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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第718話 『三個師団と三個艦隊。汽帆船の艦隊編成へ』
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天正十三年六月二十九日(1584/8/5)
陸軍に関しては北方は小樽に、印阿国はケープタウンとカリカットに駐屯地を設営して地域の防備と運営にあたる事となったのだが、三個師団の増強はそこまで時間はかからなかった。
小樽、ペトロパブロフスク・カムチャッキー、オホーツク、ウラジオストクに各一個連隊規模を配備させていたからだ。
さらに5年前の天正七年(1578年)に八個師団体制にしてからは軍の規模が拡大していなかったので、各師団三個旅団体制だったものが四個旅団となっていた事も大きい。
まずは増加していた八個旅団を二個師団と二個旅団に分けた。
そしてケープタウンに第九師団、カリカットに第十師団、小樽に二個旅団を第十一師団として配備し、時期を見て四都市に配備された合計四個連隊に一個連隊を加え一個旅団を増強する事となった。
兵員の移送に関してはマニラ鎮守府所属艦艇総出で行い、北方に関しては岩瀬鎮守府艦艇がその任にあたった。岩瀬鎮守府の防衛エリアは北はウラジオストクと小樽から、南は対馬海峡までである。
■肥前国海軍省
海軍大臣の深堀純賢は、副大臣の長崎純景と共に大激論の渦中にあった。
「蒸気船の良さは分かる! 然れど軍艦に蒸気船を用いるのは、いささか短慮にござろう。軍艦としては、これまで通りの戦列艦でよいではないか。何ゆえわざわざ蒸気船を用いるのだ?」
南遣艦隊を除いた第一から第四の艦隊司令長官と、総司令の深澤勝行が議論を交わす。汽帆船ではなくこれまで通り帆船を建造して艦隊編成にあてる、と意見したのは第一艦隊の赤崎伊予守中将である。
第二艦隊の比志島左馬助義基中将、第三艦隊の来島佐助通総中将、第四艦隊の安宅甚五郎信康中将が参列している。第三、第四の長官は同姓同名の別人である。
勝行はざっくばらんに聞いた。
「赤崎中将、なんでそんなに汽帆船を嫌うんだ? まあ確かに戦列艦に比べて不格好ではあるがな。それでも風がなくても進むというのは、艦隊を用いる上でかなり利があると思うが?」
伊予守は腕を組み、眉間にしわを寄せながら答える。
「お言葉ですが総司令、外見の問題ではありませぬ。私が懸念するのは、戦の際の脆さにございます。艦の舷側に進むための輪がありますゆえ、この外輪、とでも申しましょうか。これは敵の砲撃に対して弱すぎるのです。一度でも当たれば、容易く破られてしまします」
うべなるかな(なるほど)、と勝行は一言頷き、続けた。
「会戦の際の砲撃による弱さの事であるな。皆はどうだ?」
勝行が仕切っているので、純賢も純景も口を挟まない。現場の意見を尊重する。二人とも昔はどうあれ、今は完全な赤煉瓦だ。
「諸君、この点についてはどう考える?」
第二艦隊の比志島義基が咳払いをして口を開く。
「赤崎中将の懸念はもっともです。然れど風に左右されずに動ける事は、大いなる利にございます。我が国の広大な領土の備えを考えるに、速やかに動き配し得る艦隊の能は不可欠ではないでしょうか」
然様な事を言っておるのではない! と伊予守はドンと机をたたいて睨む。
「守るべき領土が広い事は先刻承知! 速やかに動く事の重しは十分心得ておる! わしが言いたいのは総司令が仰せの様に、砲撃を受けた際の弱さの事だ! 的外れも甚だしい!」
比志島は伊予守の剣幕に一瞬たじろいだが、深呼吸をして、冷静に反論する。
「失礼いたしました、赤崎中将。確かに砲撃に対する弱さは見過ごせませぬ。然れどそれを補って余りある利もあるのではないでしょうか」
「例えば?」
伊予守が間髪入れずに返す。
比志島は一瞬考え、慎重に言葉を選びながら答えた。
「例えば、敵艦隊を迎撃する際の動きの速さにござろうか。風向きに関係なく会戦に利のある所に配す事能うれば、用いる兵法の数も増え申そう」
伊予守の顔がピクリと動く。
来島通総が静かに口を開いた。
「某からも一言。荷駄や兵の輸送が速くなる事も見逃せません。特に印阿国や北方への展開を考えると、風まかせでは心もとない」
「何を言っているのだ貴様は……? わしが先ほど言うた事をもう忘れたのか?」
伊予守の顔がまた引きつっている。
「軍艦の本来の役目はなんじゃ? 兵を運ぶ? 粮料(兵糧)を運ぶ? 違う! 敵艦に掛りて(攻撃して)沈める事であろうが! その第一義である会戦において、備えが弱いと申しておるのだ」
それだけではない、と伊予守は続ける。
「燃料に石炭を使う蒸気機関を載せるとなれば、かなりの場所をとる。内に外に場所をとって、そのために載せられる砲の数も大幅に減る。おそらくは二十門から三十門に減るのではないか? これで如何にして戦うのだ?」
伊予守の鋭い指摘に、会議室内が静まり返った。比志島と来島は言葉を失い、互いに顔を見合わせる。
「当たらなければ、良いのではありませんか?」
静寂を破るように第四艦隊の安宅甚五郎中将が言った。
「まず、蒸気機関を用いる事で、風向きに関わらず風上を取ること能いまする。常に風上をとれるとなれば、これはかなり戦において利がございます。また、わが海軍においては、敵の射程の外より砲撃し、敵の砲撃を受けない距離で戦う事を常としておりました」
グリボーバルシステムによって砲の性能があがり、射程や精度の向上があったのだ。
「対上杉戦では敵の接近を許しましたが、敵の攻撃は帆にございました。また、イスパニアとの戦いにおいては舷側への攻撃を受けましたが、それは風上をとれず、利のある所に艦隊を動かせなかったからでございます」
安宅の言葉に、会議室内の雰囲気が一変した。しかしまだ、伊予守は眉をひそめて腕を組んだまま沈黙している。
勝行が身を乗り出して言う。
「うべなるかな(なるほど)、安宅中将の言うとおりだ。風上を取れることの利は大きい」
比志島が安堵の表情を浮かべながら付け加える。
「然様ですな。敵の射程の外から攻撃できれば、外輪の弱さも障りにはならない」
「確かにそれは理想的だ。だが、常に風上を取れるとは限らん。敵も黙って見ているわけではあるまい」
伊予守はまだ納得していない様子で口を開いた。
「取れまする。仮に敵が風上にいたとして、帆船であれば敵の風上にまわるは至難の業。然れど、蒸気船であれば風上に向かって進めるのです。蛇行せずに、でございます」
安宅甚五郎信康が伊予守の問いに答え、さらに続ける。
「敵もさらに風上に向かっていこうとするでしょうが、進めたとしても蛇行しながらですので、すぐに我らに追い抜かれます。向かい風ならなおさらにございます。敵は向かい風に向かって進めませぬが、我が艦は進めるのです」
「安宅中将の言、蒸気船の利、しかと得心した。されど机の上でいくら論じ合っても、いずれが優れているかわからぬ。如何だ? ひとつ競ってみようではないか」
勝行は安宅の説明を聞き終えると、そう締めくくった。どうやら勝行の中では結論がでたようだ。
かくして蒸気客船対戦列艦の、前代未聞の勝負が始まる事となった。
次回 第719話 (仮)『汽帆船対戦列艦』
陸軍に関しては北方は小樽に、印阿国はケープタウンとカリカットに駐屯地を設営して地域の防備と運営にあたる事となったのだが、三個師団の増強はそこまで時間はかからなかった。
小樽、ペトロパブロフスク・カムチャッキー、オホーツク、ウラジオストクに各一個連隊規模を配備させていたからだ。
さらに5年前の天正七年(1578年)に八個師団体制にしてからは軍の規模が拡大していなかったので、各師団三個旅団体制だったものが四個旅団となっていた事も大きい。
まずは増加していた八個旅団を二個師団と二個旅団に分けた。
そしてケープタウンに第九師団、カリカットに第十師団、小樽に二個旅団を第十一師団として配備し、時期を見て四都市に配備された合計四個連隊に一個連隊を加え一個旅団を増強する事となった。
兵員の移送に関してはマニラ鎮守府所属艦艇総出で行い、北方に関しては岩瀬鎮守府艦艇がその任にあたった。岩瀬鎮守府の防衛エリアは北はウラジオストクと小樽から、南は対馬海峡までである。
■肥前国海軍省
海軍大臣の深堀純賢は、副大臣の長崎純景と共に大激論の渦中にあった。
「蒸気船の良さは分かる! 然れど軍艦に蒸気船を用いるのは、いささか短慮にござろう。軍艦としては、これまで通りの戦列艦でよいではないか。何ゆえわざわざ蒸気船を用いるのだ?」
南遣艦隊を除いた第一から第四の艦隊司令長官と、総司令の深澤勝行が議論を交わす。汽帆船ではなくこれまで通り帆船を建造して艦隊編成にあてる、と意見したのは第一艦隊の赤崎伊予守中将である。
第二艦隊の比志島左馬助義基中将、第三艦隊の来島佐助通総中将、第四艦隊の安宅甚五郎信康中将が参列している。第三、第四の長官は同姓同名の別人である。
勝行はざっくばらんに聞いた。
「赤崎中将、なんでそんなに汽帆船を嫌うんだ? まあ確かに戦列艦に比べて不格好ではあるがな。それでも風がなくても進むというのは、艦隊を用いる上でかなり利があると思うが?」
伊予守は腕を組み、眉間にしわを寄せながら答える。
「お言葉ですが総司令、外見の問題ではありませぬ。私が懸念するのは、戦の際の脆さにございます。艦の舷側に進むための輪がありますゆえ、この外輪、とでも申しましょうか。これは敵の砲撃に対して弱すぎるのです。一度でも当たれば、容易く破られてしまします」
うべなるかな(なるほど)、と勝行は一言頷き、続けた。
「会戦の際の砲撃による弱さの事であるな。皆はどうだ?」
勝行が仕切っているので、純賢も純景も口を挟まない。現場の意見を尊重する。二人とも昔はどうあれ、今は完全な赤煉瓦だ。
「諸君、この点についてはどう考える?」
第二艦隊の比志島義基が咳払いをして口を開く。
「赤崎中将の懸念はもっともです。然れど風に左右されずに動ける事は、大いなる利にございます。我が国の広大な領土の備えを考えるに、速やかに動き配し得る艦隊の能は不可欠ではないでしょうか」
然様な事を言っておるのではない! と伊予守はドンと机をたたいて睨む。
「守るべき領土が広い事は先刻承知! 速やかに動く事の重しは十分心得ておる! わしが言いたいのは総司令が仰せの様に、砲撃を受けた際の弱さの事だ! 的外れも甚だしい!」
比志島は伊予守の剣幕に一瞬たじろいだが、深呼吸をして、冷静に反論する。
「失礼いたしました、赤崎中将。確かに砲撃に対する弱さは見過ごせませぬ。然れどそれを補って余りある利もあるのではないでしょうか」
「例えば?」
伊予守が間髪入れずに返す。
比志島は一瞬考え、慎重に言葉を選びながら答えた。
「例えば、敵艦隊を迎撃する際の動きの速さにござろうか。風向きに関係なく会戦に利のある所に配す事能うれば、用いる兵法の数も増え申そう」
伊予守の顔がピクリと動く。
来島通総が静かに口を開いた。
「某からも一言。荷駄や兵の輸送が速くなる事も見逃せません。特に印阿国や北方への展開を考えると、風まかせでは心もとない」
「何を言っているのだ貴様は……? わしが先ほど言うた事をもう忘れたのか?」
伊予守の顔がまた引きつっている。
「軍艦の本来の役目はなんじゃ? 兵を運ぶ? 粮料(兵糧)を運ぶ? 違う! 敵艦に掛りて(攻撃して)沈める事であろうが! その第一義である会戦において、備えが弱いと申しておるのだ」
それだけではない、と伊予守は続ける。
「燃料に石炭を使う蒸気機関を載せるとなれば、かなりの場所をとる。内に外に場所をとって、そのために載せられる砲の数も大幅に減る。おそらくは二十門から三十門に減るのではないか? これで如何にして戦うのだ?」
伊予守の鋭い指摘に、会議室内が静まり返った。比志島と来島は言葉を失い、互いに顔を見合わせる。
「当たらなければ、良いのではありませんか?」
静寂を破るように第四艦隊の安宅甚五郎中将が言った。
「まず、蒸気機関を用いる事で、風向きに関わらず風上を取ること能いまする。常に風上をとれるとなれば、これはかなり戦において利がございます。また、わが海軍においては、敵の射程の外より砲撃し、敵の砲撃を受けない距離で戦う事を常としておりました」
グリボーバルシステムによって砲の性能があがり、射程や精度の向上があったのだ。
「対上杉戦では敵の接近を許しましたが、敵の攻撃は帆にございました。また、イスパニアとの戦いにおいては舷側への攻撃を受けましたが、それは風上をとれず、利のある所に艦隊を動かせなかったからでございます」
安宅の言葉に、会議室内の雰囲気が一変した。しかしまだ、伊予守は眉をひそめて腕を組んだまま沈黙している。
勝行が身を乗り出して言う。
「うべなるかな(なるほど)、安宅中将の言うとおりだ。風上を取れることの利は大きい」
比志島が安堵の表情を浮かべながら付け加える。
「然様ですな。敵の射程の外から攻撃できれば、外輪の弱さも障りにはならない」
「確かにそれは理想的だ。だが、常に風上を取れるとは限らん。敵も黙って見ているわけではあるまい」
伊予守はまだ納得していない様子で口を開いた。
「取れまする。仮に敵が風上にいたとして、帆船であれば敵の風上にまわるは至難の業。然れど、蒸気船であれば風上に向かって進めるのです。蛇行せずに、でございます」
安宅甚五郎信康が伊予守の問いに答え、さらに続ける。
「敵もさらに風上に向かっていこうとするでしょうが、進めたとしても蛇行しながらですので、すぐに我らに追い抜かれます。向かい風ならなおさらにございます。敵は向かい風に向かって進めませぬが、我が艦は進めるのです」
「安宅中将の言、蒸気船の利、しかと得心した。されど机の上でいくら論じ合っても、いずれが優れているかわからぬ。如何だ? ひとつ競ってみようではないか」
勝行は安宅の説明を聞き終えると、そう締めくくった。どうやら勝行の中では結論がでたようだ。
かくして蒸気客船対戦列艦の、前代未聞の勝負が始まる事となった。
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