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日ノ本未だ一統ならず-技術革新と内政の時、日本の内へ、外へ-
第686話 『おーやじ、なんばしょっとね?』(1581/2/7)
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天正十年一月四日(1581/2/7) 肥前飯盛城 <純正>
昨年末、松浦の爺様が亡くなった。享年八十八。
史実より3年長く生きたけど、人間五十年の二人分の大往生だ。史実にいない俺が統一を推し進めたものだから、喪主は平戸松浦からの養子ではなく、有馬晴信の五男であり養子の松浦盛である。
俺とは一つ違いだが、家督をついで立派に相神浦松浦氏をもり立てている。利三郎叔父上の長女、伊予を娶って小佐々の一族になっているけれど、かつては波多鎮、伊万里治とならぶわんぱく三人衆だった。
爺さん、安らかに眠ってくれ。
■小佐々城 <純正>
「おーやじっ!」
「うわっ! 何や?」
法事で諫早城に戻っていた俺は、テーブルに広げた図面を睨んで考え事をしている親父に声をかけて驚かせた。
「何してんの?」
「ん? 今か? こいはあいさ、古うなった黒口の造船所の改修ばせんばけん、図面ば考えよっとたい(これはな、古くなった黒口の造船所の改修をしないといけないから、図面を考えていたんだ)」
親父は一瞬俺の方をみたが、すぐに図面に目をおろして、こっちを見ずに答えた。転生前は土木建築の技士をやっていたので、そういう仕事があると、率先して参加している。
ちなみに、領主でありながら純アルメイダ大学の工学部、建築工学と土木工学科の教授をしている。領主でありながら、だが、すでに俺が商人大名と呼ばれるような前例をつくっていたから、あまり問題ではなかった。
15年前の永禄九年にコンクリートを造る際の配合や手順を教えてもらってから、河川工事や街道整備といったそっち系の事は、専門の親父にアドバイスをもらっていたのだ。
永禄十一年の七月に大学に学部が増設された際に、頼んで教授になってもらった。
「ふーん、そいはさ、親父じゃなからんばいかんと?(それは、親父じゃないといけないの?)」
俺はちょっとジャブを入れてみた。
「おいじゃなからんばいかん事はなかけどさ、まあ優秀な奴は何人かおるけんな(俺じゃなきゃいけない事はないけどさ、まあ優秀な奴は何人かいるからな)」
よしよし……。
「じゃあさ、ちょっと頼みのあっとけど(じゃあさ、ちょっと頼みがあるんだけど)」
「なんな(何)?」
「いやあ~。ちょおっと大きか仕事ばして欲しかなぁって思うてさ(ちょっと大きな仕事をして欲しいなぁって思ってさ)」
俺は肩を揉みながら、年甲斐もなくねだるように言う。
「だけんなんな?(だから何?)」
「いや、大阪城造って欲しかなあって思うて」
……。
「なんて? ?」
「いや、だけん(だから)大阪城」
俺は真顔で平然といった。
「はあ? ! 大阪城って言うたら、あの大阪城か? あの……豊臣秀吉か徳川家康か分からんけど、造ったっちゅう……あの大阪にある、あの、大阪城か?」
当たり前だが今は、ない。
「そうそう、あの大阪城! まあ豊臣秀吉が造って、徳川家康が改修したやつやけどね」
俺は明るく言葉を続けたけど、親父の顔には? ? ? と! ! ! ……困惑と驚きが入り混じっている。
「馬・鹿・た・れっ! なんでおいが大阪城ば造らんばいかんとや? ぞーたんじゃなか(なんで俺が大阪城を造らなきゃいけないんだ? 冗談じゃない)」
親父は怒ってはいない。声を荒らげてもいないし、怒気も感じない。冗談じゃないと言いつつも、冗談めかして言っている。
「冗談やないって。マジで言いよっとって(冗談じゃないって。マジで言ってるんだって)」
「マジでって……わい、大阪城がどがん太かか知っとるやろうが。いきおいかぞ。そいばおいに造れって言いよっとや? (お前、大阪城がどんだけ大きいか知ってるだろうが。ものすごいぞ。それを俺に造れって言ってんのか?)」
「知っとうよ。そいけど、親父なら造りきるって思うっちゃんね(知ってるよ。だけど親父なら造れるって思うんだよね)」
俺は真剣な顔で親父を見つめる。親父は困ったように額に手をやり、深いため息をついた。
「わいなー……いっくらおいの前世が土木建築技士やったっちゅうても、簡単には出来んとぞ? 資材も人手もクソんごといっし、金もいくらかかっかわからんぞ。金はあっとや? (お前な、いくら俺が前世で土木建築技士だったとしても、簡単じゃねんだぞ。資材も人手もメチャクチャいるし、金もいくらかかるかわらかない。金はあんのか?)」
その目は、無謀な計画を持ちかける息子を心配するような、複雑な色を宿していた。
「わかっとっさ。頼むけん! (わかってるよ。頼むから!)」
「あーもう、わかった。なんとかすっさ(何とかするよ)」
親父はまだ隠居していない。
俺は小佐々の家督をついでいるから、太田和家の嫡男は弟の治郎正澄なんだけど、海軍士官で海ばかりだ。だから領主としての役目はまだ親父がやっている。
ただし派遣された代官がいるから、実務は彼らがやっているのだ。いわば名誉領主のようなものだと言える。最近では、石原岳堡塁の補修もやって、コンクリート施工の実績は十分だ。
「鉄筋コンクリートで耐震構造もね」
「なんて?」
俺の言葉に、親父の顔がさらに驚きに染まる。
「て、鉄筋コンクリート? 耐震構造? なんば言いよっとか。なんかいやーな予感のしたばってんが、そがん事考えとったとか? (何言ってんだ。なんだか嫌な予感がしてたけど、そんな事考えていたのか?)」
「そう。あと数年で地震の起きっけん、そいの対策ばせんばけんね(地震が起きるから、それの対策をしないとね)」
俺は当然のように言う。鉄筋コンクリートも耐震構造も、前世の知識があれば、この時代でも十分実現可能だ。
と、思う。無茶振り?
「そがんことしたら、もう大阪城やなかろうが!」
親父は頭を抱えて嘆く。
「いやいや、見た目は当時のまんまに再現すっとさ(するんだよ)。中身だけ現代風にすればよかっさ(いいんだよ)」
「いや、そがん言うたっちゃ(そんな事言っても)」
……。
あーでもないこーでもない……。
ああ言えばこう言う……。
こうして、前代未聞の"鉄筋コンクリート製大阪城"建設プロジェクトが、動き出すこととなった。
次回 第687話 (仮)『東玄甫の健康診断と検疫システムの拡充』
昨年末、松浦の爺様が亡くなった。享年八十八。
史実より3年長く生きたけど、人間五十年の二人分の大往生だ。史実にいない俺が統一を推し進めたものだから、喪主は平戸松浦からの養子ではなく、有馬晴信の五男であり養子の松浦盛である。
俺とは一つ違いだが、家督をついで立派に相神浦松浦氏をもり立てている。利三郎叔父上の長女、伊予を娶って小佐々の一族になっているけれど、かつては波多鎮、伊万里治とならぶわんぱく三人衆だった。
爺さん、安らかに眠ってくれ。
■小佐々城 <純正>
「おーやじっ!」
「うわっ! 何や?」
法事で諫早城に戻っていた俺は、テーブルに広げた図面を睨んで考え事をしている親父に声をかけて驚かせた。
「何してんの?」
「ん? 今か? こいはあいさ、古うなった黒口の造船所の改修ばせんばけん、図面ば考えよっとたい(これはな、古くなった黒口の造船所の改修をしないといけないから、図面を考えていたんだ)」
親父は一瞬俺の方をみたが、すぐに図面に目をおろして、こっちを見ずに答えた。転生前は土木建築の技士をやっていたので、そういう仕事があると、率先して参加している。
ちなみに、領主でありながら純アルメイダ大学の工学部、建築工学と土木工学科の教授をしている。領主でありながら、だが、すでに俺が商人大名と呼ばれるような前例をつくっていたから、あまり問題ではなかった。
15年前の永禄九年にコンクリートを造る際の配合や手順を教えてもらってから、河川工事や街道整備といったそっち系の事は、専門の親父にアドバイスをもらっていたのだ。
永禄十一年の七月に大学に学部が増設された際に、頼んで教授になってもらった。
「ふーん、そいはさ、親父じゃなからんばいかんと?(それは、親父じゃないといけないの?)」
俺はちょっとジャブを入れてみた。
「おいじゃなからんばいかん事はなかけどさ、まあ優秀な奴は何人かおるけんな(俺じゃなきゃいけない事はないけどさ、まあ優秀な奴は何人かいるからな)」
よしよし……。
「じゃあさ、ちょっと頼みのあっとけど(じゃあさ、ちょっと頼みがあるんだけど)」
「なんな(何)?」
「いやあ~。ちょおっと大きか仕事ばして欲しかなぁって思うてさ(ちょっと大きな仕事をして欲しいなぁって思ってさ)」
俺は肩を揉みながら、年甲斐もなくねだるように言う。
「だけんなんな?(だから何?)」
「いや、大阪城造って欲しかなあって思うて」
……。
「なんて? ?」
「いや、だけん(だから)大阪城」
俺は真顔で平然といった。
「はあ? ! 大阪城って言うたら、あの大阪城か? あの……豊臣秀吉か徳川家康か分からんけど、造ったっちゅう……あの大阪にある、あの、大阪城か?」
当たり前だが今は、ない。
「そうそう、あの大阪城! まあ豊臣秀吉が造って、徳川家康が改修したやつやけどね」
俺は明るく言葉を続けたけど、親父の顔には? ? ? と! ! ! ……困惑と驚きが入り混じっている。
「馬・鹿・た・れっ! なんでおいが大阪城ば造らんばいかんとや? ぞーたんじゃなか(なんで俺が大阪城を造らなきゃいけないんだ? 冗談じゃない)」
親父は怒ってはいない。声を荒らげてもいないし、怒気も感じない。冗談じゃないと言いつつも、冗談めかして言っている。
「冗談やないって。マジで言いよっとって(冗談じゃないって。マジで言ってるんだって)」
「マジでって……わい、大阪城がどがん太かか知っとるやろうが。いきおいかぞ。そいばおいに造れって言いよっとや? (お前、大阪城がどんだけ大きいか知ってるだろうが。ものすごいぞ。それを俺に造れって言ってんのか?)」
「知っとうよ。そいけど、親父なら造りきるって思うっちゃんね(知ってるよ。だけど親父なら造れるって思うんだよね)」
俺は真剣な顔で親父を見つめる。親父は困ったように額に手をやり、深いため息をついた。
「わいなー……いっくらおいの前世が土木建築技士やったっちゅうても、簡単には出来んとぞ? 資材も人手もクソんごといっし、金もいくらかかっかわからんぞ。金はあっとや? (お前な、いくら俺が前世で土木建築技士だったとしても、簡単じゃねんだぞ。資材も人手もメチャクチャいるし、金もいくらかかるかわらかない。金はあんのか?)」
その目は、無謀な計画を持ちかける息子を心配するような、複雑な色を宿していた。
「わかっとっさ。頼むけん! (わかってるよ。頼むから!)」
「あーもう、わかった。なんとかすっさ(何とかするよ)」
親父はまだ隠居していない。
俺は小佐々の家督をついでいるから、太田和家の嫡男は弟の治郎正澄なんだけど、海軍士官で海ばかりだ。だから領主としての役目はまだ親父がやっている。
ただし派遣された代官がいるから、実務は彼らがやっているのだ。いわば名誉領主のようなものだと言える。最近では、石原岳堡塁の補修もやって、コンクリート施工の実績は十分だ。
「鉄筋コンクリートで耐震構造もね」
「なんて?」
俺の言葉に、親父の顔がさらに驚きに染まる。
「て、鉄筋コンクリート? 耐震構造? なんば言いよっとか。なんかいやーな予感のしたばってんが、そがん事考えとったとか? (何言ってんだ。なんだか嫌な予感がしてたけど、そんな事考えていたのか?)」
「そう。あと数年で地震の起きっけん、そいの対策ばせんばけんね(地震が起きるから、それの対策をしないとね)」
俺は当然のように言う。鉄筋コンクリートも耐震構造も、前世の知識があれば、この時代でも十分実現可能だ。
と、思う。無茶振り?
「そがんことしたら、もう大阪城やなかろうが!」
親父は頭を抱えて嘆く。
「いやいや、見た目は当時のまんまに再現すっとさ(するんだよ)。中身だけ現代風にすればよかっさ(いいんだよ)」
「いや、そがん言うたっちゃ(そんな事言っても)」
……。
あーでもないこーでもない……。
ああ言えばこう言う……。
こうして、前代未聞の"鉄筋コンクリート製大阪城"建設プロジェクトが、動き出すこととなった。
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