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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第715話 『大日本国政府、大臣以下の閣僚人事』
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天正十三年三月九日(1584/4/13) 新政府暫定庁舎
信長への新政府構想の打診から始まり、ちょうど四年前の天正九年二月(1580年)に発足した大日本国新政府であるが、当面は肥前国政府の大臣や官僚がそれを兼務していた。
しかし四年が経ち、まだまだヨチヨチ歩きではあるものの、新政府としての形ができはじめ、他の国からの人員を参入させて業務の円滑化を図る時期に来ていたのだ。
まず副総理というポジションに信長が就任した。大名格で唯一外国を知っているというのが大きな理由であるが、純正の精神的支柱でもあったからだ。
財務副大臣……羽柴秀吉。
陸軍副大臣……堀秀政。
海軍副大臣……九鬼嘉隆。
文部省……語学教育局長・松井康之
農林水産省……本庁(佃十成)・水産庁(奥田直政)
厚生労働省……大臣補佐 真木島昭光・平手汎秀
秀吉や嘉隆を除いては、純アルメイダ大学を卒業後に織田領にて岐阜大学で教鞭をとりながら、自らの領地でその知識を活かして業務をしていた者達である。
その他にも数名の人間が入った。
■肥前国庁舎への途上
肥前国庁舎へと続く石畳の道を、六人の男たちが並んで歩いていた。純正への挨拶に向かう途中で、新たな任務への想いを語り合っていたのだ。
「まだ信じられないよ。岐阜大学の教授から文部省の語学教育局長か」
「俺もだ。農林水産省の本庁とはな。領地の農政とは比べものにならない規模だ」
松井康之が眼鏡を押し上げながら少し息を切らせて言うと、佃十成が大股で歩きながら、隣の松井に同意した。彼ら六人からはあまり戦国の匂いがしない。
いや、まぎれもなく戦国の武者なのだが、言葉遣いや考え方は小佐々ナイズされている(アメリカナイズ)のだ。大学を卒業して10年経つが、およそ同じ国とは思えないほど、文化や考え方の違う留学経験だった。
郷に入れば郷に従えで、織田領に帰ってきてからは元通りなのだが、こうやって同期と会うと、学生時代に戻ってしまう。純正の影響で同期会なるものも定期的に開催していた。
「水産庁も同じさ。全国の漁業を統括するんだ。身が引き締まる思いだよ」
奥田直政が遠くを見るような目をして付け加える。
「厚生労働省の大臣補佐か。国民の健康を担う重責だ。平手、お前はどう思う?」
「確かに大役だが、我々にはアルメイダ大学での学びがある。それを活かす時が来たんだ」
真木島昭光が額の汗を拭いながら不安そうに呟くと、平手汎秀が真木島の肩を軽く叩き、励ますように言った。
■肥前国庁舎 純正私室
「関白殿下におかれましては益々ご健勝の事とお慶び申し上げます」
堀秀政が代表で挨拶をすると、全員が頭を下げて挨拶をする。純正の私室は洋室なので平伏はしない。最初の頃は床に正座して平伏していたものだが、純正が止めさせたのだ。
「おお! みんな久しぶりだね! 元気にしてた?」
純正もまた、相手を見て話している。
「さあさあ、堅い挨拶はこれまでにして、コーヒーがいいか、お茶がいいか。そうだ、ワインにしようか。お昼ご飯まだだろう?」
全員が恐縮して遠慮しようとするが、純久が入ってきた。
「おお、これはこれは。例の話していた諫早の卒業生?」
純久もまた、公式では無い私的な場では、純正に対して叔父として振る舞う。
それを純正が許すというか、頼んだのだ。格というものや序列や貴賤があるとはいえ、自分の叔父にはやはり叔父としていて欲しい時がある。
「気にしなくて良いぞ。みんな。さあ、昼飯にしよう」
純久にしても従五位下治部少輔であるが、その言葉に緊張していた面々の表情が少し和らいだ。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
秀政の返事に純正が笑顔で応じる。
「よし、じゃあ隣の部屋に移ろう。そこの方が広くて食事に適しているんだ」
一同が立ち上がり、純正と純久に導かれて隣室へ移動する。部屋に入ると、西洋風のテーブルと椅子が用意されていた。純正が座りながら言う。
「さて、あんまり仕事の話はしたくないけど、一つだけ聞かせてほしい。織田領は今、どんな感じ? 専門分野から見た感想で構わないよ。みんなが大学を卒業して十年経つけど、小佐々と比べて、どうかな?」
純正の質問を受け、一同は互いに顔を見合わせた。それぞれの専門分野で培った知識とこれまでの経験を踏まえて、織田領の現状を比較して考えている。
最初に発言したのは堀秀政だ。土木工学を専攻した者としての視点である。
「私の専門である土木工学の観点から申しますと、織田領の城や街道の整備は、十年前と比べて順調に改良が進んでいます。小佐々領とまではいきませんが、コンクリート舗装された街道も順次増えています。然れど小佐々領で見た石垣の築き方や、城下町の区画整理にはまだ及びません。特に水路の配置や橋の構造など、実用性と美観を兼ね備えた技術がまだ浸透していないと感じます」
「なるほど」
純正は静かに頷きながら堀の報告を聞いていた。既に把握している情報と、新たな報告を照らし合わせていたのだ。
「織田領内(州)の主な街道は既に出来上がっていたな。先日の国家予算で岐阜から信濃、そして上野から武蔵へ向かう中山道の残りの工事が始まったからな。それ以外の城下町同士をつなぐ街道の整備をやっているという事だな」
「その通りです」
「うむ、他はどうだ?」
松井康之が眼鏡を掛け直し、語り始めた。
「教育の観点から申しますと、織田領内では寺子屋を各国、各郡、各村に一つずつ設けて、読み書きソロバンを教えています。その中で優秀な者と希望者は中学へ進んでいます。数が少なく、まだまだ小佐々領には遠く及びませんが、今後は数を増やしつつ高校の設立を考えておりました。外国語教育に関しては大学で行っております」
「民の反応はどうだ?」
純正は相づちをうって質問した。
「只今は疑いの声も多いですが、少しずつ学ぶ者が増えてきています」
「そうか。農業はどうだ?」
佃十成は真剣な表情で答える。
「農業に関しては、新しい農具を取り入れたり、灌漑の改良が進んでいます。小佐々領からもたらされた品種改良技術も、少しずつ成しつつあります。特に、干ばつに強い稲の品種が農民たちに好評です」
「そうかそうか……奥田、水産業の状況はどうだ?」
そこで昼食が運ばれてきた。
仕事の話はしない、と言いつつも、どうしても男が集まれば仕事の話になる傾向がある。純正もそれは例外では無かった。ただ、生来の気さくさゆえに、周りに不快感や退屈さを与えるわけではない。
織田領でも遅ればせながら、技術の導入が進んでいるのだ。
しかし、大日本国としては、まだまだである。
次回 第716話 (仮)『朝鮮出兵の話』
信長への新政府構想の打診から始まり、ちょうど四年前の天正九年二月(1580年)に発足した大日本国新政府であるが、当面は肥前国政府の大臣や官僚がそれを兼務していた。
しかし四年が経ち、まだまだヨチヨチ歩きではあるものの、新政府としての形ができはじめ、他の国からの人員を参入させて業務の円滑化を図る時期に来ていたのだ。
まず副総理というポジションに信長が就任した。大名格で唯一外国を知っているというのが大きな理由であるが、純正の精神的支柱でもあったからだ。
財務副大臣……羽柴秀吉。
陸軍副大臣……堀秀政。
海軍副大臣……九鬼嘉隆。
文部省……語学教育局長・松井康之
農林水産省……本庁(佃十成)・水産庁(奥田直政)
厚生労働省……大臣補佐 真木島昭光・平手汎秀
秀吉や嘉隆を除いては、純アルメイダ大学を卒業後に織田領にて岐阜大学で教鞭をとりながら、自らの領地でその知識を活かして業務をしていた者達である。
その他にも数名の人間が入った。
■肥前国庁舎への途上
肥前国庁舎へと続く石畳の道を、六人の男たちが並んで歩いていた。純正への挨拶に向かう途中で、新たな任務への想いを語り合っていたのだ。
「まだ信じられないよ。岐阜大学の教授から文部省の語学教育局長か」
「俺もだ。農林水産省の本庁とはな。領地の農政とは比べものにならない規模だ」
松井康之が眼鏡を押し上げながら少し息を切らせて言うと、佃十成が大股で歩きながら、隣の松井に同意した。彼ら六人からはあまり戦国の匂いがしない。
いや、まぎれもなく戦国の武者なのだが、言葉遣いや考え方は小佐々ナイズされている(アメリカナイズ)のだ。大学を卒業して10年経つが、およそ同じ国とは思えないほど、文化や考え方の違う留学経験だった。
郷に入れば郷に従えで、織田領に帰ってきてからは元通りなのだが、こうやって同期と会うと、学生時代に戻ってしまう。純正の影響で同期会なるものも定期的に開催していた。
「水産庁も同じさ。全国の漁業を統括するんだ。身が引き締まる思いだよ」
奥田直政が遠くを見るような目をして付け加える。
「厚生労働省の大臣補佐か。国民の健康を担う重責だ。平手、お前はどう思う?」
「確かに大役だが、我々にはアルメイダ大学での学びがある。それを活かす時が来たんだ」
真木島昭光が額の汗を拭いながら不安そうに呟くと、平手汎秀が真木島の肩を軽く叩き、励ますように言った。
■肥前国庁舎 純正私室
「関白殿下におかれましては益々ご健勝の事とお慶び申し上げます」
堀秀政が代表で挨拶をすると、全員が頭を下げて挨拶をする。純正の私室は洋室なので平伏はしない。最初の頃は床に正座して平伏していたものだが、純正が止めさせたのだ。
「おお! みんな久しぶりだね! 元気にしてた?」
純正もまた、相手を見て話している。
「さあさあ、堅い挨拶はこれまでにして、コーヒーがいいか、お茶がいいか。そうだ、ワインにしようか。お昼ご飯まだだろう?」
全員が恐縮して遠慮しようとするが、純久が入ってきた。
「おお、これはこれは。例の話していた諫早の卒業生?」
純久もまた、公式では無い私的な場では、純正に対して叔父として振る舞う。
それを純正が許すというか、頼んだのだ。格というものや序列や貴賤があるとはいえ、自分の叔父にはやはり叔父としていて欲しい時がある。
「気にしなくて良いぞ。みんな。さあ、昼飯にしよう」
純久にしても従五位下治部少輔であるが、その言葉に緊張していた面々の表情が少し和らいだ。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
秀政の返事に純正が笑顔で応じる。
「よし、じゃあ隣の部屋に移ろう。そこの方が広くて食事に適しているんだ」
一同が立ち上がり、純正と純久に導かれて隣室へ移動する。部屋に入ると、西洋風のテーブルと椅子が用意されていた。純正が座りながら言う。
「さて、あんまり仕事の話はしたくないけど、一つだけ聞かせてほしい。織田領は今、どんな感じ? 専門分野から見た感想で構わないよ。みんなが大学を卒業して十年経つけど、小佐々と比べて、どうかな?」
純正の質問を受け、一同は互いに顔を見合わせた。それぞれの専門分野で培った知識とこれまでの経験を踏まえて、織田領の現状を比較して考えている。
最初に発言したのは堀秀政だ。土木工学を専攻した者としての視点である。
「私の専門である土木工学の観点から申しますと、織田領の城や街道の整備は、十年前と比べて順調に改良が進んでいます。小佐々領とまではいきませんが、コンクリート舗装された街道も順次増えています。然れど小佐々領で見た石垣の築き方や、城下町の区画整理にはまだ及びません。特に水路の配置や橋の構造など、実用性と美観を兼ね備えた技術がまだ浸透していないと感じます」
「なるほど」
純正は静かに頷きながら堀の報告を聞いていた。既に把握している情報と、新たな報告を照らし合わせていたのだ。
「織田領内(州)の主な街道は既に出来上がっていたな。先日の国家予算で岐阜から信濃、そして上野から武蔵へ向かう中山道の残りの工事が始まったからな。それ以外の城下町同士をつなぐ街道の整備をやっているという事だな」
「その通りです」
「うむ、他はどうだ?」
松井康之が眼鏡を掛け直し、語り始めた。
「教育の観点から申しますと、織田領内では寺子屋を各国、各郡、各村に一つずつ設けて、読み書きソロバンを教えています。その中で優秀な者と希望者は中学へ進んでいます。数が少なく、まだまだ小佐々領には遠く及びませんが、今後は数を増やしつつ高校の設立を考えておりました。外国語教育に関しては大学で行っております」
「民の反応はどうだ?」
純正は相づちをうって質問した。
「只今は疑いの声も多いですが、少しずつ学ぶ者が増えてきています」
「そうか。農業はどうだ?」
佃十成は真剣な表情で答える。
「農業に関しては、新しい農具を取り入れたり、灌漑の改良が進んでいます。小佐々領からもたらされた品種改良技術も、少しずつ成しつつあります。特に、干ばつに強い稲の品種が農民たちに好評です」
「そうかそうか……奥田、水産業の状況はどうだ?」
そこで昼食が運ばれてきた。
仕事の話はしない、と言いつつも、どうしても男が集まれば仕事の話になる傾向がある。純正もそれは例外では無かった。ただ、生来の気さくさゆえに、周りに不快感や退屈さを与えるわけではない。
織田領でも遅ればせながら、技術の導入が進んでいるのだ。
しかし、大日本国としては、まだまだである。
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