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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-島津と四国と南方戦線-
それどろこじゃねえって。四国もそうだし、島津だっているんだぞ!
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永禄十二年 七月末 諫早城 小佐々純正
勅命と、信長の添え状を読んで絶句した。
まったく、あのおっさん何を考えているのか。三好を長宗我部と共同で攻めろだと? できるわけがない。こっちは伊予もまだ平定できてないんだ。
瀬戸内海は微妙な力関係で成り立っているし、一応は三村に使者を出して通商から始める事にはなったが、安定してないんだ。
あんまりあっちこっちに手を広げすぎると、ほんのちょっとしたきっかけで瓦解する。太平洋戦争の日本と同じだ。しかし、義父上もどうにもできなかったか。
さすがに朝廷が宣下した将軍の仇敵を『成敗しろ』という勅命には、反対できないんだろうな。あんまり負担をかけるのもよくない。
さて、どうするか。西園寺との戦も終わっていないから、義昭は和平の調停に動こうとするかもしれない。兵はだせない。2万の兵を投入しているのに、なんでまだ西園寺は降伏しないのだ?
宗麟に状況を詳しく聞いてみる必要がありそうだ。義昭の調停なんて、怖くて受けられない。
「との」と直茂に声をかけられた。
「なんだ、どうした。何があった?」
「はい、三好攻めの件もそうですが、信長から現在の五名の遊学生の期間延長と、他にも正式に入学させたい者が二十人ほどいるとの連絡が入りました」
ザ・オールマイティ直茂。文武両道で知勇兼備とはこの事なんだろうが、事務処理もすごい。天は何物も与えたんだな。その直茂は、あまり乗り気でないようだ。
「どうした? あまり乗り気ではなさそうだな」
「その通りです。こたびの件、われらに何の利もございません。やつらは学ぶだけで、こちらは学べるものがないではありませぬか」
ふむ、と俺は考え込んだ。直茂の言う通りだ。こちらは何も得るものがない。しかし、無下に断ることはできない。中央とのつながりにおいては、織田と軋轢があってはうまくまとまらないのだ。
「直茂、そなたの言う事はもっともだ。俺たちに利はない。しかし、目に見えるものばかりが利ではない」
おれは続けた。
「朝廷内においては、義父上の力で影響力がある。そして兵においては近代的な武装で、他の追随を許さない。しかし、それが脅威になりすぎたり、恐れにつながるものであってはならない」
事実、いまぐらいのバランスがちょうどいいのだ。これ以上大きくなっては、完全に信長より上になり、敵対することになる。そうなれば、間違いなく都はまた荒れる。それに……。
「直茂、これを見よ」
おれはそう言って、書状に添えられてある留学生リストを直茂に見せた。
「これが、なにか?」
直茂は怪訝な顔をしていたが、添え状をみてなにかに気づいた。
「この、奇妙丸というのは?」
「驚くなよ。信長の、嫡男だ。もし本当に俺たちに寄生するだけなら、嫡男を九州のはてまで送りだすと思うか? これは、俺たちに頼っているんだよ。期待しているんだよ」。
畿内の信長に対する状況は、決して安泰ではない。義昭を奉じて将軍宣下をさせたものの、領国は美濃と尾張、そして北伊勢のみだ。
六角を破って南近江の東山道沿いと山城、摂津、和泉、河内、紀伊の北部は支配下においた。といっても三好義継や畠山昭高、摂津においては大小の国人が、信長に従っているだけなのだ。
三好三人衆攻めは、おそらく俺たちの頭を押さえるというよりも、自分の背後を押さえるためという見方もできる。今の義昭の将軍としてのあり方をみていると、三人衆は潰しておきたいはずだ。
それにおそらく、俺たちを脅威というよりも、強力な同盟相手として見ている。信長が出兵中も都が守られ、そして敵に対する事ができる。強くなりすぎては困るが、力強い同盟相手なのだ。
「しかしこれによると、十三歳。元服したばかりではありませぬか。大学には入れませぬぞ。それに大学はわが小佐々の最高学府。高等学校を出ていなければなりませぬし、試験もあります」
直茂が当然の事を言う。大学には入れない。一般の(この戦国時代の)教育内容で、試験に受かるはずがない。十三歳だと中学校入学の年齢だ。
「その通り、おそらくは、中学から学ばせよう、という考えなのだろう」
俺は思った事を直茂に話した。今で言う(現代日本で言う)帰国子女のように奇妙丸(織田信忠)を教育して、織田の未来を安泰にしようという考えなのだろう。
猛烈な家臣の反対があっただろうが、ゴリ押ししたのだろうか。
「しかし……」
「案ずるな。こちらは八年の長がある。今織田が学び始めたとして、われらも学び、考え、成長する。よほどの事がない限り、抜かれはせぬよ」
そんなに簡単に技術など真似できる訳がない。職人の手作業で鉄砲を作り、磨き上げるのとはわけが違うのだ。政治的なものもあろうが、地理的なものもある。
自前で船をつくり、操り、ポルトガルへ使節を送り留学させる。艦隊を繰り出して東南アジアを回る。一朝一夕に出来るわけがない。油断は大敵だが、織田は敵ではないのだ。
滅ぼすつもりなんて、さらっさらない。
「申し上げます。農商務省の曽根様、大蔵省の太田屋様、海軍省の深堀様、陸軍省の深作様がお見えになりました」
うむ、通せ、と俺は近習に伝えた。すぐにドアが開き、四人が入ってくる。支援の決定にあたっては直茂も同席していたので、そのまま会議を続ける事にした。
諫早城には洋間と和室の会議室がある。和室は評定の間、とでも言うべきだろうか。その時の気分で使い分けていたが、やはり現代人の俺としては、洋間なのだ。
信長へ留学の件は委細承知、と返書を書いた。三好の件は、ひとまず兵は出せぬが金と兵糧は送る、と返信した。史実だと、来年姉川から信長包囲網が始まる。
その前に、信長的には三好を叩いておく必要があるのだろうが、俺は伊予戦線と国人の調略、そして瀬戸内海の事もあるので詳細に答えるのは避けたのだ。
いずれ時期をみて出兵させよう。もし、やるんなら、獲る気でいく。長宗我部なんかに讃岐と阿波をとられてたまるかって。湊の権益だけじゃ足りんよ。まだ半年あるからじっくり考えるとしよう。
勅命と、信長の添え状を読んで絶句した。
まったく、あのおっさん何を考えているのか。三好を長宗我部と共同で攻めろだと? できるわけがない。こっちは伊予もまだ平定できてないんだ。
瀬戸内海は微妙な力関係で成り立っているし、一応は三村に使者を出して通商から始める事にはなったが、安定してないんだ。
あんまりあっちこっちに手を広げすぎると、ほんのちょっとしたきっかけで瓦解する。太平洋戦争の日本と同じだ。しかし、義父上もどうにもできなかったか。
さすがに朝廷が宣下した将軍の仇敵を『成敗しろ』という勅命には、反対できないんだろうな。あんまり負担をかけるのもよくない。
さて、どうするか。西園寺との戦も終わっていないから、義昭は和平の調停に動こうとするかもしれない。兵はだせない。2万の兵を投入しているのに、なんでまだ西園寺は降伏しないのだ?
宗麟に状況を詳しく聞いてみる必要がありそうだ。義昭の調停なんて、怖くて受けられない。
「との」と直茂に声をかけられた。
「なんだ、どうした。何があった?」
「はい、三好攻めの件もそうですが、信長から現在の五名の遊学生の期間延長と、他にも正式に入学させたい者が二十人ほどいるとの連絡が入りました」
ザ・オールマイティ直茂。文武両道で知勇兼備とはこの事なんだろうが、事務処理もすごい。天は何物も与えたんだな。その直茂は、あまり乗り気でないようだ。
「どうした? あまり乗り気ではなさそうだな」
「その通りです。こたびの件、われらに何の利もございません。やつらは学ぶだけで、こちらは学べるものがないではありませぬか」
ふむ、と俺は考え込んだ。直茂の言う通りだ。こちらは何も得るものがない。しかし、無下に断ることはできない。中央とのつながりにおいては、織田と軋轢があってはうまくまとまらないのだ。
「直茂、そなたの言う事はもっともだ。俺たちに利はない。しかし、目に見えるものばかりが利ではない」
おれは続けた。
「朝廷内においては、義父上の力で影響力がある。そして兵においては近代的な武装で、他の追随を許さない。しかし、それが脅威になりすぎたり、恐れにつながるものであってはならない」
事実、いまぐらいのバランスがちょうどいいのだ。これ以上大きくなっては、完全に信長より上になり、敵対することになる。そうなれば、間違いなく都はまた荒れる。それに……。
「直茂、これを見よ」
おれはそう言って、書状に添えられてある留学生リストを直茂に見せた。
「これが、なにか?」
直茂は怪訝な顔をしていたが、添え状をみてなにかに気づいた。
「この、奇妙丸というのは?」
「驚くなよ。信長の、嫡男だ。もし本当に俺たちに寄生するだけなら、嫡男を九州のはてまで送りだすと思うか? これは、俺たちに頼っているんだよ。期待しているんだよ」。
畿内の信長に対する状況は、決して安泰ではない。義昭を奉じて将軍宣下をさせたものの、領国は美濃と尾張、そして北伊勢のみだ。
六角を破って南近江の東山道沿いと山城、摂津、和泉、河内、紀伊の北部は支配下においた。といっても三好義継や畠山昭高、摂津においては大小の国人が、信長に従っているだけなのだ。
三好三人衆攻めは、おそらく俺たちの頭を押さえるというよりも、自分の背後を押さえるためという見方もできる。今の義昭の将軍としてのあり方をみていると、三人衆は潰しておきたいはずだ。
それにおそらく、俺たちを脅威というよりも、強力な同盟相手として見ている。信長が出兵中も都が守られ、そして敵に対する事ができる。強くなりすぎては困るが、力強い同盟相手なのだ。
「しかしこれによると、十三歳。元服したばかりではありませぬか。大学には入れませぬぞ。それに大学はわが小佐々の最高学府。高等学校を出ていなければなりませぬし、試験もあります」
直茂が当然の事を言う。大学には入れない。一般の(この戦国時代の)教育内容で、試験に受かるはずがない。十三歳だと中学校入学の年齢だ。
「その通り、おそらくは、中学から学ばせよう、という考えなのだろう」
俺は思った事を直茂に話した。今で言う(現代日本で言う)帰国子女のように奇妙丸(織田信忠)を教育して、織田の未来を安泰にしようという考えなのだろう。
猛烈な家臣の反対があっただろうが、ゴリ押ししたのだろうか。
「しかし……」
「案ずるな。こちらは八年の長がある。今織田が学び始めたとして、われらも学び、考え、成長する。よほどの事がない限り、抜かれはせぬよ」
そんなに簡単に技術など真似できる訳がない。職人の手作業で鉄砲を作り、磨き上げるのとはわけが違うのだ。政治的なものもあろうが、地理的なものもある。
自前で船をつくり、操り、ポルトガルへ使節を送り留学させる。艦隊を繰り出して東南アジアを回る。一朝一夕に出来るわけがない。油断は大敵だが、織田は敵ではないのだ。
滅ぼすつもりなんて、さらっさらない。
「申し上げます。農商務省の曽根様、大蔵省の太田屋様、海軍省の深堀様、陸軍省の深作様がお見えになりました」
うむ、通せ、と俺は近習に伝えた。すぐにドアが開き、四人が入ってくる。支援の決定にあたっては直茂も同席していたので、そのまま会議を続ける事にした。
諫早城には洋間と和室の会議室がある。和室は評定の間、とでも言うべきだろうか。その時の気分で使い分けていたが、やはり現代人の俺としては、洋間なのだ。
信長へ留学の件は委細承知、と返書を書いた。三好の件は、ひとまず兵は出せぬが金と兵糧は送る、と返信した。史実だと、来年姉川から信長包囲網が始まる。
その前に、信長的には三好を叩いておく必要があるのだろうが、俺は伊予戦線と国人の調略、そして瀬戸内海の事もあるので詳細に答えるのは避けたのだ。
いずれ時期をみて出兵させよう。もし、やるんなら、獲る気でいく。長宗我部なんかに讃岐と阿波をとられてたまるかって。湊の権益だけじゃ足りんよ。まだ半年あるからじっくり考えるとしよう。
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