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九州統一なるか?純正と信長包囲網-肥薩戦争と四国戦役-
三国連合vs.島津⑧島津の狡猾な戦術と最終決戦へむけて
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永禄十二年 十月四日 午三つ刻(1200) 大口村
「申し上げます! 敵は中ノ村(鹿児島県霧島市横川町中ノ)を高田村へ向け進軍中(鹿児島県道53号線)、こちらに向かっております!」
相良軍伝令の報せが、小木原村へ向かった本隊と、城兵の備えに残した別働隊に届く。別働隊は本隊と合流すべく移動を開始した。
移動を前提に待機していたので時間はかからない。
一里と五町(4.56km)ほど離れた本隊へは、一刻(2時間)ほどで到着する。急げは四半刻(30分)程度は時間短縮できるだろう。
一方本隊の三千五百は、島津歳久隊の九百を突破するべく攻撃を繰り返していたが、押しては退き、退いては押すの繰り返しで前に進まない。
その理由は義陽の攻め方にあった。島津の釣り野伏を警戒したため全力を投入できないのだ。
義陽は若いながら何度も戦を経験していたが、島津相手では勝ち戦が少なかった。
「との、ここは総攻めでございます! 釣り野伏などありません。伏兵もおりません。あれは寡兵をもって大軍を破る策。今の島津に必要はありません」。
なおも考えていたが、長智が怒鳴った。
「この期に及んで何を悩んでおられますか! このままでは、敵の主力が来てしまいますぞ! そうなっては終わりです。なんのためにここに来て攻めているのですか!」
長智の鬼気迫る進言に、義陽の考えていた不安が消え去ったのか、相良軍は全軍で攻撃にかかった。合流した別働隊もそれに加わる。
一合戦起きるかと思いきや、ほどなくして歳久の九百は街道を塞ぐのをやめ、適当に攻撃を受け流しながら、潮が引くように散開して相良軍を通すのであった。
■未一つ刻(1300) 飯野城
「申し上げます! 本隊、菱刈郡中ノ村をたち、こちらへ向かっております」
「そうか、わかった」
事前に示し合わせた通りである。変更はない。
■未三つ刻(1400) 妙見原 伊東軍
「申し上げます! 敵本隊、大口へむけて進軍中にございます!」
うむ、と一言だけ答える義祐であったが、それに対し、
「との、今にございますぞ! これが最後の機にございます! 今こそ総攻めの下知を!」
「くどい!」
聞く耳をもたない。
■申一つ刻(1500) 妙見原 伊東軍
「申し上げます! 敵軍、こちらに向かっております」
「なに!? さきほどは大口へ向かっておると言っておったではないか」
「おい、貴様、どこの所属だ!」
「は、それがしは飫肥城主、木脇越前守様が家臣……」
「もうよい、わかった」
最初の伝令を探したが、見当たらない。伊東軍に偽装した間者であったのだろうか。
荒武宗並と山田宗昌は二人して考えている。
「いったいどちらが敵の狙いなのだろうか」
「わからぬ。いずれにしても、殿が聞く耳を持っておらぬ。知らせたとして、どちらでもよい、来た敵を倒せばよいのだ、とでも言われるのだろう」
二人してため息をつくが、主家存亡がかかった戦である。気が気ではない。本来なら決戦などせず、じわじわと島津の首をしめていくはずが、どこで間違ったのだ。
実はこの伝令、最初は島津が放った間者であったが、嘘は言っていない。確かに島津軍は、中ノ村より大口へむけて進軍していたのだ。
そして二人目の伝令も、もちろん嘘はついていない。
島津軍は途中で二手にわかれ、幸田村(鹿児島県姶良郡湧水町幸田)から栗野村(鹿児島県姶良郡湧水町栗野)へ別働隊が向かっていたのだ。
つまり、飯野城へ向けて、妙見原へ向けて島津軍は進軍中なのである。
■十月四日 酉三つ刻(1800) 大口村 目丸 島津合流軍
「ご苦労であったな。歳久、忠元」
合流した軍の幕舎の中で、総大将※島津義久は別働隊の※島津歳久、※大口城主の※新納忠元へねぎらいの言葉をかけた。
「なあに、相良の連中、攻めても来ず、結局なにしに来たのだか」
大口城主の新納忠元は皮肉交じりに言う。
「そう言うな忠元、それはそれで、やつらの兵法だったのであろう」
歳久も鼻で笑う。
「二人とも笑いすぎだ」
そう言う義久にも笑みがこぼれる。
「さて、これからだぞ。予定通り二千を向かわせたが、ここはどうする」
新納忠元が答えた。
「相良はこないでしょうから、五百で十分かと。来るにしても、われらの伏兵や計略を恐れて、数日はかかるでしょう。その間に伊東をやりましょう」。
義久が歳久の顔をみると、黙ってうなずいている。
「よし、それではわれらは、明朝真幸院へ向けて出立いたす。全員、しっかりと飯を食って寝ておけよ」
全員が笑っている。こうなるのがわかっていて、これから何が起こるのかも、わかっているようである。
■十月四日 戌一つ刻(1900) 大隅高山城
城内は騒然としていた。
それもそのはずである。志布志城の陥落のしらせは、禰寝の国見城にいた肝付良兼に届くと同時に、本拠地である高山城にも届いていたのだ。
「みな、うろたえるでない。心配するな。敵がこの高山城に攻めてくることはない」。
実際のところ、攻めてくるか来ないかなど、わかるはずがない。志布志の陥落は青天の霹靂なのだ。
しかし、当主として威厳のある姿をみせ、家臣たちを安心させねばならない。
城代をはじめとした家臣は、深刻な面持ちで良兼の言葉を聞いていたが、城内の他の者や城下の領民は別である。
人の口に戸は立てられないから、やがて広まり、騒然となる。
そしてまた、これは噂ではなく、事実なのだ。
一刻後、追い打ちをかけるような事態が発生した。
次回予告 第329話 三国連合vs.島津⑨塗り替えられた地図
「申し上げます! 敵は中ノ村(鹿児島県霧島市横川町中ノ)を高田村へ向け進軍中(鹿児島県道53号線)、こちらに向かっております!」
相良軍伝令の報せが、小木原村へ向かった本隊と、城兵の備えに残した別働隊に届く。別働隊は本隊と合流すべく移動を開始した。
移動を前提に待機していたので時間はかからない。
一里と五町(4.56km)ほど離れた本隊へは、一刻(2時間)ほどで到着する。急げは四半刻(30分)程度は時間短縮できるだろう。
一方本隊の三千五百は、島津歳久隊の九百を突破するべく攻撃を繰り返していたが、押しては退き、退いては押すの繰り返しで前に進まない。
その理由は義陽の攻め方にあった。島津の釣り野伏を警戒したため全力を投入できないのだ。
義陽は若いながら何度も戦を経験していたが、島津相手では勝ち戦が少なかった。
「との、ここは総攻めでございます! 釣り野伏などありません。伏兵もおりません。あれは寡兵をもって大軍を破る策。今の島津に必要はありません」。
なおも考えていたが、長智が怒鳴った。
「この期に及んで何を悩んでおられますか! このままでは、敵の主力が来てしまいますぞ! そうなっては終わりです。なんのためにここに来て攻めているのですか!」
長智の鬼気迫る進言に、義陽の考えていた不安が消え去ったのか、相良軍は全軍で攻撃にかかった。合流した別働隊もそれに加わる。
一合戦起きるかと思いきや、ほどなくして歳久の九百は街道を塞ぐのをやめ、適当に攻撃を受け流しながら、潮が引くように散開して相良軍を通すのであった。
■未一つ刻(1300) 飯野城
「申し上げます! 本隊、菱刈郡中ノ村をたち、こちらへ向かっております」
「そうか、わかった」
事前に示し合わせた通りである。変更はない。
■未三つ刻(1400) 妙見原 伊東軍
「申し上げます! 敵本隊、大口へむけて進軍中にございます!」
うむ、と一言だけ答える義祐であったが、それに対し、
「との、今にございますぞ! これが最後の機にございます! 今こそ総攻めの下知を!」
「くどい!」
聞く耳をもたない。
■申一つ刻(1500) 妙見原 伊東軍
「申し上げます! 敵軍、こちらに向かっております」
「なに!? さきほどは大口へ向かっておると言っておったではないか」
「おい、貴様、どこの所属だ!」
「は、それがしは飫肥城主、木脇越前守様が家臣……」
「もうよい、わかった」
最初の伝令を探したが、見当たらない。伊東軍に偽装した間者であったのだろうか。
荒武宗並と山田宗昌は二人して考えている。
「いったいどちらが敵の狙いなのだろうか」
「わからぬ。いずれにしても、殿が聞く耳を持っておらぬ。知らせたとして、どちらでもよい、来た敵を倒せばよいのだ、とでも言われるのだろう」
二人してため息をつくが、主家存亡がかかった戦である。気が気ではない。本来なら決戦などせず、じわじわと島津の首をしめていくはずが、どこで間違ったのだ。
実はこの伝令、最初は島津が放った間者であったが、嘘は言っていない。確かに島津軍は、中ノ村より大口へむけて進軍していたのだ。
そして二人目の伝令も、もちろん嘘はついていない。
島津軍は途中で二手にわかれ、幸田村(鹿児島県姶良郡湧水町幸田)から栗野村(鹿児島県姶良郡湧水町栗野)へ別働隊が向かっていたのだ。
つまり、飯野城へ向けて、妙見原へ向けて島津軍は進軍中なのである。
■十月四日 酉三つ刻(1800) 大口村 目丸 島津合流軍
「ご苦労であったな。歳久、忠元」
合流した軍の幕舎の中で、総大将※島津義久は別働隊の※島津歳久、※大口城主の※新納忠元へねぎらいの言葉をかけた。
「なあに、相良の連中、攻めても来ず、結局なにしに来たのだか」
大口城主の新納忠元は皮肉交じりに言う。
「そう言うな忠元、それはそれで、やつらの兵法だったのであろう」
歳久も鼻で笑う。
「二人とも笑いすぎだ」
そう言う義久にも笑みがこぼれる。
「さて、これからだぞ。予定通り二千を向かわせたが、ここはどうする」
新納忠元が答えた。
「相良はこないでしょうから、五百で十分かと。来るにしても、われらの伏兵や計略を恐れて、数日はかかるでしょう。その間に伊東をやりましょう」。
義久が歳久の顔をみると、黙ってうなずいている。
「よし、それではわれらは、明朝真幸院へ向けて出立いたす。全員、しっかりと飯を食って寝ておけよ」
全員が笑っている。こうなるのがわかっていて、これから何が起こるのかも、わかっているようである。
■十月四日 戌一つ刻(1900) 大隅高山城
城内は騒然としていた。
それもそのはずである。志布志城の陥落のしらせは、禰寝の国見城にいた肝付良兼に届くと同時に、本拠地である高山城にも届いていたのだ。
「みな、うろたえるでない。心配するな。敵がこの高山城に攻めてくることはない」。
実際のところ、攻めてくるか来ないかなど、わかるはずがない。志布志の陥落は青天の霹靂なのだ。
しかし、当主として威厳のある姿をみせ、家臣たちを安心させねばならない。
城代をはじめとした家臣は、深刻な面持ちで良兼の言葉を聞いていたが、城内の他の者や城下の領民は別である。
人の口に戸は立てられないから、やがて広まり、騒然となる。
そしてまた、これは噂ではなく、事実なのだ。
一刻後、追い打ちをかけるような事態が発生した。
次回予告 第329話 三国連合vs.島津⑨塗り替えられた地図
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