『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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日ノ本未だ一統ならず-技術革新と内政の時、日本の内へ、外へ-

第687話 『大阪城その後。東玄甫の健康診断と検疫システムの拡充』(1581/3/11) 

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 天正十年二月七日(1581/3/11) <純正>

 困った……。重要な事。重大な事を思い出した。大阪城だ新政府だと言っていたが、4年後に近畿地方で大地震が発生するんだ。世に言う天正大地震。マグニチュード8以上の超大型地震。

 地震が起きれば、当然倒壊が起きて火災も起きる。津波の危険性もあるし、死傷者は膨大な数に上るだろう。

 現に飛騨では帰雲かえりくも城が全壊し、内ヶ島氏一族が圧死して滅亡している。美濃・尾張・伊勢・近江・山城・越中に被害は及び、伊勢湾・若狭湾・富山湾では津波の被害があった。




 これで、大阪城をこれから造るのか? 文献によれば近江やその周辺に比べると被害は少ないようだけど……。しかし、あれだけ議論して決めた事を、地震が起きるからとの理由で撤回できるだろうか?

 そもそも地震の発生根拠が説明できない。現代でさえ原因は事後にしか解明できず、地震予知は天気予報のようにはならない。

 内大臣様は頭がおかしくなったのか? と言われておしまいである。

 地震は起きてしまえばどうにもならない。
  
 被害を最小限に抑えることは可能だが、0には出来ないのだ。しかし、出来る事はやろう。耐震構造は親父に任せ、とは言っても、実はあの後親父から言われたのだ。

『俺は土木建築技士だが、耐震の専門家ではない。一般建築は専門外で、ダムや道路、どちらかと言うとそっちが専門なんだ』と。

 しかしそれでも、今の(戦国の)大工さんより知識や経験はあるだろう。相談して最高の物を造ってもらおう。そして防災対策も重要だ。これは幾内に限らず、俺の領内でも徹底させないといけない。

 なぜなら、最初に考えたように建造を先延ばしにしても、十数年後には慶長地震がやってくるからだ。

 ※日常の備え
  非常用品の準備:水、食料、薬などを備蓄する。緊急時に持ち出せる袋を用意する。

 ※避難経路の確認
  家族や仲間と避難経路を事前に確認しておく。開けた場所や安全な避難場所を決めておく。
 
 ※防災教育
  地震が発生した場合の行動を日常的に教育し、防災訓練を行う。

 それから火災の防止対策として、わらきや板葺きの屋根を瓦葺きにしよう。これ、領内では進めているけど、全国となるとかなりの費用だな。そんな事よりも日々の生活に困っている人が多すぎるのだ。

 今そこにある命の危機の方が大事だから、それは仕方ない。順次やっていくとしよう。

 ああそれから、豊後の地震もそうだけど、伊勢湾と若狭湾、それから富山湾の津波対策もやってもらおう。

 これは、専門分野では? 

 それに災害対策庁もつくろう。内閣府の外局として設立し、有事には各省庁の部門を一元管理して対処する。

 暫定的に、ある程度国内の様々な基準が定まるまでは、肥前国の閣僚が新政府の閣僚代行だな。……いつまでかかるか。でも議決権はないから、大丈夫かな。




 ■南近江 新政府暫定庁舎(旧大同盟合議所)

 産業の育成や技術供与、商人同士の連携や関銭問題など、新政府国内では考えるべき議題は山ほどある。技術や産業は確かに国の根幹をなす重要なファクターだが、それに加えて教育や厚生というのも無視できない重要な要素だ。

「御屋形様、これからの世は、体の在り様を定めし期日ごとに調べ、健やかなる在り様に保つ事が肝要にございます。また疾病に処せる様、省庁の垣根をこえてそれらを統べる役所が居るかと存じます」

 肥前国の厚生大臣、医者であり純アルメイダ大学の医学部教授である東玄甫は、強い口調で話し始めた。

「生業を栄えさせるには健やかなる働き手が要りますし、疫病が蔓延はびこるを防ぐ事で世の中を動きなし(安定)と成せまする」

「ふむ」

「例えば、疫病が広まれば、それだけで生業が滞り、世の中を乱す事となりまする。そうならぬためにも、我らは健やかさを診て断ずる、健康診断とでも呼びましょうか。その秩序だった仕組みを作らねばなりません」

 会議室に集まった大名や家老達は、玄甫の言葉に真剣に耳を傾けていた。新政府が目指すべき一つの方向性が、玄甫の提案に明確に示されていたからだ。

 東玄甫はさらに力を込めて説明を続ける。

「つぶさには、各居城ならびに主たる街に検疫所を設け、年に一度などの定めし健康診断を義務とする事が肝要でござる。これにより、疾病の早めの発見と速やかに処す事が能いまする。また、医者とその助手、それに携わる者達を教え育て、練じては常に新たな医術と知を持つよう努めます」

「されど、玄甫殿」

 畠山義慶が口を開いた。

「左様な大きな仕組みを設けるには、銭は無論の事、人手を常に集めて保つのも難しいのではござらぬか?」

 玄甫はうなずきつつ応えた。

「確かに、それは一大事でございます。然れど、ここにおられる皆様のご協力を仰ぎ、既に決している負担金の分に基づき、要る分を出して頂ければ能います。障りとなるのはその当て(目的)と額にございましょう」

「その儀は、つぶさな計らい(計画)を示していただけると助かりますな」

 浅井長政が発言し、続けた。

「我らはすでに負担金を出すことに同意しておりますが、それが如何いかに使われるかを明らかにして欲しいのです」

「ごもっともにございます」

 と玄甫は深く頷いた。何をするにしても金である。

 国家予算の使い道は各省庁で取り合いなのは今も昔もかわらない。実際は領民(国民)の税金なのだが、家中の取り分から捻出するのだ。気にならない方がおかしい。

「まず、各国に設ける検疫所の諸々の費え(費用)、次に医者を育て、医術道具の備え、そして定期的な健康診断の実施に要する費えが要りまする。具体的な金額については、つぶさな予算案をお示しいたしまする」

 純正は『国』という表現はどうかと思ったが、肥前国で内外に宣言しているし(当初は対外的だけだった)、連邦国家の様なものだから、あえて変えなかった。

「では玄甫どの、これほどの大事業、費えは如何ほどか?」

 はい、と返事をした後に東玄甫は続けた。

「初年度には、各国に健康診断所を設けるために、一国(律令制の)あたり約八百四十貫九百六十文の建設費、さらに約千百五十六貫九百九十文の経常費が要りまする。これを新政府の二十七ヶ国において行うため、初年度の費えの算用は約五万三千九百四十四貫六百五十文となりまする」

 わかっていても、金のかかる話には難色を示すのが普通である。しかも自分の所だけではなく、他国の分まで出さないといけないのだ。どう考えても傷病人のための予算など、優先順位の下位である。

 考えもしないかもしれない。

 純正をはじめとした小佐々領内の為政者でなければ、その重要性は理解できないだろう。しかし、それを言ってしまえば、新政府を根本から否定することになる。

「加えて、次年度以降には各国での費えとして、一国あたり毎年約千百五十六貫九百九十文の費えが要りまする。次年度以降の費えを合わせると、約三万千二百三十八貫七百三十文にございます」

 ……。

 ……。

 ……。

「ふむ、ではそういたそう」

 信長が言う。ついで勝頼も同意した。他の大名も、その心中はわからないが、同意した。

 新政府の未来は、多難である。経済政策の予算を考えなければ、各大名の負担が増え、新政府が立ちゆかなくなるからだ。


 

 ※初年度の支出

 一国あたりの費用を前述の通りとして、独自に建設運営するのと対比して、+は費用減、-は費用増である。
 
 小佐々家:28,535.39貫文(-)
 織田家:15,683.38貫文(-)
 武田家:4,471.99貫文(-)
 徳川家:1,731.63貫文(+)
 里見家:1,446.67貫文(+)
 浅井家:1,116.45貫文(+)
 畠山家:722.83貫文(+)
 大宝寺家:237.35貫文(+)
 
 ※次年度以降の支出
 
 小佐々家:16,515.2貫文(-)
 織田家:9,080.61貫文(-)
 武田家:2,590.64貫文(-)
 徳川家:1,003.77貫文(+)
 里見家:837.15貫文(+)
 浅井家:646.62貫文(+)
 畠山家:418.58貫文(+)
 大宝寺家:137.45貫文(+)




 次回 第688話 (仮)『貨幣政策と度量衡』
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