上 下
255 / 794
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-

先陣は誰だ?

しおりを挟む
九月八日 唐津湊 第三艦隊 艦上 戌二つ刻(1930)

「義兄上になる」と伊万里治(18)。純正の妹、雪の夫だ。
「義理の従兄弟になる」と相神浦松浦盛(18)。純正の義姉の義弟で義理の従兄弟になる。
「義理の従兄弟になります」と波多鎮(15)。純正の叔父の娘、糸の夫。

翌日に控えた筑前岳山城救援戦において、誰が先陣を務めるかで議論していたのだ。家格と言うか、国力で言えば波多が一番高い。

ついで伊万里、そして一番国力は低いが、親族になって長いのが相神浦松浦である。なにせ純正が転生した時すでに親族だったのだ。その三人が議論している。誰が先陣になるのかは大将が決めると言うのに。

その第一軍の大将も宗像氏貞、二十三歳と若い。

「伊万里様、松浦様、私は一番年少ですし、お二人は殿と同じく、いえ、殿は格別の存在ですが、お二人を兄のように思うております。ですから、あまり差し出がましい物言いはしたくないのですが、その、言いにくいのですが、わが波多が一番兵を出しておりますれば、先陣の名誉は、ぜひ私に賜りとうございます」。

穏やかに、ゆっくりと波多鎮が言う。

「何を言う鎮。確かに国力は波多が一番かもしれぬ。しかし元は同じ松浦党ではないか。それに私も雪を、殿の妹君を嫁に娶っておる。血縁という意味では一番近い特別な存在。期待もされておる」。

自信を持って話すのは伊万里治である。

血縁、という言葉にひっかかったのか、
「確かに、伊万里殿の立場は重要ですが、私も義理の従兄弟になるんですよ。殿の義姉の義弟という立場で、家族としての繋がりがあるんです。しかもわれら三人の中では一番長い。小佐々がまだ彼杵の少領主だった頃からの関係です」。

緊張気味に発言するのは松浦盛だ。

「確かに、鎮の考えも松浦殿の考えも理解できます。しかし、われら三人とも殿と直接の血の繋がりが無い事を考えると、妹君を娶っている私が一番ではないでしょうか?」

少し考えながら伊万里治が反論する。

「兄様方のお話を聞いていますが、私も義理の従兄弟になる立場です。殿の叔父上の娘、糸の夫という関係です。血の繋がりで言えば一番遠いかもしれませんが、その分家格や国力という点では私が一番高いと言えるかもしれません」。

慎重に言葉を選びながら、波多鎮が穏やかに話す。

そうして三人が活発な議論を交わしていると、武雄後藤の当主、後藤惟明(23)が通りかかった。隣の部屋や廊下にまで聞こえる大きさだったので、当然惟明の耳にも入っている。

後藤家の当主で、小佐々純正が今、五分の盟を結んでいる宗、宇久、後藤の三家の一人だ。年齢はこの賑やかな議論をしている三人より、五つしか違わない。しかし子供の雰囲気はまったく無い。くぐって来た修羅場の数が違うのだ。

幼少の頃より東は龍造寺、西は松浦に波多・伊万里。南は大村・有馬と、盟を結んでは戦い、戦っては盟を結ぶを繰り返してきた。最終的には自分の親、実父ではないにしても養父を追放した。

実権を握らなければ、家どころか命さえ危ない綱を渡ってきたのだ。違うはずだ。

それに比べて波多鎮は一番若いし、元服したとは言え、正直まだ子供である。これが初陣なので憧れと焦りが混ざり合っているのだ。母に翻弄され重臣の逃亡を許してしまい、その後も家臣の甘言にのって危うく家をつぶす所であった。

その波多鎮より三歳年上なのが伊万里治と松浦盛である。二人とも二度目の戦場だ。

伊万里治は優秀ではある。ただ、どうしても主君の妹を娶っているという特別意識が抜けきらないのだろう。時々鼻につく発言や行動で周りをヒヤリとさせる事がある。

松浦盛は、なんと言うか温室育ちと言うか、世間知らずと言うか。斜陽ではあるが、名門相神浦松浦家の養子として、当時権勢を誇った有馬家から迎えられ、紆余曲折を経て今に至るが、どうしてもそういった雰囲気が抜けきらないのだ。

「ああ!伯耆守様!(後藤惟明)どうですか?伯耆守様は誰が適任だと思いますか?」
三人が目を輝かせて聞いてくる。

正直どうでも良かった惟明は、

「そうであるな。三人とも誰もがふさわしくあるが、決めるのは第一軍団長の宗像氏貞殿であるぞ」。
顔はニコニコしているが、内心は

(面倒くせえ、温室育ちのこのくそボンボンどもがあ)。

とでも思っていたのかもしれない。三人は歳も近い事もあるし、地理的にも近いので惟明には親近感を抱いていた。惟明もそれ自体は嫌っていなかったし、三人の事も嫌いではなかった。慕われるのは嬉しいものだ。

ただ、こういった、ぬるい雰囲気がどうにも苦手だったのだ。

「そうですね!誰が先陣を賜るか、楽しみです!」
元のわちゃわちゃした雰囲気に戻る。しかし・・・。

『ハツ ソウシ アテ ゼンシ ヒメ ワレ オオトモト ワヘイニ ケツス チクゼンタケヤマジヨウ ハウイ カイジヨ カウゲキ テイシ ニテ ゼングン カウゲキ テイシ リヨウナヰマデ ヒキ タイキセヨ ヒメ マルハチ トリサン(1800)』

「ええええええええ!!」

三人の悲痛な叫びが夜陰に響いた。惟明は苦笑いである。

亥の一つ刻(2100)の事であった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

処理中です...