汗と埃にまみれ、一心不乱に作業に没頭していった。
素手での作業は危険を伴う。純正の手が鋭い石ころに当たり、血が滲んだ。痛みを感じつつも、彼は構わず瓦礫を取り除き続けた。
周囲には荒い息遣いが響き、石や木材がこすれ合う音が緊張感を高めていく。
「御屋形様、何も御自らなさらなくても……」
「何を言うか! 大事な民ではないか!」
理屈はない。体が勝手に動いたのだ。
「こちらです!」
誰かが叫んだ。純正は声のした方向へ素早く移動する。そこで、かすかな物音が聞こえた。全員が息を潜める。再び聞こえてきたのは、か細いながらも確かな泣き声だった。
「生きている!」
おおおおお! 歓喜の声が上がった。
「慎重に! 怪我をさせないように気をつけろ!」
純正は作業の手を止めることなく、指示を飛ばす。
村人たちの目に光が宿る。希望が与えられたかのように、動きがさらに活発になる。大きな梁を持ち上げる者、小さな瓦礫を丁寧に取り除く者、それぞれが全力を尽くす。
やがて、小さな手が見えた。純正は慎重にその手を取り、優しく声をかける。
「大丈夫だ。もう安全だ」
少しずつ少年の姿が現れる。傷だらけで震えているが、確かに生きていた。純正は慎重に少年を抱き上げ、瓦礫の山から離れる。周囲から安堵のため息と喜びの声が漏れ、純正の目に涙が浮かんだ。
この命が助かったのは、事前の対策のおかげなのか、それとも歴史の偶然なのか。
「ありがとうございます……」
老婆が震える声で言った。
「なに、人の命は何にも代えがたい。子は宝じゃ」
純正が頷きながら周囲を見渡すと、倒壊を免れた避難所に整然と並ぶ備蓄品、テキパキと動く救助隊。事前の対策が少なからず形になっていた。
しかし同時に、まだ手の届かない場所で苦しんでいる人々の姿も見える。もっとできることがあったかもしれない。そう純正は思うが、具体的に何をどうすれば良かったのか……。
その時、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。見れば、織田家の郎党が救援物資を携えて駆けつけてくる。
地震の現実と向き合いつつ、いかに被害を少なく出来るか? 今後、11年後に起きる慶長伏見大地震へ備えなければならない。慶長豊後地震や伊予地震もあるのだ。
抗えない現実に、ため息すら出ない純正であった。
次回 第732話 (仮)『天正大視察~その1~』
「そうか、やはり起きたか。すぐに救援物資の輸送の手配にかかれ」
「はは」
純正は全国視察を考えていたが、史実通り、大地震が発生した。
震源地が複数あり、被害は若狭湾から三河湾までと広範囲に及ぶ大地震だ。地震が起きることを想定して災害対策を行ってきたのだが、戦国の世である。
できる事には限りがあった。
①城郭と建築物の補強
より頑丈な積み方や、より大きな石材を使用して地震に強い構造にしようと考えたが、そもそもどんな構造が地震に強いかなど、測りようがない。天守閣の軽量化も同様である。
木造建築物の強度向上については筋交いの追加や接合部の強化を試みたが、果たしてどれくらい効果があっただろうか。
②避難場所の確保
これについては速やかに策定した。村単位で最低一カ所設け、可能ならば複数設けた。周りに倒壊の危険のある建造物がなく、津波に備えて沿岸部は高台に設定した。
③食料と水、医薬品などの備蓄
これも出来うる最大の事だろう。
地震による倒壊や火災での死傷を防ぐ事は難しいが、その後の医療環境を整える事で死傷者が出ることを防ぐ。神社仏閣で米や乾物、塩と言った長期保存可能な食糧の備蓄を行い、井戸も各所に整備した。
④消火対策
火災防止の観点から夜間の火の使用を制限し、飲料水と同様に消火用の貯水槽を各所に設置して、城下町の水路網を拡充した。
こちらも倒壊による圧死は防ぐ事はできないが、火災による死傷者を減らすための処置である。
⑤情報伝達システムの構築
直接的な被害拡大防止にはならないが、狼煙や太鼓、手旗や飛脚など、地震発生や被害状況や救援要請を迅速に伝える体制を構築。これも戦国時代なのでどれくらい出来るかは不明。
⑥救助・医療体制の準備
病気予防のための診療所の設置は行っていたが、拡充した。漢方薬やその他の医療物資の備蓄と医療従事者の迅速な展開を計画。
⑦領民教育
なによりも大事なのは事前の教育であるが、定期的な避難訓練を実施して、避難の遅れによる被害をなくす。
畿内に肥前国陸海軍の基地や駐屯地はなく、軽微な被害を受けたのは越中岩瀬の基地のみである。周辺の陸海軍駐屯地や基地からの救援物資の輸送が迅速に行われた。
「やっぱり歴史通り天正地震が起きた。多少の被害は抑えられたかもしれないが、結局人間の力は大自然には敵わない。これで山内一豊の一人娘も死んだんだよな……あれ?」
純正はある事に気がついた。天正大地震は確かに起きた。そのための予防措置は講じたものの、被害を少なくできただけであるが、人的被害の内訳が違ったのだ。
北近江の長浜城は、ない。今浜城があり、そこは浅井領なのだ。
そのため山内一豊は幸か不幸か一城の主ではなく、娘も死んでいない。天災によって人は殺されたりもするが、歴史が変わり死ぬ人が生きた。
今まで散々歴史を改変してこの時代を変えて変えまくってきた純正であるが、妙なリアルさを感じたのだ。
純正のもとには次々に地震の報告が入ってくる。陸海軍と地域の警察機構を中心として救援活動が行われているが、文献で読んだ内容と聞く内容では大きな違いがある。
純正自身は京都にあって、近江や飛騨に比べれば大きな被害はなかったが、もし自身が大被害を経験していたのなら、その驚きは天と地ほども違ったかも知れない。
報告書を手に取った純正の指が微かに震える。文字の羅列から浮かび上がる光景は、予想を遥かに超えていた。
「これほどまでに……」
純正の言葉を途切れさせる。机上の地図に目を落とすと、被災地を示す印が点々と広がっている。その一つ一つに、数え切れない人々の運命が刻まれているのだ。
直茂が静かに問いかける。
「御屋形様、現地視察は如何なさいますか?」
「すぐに行く。準備を」
純正は目を閉じ、深く息を吐いた。
馬上の純正を、冷たい風が迎える。道中、倒壊した民家や割れた地面が目に飛び込んでくる。かつて文献で読んだ被害状況が、生々しい現実となって広がっているのだ。
大日本国庁舎は夜のため人がおらず、火も使っていなかったので火災はなかったが、倒壊していた。昼間に地震が起きていたならば、大勢が被害にあっただろう。
京都にある肥前国庁舎は、倒壊を免れた。地盤が固い土地であったのが幸いした。重傷者はでたものの、死者は辛うじて出ておらず、庁舎付きの医療部隊が対処している。
まず純正は南近江の新政府庁舎まわりを視察する事にした。
途中ある村に到着すると、老婆が純正に駆け寄ってくる。
「お侍さん! うちの孫が梁の下敷きに……」
純正は馬から飛び降り、即座に指示を出す。
「すぐに救助班を!」
自ら瓦礫を掻き分ける純正の姿に触発され、村人たちも救助活動に加わっていく。最初はためらいがちだった彼らの動きも、やがて勢いを増す。
汗と埃にまみれ、一心不乱に作業に没頭していった。
素手での作業は危険を伴う。純正の手が鋭い石ころに当たり、血が滲んだ。痛みを感じつつも、彼は構わず瓦礫を取り除き続けた。
周囲には荒い息遣いが響き、石や木材がこすれ合う音が緊張感を高めていく。
「御屋形様、何も御自らなさらなくても……」
「何を言うか! 大事な民ではないか!」
理屈はない。体が勝手に動いたのだ。
「こちらです!」
誰かが叫んだ。純正は声のした方向へ素早く移動する。そこで、かすかな物音が聞こえた。全員が息を潜める。再び聞こえてきたのは、か細いながらも確かな泣き声だった。
「生きている!」
おおおおお! 歓喜の声が上がった。
「慎重に! 怪我をさせないように気をつけろ!」
純正は作業の手を止めることなく、指示を飛ばす。
村人たちの目に光が宿る。希望が与えられたかのように、動きがさらに活発になる。大きな梁を持ち上げる者、小さな瓦礫を丁寧に取り除く者、それぞれが全力を尽くす。
やがて、小さな手が見えた。純正は慎重にその手を取り、優しく声をかける。
「大丈夫だ。もう安全だ」
少しずつ少年の姿が現れる。傷だらけで震えているが、確かに生きていた。純正は慎重に少年を抱き上げ、瓦礫の山から離れる。周囲から安堵のため息と喜びの声が漏れ、純正の目に涙が浮かんだ。
この命が助かったのは、事前の対策のおかげなのか、それとも歴史の偶然なのか。
「ありがとうございます……」
老婆が震える声で言った。
「なに、人の命は何にも代えがたい。子は宝じゃ」
純正が頷きながら周囲を見渡すと、倒壊を免れた避難所に整然と並ぶ備蓄品、テキパキと動く救助隊。事前の対策が少なからず形になっていた。
しかし同時に、まだ手の届かない場所で苦しんでいる人々の姿も見える。もっとできることがあったかもしれない。そう純正は思うが、具体的に何をどうすれば良かったのか……。
その時、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。見れば、織田家の郎党が救援物資を携えて駆けつけてくる。
地震の現実と向き合いつつ、いかに被害を少なく出来るか? 今後、11年後に起きる慶長伏見大地震へ備えなければならない。慶長豊後地震や伊予地震もあるのだ。
抗えない現実に、ため息すら出ない純正であった。
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