206 / 810
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
第202話 小佐々城
しおりを挟む
開戦二日目 子の三つ刻(0:00) 小佐々純正
「申し上げます! 毛利領国境信号所より信号あり」
発 杉長良 宛 弾正大弼 メ 盟ト 松山城救援 求ム メ 午三つ刻(12:00)
豊前松山城からの救援要請が来た。もうすでに全軍に届いている報であろうから、初動は変更せずとも問題はない。問題は肥後の阿蘇をどう使うかだ。
北肥後の鎮圧に向かえば挟撃となるので簡単であろう。
われらも余計な損失を出さずに済むし、第五軍を他方面に向ける事ができる。単独での兵力を考えれば阿蘇は辺原、高森、甲斐を入れても四千ほどであろう。
対して隈部親永らは六千。第五軍とあわせて八千対六千。
兵数でも有利であるし、相手が旧式の装備であれば鉄砲と大砲で圧倒できるであろう。その後、やつらの領地を併呑する。
いや、念のため、天草北衆も混ぜるか。
千にはなろう。九千対六千。勝ちはいかなる要素を加えても分を高めておかないとな。
服属の条件は諸法度の中から選ばせるとして、恩賞はどうだろう。やはり知行を選ぶかな。できれば銭がありがたいが。
どうしても土地に対する帰属意識が強いから、なかなか銭で仕える認識が芽生えにくいのだろう。
とはいえ先祖伝来の土地だ。離れたくない、銭に変えたくないのもわかる。
現代人でいうところの、実家意識や故郷意識がもっと強くなった物だろうか。
実家というのはよほど強烈に家出をしたり、親子の縁を切るなどしないと、心のなかから消える物ではない。
金をやるから先祖代々の墓も、何もかも全部一切合切に引っ越し、とは簡単にはいかないのだ。
さて、今後の戦略だが、第一~二軍に関してはおそらくは手こずるであろう。戸次道雪に臼杵鑑速、吉弘鑑理がそろい踏みだからな。
大友も必死で集めた二万を預けるべくして預けたってところだろう。
どの程度道雪らを引き止め、局所戦で勝たなくても良いから、戦略的に勝てるよう時間稼ぎをするかだ。
杉殿には悪いが、松山城救援は間に合わぬだろう。
恐らく奴らも短期決戦を考えているはずだ。われらの救援の態勢が整わぬうちに城を落とし、毛利領の全てを平らげるつもりであろう。
そうして朝廷や幕府……いや幕府は今そんな余裕はないであろう。いずれにしても中央の力で、和議に持っていく算段ではないだろうか。
宗麟は形だけとは言え九州探題であるし、六カ国守護でもあるのだ。
皆が納得する名分があれば、叶うであろう。
しかし、名分とはなんじゃ? あるか? 豊前も筑前も、大内でも毛利でも大友でも、少弐でも、血みどろの争いをしながら奪い合ってきた地ではないか。
もともと誰の物かなど、意味があるのか? ここ五~六十年は大内が治めていたようだがな。
民にとってはどうでもいいな。
そして第三軍は、筑後から豊後日田城をへて府内だ。大友は軍のほとんどを豊前にやっているから攻略は容易いかもしれぬ。しかし油断はできぬ。
戸次一族や臼杵一族、由布一族などの親族・譜代衆も多い。
限界の、さらに上をいくまで兵をかき集めて、決戦を挑んでくるやもしれぬ。これは、調略が必要かもしれぬな。反旗を翻さなくても良い。
こちらに服属してくれて、大友側に参陣しなければ味方したのも同じだ。何人か心当たりがある。
文を送っておくか。何事も深謀遠慮。念には念をおしておくのだ。
第四軍は筑後の大友直轄地の平定だが、案外手こずるかもしれぬ。なにせ周りを全部われらに囲まれているゆえ、守将も高橋紹運にその家臣三原紹心と強者だ。
甘く見ておると手ひどいしっぺ返しを食らうかもしれぬ。
筑紫どのは歴戦の強者だが、副将に据えた純家はこれが初陣だ。龍造寺の重臣が随伴しているとはいえ、無茶をしないか心配だ。念を押しておこう。
……。
本来は俺も戦場に、と思ったのだが重臣一同に大反対された。『殿御自ら出陣なさる必要はございませぬ! !』だってさ。確かに小佐々も大きくなって、その気持ちもわからんでもないけど……。
ただ、実際には、ある程度の軍権をもたせた方面軍方式の試金石になるかもしれんな。後で問題点を洗い出して改善できれば、より強力な軍隊運用ができる様になる。
では、報告を待つとしよう。
「申し上げます! 毛利領国境信号所より信号あり」
発 杉長良 宛 弾正大弼 メ 盟ト 松山城救援 求ム メ 午三つ刻(12:00)
豊前松山城からの救援要請が来た。もうすでに全軍に届いている報であろうから、初動は変更せずとも問題はない。問題は肥後の阿蘇をどう使うかだ。
北肥後の鎮圧に向かえば挟撃となるので簡単であろう。
われらも余計な損失を出さずに済むし、第五軍を他方面に向ける事ができる。単独での兵力を考えれば阿蘇は辺原、高森、甲斐を入れても四千ほどであろう。
対して隈部親永らは六千。第五軍とあわせて八千対六千。
兵数でも有利であるし、相手が旧式の装備であれば鉄砲と大砲で圧倒できるであろう。その後、やつらの領地を併呑する。
いや、念のため、天草北衆も混ぜるか。
千にはなろう。九千対六千。勝ちはいかなる要素を加えても分を高めておかないとな。
服属の条件は諸法度の中から選ばせるとして、恩賞はどうだろう。やはり知行を選ぶかな。できれば銭がありがたいが。
どうしても土地に対する帰属意識が強いから、なかなか銭で仕える認識が芽生えにくいのだろう。
とはいえ先祖伝来の土地だ。離れたくない、銭に変えたくないのもわかる。
現代人でいうところの、実家意識や故郷意識がもっと強くなった物だろうか。
実家というのはよほど強烈に家出をしたり、親子の縁を切るなどしないと、心のなかから消える物ではない。
金をやるから先祖代々の墓も、何もかも全部一切合切に引っ越し、とは簡単にはいかないのだ。
さて、今後の戦略だが、第一~二軍に関してはおそらくは手こずるであろう。戸次道雪に臼杵鑑速、吉弘鑑理がそろい踏みだからな。
大友も必死で集めた二万を預けるべくして預けたってところだろう。
どの程度道雪らを引き止め、局所戦で勝たなくても良いから、戦略的に勝てるよう時間稼ぎをするかだ。
杉殿には悪いが、松山城救援は間に合わぬだろう。
恐らく奴らも短期決戦を考えているはずだ。われらの救援の態勢が整わぬうちに城を落とし、毛利領の全てを平らげるつもりであろう。
そうして朝廷や幕府……いや幕府は今そんな余裕はないであろう。いずれにしても中央の力で、和議に持っていく算段ではないだろうか。
宗麟は形だけとは言え九州探題であるし、六カ国守護でもあるのだ。
皆が納得する名分があれば、叶うであろう。
しかし、名分とはなんじゃ? あるか? 豊前も筑前も、大内でも毛利でも大友でも、少弐でも、血みどろの争いをしながら奪い合ってきた地ではないか。
もともと誰の物かなど、意味があるのか? ここ五~六十年は大内が治めていたようだがな。
民にとってはどうでもいいな。
そして第三軍は、筑後から豊後日田城をへて府内だ。大友は軍のほとんどを豊前にやっているから攻略は容易いかもしれぬ。しかし油断はできぬ。
戸次一族や臼杵一族、由布一族などの親族・譜代衆も多い。
限界の、さらに上をいくまで兵をかき集めて、決戦を挑んでくるやもしれぬ。これは、調略が必要かもしれぬな。反旗を翻さなくても良い。
こちらに服属してくれて、大友側に参陣しなければ味方したのも同じだ。何人か心当たりがある。
文を送っておくか。何事も深謀遠慮。念には念をおしておくのだ。
第四軍は筑後の大友直轄地の平定だが、案外手こずるかもしれぬ。なにせ周りを全部われらに囲まれているゆえ、守将も高橋紹運にその家臣三原紹心と強者だ。
甘く見ておると手ひどいしっぺ返しを食らうかもしれぬ。
筑紫どのは歴戦の強者だが、副将に据えた純家はこれが初陣だ。龍造寺の重臣が随伴しているとはいえ、無茶をしないか心配だ。念を押しておこう。
……。
本来は俺も戦場に、と思ったのだが重臣一同に大反対された。『殿御自ら出陣なさる必要はございませぬ! !』だってさ。確かに小佐々も大きくなって、その気持ちもわからんでもないけど……。
ただ、実際には、ある程度の軍権をもたせた方面軍方式の試金石になるかもしれんな。後で問題点を洗い出して改善できれば、より強力な軍隊運用ができる様になる。
では、報告を待つとしよう。
2
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』
姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ!
人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。
学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。
しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。
で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。
なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり
イミヅカ
ファンタジー
ここは、剣と魔法の異世界グリム。
……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。
近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。
そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。
無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?
チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!
努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ!
(この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)
転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する
昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。
グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。
しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。
田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる