上 下
509 / 810
西国王小佐々純正と第三勢力-緊迫の極東と、より東へ-

肥前より能登へ、越前での一節

しおりを挟む
 天正元年(1572) 二月二十三日 出雲国島根郡 美保関 小佐々純正

 美保関から最寄りのすだれ城までは9kmほどあったので、城までは行かずに湊町の高級旅籠? (旅館)に泊まった。
 
 美保関を含めた島根半島は、尼子氏が滅んだ後の再興戦での激戦地の一つだ。

 まず、尼子再興軍の最初の根拠地であった忠山城や、月山富田城の支城である白鹿城、その白鹿城攻めの際の向城である真山城などがある。
 
 毛利・尼子両方にとって因縁の土地だ。

 宿の手配やもてなしをしてくれたのは、毛利家臣の真山城主で、島根郡の代官をしている多田左京亮さきょうのすけ元信である。
 
 尼子とは戦った仲でもあるので、正直なところ、心中穏やかじゃないだろう。

 それでも、お互いの領国と管理下の土地(自分の本領と小佐々家の直轄地)では棲み分けを行い、今のところはトラブルはない。これは、時間をかけていくしかないだろう。

 理屈ではないのだ。

 当然、能義郡月山富田城主の尼子孫四郎勝久と、山中鹿之助幸盛がいる。本当は立原源太兵衛尉久綱も来たかったらしいのだが、首脳が誰もいないのはまずい。

 留守番である。

 尼子勝久は能義郡が本領だが、奥出雲の鉄の管理を任せている。そのため仁多郡の代官もしているのだ。

「御屋形様、昨年十一月の中国和睦の言問ことといみぎり(会談の時)、われら尼子の続く(存続)を公に許していただき、感謝に堪えませぬ。ご恩返しを考えぬ日はなく、日々お役目に邁進まいしんしておりました」

「おお孫四郎殿、息災であったか? なんのなんの。貴殿とは歳も近いゆえ、わが友として遠慮なく接してくだされ」

 正直なところ、同世代の友達が欲しいのは確かだ。会議室のメンバーは全員年上だしな。それに尼子を利用して毛利にくさびを打つ狙いもあった。

 だからそこまで……まあ、感謝してくれるんなら、越したことはないけどね。

「御屋形様、その、少しよろしいでしょうか」

「なんだ、どうした左京亮殿。なにか要望でもあるのか」

「は、されば申し上げまする。実は近ごろ、お恥ずかしい限りにございますが、様々なところにて盗賊の類いが頻出しております。領内はもとより常に巡り(巡回して)て固めて(警護)はおりますが、やつらは根城を変えながら国をまたいで悪さをしており、どうにもできませぬ」

「ふむ」

「いつまた現われるとも知れず、然りとて郡を、国をまたいで追っ手を差し向けるのもはばかりまする(遠慮する)」

「そ、それはそれがしも……」

 そう言って話に入ってきた勝久を一瞥いちべつしたあと、元信は続ける。

「それゆえ、他の領国で心に任せて(自由に)動く事も能わず、捕らえられずにおります……できますれば……」

「あいわかった。では貴殿ら、わが領国の全ての国、郡、村、郷にて自在に動けるよう新たな仕組みを作ろう。それについては追って知らせる。よいか?」

「「は、ありがたき幸せに存じまする」」

 うーん、いろいろと、組織改革というか、新しい省庁や改編をしなくちゃいけないな。この件に関しては警察を作ろう。東京が肥前になるだけの話だ。

 諫早に戻ったら早速始めよう。




 発 治部大丞 宛 権中納言

 秘メ 織田軍 越前 制圧の後 三国湊ヲ 浅井備前守様 セリ(治めている) マタ ソノ他ヲ 前波九郎兵衛尉殿 ヲ始メ 朝倉旧臣 ニテ 治セリ 秘メ


 

 ■越前国 敦賀

「馬鹿な、話が違うではないか! それがしを越前の国守にと申すから、寝返ったのじゃ」

 敦賀郡司の朝倉景紀が浅井長政にくってかかっている。

「なにか心得違いをされていませぬか?」

 浅井長政は素知らぬ顔だ。

「何をだ?」

「われらは、約を違えてなどおりませぬ」

 景紀の行動をよそに、長政は届けられた山積みの書状を入念に読んでいる。

「何を申すか! 我らは越前一国はおろか、この敦賀でさえ、おぬしの軍兵であふれ、まるで織田の領国のようではないか! ?」

「なに? 織田の、領国ですと?」

 長政の顔にピクリと緊張の筋が走る。

「わが浅井の亀甲花角ならともかく、この敦賀の、いずこに織田の木瓜紋があるのでござるか」

「なにをそのような些末な事を」

「些末? ふ、ふふふ。世間はそう見るか。あげく(結局)織田も浅井も同じだと言いたいのでござるか」

「いやいや然にあらず、言葉のあやにござろう。それよりも、なにゆえ約を違うておらぬと申すのだ」

 景紀はいらだちを隠せない。一方の長政も、浅井と織田をひとまとめにされた事で、かんに障ったのだ。しかし、努めて冷静を装う。

「話さねば合点がてん(理解)なさりませぬか? それがしは過日、、越前を平定できれば、と申したのです」

「存じておる。それゆえ約を結び寝返ったのではないか。そのおかげでお主らは義景を滅ぼしてここにおる。何が違うのだ?」

「違うも何も、大野の景鏡は寝返るどころか家臣に討たれ、あろうことかその家臣は軍兵ぐんぴょう(軍勢)をまとめ、われらに刃向こうて来おったではないか。これで何がつつがなく、じゃ」

「いや、あれは案に違う一節(予想外の出来事)にて、万事うまく進むはずであったのだ」

「はずであった、などと義兄上が許す(認める)と思うてか。それに貴殿、越前の国守と申すが、孫三郎殿(朝倉景健)や九郎兵衛尉殿(前波吉継)、弥六郎殿(富田長繁)が許す(認める)と思うか? 許さす事(認めさせる事)能うのか? はなはだ疑わしい」

「……」

 朝倉景健は最後まで戦い、一乗谷落城後に降伏した。富田長繁は長政からの降伏勧告によって、前波吉継は情勢不利とみて、浅井軍の道案内を行い内側から内応したのだ。

 景紀は、その滅亡を早め、引導を渡している。

 同じ降伏ではない、彼らはそう思うだろう。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...