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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
道雪の動き
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九月四日 未四つ刻(1430) ※山鹿城下 ※戸次道雪
そうか。角牟礼城も日出生城も落ちたか。森殿と帆足どのであれば、あるいは半月は持ちこたえてくれると思っておったのだが。さぞ、無念であったであろう。しかし、城を枕に散ったとなれば、武門の誉れか。
・・・まて。伝令がここまで来る時間を考えたら、すでに敵は由布院山城あたりまで進んでいるのではないか?いや、進んでいると考えた方がいいだろう。そうなれば府内まで八里、目と鼻の先である。
さて、どうする?臼杵どのに確認してよくよく考えねばならぬ。
「臼杵どの、角牟礼城と日出生城が落ちたそうな」。
「落ちましたか。あの堅城が二つとも」。
さすがの臼杵殿も、声を荒らげる事はなかったが、驚きを隠せないようだ。
「さよう。と、なれば、伝令がここまで来る時間を考えれば、敵はすでに由布院山城近くまで迫っていると考えるが、いかに?」
「おそらく、そうでござろう。殿は臼杵城にいらっしゃるゆえご無事であろうが、府内を取られては、沖の浜の権益も失う。家中の動揺いかばかりか」。
臼杵殿は答える。
「そこでござる。敵はそのまま府内へ向かったであろうか?それとも由布院山城を落とすべく支度しているであろうか」。
わしが尋ねると、
「難しいところでござるが、敵将の蒲池はご存知の様に戦上手で用心深い男にござる。これまでも、小佐々の家風でござろうか。無用な戦を避けるべく降伏勧告を必ず行い、無理な戦はいたしておりません」。
ふむ、とわしはうなずいた。同意見だ。
「豊前と筑前は今のところわれらが優勢にござる。しかしそれ以外の、筑後と豊後は敵が優勢にございます。さすれば、兵は拙速を尊ぶとはいえ、無理に城攻めは行いますまい。まずはいったん兵を休め、情報収集にあたるのではないかと。肥後の情勢がわからぬのは敵も同じにござる」。
わしが感覚や匂い、ある種の勘で戦をするのとは対照的に、臼杵殿は実に敵を、そして大局を分析しておる。
「なるほど。では、今後どうなろうか?また、どの様にすれば、最悪の結果をもたらさずに、われらが有利に事が運ぼうか?」
わしは、熟考すべく、臼杵どのにさらに尋ねる。
「情報が足りませぬ。それゆで、あくまでも想定の域をでませぬが・・・」。
そう前置きをして続けた。
「まず第一に、これはわれらにとって最も良い状況にござるが、肥後の阿蘇と国人衆が、敵の足止めに成功している場合にござる。この情報を敵の大将蒲池鑑盛が知っていたとします。その場合府内に進むとすればゆるりと進み戦況の変化をみるでそう。または進まずに、由布院山城の城下付近にとどまるかもしれませぬ。戦線が延び過ぎれば補給の問題もありますし、間違えば城の城兵とわれら豊後の国衆に挟み撃ちされまする。知らない場合でも、まず知ろうとして時を待つでしょう」。
うむ。
「二つ目は、肥後にてわれらの御味方と敵が一戦交え、敗れている場合にござる。これも蒲池に伝わるには時間がかかろうが、戦のさなかであれば由布院にとどまるであろうし、そうでなくとも勝敗が決するまでは動きますまい」。
「そして最後に、これが一番考えたくはない事でござるが、ないとは言い切れませぬ。肥後の阿蘇も国人衆も、すでに敵に降っている場合にござる。これを蒲池が知ったならば、肥後からの敵とあわせて府内、そして臼杵まで攻めるでしょう。豊後の国人衆が抵抗したとて防ぐことは難しいかと」。
あわせて、と臼杵どのは一息置いて続ける。
「ひとつ気になることが」。
「なんでござろう?」
「久留米城の事にござる」。
「久留米城は下高橋城や三原城とならび、筑後の三潴郡、御井郡、御原郡を押さえていまする。が、そこの情報が上がってきておりませぬ。また、後背をつかれる恐れがあるにも関わらず、蒲池鑑盛は日田郡に進むでしょうか?・・・これは別働隊の存在を、考えたほうが良いでしょう。だとすれば、その別働隊が筑後に留まっているならまだ良し。お味方を降して豊後もしくは豊前に北上して来たらやっかいです」。
「相わかった」。
わしは決心した。小佐々の策略の匂いを感じ、行動に移せずにいたが、いかんともしがたい。動く他ないのだ。
「では全軍で、宗像の笠山城へ向かい落とすといたそう。ここで情報を待っていても状況は変わらぬし、なにより豊後は遠い。伝令が来るまでに状況が変わるかも知れぬ。であれば最悪の事態を考えて、もはや勝てるとは考えまい。いかに有利な条件で講和をするか。・・・それが肝要じゃ。全軍出立する!支度いたせい!!」
「それから豊前の国衆が敵に寝返らぬよう噂を流せ!松山、門司、小倉、花尾、山鹿を道雪と鑑速が落としたとな!一両日中にも宗像の岳山城と笠木山城も落とすであろうと!!」
「道雪どの。花尾城は落としておりませぬぞ」。
「わはははは!細かい事を気にしてもしょうがありませぬ。それに誠の事にまぜて話を広めることで、嘘も本当になるものです!」
道雪・鑑速連合軍は一路宗像氏貞の岳山城へと向かった。
そうか。角牟礼城も日出生城も落ちたか。森殿と帆足どのであれば、あるいは半月は持ちこたえてくれると思っておったのだが。さぞ、無念であったであろう。しかし、城を枕に散ったとなれば、武門の誉れか。
・・・まて。伝令がここまで来る時間を考えたら、すでに敵は由布院山城あたりまで進んでいるのではないか?いや、進んでいると考えた方がいいだろう。そうなれば府内まで八里、目と鼻の先である。
さて、どうする?臼杵どのに確認してよくよく考えねばならぬ。
「臼杵どの、角牟礼城と日出生城が落ちたそうな」。
「落ちましたか。あの堅城が二つとも」。
さすがの臼杵殿も、声を荒らげる事はなかったが、驚きを隠せないようだ。
「さよう。と、なれば、伝令がここまで来る時間を考えれば、敵はすでに由布院山城近くまで迫っていると考えるが、いかに?」
「おそらく、そうでござろう。殿は臼杵城にいらっしゃるゆえご無事であろうが、府内を取られては、沖の浜の権益も失う。家中の動揺いかばかりか」。
臼杵殿は答える。
「そこでござる。敵はそのまま府内へ向かったであろうか?それとも由布院山城を落とすべく支度しているであろうか」。
わしが尋ねると、
「難しいところでござるが、敵将の蒲池はご存知の様に戦上手で用心深い男にござる。これまでも、小佐々の家風でござろうか。無用な戦を避けるべく降伏勧告を必ず行い、無理な戦はいたしておりません」。
ふむ、とわしはうなずいた。同意見だ。
「豊前と筑前は今のところわれらが優勢にござる。しかしそれ以外の、筑後と豊後は敵が優勢にございます。さすれば、兵は拙速を尊ぶとはいえ、無理に城攻めは行いますまい。まずはいったん兵を休め、情報収集にあたるのではないかと。肥後の情勢がわからぬのは敵も同じにござる」。
わしが感覚や匂い、ある種の勘で戦をするのとは対照的に、臼杵殿は実に敵を、そして大局を分析しておる。
「なるほど。では、今後どうなろうか?また、どの様にすれば、最悪の結果をもたらさずに、われらが有利に事が運ぼうか?」
わしは、熟考すべく、臼杵どのにさらに尋ねる。
「情報が足りませぬ。それゆで、あくまでも想定の域をでませぬが・・・」。
そう前置きをして続けた。
「まず第一に、これはわれらにとって最も良い状況にござるが、肥後の阿蘇と国人衆が、敵の足止めに成功している場合にござる。この情報を敵の大将蒲池鑑盛が知っていたとします。その場合府内に進むとすればゆるりと進み戦況の変化をみるでそう。または進まずに、由布院山城の城下付近にとどまるかもしれませぬ。戦線が延び過ぎれば補給の問題もありますし、間違えば城の城兵とわれら豊後の国衆に挟み撃ちされまする。知らない場合でも、まず知ろうとして時を待つでしょう」。
うむ。
「二つ目は、肥後にてわれらの御味方と敵が一戦交え、敗れている場合にござる。これも蒲池に伝わるには時間がかかろうが、戦のさなかであれば由布院にとどまるであろうし、そうでなくとも勝敗が決するまでは動きますまい」。
「そして最後に、これが一番考えたくはない事でござるが、ないとは言い切れませぬ。肥後の阿蘇も国人衆も、すでに敵に降っている場合にござる。これを蒲池が知ったならば、肥後からの敵とあわせて府内、そして臼杵まで攻めるでしょう。豊後の国人衆が抵抗したとて防ぐことは難しいかと」。
あわせて、と臼杵どのは一息置いて続ける。
「ひとつ気になることが」。
「なんでござろう?」
「久留米城の事にござる」。
「久留米城は下高橋城や三原城とならび、筑後の三潴郡、御井郡、御原郡を押さえていまする。が、そこの情報が上がってきておりませぬ。また、後背をつかれる恐れがあるにも関わらず、蒲池鑑盛は日田郡に進むでしょうか?・・・これは別働隊の存在を、考えたほうが良いでしょう。だとすれば、その別働隊が筑後に留まっているならまだ良し。お味方を降して豊後もしくは豊前に北上して来たらやっかいです」。
「相わかった」。
わしは決心した。小佐々の策略の匂いを感じ、行動に移せずにいたが、いかんともしがたい。動く他ないのだ。
「では全軍で、宗像の笠山城へ向かい落とすといたそう。ここで情報を待っていても状況は変わらぬし、なにより豊後は遠い。伝令が来るまでに状況が変わるかも知れぬ。であれば最悪の事態を考えて、もはや勝てるとは考えまい。いかに有利な条件で講和をするか。・・・それが肝要じゃ。全軍出立する!支度いたせい!!」
「それから豊前の国衆が敵に寝返らぬよう噂を流せ!松山、門司、小倉、花尾、山鹿を道雪と鑑速が落としたとな!一両日中にも宗像の岳山城と笠木山城も落とすであろうと!!」
「道雪どの。花尾城は落としておりませぬぞ」。
「わはははは!細かい事を気にしてもしょうがありませぬ。それに誠の事にまぜて話を広めることで、嘘も本当になるものです!」
道雪・鑑速連合軍は一路宗像氏貞の岳山城へと向かった。
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