上 下
319 / 794
島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-島津と四国と南方戦線-

それどろこじゃねえって。四国もそうだし、島津だっているんだぞ!

しおりを挟む
 永禄十二年 七月末 諫早城 小佐々純正

 勅命と、信長の添え状を読んで絶句した。

 まったく、あのおっさん何を考えているのか。三好を長宗我部と共同で攻めろだと? できるわけがない。こっちは伊予もまだ平定できてないんだ。
  
 瀬戸内海は微妙な力関係で成り立っているし、一応は三村に使者を出して通商から始める事にはなったが、安定してないんだ。

 あんまりあっちこっちに手を広げすぎると、ほんのちょっとしたきっかけで瓦解する。太平洋戦争の日本と同じだ。しかし、義父上もどうにもできなかったか。

 さすがに朝廷が宣下した将軍の仇敵を『成敗しろ』という勅命には、反対できないんだろうな。あんまり負担をかけるのもよくない。

 さて、どうするか。西園寺との戦も終わっていないから、義昭は和平の調停に動こうとするかもしれない。兵はだせない。2万の兵を投入しているのに、なんでまだ西園寺は降伏しないのだ?

 宗麟に状況を詳しく聞いてみる必要がありそうだ。義昭の調停なんて、怖くて受けられない。

「との」と直茂に声をかけられた。

「なんだ、どうした。何があった?」

「はい、三好攻めの件もそうですが、信長から現在の五名の遊学生の期間延長と、他にも正式に入学させたい者が二十人ほどいるとの連絡が入りました」

 ザ・オールマイティ直茂。文武両道で知勇兼備とはこの事なんだろうが、事務処理もすごい。天は何物も与えたんだな。その直茂は、あまり乗り気でないようだ。

「どうした? あまり乗り気ではなさそうだな」

「その通りです。こたびの件、われらに何の利もございません。やつらは学ぶだけで、こちらは学べるものがないではありませぬか」

 ふむ、と俺は考え込んだ。直茂の言う通りだ。こちらは何も得るものがない。しかし、無下に断ることはできない。中央とのつながりにおいては、織田と軋轢があってはうまくまとまらないのだ。

「直茂、そなたの言う事はもっともだ。俺たちに利はない。しかし、目に見えるものばかりが利ではない」

 おれは続けた。

「朝廷内においては、義父上の力で影響力がある。そして兵においては近代的な武装で、他の追随を許さない。しかし、それが脅威になりすぎたり、恐れにつながるものであってはならない」

 事実、いまぐらいのバランスがちょうどいいのだ。これ以上大きくなっては、完全に信長より上になり、敵対することになる。そうなれば、間違いなく都はまた荒れる。それに……。

「直茂、これを見よ」

 おれはそう言って、書状に添えられてある留学生リストを直茂に見せた。

「これが、なにか?」

 直茂は怪訝な顔をしていたが、添え状をみてなにかに気づいた。

「この、奇妙丸というのは?」

「驚くなよ。信長の、嫡男だ。もし本当に俺たちに寄生するだけなら、嫡男を九州のはてまで送りだすと思うか? これは、俺たちに頼っているんだよ。期待しているんだよ」。

 畿内の信長に対する状況は、決して安泰ではない。義昭を奉じて将軍宣下をさせたものの、領国は美濃と尾張、そして北伊勢のみだ。

 六角を破って南近江の東山道沿いと山城、摂津、和泉、河内、紀伊の北部は支配下においた。といっても三好義継や畠山昭高、摂津においては大小の国人が、信長に従っているだけなのだ。

 三好三人衆攻めは、おそらく俺たちの頭を押さえるというよりも、自分の背後を押さえるためという見方もできる。今の義昭の将軍としてのあり方をみていると、三人衆は潰しておきたいはずだ。

 それにおそらく、俺たちを脅威というよりも、強力な同盟相手として見ている。信長が出兵中も都が守られ、そして敵に対する事ができる。強くなりすぎては困るが、力強い同盟相手なのだ。

「しかしこれによると、十三歳。元服したばかりではありませぬか。大学には入れませぬぞ。それに大学はわが小佐々の最高学府。高等学校を出ていなければなりませぬし、試験もあります」

 直茂が当然の事を言う。大学には入れない。一般の(この戦国時代の)教育内容で、試験に受かるはずがない。十三歳だと中学校入学の年齢だ。

「その通り、おそらくは、中学から学ばせよう、という考えなのだろう」

 俺は思った事を直茂に話した。今で言う(現代日本で言う)帰国子女のように奇妙丸(織田信忠)を教育して、織田の未来を安泰にしようという考えなのだろう。

 猛烈な家臣の反対があっただろうが、ゴリ押ししたのだろうか。

「しかし……」

「案ずるな。こちらは八年の長がある。今織田が学び始めたとして、われらも学び、考え、成長する。よほどの事がない限り、抜かれはせぬよ」

 そんなに簡単に技術など真似できる訳がない。職人の手作業で鉄砲を作り、磨き上げるのとはわけが違うのだ。政治的なものもあろうが、地理的なものもある。

 自前で船をつくり、操り、ポルトガルへ使節を送り留学させる。艦隊を繰り出して東南アジアを回る。一朝一夕に出来るわけがない。油断は大敵だが、織田は敵ではないのだ。

 滅ぼすつもりなんて、さらっさらない。

「申し上げます。農商務省の曽根様、大蔵省の太田屋様、海軍省の深堀様、陸軍省の深作様がお見えになりました」

 うむ、通せ、と俺は近習に伝えた。すぐにドアが開き、四人が入ってくる。支援の決定にあたっては直茂も同席していたので、そのまま会議を続ける事にした。

 諫早城には洋間と和室の会議室がある。和室は評定の間、とでも言うべきだろうか。その時の気分で使い分けていたが、やはり現代人の俺としては、洋間なのだ。

 信長へ留学の件は委細承知、と返書を書いた。三好の件は、ひとまず兵は出せぬが金と兵糧は送る、と返信した。史実だと、来年姉川から信長包囲網が始まる。

 その前に、信長的には三好を叩いておく必要があるのだろうが、俺は伊予戦線と国人の調略、そして瀬戸内海の事もあるので詳細に答えるのは避けたのだ。

 いずれ時期をみて出兵させよう。もし、やるんなら、獲る気でいく。長宗我部なんかに讃岐と阿波をとられてたまるかって。湊の権益だけじゃ足りんよ。まだ半年あるからじっくり考えるとしよう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

処理中です...