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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-

上杉領経済封鎖 すべての津、浦、湊で津留をいたす。

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 天正元年 三月二十四日 越後 柏崎沖

 佐々清左衛門加雲少将率いる、小佐々海軍第四艦隊の陣容は次の通りである。

 旗艦 戦艦 霧島丸(500トン)
  二番艦 重巡足柄(400トン)
  三番艦 重巡羽黒(400トン)
   四番艦 軽巡阿武隈(300トン)
   五番艦 軽巡川内(300トン)
   六番艦 軽巡神通(300トン)
   七番艦 軽巡那珂(300トン)
   八番艦 軽巡夕張(300トン)

 十八日に能登の所口湊を出港した。上陸作戦ではないため海兵隊は少ないが、それでも各艦艇に臨時に編成された海軍陸戦隊と合わせ、制圧用に乗艦していた。

(陸戦隊=常時艦艇乗組みの甲板要員で、主として白兵戦、上陸戦闘。海兵隊=準海軍だが近々独立予定の上陸制圧作戦要員)

 また、先のマニラ沖海戦にて大破・中波した艦艇は次の通り。

 戦艦 金剛丸
    榛名丸
    比叡丸

 重巡洋艦 加古

 軽巡洋艦 長良
      由良

 これらの艦艇は佐世保に曳航えいこうされ、修理後に順次マニラへと向かった。
 
 拿捕だほしたスペイン艦艇は艦内を日本仕様にした後、三個艦隊に分類配備されている。




「左四十五度水平線、艦影が複数見える」

 見張り員からの報告に司令長官の加雲かうんと艦長は双眼鏡をのぞき込む。

「見張り、艦種知らせ」

 再度見張りに確認すると、徐々に大きくなってくる船団を見て、見張りが報告する。

「艦橋-見張り、戦闘艦にあらず、荷船(商船)の模様。数四」

 加雲は艦長に、商船に対して停船を命じ、接近して臨検と拿捕を命じた。




「親方、なにか向こうに見えますぜ」

 越後柏崎湊から、青苧あおそを原料にしてつくった越後上布を載せた船である。海路にて越前敦賀へ向かい、そこから陸路と琵琶湖の水運を使って京へ運ぶのだ。

 船員が叫び、船頭に注意を促す。

「なんだ、あれは?」

 その船の船頭は、水平線に見えるいくつもの船影を見つけて驚きの声を上げる。

「海賊でしょうか?」

「いや、この辺りに出るたあ聞いた事がない。それになんだありゃ。この道程(距離)で、でかすぎるぞ」

 船影がどんどん大きくなっていく。




 みるみるうちに大きくなった船は八隻あり、その全てが荒浜屋宗九郎の船より大きい。
 
 大きなもので十倍、小さな物でも六倍はある大型艦である。船員はおろか、船頭ですら初めてみる大型艦だ。

 ※荷船一隻が三百石計算(約45トン)

 八隻の艦隊は商船の進路を塞ぎ、妨害する。

 やがて逃げ切れないと悟った四隻は帆を下ろし、停船して加雲の指揮のもと派遣された陸戦隊によって拿捕された。

「なんだお前ら! 海賊か!」

「ひいい! 助けてください! 命ばかりは……」

 わめいて抵抗する者もいれば、命乞いをする者もいる。加雲はそれらの乗組員に危害を加えることなく、船頭と荷主を呼び、話す。

「無礼な真似をして申し訳ありません。それがし、小佐々権中納言様が家臣、佐々清左衛門と申す者。小佐々海軍……水軍のこの艦隊……兵船群の長にござる」

 加雲の言葉を聞き、連れてこられた男は落ち着いて話し出す。

「あなた方が何者かはわかりました。まず、荷と船乗りの安全をお約束ください」

「無論の事」

 ふう、と船頭は一息つき、続ける。

「わたくしは、越後柏崎にて青苧の商いをしております、荒浜屋宗九郎と申します」

 荒浜屋宗九郎は長尾景虎に仕えた商人で、柏崎の町人組織をまとめる代表者でもあった。

「あなた方は、さきほど名乗られたように、権中納言様の御家中の方ですね。なにゆえにこのような海賊のような所業をなさるのですか」

 宗九郎の言葉に、加雲も真摯に答える。

「海賊とは……確かに行いし事は同じかもしれませぬが、本意ほい(目的)は違いまする」

「本意とはいかに?」

「今、越後の上杉弾正少弼しょうひつどのはいくさをなさろうとしております。われら懸命に越中の静謐せいひつ(平穏・平和な事)を願い、扱いて(調停して)まいりましたが、ならず。こたびの荷留、津留の仕儀にあいなり申した」

「荷留……津留ですと? 手前どもの荷は越後の青苧を用いた上布にございます。青苧や上布を留めなさるので?」

「左様」

「これは異な事を仰せになりますね。上布の商いは我らのみにあらず、柏崎だけではなく直江津においても行いては、盛んに京・大坂に運んでは売っておりまする。その全てをお留めなさると? 能う訳がございませぬ」

「それが能うのでござるよ。まさに(確かに)、海を越える荷を、われらがすべて留める事は能いませぬ。然れど、越前若狭の三国湊、敦賀湊、小浜湊のいずれかの湊には入りましょう?」

「その通りにございます。手前どもは敦賀に荷を下ろします。そこから荷馬荷車にて琵琶湖へ参り、さらに水運にて大津までいき、そこから京へと向いまする」

 宗九郎の言葉を聞き終えた加雲は答える。

「そのすべての津、浦、湊で津留を致すのです。織田、浅井領は言うに及ばず、丹後もしかり。西国の湊はすべて小佐々の所領にて、越後産の産物は、すべて津留いたすのです。われらはそれが能いまする」

「……そんな、ばかな」

「それならばと能登からをたくむ(計画する)やもしれませぬが、浅し(考えが浅い)にござる。能登も同じく、所沢湊、中居湊、輪島湊をはじめ、ある限り(すべて)の湊で津留をいたす」

「な……!」

「よしんば通り抜けたとして、加賀を通らねばなりませぬ。一向宗と上杉家は長きにわたりいくさをしております。越後の荷とわかれば、必ずや野盗の類いにあいましょう」

 それに、と加雲は続ける。

「陸で荷を運べたとして、加賀から越前に入る荷は、留めまする。越後の荷は通しませぬ。それならば飛騨はいかに? とお考えやもしれませぬが、同じ事にございます」

 宗九郎は、顔面蒼白そうはくにならずにはいられなかった。

「越中の放生津ほうじょうつで荷を下ろし、お味方の所領を通りて武田の領国飛騨に至りても、荷留にあいまする。信濃、上野も同じにござる。かろうじて上野は、北条の所領と接しておるゆえ荷留にはあわぬかもしれませぬが、手間賃はいかほどになりますやら。加えて、駿河、遠江、三河、尾張、伊勢、志摩、堺においても……」

 宗九郎に、もはや加雲の説明を聞く気力はない。
 
 加雲は丁重に宗九郎を船室に案内するよう指示を出し、艦隊は拿捕した荒浜屋の船を曳航して、能登所口湊へもどるのであった。

 しかし、出るのを封じられただけではない。入るのも封じられたのだ。




 ■第三師団、駿河 吉原の湊到着。翌二十五日出発予定。
 ■第二師団、飛騨牛臥山城ぎゅうがざんじょう下 川湊着。翌二十五日出発予定。
 ■土佐軍、大津着翌日出発 二十五日着予定
 ■摂津三好軍 近江国高島郡海津より陸路にて敦賀へ 二十三日 越前敦賀発
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